心不全療養指導士とは?合格率やメリット、症例報告書の条件を分かりやすく解説

心不全の患者さまとかかわるなかで「退院指導をしても、再入院を防ぎきれない」とジレンマを感じたことはないでしょうか。
心不全の患者さまが増え、再入院をいかに防ぐかが医療現場の課題となるいま、療養指導の専門性を証明する資格として注目されているのが「心不全療養指導士」です。
この記事では、心不全療養指導士の概要や取得するメリット、心不全療養指導士になるための流れ、試験の合格率を解説します。心不全療養指導士の資格を活かせる職場も紹介しているので、キャリアアップを考えている看護師はぜひ参考にしてください。
心不全療養指導士とは
心不全療養指導士とは、心不全の発症・重症化予防のための療養指導に必要な知識と技能を備えた医療専門職を認定する、日本循環器学会の資格です。
心不全の患者さまの増加を背景に、再入院を防ぐ療養支援の担い手を育てる目的で、2021年度に創設されました。
実際に、日本循環器学会「2025年循環器疾患診療実態調査報告書」によると、心不全で入院となった患者さまは2025年の1年間で約29.9万人にのぼり、近年は増加傾向が続いています。こうした背景から、療養指導を担う専門人材への期待は高まる一方です。
対象は、看護師・保健師・理学療法士・薬剤師・管理栄養士など、10職種の国家資格を持つ医療専門職で、医師は受験できません。
上記以外の医療専門職の国家資格保有者が受験を希望する場合、学会専門医の推薦を受けて、委員会が承認すれば受験が可能とされています。まずは、資格の役割と、看護師が取得する意義を確認していきましょう。
心不全療養指導士の役割
心不全療養指導士のおもな役割は、それぞれの専門性を活かしながら、心不全の患者さまに最適な療養指導をおこなうことです。日本循環器学会は、具体的な役割として以下の5項目をあげています。
- 心不全の発症・進展予防の重要性を理解し、予防や啓発のための活動に参画する
- 心不全の概念や病態、検査、治療を理解し、病状などを把握する
- 進展ステージに応じた予防・治療を理解し、基本的かつ包括的な療養指導を実施する
- 医療機関や地域の診療において、医師やほかの医療専門職と連携し、チーム医療の推進に貢献する
- 心不全患者への意思決定支援と、緩和ケアに関する基本的な知識を持つ
日々の看護と重なるように見えますが、経験則ではなく病態の理解にもとづいて指導し、その質をチームや地域へ広げていく点が、心不全療養指導士ならではの役割です。
看護師が心不全療養指導士を取得する意義
10職種が対象の資格のなかでも、看護師は心不全療養指導士の取得の意義が 大きい職種と言えます。
入院中の療養指導や退院支援、外来での継続支援、在宅での訪問看護と、患者さまの生活にもっとも近い場面で継続的にかかわるのが看護師だからです。
体重増加や息切れといった増悪のサインに最初に気づけるのも、多くの場合はそばにいる看護師です。資格を通じて病態と生活指導の知識を体系的に習得することで、日々の観察やかかわりの1つひとつが、再入院予防に向けた支援の質向上につながる可能性があります 。
心不全療養指導士になるには
心不全療養指導士になるには、日本循環器学会が定める要件を満たしたうえで、年1回の認定試験に合格する必要があります。受験資格と取得までの流れを順に確認していきましょう。
心不全療養指導士の受験資格
心不全療養指導士の受験には、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 看護師や保健師など、指定された10職種の国家資格のいずれかを保有している
- 日本循環器学会の会員(正会員・準会員)であり、年会費を納めている
- 現在、心不全の療養指導に従事している
- 受験者用eラーニングを受講し、修了証を取得している
- 症例報告書5例を不備なく記載し、提出している
- 申請書類を提出し、受験料1万5,000円(税込)を納めている
対象の国家資格は、看護師・保健師・理学療法士・作業療法士・薬剤師・管理栄養士・公認心理師・臨床工学技士・歯科衛生士・社会福祉士の10職種です。
また、症例報告書には公式の注意事項が定められています。
たとえば、5例すべて異なる患者さまで作成する、テーマは2種類以上選択する、個人が特定される情報は匿名化する、所属長(部門長など)など の押印を受ける、といった点が求められます。押印・確認者の条件は、受験年度の公式案内を確認してください。また、受験の申請は、オンライン申請と書類申請の両方が必要であるため注意が必要です。
学会への入会は受験する年度の4月1日以降でも問題ないため、「学会員歴が浅いから受けられない」という心配は不要です。費用面では、受験料に加えて学会の年会費など、あらかじめ資格取得にかかる総額を確認しておくと安心でしょう。
心不全療養指導士の資格取得までの流れ
心不全療養指導士の資格取得までの流れは、以下のとおりです。
- 日本循環器学会へ入会する
- 受験者用eラーニングを受講する
- オンライン申請をおこなう(症例報告書5例を登録)
- 書類発送・受験審査料の入金をおこなう
- 書類審査(症例報告書の査読)を受ける
- 認定試験を受験する(毎年12月)
書類審査に合格した方のみが認定試験に進め、試験合格者には資格認定証とピンバッジが送付されます。申請から試験まで年間のスケジュールが決まっているため、受験する年の春から逆算して準備しましょう。
心不全療養指導士は5年ごとに資格更新が必要
心不全療養指導士の資格有効期間は5年間で、取得後は更新審査を受ける必要があります。更新の条件は、以下のとおりです。
- 日本循環器学会会員の継続
- 資格有効期間中の学術集会への5年間の中で1回以上の参加
- 5年間で50単位以上の取得
- 症例報告書または活動報告書5件
更新に必要な単位は、日本循環器学会の学術集会やチーム医療セミナー、日本心不全学会の学術集会などへの参加・発表で取得できます。
また、症例報告書は5例そろえられない場合に限り、活動報告書の提出で代替できます。その場合も少なくとも1例は症例報告書を記載しなければなりません。症例はチームでかかわった間接的な療養指導も認められます。
なお、2回目以降の更新(資格取得10年目)では、報告書の提出自体が免除される仕組みです。このほか、海外留学や病気療養、育児・介護休業などの場合には更新延長の制度も設けられています。
単位の対象となる学会・セミナーや申請期限は更新年度により確認が必要です。
心不全療養指導士の試験の合格率
心不全療養指導士の認定試験の合格率は、以下のように推移しています。
| 試験実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
| 2020年 | 1,979人 | 1,771人 | 89.49% |
| 2021年 | 1,914人 | 1,649人 | 86.15% |
| 2022年 | 2,039人 | 1,871人 | 91.76% |
| 2023年 | 1,864人 | 1,312人 | 70.39% |
| 2024年 | 2,237人 | 1,623人 | 72.36% |
| 2025年 | 2,196人 | 1,925人 | 87.66% |
過去の合格率だけで難易度や合格可能性を判断することはできませんが、2025年は87.66%まで回復したものの、2023年・2024年は70%台前半まで下がっており、準備なしで合格できる試験ではないと考えられます。
出題範囲は病態や治療から生活指導、意思決定支援まで幅広いため、受験者用eラーニングと認定試験ガイドブックを軸に学習を進め、日々の実践と結びつけながら知識を整理しておきましょう。
なお、合格者は日本循環器学会サイトの名簿(資格取得者一覧)から都道府県別・職種別に検索でき、本人の意向により氏名を非公表にすることも可能です。
心不全療養指導士になるメリット
心不全療養指導士の資格は、日々のケアの質とキャリアの両面で活きるのが特徴です。ここでは、代表的な3つのメリットを紹介します。
根拠を持って心不全患者の療養指導ができる
資格取得の過程では、心不全の病態から治療、服薬・食事・運動などの生活指導までを体系的に学び直せます。経験則に頼りがちだった指導に根拠を持てるようになり、患者さまの状態に合わせた説明に自信がつくでしょう。
たとえば「なぜ毎日体重を測るのか」「なぜ塩分を控えるのか」を病態と結びつけて説明できれば、患者さまの納得感は大きく変わります。
また、受験までに作成する症例報告書は、自分の実践を振り返る絶好の機会です。指導のプロセスを言語化することで、日々のケアの質そのものが高まります。
チーム医療や地域連携で頼られる存在になれる
心不全療養指導士は、各職種の視点を理解しながら職種間をつなぐ役割を期待されており、 多職種連携やスタッフ教育に活かせる可能性があります
また、2026年度の診療報酬改定では、心不全指導の経験を持つ多職種チームによる再入院予防の取り組みが新たに評価されました。院内のチームだけでなく、退院後を支えるかかりつけ医や訪問看護師、ケアマネジャーとの地域連携においても、心不全の知識を持って橋渡しできる人材は重宝されます。
チームで心不全を支える流れは今後さらに広がると考えられ、資格で得た知識を発揮する場面は増えていくでしょう。
キャリアの選択肢が広がる
心不全療養指導士の資格取得は、院内での心不全チームへの参画や勉強会の企画など、活躍の幅が広がるきっかけとなるでしょう。
合格者には資格認定証とピンバッジが交付され、専門性を目に見える形で示せます。
さらに、心不全の療養支援は病院のなかで完結しません。
外来やクリニック、訪問看護など、生活の場に近い領域でも活きる専門性のため、将来のキャリアチェンジを見据えた強みにもなります。
「病棟で経験を積んだあと、在宅で患者さまを支えたい」と考えている方にとっては、キャリアの橋渡しとなる資格と言えます。
心不全療養指導士の資格を活かせる職場
心不全療養指導士が活躍できる職場は、病院から在宅まで多岐にわたります。ここでは、代表的な4つの職場を紹介します。
循環器病棟・外来
循環器病棟や外来では、入院中の療養指導から退院支援までを担います。
心不全チームの一員として多職種カンファレンスを主導したり、スタッフ教育にかかわったりと、院内での活躍の場は多彩です。
2026年度改定で新設された心不全再入院予防継続管理料により、チームで療養指導を担う体制づくりは今後さらに進むと考えられます。
クリニック
外来通院を続ける心不全の患者さまに、診察の合間の限られた時間で生活指導をおこないます。
かかりつけの窓口として同じ患者さまと長くかかわり続けられるため、体重や血圧の推移、生活習慣の変化を踏まえた継続的な指導ができるのは、クリニックならではの魅力です。
2026年度の診療報酬改定では外来での再入院予防の取り組みも評価されており、クリニックでの療養指導の重要性は高まりつつあると言えるでしょう。
訪問看護ステーション
訪問看護ステーションは、心不全療養指導士の学びが直結する職場と言えます。
体重や症状の変化から増悪の兆候を早期にとらえる観察力、服薬・塩分管理などの生活に踏み込んだ支援、主治医やケアマネジャーとの連携に、心不全療養指導士の知識をそのまま活かせるためです。
再入院を防ぐ最前線は、退院後の生活の場です。
利用者さまの自宅という環境だからこそ、食事や服薬の実態に即して指導でき、ご家族への支援にも深くかかわれます。
「病院から在宅、地域まで幅広く支える」という資格の理念を体現できる職場と言えるでしょう。
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介護施設
高齢の入所者さまには、心不全を抱える方も少なくありません。そのため、日々の観察による 重症化予防につなげることが大切です。心不全療養指導士の知識は、体重や息切れなどの変化の観察、服薬・食事に関する支援、受診や医療機関への相談が必要な際の連携に活かせます。
介護職への助言や急変時にあらかじめ定められた対応手順に沿った支援など、施設内で多職種が連携する場面で役立ちます。医療資源が限られた環境だからこそ、心不全の観察や受診支援に関する知識を活かし、入所者さまの生活を支えることが重要です。
心不全療養指導士に関するよくある質問
心不全療養指導士に関して、多く寄せられる質問にお答えします。受験を検討する際の参考にしてください。
Q1:心不全療養指導士の資格取得で診療報酬上の加算となりますか?
資格者の配置そのものが算定要件となる加算は、2026年8月時点でありません。
ただし、2026年度の診療報酬改定で「心不全再入院予防継続管理料」が新設され、この管理料の体制づくりに心不全療養指導士の資格が活きます。施設基準に定められている「研修を修了した者」の研修に、心不全療養指導士の資格も含まれるとされているためです(2026年4月時点)。
心不全再入院予防継続管理料には1〜3の区分があり、施設基準は区分ごとに異なります。
管理料1・2では、心不全指導の経験を3年以上(医師は5年)持つ常勤の医師・看護師(または保健師)・管理栄養士で構成する心不全再入院予防チームの設置が求められ、いずれかは研修を修了した者であることが望ましいとされました。
管理料3でも、研修については言及されていないものの心不全再入院予防チームの設置が求められています。加えて、管理料1または2の医療機関が主催する研修会への参加が施設基準となっています。
つまり、看護師が心不全療養指導士の資格を持つことは、管理料の算定に必要なチームづくりの後押しになるということです。
Q2:心不全療養指導士の症例報告書は難しいですか?
症例報告書は5例の作成が必要で、審査員が内容を細かく確認する書類審査があるため、受験準備のなかでも時間を要する難所と考えられます。
書類審査に通過しなければ筆記試験自体を受けられないため、軽視はできないでしょう。
公式サイトでは記載要領やフォーマットに加えて、良い例・悪い例の記載例も公開されています。
あらかじめ「何を書けば評価され、何が不十分とされるのか」をつかんでから書き始めるのが、審査を意識した報告書を効率よく作成するコツです。日々の実践を丁寧に振り返りながら、余裕を持って作成を始めれば対応できるでしょう。
Q3:2026年度の心不全療養指導士の試験日はいつですか?
2026年度の認定試験は、2026年12月20日(日)に実施される予定です。
試験会場は47都道府県に 設置予定で 、試験時間は13時から15時までの2時間となっています。結果は翌年3月上旬に、オンラインシステムのマイページで確認できます。
なお、2026年度の受験申込は終了しておりますので、受験を考えるなら2027年度の受験日程を確認して準備を進めましょう。
Q4:心不全療養指導士は働きながらでも勉強と両立して合格できますか?
働きながら合格を目指す方が大半のため、勉強との両立は十分可能です。
心不全療養指導士の学習は、受験者用eラーニングと公式の認定試験ガイドブックを中心に進めます。eラーニングは受講完了期限のあとも試験日まで視聴できるため、復習用の教材として活用することも可能です。
両立のコツは、年間スケジュールからの逆算です。一例として、以下のような流れで進めると学習が一時期に集中せずに段階的に進められます。
- 春に学会入会とeラーニングを始める
- 夏の申請期限までに症例報告書を仕上げる
- 秋以降は試験対策に集中する
症例報告書は日々の実践がそのまま素材になるため、担当している患者さまの療養指導を意識的に振り返るとスムーズに進められるでしょう。
Q5:心不全療養指導士と心不全看護認定看護師の違いは何ですか?
どちらも心不全ケアの専門性を示す資格ですが、認定団体や対象となる職種が異なります。両者の違いは以下のとおりです。
| 心不全療養指導士 | 心不全看護認定看護師 | |
| 認定団体 | 日本循環器学会 | 日本看護協会 |
| 対象職種 | 看護師を含む10職種の医療専門職 | 看護師のみ |
| 認定までのおもな要件 | 受験者用eラーニング受講・症例報告書5例・認定試験の合格 | 実務経験・認定看護師教育課程の修了・認定審査の合格 |
心不全看護認定看護師は、より長期の教育課程を経て認定されることから、看護実践に特化した資格です。心不全看護認定看護師については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
関連記事:心不全看護認定看護師とは?なり方や倍率、給与事情をわかりやすく解説
心不全療養指導士として病院から在宅まで頼られる存在を目指そう
心不全療養指導士は、増え続ける心不全の患者さまを病院から在宅まで支える、これからの時代に必要とされる資格です。
取得までには症例報告書の作成や認定試験といった関門がありますが、その過程で得られる知識は日々の療養指導に根拠を与え、多職種や地域から頼られる存在へとつながります。
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<参考サイト・文献>
令和8年度診療報酬改定13. 重点的な対応が求められる分野(医学管理・リハビリテーション)|厚生労働省
| 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者 HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 |
ナスキャリナビ 編集部 「ナスキャリナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「ナスキャリ」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。
