精神科訪問看護の算定要件とは?届出要件を満たす研修や加算についても解説

精神科訪問看護基本療養費を算定するには、スタッフの配置や届出、指示書の取得など、複数の要件をすべて満たす必要があります。
要件のひとつでも欠けると算定できず、訪問看護ステーションの収入に直結するため、正確な理解が必要です。
この記事では、精神科訪問看護の算定要件をまとめました。さらに、精神科で従事した経験がないスタッフが要件を満たすための研修、算定時に守るべきルール、主な加算の算定要件も解説します。これから精神科訪問看護の算定を始めるステーションの方も、改めて要件を確認したい方も、ぜひ参考にしてください。
精神科訪問看護の算定要件
精神科訪問看護の算定要件とは、「精神科訪問看護基本療養費」を算定するために満たさなければならない最低限のルールのことです。
以下の2つを満たしていないと、そもそも精神科訪問看護基本療養費を算定する資格が得られません。
- 精神疾患を有する者に対する看護について相当の経験を有する保健師、看護師、准看護師または作業療法士を配置する
- 地方厚生(支)局に「精神科訪問看護基本療養費に係る届出書」を提出する
精神科訪問看護の依頼を受ける前に、まずはこの2点をクリアできているか確かめておきましょう。
精神科訪問看護の申請から訪問までの流れ
精神科訪問看護基本療養費の算定には、スタッフの配置から指示書の受理、訪問の実施まで、一連の流れを漏れなく踏む必要があります。いずれかのステップが欠けても算定できない、または返戻となるリスクがあるため、全体の流れを把握しておきましょう。
精神科訪問看護に対応できるスタッフの配置
精神科訪問看護基本療養費を算定するには、以下のいずれかに該当する看護師や保健師、准看護師、作業療法士を配置する必要があります。
- 精神科を標榜する保険医療機関において、精神科病棟または精神科外来に勤務した経験が1年以上
- 精神疾患を有する者に対する訪問看護の経験が1年以上
- 精神保健福祉センターや保健所などでの精神保健に関する業務の経験が1年以上
- 国、都道府県や医療関係団体などが主催する精神科訪問看護に関する研修を修了
精神科訪問看護では、症状の変化や危機対応など専門的な判断が求められるため、一定の経験や研修を受けたスタッフの配置が求められています。
精神科看護に従事した経験のない看護師が、訪問看護へ転職することもあるでしょう。その際は、精神科訪問看護に関する研修費をステーションが負担したり、自費で受けたりして算定要件を満たす必要があります。
地方厚生(支)局へ必要書類を提出
要件を満たすスタッフを配置するだけでなく、地方厚生(支)局へ届け出ることも算定要件の1つです。
「精神科訪問看護基本療養費に係る届出書」の「当該届出に係る指定訪問看護を行う看護師等」の欄に、要件を満たしたスタッフの氏名や職種、経験・研修の内容を記載して提出します。
精神科医が交付する精神科訪問看護指示書の受理
精神科訪問看護基本療養費を算定するには、精神科を標榜する(掲げる)医療機関で精神科を担当する医師が交付する「精神科訪問看護指示書」が必要です。
精神科訪問看護指示書の有効期間は最長6ヶ月以内と定められており、1ヶ月間の指示期間で交付される場合は、有効期限の記載が省略されることもあります。
指示書を受け取った際は、交付した医師の所属と担当診療科を必ず確認しましょう。
精神科訪問看護計画書を作成し要件を満たしたスタッフが訪問
交付された精神科訪問看護指示書にもとづく訪問看護計画書を作成し、要件を満たしたスタッフが訪問することも算定要件のひとつです。
訪問できるスタッフでも、届出書に記載がなければ算定できないため、訪問担当者の管理は徹底しましょう。
月の初日の指定訪問看護時にGAF尺度の判定値を記録
精神科訪問看護基本療養費を算定する場合は、月の最初の訪問時に看護師や作業療法士が評価したGAF尺度の値を必要書類に記載することが必須です。
GAF尺度(Global Assessment of Functioning)とは「機能の全体的評定尺度」と訳され、成人の社会的・職業的・心理的機能を1〜100点で評価するスケールです。点数が高いほど精神面での健康状態が良いことを示します。
精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)および(Ⅲ)を算定する場合、判定値を以下の3書類に記載する必要があります。
- 訪問看護記録書
- 訪問看護報告書
- 訪問看護療養費明細書
判定は、過去1週間でもっとも精神状態が悪かったエピソードをもとに「症状の重症度」と「機能レベル」の両面で評価し、より範囲の低いほうを採用します。
また、月の初日の訪問がご家族のみへの訪問だった場合、GAF尺度の判定は不要ですが、「ご家族への訪問看護であり判定がおこなえなかった」旨を各書類に記載しなければなりません。
精神科訪問看護基本療養費の届出要件を満たす研修
精神科での従事経験や精神疾患を有する方への訪問看護経験がない場合、研修の修了をもって算定要件を満たすことが可能です。紹介する研修の一覧を参考に、どこで受講するかを検討しましょう。
研修を受けられる主な団体と受講形式
研修はオンラインが主流で、年度初めに受け付ける団体がほとんどです。研修を実施しているおもな団体は、以下のとおりです。
| 団体名 | 研修名 | 受講形式 | 費用の目安 |
| 一般社団法人全国訪問看護事業協会 | 精神科訪問看護研修会 | オンデマンド+ライブ配信(GAF評価の演習・事例検討など) | 会員15,000円/非会員25,000円 |
| 公益財団法人日本訪問看護財団 | 精神障がい者の在宅看護セミナー | オンデマンド(オンライン) | 会員15,400円/非会員25,300円 ※税込 |
| 一般社団法人日本精神科看護協会 | 精神科訪問看護研修会~基礎編~ | オンデマンド+ライブ配信(事例検討) | 会員8,250円/非会員16,500円 ※税込 |
ライブ配信が含まれる研修は、参加できない場合に修了証を受け取れない可能性があるため、スケジュールの確認は早めにおこないましょう。
また、各都道府県のステーション協会が主催する対面研修もあります。3日間で集中的に修了できる点がメリットですが、指定の会場に足を運ばなければなりません。
費用は会員・非会員で異なるため、ステーションまたは個人の会員状況を確認したうえで選択しましょう。
研修カリキュラム
研修内容は厚生労働省によって定められており、各団体はこれに沿ってカリキュラムを組んでいます。
- 精神疾患を有する者に関するアセスメント
- 病状悪化の早期発見・危機介入
- 精神科薬物療法に関する援助
- 医療継続の支援
- 利用者との信頼関係構築、対人関係の援助
- 日常生活の援助
- 多職種との連携
- GAF尺度による利用者の状態の評価方法
受講時間は、おおむね20〜23時間程度です。オンライン研修であれば、自分の隙間時間を活用して学習を進められます。
関連記事:精神科の訪問看護で働く際に必要な研修とは?研修の内容や研修が不要なケースも紹介
精神科訪問看護を正しく算定するために守るべきルール
精神科訪問看護基本療養費の算定要件を満たしているだけでなく、訪問時のルールも守らなければ正しく請求できない可能性があります。ここでは、返戻を防ぐための訪問ルールを解説します。
訪問回数は原則週3日まで
精神科訪問看護基本療養費は、原則週3日まで算定可能です。ただし、退院後3ヶ月以内であれば、週5日まで算定できます。
また、服薬中断による急性増悪や自傷他害リスクが高いなどで医師から精神科特別訪問看護指示書が発行された場合、月1回に限り14日を限度として毎日の算定が可能です。
医師の指示がない限り30分未満の訪問は不可
介護保険による訪問看護では「訪問看護費Ⅰ2」として30分未満の訪問が認められていますが、精神科訪問看護基本療養費では取扱いが異なります。
精神科訪問看護においては、精神科訪問看護指示書に「短時間訪問の必要性」が明記されている場合に限り、30分未満の訪問が算定可能です。
「服薬確認だけ」「様子確認だけ」となりやすいケースであっても、指示書に該当する記載がなければ算定できません。
30分未満で訪問する際は、通常1回5,550円の基本療養費が4,250円へ減算となる点も覚えておきましょう。報酬額は診療報酬改定により変更されるため、最新の点数表を参照しておくことも重要です。
届出をしたスタッフ以外は算定不可
精神科訪問看護基本療養費に係る届出書に記載したスタッフ以外が訪問しても、精神科訪問看護基本療養費を算定できません。
研修を修了したスタッフが増えたり、該当スタッフが退職したりした場合は、改めて変更届を提出する必要があります。
精神科訪問看護のおもな加算別の算定要件
精神科訪問看護基本療養費の算定体制が整ったら、加算の算定要件についても理解を深めましょう。加算は、行った訪問看護に対して正しい報酬を得るためのもので、ステーションの安定した運営に直結します。
算定漏れが生じないよう、各加算の要件を確認しておきましょう。
長時間精神科訪問看護加算
1回の訪問看護が1時間30分を超えた場合に算定でき、週1日に限り算定可能です。対象となる利用者さまは、以下のいずれかに該当する方です。
- 精神科特別訪問看護指示書が交付されている利用者さま
- 特別管理加算の対象者(別表第8に該当する利用者さま)
- 15歳未満の超重症児または準超重症児
なお、15歳未満の超重症児・準超重症児、または15歳未満であって別表第8に該当する場合は週3日まで算定できます。
精神科複数回訪問加算
1日に複数回の訪問看護を行った場合に算定できますが、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 精神科在宅患者支援管理料を算定する医療機関と連携している(指示書を発行してもらっている)
- 主治医が複数回の訪問看護の必要性を認めて指示書に記載がある
- 精神科複数回訪問加算に係る届出書を地方厚生(支)局へ提出している
1日あたりの訪問回数が2回か3回以上かによって算定額が変動するため、レセプト請求時には注意しましょう。
複数名精神科訪問看護加算
複数名精神科訪問看護加算は、保健師または看護師が、ほかの保健師、看護師、看護補助者、精神保健福祉士と同時に訪問した場合に算定できます。ただし、訪問時間が30分未満の場合は算定できません。
また、同時に訪問する場合、1人以上は必ず保健師または看護師である必要があります。
看護補助者や精神保健福祉士のみが複数で訪問した場合は、加算の対象とならないため注意しましょう。
医師が複数名による訪問の必要性を認め、精神科訪問看護指示書に記載があること、利用者さまやご家族の同意を得ていることが算定の条件です。
同行職種、同一建物居住者の訪問人数、1日あたりの訪問回数の3つの要件によって加算額が決まる点は、通常の複数名加算と異なります。
精神科緊急訪問看護加算
精神科緊急訪問看護加算は、利用者さまやご家族の求めに応じて、診療所または在宅療養支援病院の主治医の指示のもと緊急の訪問看護を行った場合に算定できます。以下が算定の条件です。
- 訪問看護計画にない緊急の訪問である
- 診療所または在宅療養支援病院の主治医の指示により訪問している
- 1日につき1回に限り算定する
なお、複数の訪問看護ステーションがかかわっている利用者さまの場合、計画訪問をしたステーションとは別のステーションが緊急訪問を行ったときは、緊急訪問をしたステーションは精神科緊急訪問看護加算のみを算定します。
ただし、この場合は緊急訪問をしたステーションが「24時間対応体制加算の届出をしている」または「過去1か月以内に訪問看護を実施している」といった条件を満たしていなければ算定できません。
緊急訪問が必要となる背景には、症状の不安定さが潜んでいることもあり、その後も頻回な訪問が必要と判断される場合があります。
このような場合は精神科特別訪問看護指示書の交付を依頼することで、月に1回に限り14日を限度として毎日の訪問が算定できるようになるため、継続的なケア体制を整えやすくなります。
夜間・早朝訪問看護加算、深夜訪問看護加算
夜間(18時〜22時)または早朝(6時〜8時)に訪問した場合は夜間・早朝訪問看護加算、深夜(22時〜翌6時)に訪問した場合は深夜訪問看護加算を算定できます。
いずれも利用者さまやご家族の求めに応じて訪問した場合が対象で、1日1回ずつ算定可能です。
精神科訪問看護の算定要件についてのよくある質問
精神科訪問看護基本療養費を正しく算定するには要件・ルールがいくつかあるため、現場では判断に迷うケースも少なくありません。ここでは精神科訪問看護基本療養費の算定要件に関するよくある質問をまとめました。
Q1:精神科訪問看護と通常の訪問看護は、同じ利用者さまに同時算定できますか?
1人の利用者さまに対して、精神科訪問看護基本療養費と通常(身体)の訪問看護費は同時に算定できません。
ただし、状態変化によって訪問看護のおもな対象疾患が変わった場合には、精神科訪問看護から通常の訪問看護へ切り替えることは可能です。
Q2:要介護・要支援の認定を受けている方も、精神科訪問看護基本療養費を算定できますか?
要介護・要支援の認定を受けていても、精神科訪問看護指示書にもとづく訪問であれば精神科訪問看護基本療養費を算定できます。
なお、精神科訪問看護基本療養費は医療保険が適用されます。
Q3:精神科訪問看護で買い物の付き添いや受診同行は算定できますか?
買い物や受診の付き添いは、精神科訪問看護基本療養費として算定できません。
ただし、自費サービスとして提供しているステーションもあります。
精神科訪問看護の算定要件を正しく理解し、算定漏れのない運営をしよう
精神科訪問看護基本療養費の算定には、スタッフの配置や届出、指示書の受理、GAF尺度の記録など、複数の要件をすべて満たす必要があります。
正しく算定を続けるためには訪問回数や時間に関するルールの遵守も欠かせません。要件やルールは複雑に見えますが、一つひとつ整理して理解することで、返戻リスクを減らし、ステーションの安定した運営につながります。
この記事を参考に、算定漏れのない精神科訪問看護の体制を整えましょう。
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<参考サイト・文献>
訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について|厚生労働省
一般社団法人全国訪問看護事業協会 訪問看護実務相談Q&A令和6年版 2024年 中央法規出版株式会社 p39,40,90,91,93,94,345,346,347,350.
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