精神科訪問看護基本療養費とは?3つの区分と対象者・算定要件を詳しく解説

「精神科訪問看護の基本療養費はどういうものなの?」「精神科訪問看護基本療養費の算定って難しそう」
精神科訪問看護基本療養費は、精神疾患を抱える利用者さまへの訪問看護に対して算定できる療養費のことです。
通常の訪問看護基本療養費とは算定要件や届出内容が異なるため、複雑に感じる方もいるでしょう。
この記事では、精神科訪問看護基本療養費の3つの区分と算定対象、算定額、算定時の注意点を解説します。制度を理解し、自信をもって精神科訪問看護が実践できるようになりましょう。
精神科訪問看護基本療養費とは
精神科訪問看護基本療養費とは、精神疾患を抱える利用者さまやそのご家族に対して、訪問看護をおこなった際に算定できる療養費です。
通常の訪問看護基本療養費とは別に設けられているもので、算定には専門的な経験や研修を修了したスタッフの配置と、地方厚生(支)局への届出が必要です。
精神科訪問看護指示書の交付を受けた利用者さまやそのご家族が訪問の対象となり、状況によって算定する区分が異なります。
まずは対象の利用者さまが、どの区分に該当するかを把握することからはじめましょう。
精神科訪問看護基本療養費の3つの区分
精神科訪問看護基本療養費は、訪問する状況によって(Ⅰ)(Ⅲ)(Ⅳ)の3つの区分に分類されます。主な違いは、同一建物の訪問人数が2人以上かどうかや、入院中であるかという点です。
| 精神科訪問看護基本療養費の種類 | 概要 |
| 精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ) | 精神疾患を有する利用者さままたはご家族に訪問した場合 例:居宅のAさんへ訪問する |
| 精神科訪問看護基本療養費(Ⅲ) | 同一日に同じ建物に住む複数の利用者さまを訪問した場合 例:3/1に、ケアハウスに入所中のAさんとBさんへ訪問する |
| 精神科訪問看護基本療養費(Ⅳ) | 入院中の利用者さまが外泊しているときに行う訪問 例:病院に入院中のAさんに、試験外泊のため居宅へ訪問する |
なお、精神科訪問看護基本療養費(Ⅱ)は平成30年度の改定で廃止となりました。
精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)と(Ⅲ)はさらに「イ」「ロ」に分けられ、訪問する職種でどちらを算定するかが異なります。それぞれの区分について詳しく解説します。
精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)
精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)は、利用者さまのご自宅や居宅系施設などを個別に訪問した場合に算定する療養費です。
精神科医が作成した「精神科訪問看護指示書」にもとづき、計画書を作成したうえで要件を満たすスタッフが訪問した場合に算定できます。退院後3ヶ月以内は週5日まで、それ以降は週3日まで算定可能です。
精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)は、訪問する職種によって「イ」と「ロ」に分類されます。
- 保健師・看護師・作業療法士が訪問:「イ」
- 准看護師が訪問:「ロ」
職種によって算定額が変わる点に注意しましょう。算定額の詳細は、後述する「精神科訪問看護基本療養費の算定額」で解説します。
精神科訪問看護基本療養費(Ⅲ)
精神科訪問看護基本療養費(Ⅲ)は、同じ日に同じ建物に住む複数の利用者さまを訪問した場合に算定できる療養費です。ここでいう「同一建物」とは、おもに次のような施設や住宅です。
- 特別養護老人ホーム
- 軽費老人ホーム(ケアハウス)
- 有料老人ホーム
- サービス付き高齢者向け住宅
- 認知症高齢者グループホーム
- 小規模多機能居宅介護事業所
- 短期入所生活介護事業所
同一建物に該当する利用者さまの人数は、同日に医療保険で訪問看護基本療養費を算定する利用者さま同士で合算してカウントします。
たとえば、同じ日に同一建物でAさんに精神科訪問看護、Bさんに医療保険の訪問看護を提供した場合は「2人」としてカウントされます。
Bさんが介護保険の訪問看護を利用している場合は、人数に含まれません。
精神科訪問看護基本療養費(Ⅲ)の算定額は、同一建物の利用者数によって異なり、2人の場合と3人以上の場合で区分されています。
なお、訪問する職種による区分(イ・ロ)と週の算定上限については、精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)と同様です。
精神科訪問看護基本療養費(Ⅳ)
精神科訪問看護基本療養費(Ⅳ)は、以下のいずれかに該当する入院中の利用者さまが、一時的に外泊する際に訪問看護をおこなった場合に算定できます。
- 別表第7に掲げる疾病等の者
- 別表第8に掲げる者
- その他、在宅療養に備えた一時的な外泊にあたり、訪問看護が必要と認められた者
算定の上限は入院中1回限りですが、別表第7・第8に該当する利用者さまは入院中2回まで算定可能です。
精神科訪問看護基本療養費(Ⅳ)を算定した日は、訪問看護管理療養費を同時に算定できない点に注意しましょう。訪問看護管理療養費については、次の章で詳しく解説します。
精神科訪問看護基本療養費と訪問看護管理療養費の違い
精神科訪問看護で算定できる主な療養費には、「精神科訪問看護基本療養費」のほかに「訪問看護管理療養費」があります。両者の違いは以下のとおりです。
| 項目 | 精神科訪問看護基本療養費 | 訪問看護管理療養費 |
| 主な算定要件 | 精神科訪問看護指示書にもとづき、実際に訪問看護を実施している | 安全な提供体制のもと、訪問看護計画書・報告書を主治医へ提出し、継続的な管理をおこなっている |
| 算定の前提 | 精神科訪問看護指示書の交付+訪問の実施 | 基本療養費の算定が前提 |
| 算定のタイミング | 訪問ごと | 訪問ごと(管理を継続していることが条件) |
| 関係性 | 単独で算定可能 | 基本療養費に上乗せして算定 |
両者は役割が異なるため併算定が可能です。
ただし、先述したとおり精神科訪問看護基本療養費(Ⅳ)を算定した日は、訪問看護管理療養費を同時には算定できません。
なお、令和8年度の診療報酬改定では「地域と連携して精神科訪問看護を提供する訪問看護ステーションの評価」として「機能強化型訪問看護管理療養費4」が新設されました。
機能強化型訪問看護管理療養費4の施設基準はやや高いですが、そのぶん精神看護に特化した体制を整えられるため、ステーションの差別化につながる評価項目といえます。
精神科訪問看護基本療養費の算定対象
精神科訪問看護基本療養費の算定対象は、以下のように区分によって異なります。
| 精神科訪問看護基本療養費の区分 | 算定対象 |
| 精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)(Ⅲ) | 精神疾患を抱える利用者さまとそのご家族 |
| 精神科訪問看護基本療養費(Ⅳ) | 精神疾患を抱える入院中の利用者さまのうち、外泊中の方 |
精神科訪問看護は、特定の病名に限定されるものではなく、精神疾患であれば幅広く対象となります。主な対象疾患は以下のとおりです。
- 統合失調症
- 双極性障害
- うつ病
- パニック障害、社交不安障害(SAD)
- 強迫性障害、抜毛症
- 適応障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)
- 摂食障害、アルコール依存症
上記の疾患をもつ利用者さまだけでなく、ご家族への支援や相談が必要なケースも算定対象となります。ただし、精神科訪問看護指示書に記載されている病名が「認知症」のみの場合は注意が必要です。
認知症のみの病名で精神科訪問看護基本療養費を算定するには、精神科訪問看護指示書を発行した医師が所属する保険医療機関で「精神科在宅患者支援管理料」を算定していることが条件となります。
そのため、「認知症」のみの記載で精神科訪問看護指示書が発行されている場合は、該当する管理料を算定しているかを事前に確認しておきましょう。
精神科訪問看護基本療養費の算定額
精神科訪問看護基本療養費の算定額は、訪問する職種・訪問時間・週の訪問日数によって異なります。
また、同一建物の利用者数によっても金額が変わるため、算定前に条件を整理しておくことが重要です。ここでは、区分ごとの算定額と具体的な算定例を解説します。なお、算定額はすべて1日あたりの費用となります。
精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)の算定額と算定事例
| 訪問職種 | 訪問時間 | 週3日目まで | 週4日目以降 |
| 保健師・看護師・作業療法士(イ) | 30分以上 | 5,550円 | 6,550円 |
| 30分未満 | 4,250円 | 5,100円 | |
| 准看護師(ロ) | 30分以上 | 5,050円 | 6,050円 |
| 30分未満 | 3,870円 | 4,720円 |
看護師が30分以上の訪問を週4日おこなった場合、最初の3回は「週3日目まで」の単価で算定し、4回目は「週4日目以降」の単価が適用されます。
同じ週でも訪問回数によって単価が変わる点に注意が必要です。
精神科訪問看護基本療養費(Ⅲ)の算定額と算定事例
| 訪問職種 | 訪問時間 | 同一日2人 週3日目まで | 同一日2人 週4日目以降 | 同一日3人以上 週3日目まで | 同一日3人以上 週4日目以降 |
| 保健師・看護師・作業療法士(イ) | 30分以上 | 5,550円 | 6,550円 | 2,780円 | 3,280円 |
| 30分未満 | 4,250円 | 5,100円 | 2,130円 | 2,550円 | |
| 准看護師(ロ) | 30分以上 | 5,050円 | 6,050円 | 2,530円 | 3,030円 |
| 30分未満 | 3,870円 | 4,720円 | 1,940円 | 2,360円 |
グループホームで暮らすAさん(統合失調症)は、幻聴が悪化しており自傷行為を繰り返すようになったため、看護師は、他害のリスクに備えて医師と相談して看護師2名体制で訪問することとなったという事例もあります。
また、精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)と同様に週4日目以降の訪問では単価が上がるため、訪問回数と人数の両方を確認しながら算定する必要があります。
精神科訪問看護基本療養費(Ⅳ)の算定額と算定事例
精神科訪問看護基本療養費(Ⅳ)は、入院中の利用者さまが外泊している間に訪問看護をおこなった場合に1回のみ算定でき、職種にかかわらず一律8,500円です。
なお、精神科訪問看護基本療養費(Ⅳ)を算定した日は訪問看護管理療養費を同時に算定できないため、算定漏れや重複に注意しましょう。
精神科訪問看護基本療養費の算定要件
精神科訪問看護基本療養費を算定するためには、あらかじめ定められた要件を満たさなければなりません。主な算定要件は以下のとおりです。
- 算定要件を満たすスタッフを配置する
- 地方厚生(支)局に「精神科訪問看護基本療養費に係る届出書」を提出する
- 主治医から「精神科訪問看護指示書」を受理する
- 算定要件を満たすスタッフが精神科訪問看護計画書を作成する
- 届出書に記載されたスタッフが訪問を実施する
- 月の初日の訪問時にGAF尺度の判定値を記録する
「算定要件を満たすスタッフ」とは、精神病棟や精神科外来の勤務経験、精神保健センターまたは保健所での精神保健に関する業務の経験などが1年以上ある保健師・看護師・准看護師・作業療法士のことです。
精神疾患を抱える利用者さまに対する訪問看護の経験が1年以上ある方も、算定要件を満たすスタッフに該当します。こうした経験がない場合でも、「精神科訪問看護基本療養費の届出要件を満たす研修」を修了することで訪問が可能となります。
研修については早期に申し込みが開始されるため、訪問業務に影響のないよう早めに受講スケジュールを立てておきましょう。
精神科訪問看護基本療養費の算定要件や届出要件を満たす研修については、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
関連記事:精神科訪問看護の算定要件とは?届出要件を満たす研修や加算についても解説
精神科訪問看護基本療養費を算定するときの注意点
精神科訪問看護基本療養費は、精神科訪問看護指示書や訪問内容に不備があると算定できないケースがあります。ここでは、実務で特に注意すべきポイントを確かめておきましょう。
原則、1回30分以上の訪問で算定できる
精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)(Ⅲ)は、1回30分以上の訪問が算定の原則です。
30分未満の訪問を算定するには、精神科訪問看護指示書に「短時間訪問の必要性」が明記されていることが条件となります。
たとえば、服薬確認やこまめな症状の確認などで短時間の訪問が必要と医師が判断し、かつ精神科訪問看護指示書にその必要性が記載されている場合に限り、30分未満の訪問でも算定が可能です。
介護保険の訪問看護では短時間訪問が比較的柔軟に認められていますが、精神科訪問看護では精神科訪問看護指示書の記載がなければ算定できません。精神科訪問看護指示書を受け取った際には、訪問時間と指示内容の両方を確認しましょう。
精神科訪問看護指示書の内容に不備があると算定できないケースがある
精神科訪問看護指示書の内容に不備がある場合、訪問を実施していても算定できないことがあります。
とくに注意したいポイントは以下のとおりです。
- 精神科訪問看護指示書を発行できるのは精神科を標榜する保険医療機関で精神科を担当する医師のみ
- 複数名訪問・短時間訪問・複数回訪問の加算を算定する場合、精神科訪問看護指示書にその必要性の記載がなければ算定不可
- 傷病名コードの記載漏れや不一致も算定不可の原因の1つ
精神科訪問看護指示書を受け取った際は記載内容を必ず確認し、不備があれば訪問開始前に医師へ修正を依頼しましょう。精神科訪問看護指示書の記載ルールについては以下の記事で詳しく解説していますので、記載内容のチェックにご活用ください。
関連記事:精神科訪問看護指示書のチェックポイントは?書ける医師と訪問時の注意点も解説
精神科訪問看護基本療養費に関するよくある質問
精神科訪問看護基本療養費は制度上の条件が細かく、現場で判断に迷うケースも少なくありません。ここでは、よくある質問を解説しますので、実務で困った際にお役立てください。
Q1:精神科訪問看護基本療養費はアルツハイマー型認知症でも算定できますか?
精神科訪問看護指示書に記載されている病名が「アルツハイマー型認知症」のみで、ほかの精神疾患の記載がない場合は、条件を満たすことで算定可能となるケースがあります。
その条件は、精神科訪問看護指示書を発行した医師の所属する保険医療機関で「精神科在宅患者支援管理料」を算定していることです。
該当するかどうか判断に迷う場合は、精神科訪問看護指示書を発行した医療機関に直接確認しましょう。
Q2:精神科訪問看護基本療養費と通常の訪問看護基本療養費は同じ利用者さまに同時算定できますか?
原則として同時算定はできません。精神科訪問看護と通常の訪問看護は、主となる対象疾患に応じていずれか一方を選択して算定します。
ただし、利用者さまの状態変化により主な対象疾患が変わった場合は、精神科訪問看護から通常の訪問看護へ切り替えることは可能です。
精神科訪問看護基本療養費を正しく算定し円滑なステーション運営につなげよう
精神科訪問看護基本療養費は、訪問時間や回数、精神科訪問看護指示書の内容など複数の条件を満たすことで算定できます。
要件を正しく理解していないと、レセプトの際に算定漏れや返戻につながるおそれがあります。
日々の訪問前に条件を確認し、正確な算定を意識することが、安定したステーション運営につながるでしょう。
精神科訪問看護に力を入れているステーションでの働き方に興味を持った方は、訪問看護特化の求人サイト「ナスキャリ(NsPace Career)」もぜひご活用ください。
<参考サイト・文献>
平成30年度診療報酬改定の概要医科Ⅰ|厚生労働省保健局医療課
訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法(◆平成20年03月05日厚生労働省告示第67号)|厚生労働省
訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について|厚生労働省
令和8年度診療報酬改定について【訪問看護ステーション向け】|厚生労働省保険局医療課
一般社団法人全国訪問看護事業協会,訪問看護実務相談Q&A令和6年版,2024年,中央法規出版株式会社
NsPace Careerナビ 編集部 「NsPace Career ナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「NsPace Career」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。
