地域看護専門看護師とは?保健師・在宅看護専門看護師との違いも解説

地域包括ケアや在宅ケア、保健行政など、地域に近い場で専門性を高めたい看護師にとって、選択肢の1つとなるのが「地域看護専門看護師」です。
とはいえ、名前は聞いたことがあっても「何をする資格なのか」「保健師と何が違うのか」まではイメージしにくいのではないでしょうか。
この記事では、地域看護専門看護師の役割や活躍の場、保健師・在宅看護専門看護師との違い、資格を取得する方法を解説します。地域で働く看護のキャリアを考えるうえで、ぜひ参考にしてください。
地域看護専門看護師とは
地域看護専門看護師とは、日本看護協会が認定する専門看護師14分野のうち、「地域看護」分野における高度実践看護師のことです。
日本看護協会は、地域看護分野を「産業保健、学校保健、保健行政、在宅ケアのいずれかの領域において水準の高い看護を提供し、地域の保健医療福祉の発展に貢献する」分野と説明しています。それぞれの領域のイメージは以下のとおりです。
| 領域 | おもな対象と活動の例 |
| 産業保健 | 企業などで働く人の健康課題に対応する (メンタルヘルス対策、生活習慣病予防など) |
| 学校保健 | 児童・生徒・学生の健康を支える (慢性疾患を抱える子どもの支援、健康教育など) |
| 保健行政 | 保健所や市区町村で住民の健康を守る仕組みをつくる (母子保健、難病支援など) |
| 在宅ケア | 地域で療養する人と家族の生活を支える (退院支援、訪問看護との連携など) |
4つの領域に共通するのは、病院のなかだけで完結しない「地域で暮らす人」を対象とした看護であることです。個別のケアにとどまらず、地域や集団の健康課題に仕組みからかかわる点が、この資格の特徴です。
関連記事:専門看護師とは?専門分野14個の種類や認定看護師との違いを解説!
地域看護専門看護師の6つの役割
専門看護師には、実践・相談・調整・倫理調整・教育・研究という6つの役割があり、地域看護分野では以下のような形で発揮されるのが特徴です。
| 役割 | 地域看護分野での例 |
| 実践 | 退院後の療養生活や慢性疾患・難病など、生活背景を含めた複雑な課題を持つ人と家族への高度な看護 |
| 相談 | 訪問看護師や保健師など、地域のケア提供者からのコンサルテーションへの対応 |
| 調整 | 病院・訪問看護ステーション・行政・学校・企業など、関係機関の連携のコーディネート |
| 倫理調整 | 本人・家族・支援者の意向のズレや、地域資源の不足から生じる倫理的な葛藤の解決 |
| 教育 | 研修会や事例検討を通じた、地域の看護職の育成 |
| 研究 | 地域の健康課題の研究と、成果を活かした仕組みづくり |
それぞれ詳しく解説します。
実践
実践は、複雑で解決が難しい課題を抱える方とご家族に、水準の高い看護を直接提供する役割です。
たとえば、精神疾患のある母親と医療的ケア児の親子世帯のように、複数の問題が絡み合い、担当の訪問看護師も保健師も「どこから手をつければ良いか分からない」状態に陥る事例があります。
このようなケースを引き受け、母子それぞれの状態を評価しながら優先順位をつけ、支援の糸口となるケアを自らおこなうのが専門看護師の実践です。
相談
相談では、訪問看護師や保健師など、地域のケア提供者からのコンサルテーションに応じます。
「複雑な家族関係が背景にあって支援が進まない」「医療依存度の高い利用者さまの受け入れに自信が持てない」といった現場の悩みに対し、事例を一緒に整理しながらアセスメントの視点や具体的なかかわり方を助言する役割です。
調整
調整は、病院や訪問看護ステーション、行政、学校、企業といった関係機関の間に立ち、支援がスムーズに進むよう連携をコーディネートする役割です。
退院支援の場面では、病院側は在宅移行を進めたい一方で、在宅チームが「独居で介護力が乏しく、今の体制では受けきれない」と不安を抱える、といった行き違いが起こりがちです。
こうしたときに双方の情報とリスクを整理し、退院前カンファレンスで論点を絞り込み、不足している社会資源を補う段取りをつけて着地点を見出します。
倫理調整
倫理調整では、ご本人やご家族、支援者の意向のズレや、地域資源の不足から生じる葛藤の解決を担います。
たとえば在宅移行の場面で、「家に帰りたい」というご本人と、介護に不安を抱えるご家族、受け入れ体制に悩む支援チームの意向が食い違うことがあります。
それぞれの思いを言葉にできるよう促し、試験的な外泊から始めるといった段階的な選択肢を示しながら、関係者が納得できる方向を探る役割です。
教育
教育は、地域で働く看護職の育成を担う役割です。
研修会の企画や事例検討会の運営を通じて、自身の知識と経験をチームや地域の看護職に還元します。
日々の実践のなかでスタッフに助言しながら育てる、身近な指導者としての側面もある役割と言えるでしょう。
研究
研究は、地域の健康課題を分析し、その成果をケアの改善や仕組みづくりに活かす役割です。
たとえば、訪問看護の現場で気づいた課題をデータとして整理し、事例研究や学会発表を通じて地域全体の看護の質向上に役立てます。
地域看護専門看護師と保健師・在宅看護専門看護師との違い
地域看護専門看護師は、名前や活動領域が似ている「保健師」「在宅看護専門看護師」と混同されやすい資格です。3つのおもな違いは以下のとおりです。
| 地域看護専門看護師 | 保健師 | 在宅看護専門看護師 | |
| 資格の種類 | 日本看護協会の認定資格 | 国家資格 | 日本看護協会の認定資格 |
| おもな役割 | 地域の複雑で解決困難な看護課題への高度実践・相談・調整など | 地域住民への保健指導・健康管理などの保健活動全般 | 在宅療養者とご家族への高度実践、在宅ケアシステムの構築 |
| おもな対象・領域 | 産業保健・学校保健・保健行政・在宅ケア | 地域住民全般(行政・企業・学校など) | 在宅で療養する個人とその家族 |
詳しく解説します。
保健師との違い
保健師と地域看護専門看護師の最大の違いは、「予防」と「高度実践」という役割です。
保健師は病気やけがの予防・健康づくりを中心に支援します。
それに対し、地域看護専門看護師は、支援が行き詰まった事例や関係者の調整が必要な複雑なケースに対応し、地域の看護全体の質を高める役割を担う点が特徴です。
また、資格の性質も異なります。保健師は国家試験に合格して得る国家資格である一方、地域看護専門看護師は実務経験と大学院教育を経て、日本看護協会の認定審査に合格して得る専門資格です。
働くおもな職場も、保健師は保健所や市区町村の保健センターなどの行政機関が中心、地域看護専門看護師は病院や訪問看護ステーション、企業、学校などという違いがあります。
在宅看護専門看護師との違い
在宅看護専門看護師とは、どちらも「在宅ケア」にかかわる点で重なりますが、資格分野としては別です。
地域看護が集団や地域の仕組みまで含む広い分野であるのに対し、在宅看護は在宅療養者とご家族への支援に焦点を当てています。
また、在宅看護専門看護師は、在宅療養者とご家族への高度な看護実践に加え、在宅ケアシステムの構築や、訪問看護師へのコンサルテーション、研究などをおこないます。
訪問看護の現場で療養者とご家族に深くかかわりたい方は在宅看護、個人・家族への高度な看護実践に加え、地域全体の健康課題や体制づくりにかかわりたい方は地域看護、というのが選び方の目安です。
地域看護専門看護師が活躍する場所
地域看護専門看護師の活躍の場は、対象領域の広さを反映して多岐にわたるのが特徴です。ここでは、代表的な4つの場所を紹介します。
なお、専門看護師の配置や募集の有無は施設によって異なるため、資格を活かせるポジションがあるかは職場ごとの確認が必要です。
訪問看護ステーション・病院
訪問看護ステーションや病院は、在宅ケア領域の代表的な活躍の場です。
医療依存度の高い利用者さまを地域で受け入れる体制づくりや、病院と連携した退院支援、ご家族への支援、地域資源の調整などで専門性を発揮できます。
個別のケアを深めるなかで「地域の仕組みそのものを良くしたい」と考える看護師にとって、その思いを形にできる職場と言えるでしょう。
保健所・地域包括支援センター・市区町村などの行政機関
保健所・地域包括支援センター・市区町村などの行政機関は、保健行政領域で専門性を発揮できる職場です。
難病支援や健康危機管理、高齢者の総合相談など、地域住民の健康を守る仕組みに、高度実践者の立場からかかわれるためです。
たとえば、対応が難しい事例への直接の支援や、保健師からの相談への助言、関係機関の間に立った調整などを担います。個別支援と仕組みづくりの両面から地域の健康を支えたい方に、適した職場と言えるでしょう。
企業の健康管理部門
企業の健康管理部門は、働く人のメンタルヘルス対策や生活習慣病予防に取り組み、産業医や保健師と連携しながら職場の健康課題の解決を担う職場です。
従業員からの健康相談への対応にとどまらず、休職者の職場復帰の支援や、働きやすい職場環境づくりへの提言など、企業の健康づくりに幅広くかかわれます。
学校・大学
学校や大学では、児童・生徒・学生の健康支援や健康教育に携わるほか、慢性疾患やアレルギーを抱える子どもを支える体制づくりにも専門性を活かせます。
大学は次世代の看護職の育成や地域看護学の研究を担う拠点でもあり、地域看護専門看護師も所属して研究や後進の育成に携わっています。
地域看護専門看護師になるには
地域看護専門看護師になるには、日本の看護師免許を持っていることを前提に、「実務研修」と「大学院での教育課程修了」の2つの要件を満たしたうえで、認定審査に合格する必要があります。
実務と大学院進学はどちらが先という決まりはなく、認定審査を申請する時点で、看護師免許・教育・実務研修の各要件を満たしていればよいため、ご自身がすでに満たしている要件を確認しながら読み進めてください。
地域看護分野で実務研修を通算5年以上うち専門分野の経験を3年以上積む
看護師としての実務研修が通算5年以上、そのうち3年以上が地域看護分野であることが必要です。大学院進学の前後を問わず通算でカウントされるため、進学と実務のどちらが先でも構いません。
地域看護分野に該当するのは、産業保健・学校保健・保健行政・在宅ケアの領域での実践で、日本看護協会が公開している地域看護分野の研修施設の一覧からも、具体的なイメージがつかめます。
- 保健所・市役所などの行政機関での保健活動
- 企業や大学での健康管理・産業保健活動
- 訪問看護ステーションや地域包括支援センターでの在宅ケア
- 大学病院などでの地域連携にかかわる実践
たとえば、訪問看護師として在宅ケアに携わってきた経験も対象です。
実務研修として認められるかどうかは経験の内容もふまえて審査で判断されるため、最終的には協会の公開資料や教育機関で確認しましょう。
大学院で専門看護師教育課程を修了する
教育面の要件は、看護系大学院の修士課程を修了することです。どの大学院でも良いわけではなく、日本看護系大学協議会が認定する専門看護師教育課程で、合計38単位を修得しなければなりません。
大学院への出願には、原則として学士(大卒)の学位が必要です。ただし、専門学校卒・短大卒の方も、各大学院がおこなう個別の入学資格審査で大学卒業と同等以上の学力があると認められれば受験できます。
また、日本看護協会は専門看護師教育課程以外の修士課程を修了した方(コース外修了者)を対象に、教育要件を事前に確認する「受験資格審査」を実施しています。認定された専門看護師教育課程と同等以上の科目・単位(38単位以上)を取得していると認められれば、認定審査を受験できるという仕組みです。
なお、修士課程には2年以上の期間と学費がかかります。働きながら目指す場合は、職場の理解を得ることや、標準より長い期間で計画的に学べる長期履修制度の活用も検討しましょう。ここで1点、注意すべき現状があります。2026年度の教育機関・課程一覧を確認すると、2026年8月現時点で新たに地域看護分野の教育を受けられる大学院はありません。
しかし、地域看護専門看護師の分野が廃止されるという公式の発表も見受けられないため、今後、地域看護分野の課程が新設・再開される可能性もあります。進学を検討する際は協会の教育機関検索で最新の開講状況を確認してください。
認定審査に合格し、登録・5年ごとの更新をおこなう
2つの要件を満たしたら、日本看護協会が年1回実施する認定審査(書類審査・筆記試験)を受験します。合格後に認定料を納めて登録手続きをおこなうことで、専門看護師としての認定を受けられる流れです。
資格の有効期間は5年間で、取得後は更新審査を受ける必要があります。2025年度から制度が変更され、看護実践時間2,000時間以上の要件や実践報告書の提出は不要となりました。2028年度からは、筆頭者として学術集会等での発表または論文掲載を2回以上行うことなどが求められます。
なお、2025~2027年度に認定有効期間を迎える方には特例措置が適用される点に注意が必要です。
地域看護専門看護師に向いている人
地域看護専門看護師に向いているのは、以下のような方です。
- 個別のケアだけでなく、地域全体を見て支援を組み立てたい
- 多職種や関係機関との連携・調整が得意
- 保健医療福祉の制度や社会資源を学ぶ意欲がある
- 現場の課題を研究や教育につなげたい
共感できる項目が多い方は、キャリアの選択肢として検討する価値があるでしょう。
地域看護専門看護師に関するよくある質問
地域看護専門看護師に関して、多く寄せられる質問にお答えします。これからのキャリアを検討する参考になさってください。
Q1:地域看護専門看護師は全国に何人いますか?
日本看護協会のデータによると、2025年12月時点の地域看護専門看護師の登録者数は全国で31人です。
専門看護師全体(3,644人)のなかでもとくに少なく、登録者がいるのは10都道府県にとどまります。最新の人数は、日本看護協会の「データで見る専門看護師」で確認できます。
Q2:地域看護専門看護師の制度は廃止されるのですか?
2026年8月時点で、地域看護専門看護師(地域看護分野)が廃止されるという公式な発表はありません。
認定・更新の制度は続いており、2025年12月時点では31人の地域看護専門看護師が活動しています。
ただし、2026年度は地域看護分野の教育課程を開講する大学院が確認できていない状態です。最新の動向は、日本看護協会の公式サイトで確認しましょう。
Q3:地域看護専門看護師は専門学校卒でも目指せますか?
最終学歴が専門学校卒業でも、地域看護専門看護師を目指せます。
大学院ごとの個別の入学資格審査で、大学卒業と同等以上の学力があると認められれば出願が可能です。審査の基準や条件(実務経験や年齢要件など)は大学院によって異なりますので、要項をしっかり確認しましょう。
Q4:専門看護師と認定看護師の違いは何ですか?
どちらも日本看護協会の認定資格ですが、役割の深さと教育のルートが異なります。両者の違いは以下のとおりです。
| 専門看護師 | 認定看護師 | |
| 役割 | 実践・相談・調整・倫理調整・教育・研究の6つ | 実践・指導・相談の3つ |
| 特徴 | 複雑な課題への対応や組織・地域への働きかけまで担う | 特定分野の熟練した看護技術と知識で現場のケアをリードする |
| 教育 | 大学院(修士課程)で専門看護師教育課程を修了 | 教育機関で認定看護師教育課程の研修を修了 |
より長期の大学院教育を経て、個別のケアから地域や組織まで幅広くかかわるのが専門看護師、特定分野の技術を極めて現場で発揮するのが認定看護師、という違いです。認定看護師の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:認定看護師とは?認定看護師の種類と教育機関の一覧を詳しく解説
地域看護専門看護師を知り、地域を支える看護のキャリアを描こう
地域看護専門看護師は、産業保健・学校保健・保健行政・在宅ケアの領域で、地域の複雑な看護課題に取り組む高度実践看護師です。2025年12月時点で登録者数31人と希少な資格ですが、地域包括ケアが進むなかで、その専門性が求められる場面は広がっています。
興味を持った方は、まず日本看護協会の公式情報で教育課程の最新の開講状況を確認してみましょう。開講課程がない現時点では、領域の重なる在宅看護専門看護師を含めて、キャリアの選択肢を広く検討するのが現実的です。
また、在宅ケア領域で経験を積むことは、地域看護のキャリアを歩むうえで強みとなります。ナスキャリ(NsPace Career)は、訪問看護に特化した求人を多数掲載する転職サービスです。地域で働く一歩を踏み出したい方は、ぜひチェックしてみてください。
<参考サイト・文献>
分野別・所属施設別登録者数(2025年12月)|公益社団法人日本看護協会
令和9年度千葉大学大学院看護学研究科博士前期課程看護学専攻一般選抜学生募集要項|千葉大学大学院看護学研究科・看護学部
2026年度専門看護師教育機関・課程一覧(110大学大学院330教育課程)|公益社団法人日本看護協会
専門看護師認定者数推移[全国][都道府県別](各年12月末の登録者数)|公益社団法人日本看護協会
| 監修:飛鳥馬 沙耶(あすま さや)/訪問看護ステーション 管理者 HCU・高度急性期病棟にて約6年間、循環器・心臓外科・脳外科領域を中心とした急性期看護に従事。2023年より訪問看護ステーションの管理者として、在宅医療の現場に携わる。専門領域は、訪問看護・在宅医療、急性期看護。 |
ナスキャリナビ 編集部 「ナスキャリナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「ナスキャリ」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。
