訪問看護の立ち上げに使える助成金・補助金一覧|申請の注意点と事前準備

訪問看護ステーションの立ち上げには、物件取得費や設備費、人件費など500万〜1,000万円ほどの初期費用がかかるとされています。「できるだけ費用をおさえたい」と、助成金・補助金の活用を検討している方もいるでしょう。
まず知っておきたいのは、助成金・補助金だけではすべての費用をカバーできるわけではない点です。対象外の費用項目もあり「後払い」が基本のため、開業資金そのものの代替にはなりません。
この記事では、訪問看護の立ち上げ時に活用できる助成金・補助金の種類から申請の流れ、注意点を解説します。制度をうまく活用して、開業準備を着実に進めましょう。
訪問看護の立ち上げにおける「助成金」と「補助金」の違い
訪問看護の立ち上げで活用できる制度には「助成金」と「補助金」があります。それぞれの違いは、以下のとおりです。
| 項目 | 助成金 | 補助金 |
| おもな目的 | 雇用促進・労働環境の整備・人材育成 | 設備投資・IT導入・事業の効率化 |
| おもな管轄 | 厚生労働省・自治体 | 経済産業省・自治体 |
| 財源 | 雇用保険料・労働保険料 | 税金 |
| 返済義務 | なし(不正受給を除く) | なし(不正受給を除く) |
| 受給条件 | 要件を満たせば原則受給可能 | 審査あり・採択されない場合もある |
| 支給のタイミング | 申請から数か月~1年半以上後 | 申請から数か月~1年以上後 |
| 支給額の目安 | 数万円〜数百万円 | 数十万円〜数千万円 |
助成金は要件を満たせば受給しやすいのに対し、補助金は審査があり、採択されない場合もあるため難易度は高い傾向にあります。なお、両者はどちらも返済は不要です。
訪問看護の立ち上げで活用できるおもな助成金・補助金
訪問看護ステーションの立ち上げに特化した助成金・補助金は、ほとんどありません。しかし、雇用や人材育成、設備投資、IT導入などに対して一般的な制度を活用できます。費用項目ごとに使える制度があるか確認しておきましょう。
雇用・人材系助成金
雇用・人材系の助成金は、スタッフの採用・育成・職場環境の整備に活用できます。
開業後の人材確保・定着に役立つものが多く、立ち上げ直後から申請できるものもあるため、以下の表で確認してみましょう。
| 助成金名 | 概要 | 助成額の目安 |
| キャリアアップ助成金 | 非正規労働者の正規雇用転換・処遇改善に取り組む事業主向け | 正規雇用転換1人あたり最大80万円(正社員化コースの場合) |
| 特定求職者雇用開発助成金 | 高年齢者・障がい者などをハローワーク等の紹介で雇用した場合に助成 | 対象者1人あたり最大240万円 |
| 人材確保等支援助成金 | 雇用管理制度の整備・導入による離職率低下に取り組む事業主向け | 雇用管理制度・雇用環境整備助成コースの場合 雇用管理制度:最大100万円 雇用環境整備:対象経費の1/2(上限225万円) |
| 両立支援等助成金 | 育児・介護と仕事の両立支援に取り組む事業主向け。6つのコースあり | 育児休業等支援コースの場合、育休取得時・職場復帰時にそれぞれ30万円 |
| 65歳超雇用推進助成金 | 65歳以上の高年齢者の雇用推進に取り組む事業主向け | 最大240万円 |
| 働き方改革推進支援助成金 | 労働時間の縮減など働き方改革に取り組む中小企業・小規模事業者向け | 対象経費の3/4(常時使用する労働者が30人以下かつ対象経費30万円超の場合は4/5) ※労働時間短縮・年休促進支援コースの場合 ※成果目標に応じて上限額が異なる |
| 業務改善助成金 | 生産性向上のための設備投資をおこない事業場内最低賃金を引き上げた場合に助成 | 最大600万円 |
開業直後は採用と並行して手続きが必要なものも多いため、気になる制度は早めに所管窓口へ確認しておくと申請漏れや手続きミスを防げます。
なお、助成額は変更になる場合があるため、申請前に必ず最新情報をご確認ください。
設備・IT系補助金
設備・IT系の補助金は、電子カルテや訪問看護記録システムなど、業務効率化のためのITツール導入時に活用できます。申請期間が限られているものが多いため、導入タイミングに合わせて事前に確認しておくことをおすすめします。
| 補助金名 | 概要 | 補助額の目安 |
| デジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金) | 中小企業・小規模事業者向けITツール導入支援(経済産業省) | 補助率:1/2以内または2/3以内 補助額:1プロセス以上で5万円以上150万円未満、4プロセス以上で150万円以上450万円以下 ※通常枠の場合 |
| 介護テクノロジー導入支援事業 | 介護・訪問看護現場のICT機器・ソフト(介護ソフト・タブレット端末・Wi-Fi機器等)の導入費用を補助(都道府県実施) | 職員数により異なる ・1〜10人:100万円 ・11〜20人:160万円 ・21〜30人:200万円 ・31人以上:260万円 ※補助率3/4 |
| 小規模事業者持続化補助金 | 小規模事業者の販路開拓・業務効率化の取り組みを支援 | 補助上限50万円・補助率2/3 特例条件を満たすと50万円~200万円の上乗せ |
いずれも採択後に発注・導入するのが基本です。導入を予定しているツールがあれば、公募開始前から情報収集を進めておくとスムーズに申請できるでしょう。
自治体の支援制度
都道府県や市区町村が独自に設けている支援制度もあります。東京都と大阪府を例にあげると、以下のような制度が活用できます。
| 都道府県 | 制度名 | 概要 |
| 東京都 | 新任訪問看護師育成支援事業 | 新任訪問看護師の育成にかかる費用を支援 |
| 認定看護師資格取得支援事業 | 認定看護師資格取得にかかる研修費用を支援 | |
| 事務職員雇用支援事業 | 事務職員の雇用にかかる費用を支援 | |
| 代替職員確保支援事業 | 研修参加時の代替職員確保にかかる費用を支援 | |
| 大阪府 | 訪問看護連携システム導入支援事業 | 連携システムの導入費用を支援 |
| 事務職員等の雇用支援事業 | 事務職員の雇用にかかる費用を支援 | |
| 特定行為研修等の代替職員確保支援事業 | 特定行為研修参加時の代替職員雇用費用の1/2を助成 |
たとえば、事務職員等の雇用支援事業は立ち上げ直後、認定看護師の資格取得支援や代替職員確保支援はスタッフのスキルアップ・研修参加時に役立つでしょう。
内容や金額、申請時期は自治体によって異なるため、開業予定地の都道府県担当窓口や訪問看護協会に確認するのが安心です。
訪問看護の立ち上げフェーズ別の助成金活用例
助成金・補助金は種類によって、活用できるタイミングが異なります。以下はフェーズ別の活用イメージ例です。実際の要件・申請時期は制度ごとに異なるため、あくまで参考としてご確認ください。
| フェーズ | 活用できる可能性がある制度 | ポイント |
| 開業準備中 | デジタル化・AI導入補助金、介護テクノロジー導入支援事業、小規模事業者持続化補助金など | 電子カルテや記録システムの導入前に申請が必要なものが多い。採択後に発注するのが基本 |
| 開業直後 (スタッフ採用時) | キャリアアップ助成金、特定求職者雇用開発助成金、65歳超雇用推進助成金 | 雇用前・雇用時の手続きが要件になる場合があるため、採用計画と並行して確認 |
| 運営安定後 | 両立支援等助成金、人材確保等支援助成金、働き方改革推進支援助成金、業務改善助成金 | 職場環境の整備・制度導入後に申請するものが多い。中長期的な経営安定に活用 |
なかには申請前に計画書の提出が求められるものがあります。たとえば、人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)では、事前に「雇用管理制度等整備計画」の作成・提出が必要です。
設備や制度を導入してからでは事後申請ができない可能性があるため、活用を検討している制度については早めに所管窓口に確認し、計画的に申請を進めましょう。
関連記事:訪問看護の立ち上げ方!3つの開設基準や失敗しないための対策を紹介
訪問看護の立ち上げに活用する助成金申請時の注意点
助成金・補助金は活用できれば心強い制度ですが、申請のタイミングや手続きを誤ると受給できなくなるケースもあります。事前に注意点を把握しておき、受給の機会を逃さないようにしましょう。
後払いが基本のため開業資金の代替は不可
助成金や補助金は、原則として取り組みを実施したあとに受給する「後払い」が基本です。
具体的には、設備を導入する場合、まず自己資金や融資で購入費用を支払い、実績報告を経てから補助金が振り込まれる流れとなります。
受給までに数か月〜1年以上かかる制度もあるため、その間の資金は自分で確保しなければなりません。
補助金や助成金ありきで考えず、あくまで運営を補完するものとして計画を立てましょう。
関連記事:訪問看護の立ち上げの資金はいくら?開業資金の内訳や失敗例、黒字化のポイントを解説
申請期限・公募期間に注意
助成金・補助金の申請期限や公募期間は制度によって異なるため、あらかじめ申請期間を確かめておきましょう。
実際に、デジタル化・AI導入補助金(通常枠)は2026年3月30日から申請受付が開始されており、締切日が明確に設定されています。一方、人材確保等支援助成金のように「評価時離職率算定期間の末日の翌日から2か月以内」など、取り組みの実施状況に応じて申請期限が決まる制度もあります。
期間外に申請しても受け付けてもらえないため、活用を検討している制度のスケジュールを事前に確認しておくことが大切です。
不正受給には厳しいペナルティ
要件を満たしていないにもかかわらず受給した場合、返還命令や追加徴収などのペナルティが科せられます。
勤務実態のない人を雇用したように装ったり、出勤簿や賃金台帳を改ざんしたりする行為は不正受給にあたります。
また、意図的な不正でなくても、要件の解釈を誤ったまま受給した場合は返還を求められる可能性もゼロではありません。
申請前に要件を正確に確認し、不明な点は所管窓口や社会保険労務士に相談することが大切です。
訪問看護の立ち上げで活用する助成金申請の流れ
助成金の申請は、一般的に以下の流れで進みます。
- 活用できる助成金を調査・選定する
- 申請要件を確認し、必要な書類を準備する
- 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークなど所管窓口に申請する
- 審査・認定を受ける
- 取り組みを実施する
- 実績報告・受給申請をする
- 受給する
助成金の種類によっては、取り組みを実施する前に計画届の提出が必要なものもあります。
就業規則の整備や労働保険・社会保険への加入が受給の前提条件となる助成金も多いため、開業準備の段階から確認しておきましょう。
訪問看護の立ち上げに助成金・補助金を活用するための事前準備
助成金・補助金を受給するには、申請要件を満たすだけでなく、事前に職場の体制を整えておくことが必要です。とくに、雇用系の助成金は、以下の準備が整っていないと申請できないケースがあるため、開業準備と並行して確認しておきましょう。
労働保険・社会保険への加入
雇用系の助成金の多くは、労働保険(雇用保険・労災保険)および社会保険への加入が受給の前提条件です。
加入手続きが遅れると、対象期間の要件を満たせず申請できなくなる可能性もあります。
スタッフを雇用する際は、速やかに加入手続きを進めましょう。
就業規則の整備
キャリアアップ助成金や業務改善助成金など、助成金の申請要件として就業規則の提出が求められるケースがあります。
就業規則が整備されていない場合、申請対象外となり助成金を受給できないこともあります。開業時に、助成金の活用を見据えた就業規則を作成しておきましょう。
賃金台帳・労働者名簿などの法定帳簿の整備
雇用系の助成金では、賃金台帳・労働者名簿などの法定帳簿の整備が共通して求められます。
審査では出勤簿との整合性や残業代の計算まで細かく確認されるため、日頃からの正確な記録・管理が大切です。
ハローワークへの求人登録
特定求職者雇用開発助成金のように、ハローワークまたは適正な職業紹介事業者経由での採用が要件となる助成金があります。
直接応募や知人の紹介で採用した場合は対象外となるため、採用計画と合わせてハローワークへの求人登録も検討しておきましょう。
訪問看護の立ち上げに活用できる助成金についてよくある質問
訪問看護の立ち上げに活用できる助成金について、多く寄せられる質問にお答えします。正しく手続きするためにも、しっかり確認しておきましょう。
Q1:訪問看護の立ち上げの際、助成金の申請に資格は必要ですか?
申請自体に資格は不要で、事業主本人が申請できます。
ただし、雇用系の助成金は申請書類が多く手続きが複雑なため、社会保険労務士に代行を依頼する事業主もいます。社労士に依頼する場合は報酬が発生しますが、申請の手間や漏れを防ぎやすくなるでしょう。
Q2:自治体の補助金はどこで調べれば良いですか?
自治体の補助金に関する情報は、開業予定地の都道府県・市区町村の公式ホームページや、各都道府県の訪問看護協会のホームページから得られます。
また、よろず支援拠点や商工会議所でも情報収集できます。
制度は年度ごとに変わることが多いため、最新情報を直接窓口に問い合わせましょう。
Q3:助成金の申請を代行してもらえますか?
雇用系の助成金は、社会保険労務士の申請代行が可能です。
一方、デジタル化・AI導入補助金では事務局に登録された「IT導入支援事業者」とパートナーシップを組んで申請する仕組みになっています。申請代行というよりIT導入支援事業者がサポートしながら一緒に進める形です。
申請自体は事業主本人がおこなえますが、要件が複雑な場合は専門家への相談が安心です。
訪問看護の立ち上げは助成金・補助金制度を正しく理解して活用しよう
訪問看護ステーションの立ち上げに活用できる助成金・補助金は、雇用・人材系・設備IT系・自治体独自の支援制度など多岐にわたります。
いずれも後払いが基本であり、開業資金の代替にはなりません。
使える制度を正しく理解したうえで、開業準備の段階から計画的に活用しましょう。
訪問看護ステーションの立ち上げを検討している方や、立ち上げに向けてスタッフの採用・求人を考えている方は、ぜひナスキャリ(NsPace Career)をご活用ください。
<参考サイト・文献>
「キャリアアップ助成金」を活用して従業員を正社員転換しませんか?|厚生労働省
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)|厚生労働省
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人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)|厚生労働省
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