災害看護とは?看護師の役割や大切な6つのこと、学び方・資格を解説

「被災地支援のニュースを見るたびに看護師として活動できるのか不安になる」「DMATや災害支援ナースに興味はあるけど、自分に務まる気がしない」
災害看護に関心を持ちながらも、学び方や必要な資格がわからず、一歩を踏み出せずにいる看護師は少なくありません。院内の災害訓練や委員会活動で災害看護に触れるたびに、自分のスキル不足を感じている方もいるでしょう。
この記事では、災害看護の定義や災害サイクルごとの看護師の役割、現場で大切な6つのこと、なり方・資格を解説します。平時からできる備えや学び方も含めて、読み終えるころには「自分にもできることがある」という手応えとともに、何をすべきかが見えてくるはずです。
災害看護とは?
災害看護を正しく理解するには、「定義」「救急看護との違い」「なぜ今必要とされているか」を押さえることが大切です。それぞれ見ていきましょう。
災害看護の定義
日本災害看護学会では、災害看護を災害によって生じる生命や健康生活への被害を極力少なくし、生活する力を整えられるようにする活動と定義しています。
ポイントは「命を救うだけでなく、生活を支えること」にあります。ケガした人の応急処置だけでなく、避難所で高血圧の薬がない高齢者をケアしたり、仮設住宅で孤立した被災者の心のケアを続けたりすることも、災害看護の大切な仕事です。
災害看護と救急看護の違い
災害看護と救急看護は、以下の違いがあります。
| 比較項目 | 救急看護 | 災害看護 |
| 対象 | 個々の患者さま | 多数の被災者や地域全体 |
| 場所 | 病院や救急外来 | 現場や避難所、仮設住宅など |
| 資源 | 医療機器や薬が揃っている | 資源が限られている |
| 期間 | 急性期が中心 | 災害サイクルすべて |
| 判断基準 | 1人の患者さまに最善を尽くす | 限られた資源で多くの命を救う |
救急看護では1人の患者さまに最善の医療を届けることが原則ですが、災害看護では薬も医療機器も十分にない中で、多くの被災者を支援することが求められます。
たとえば、大規模地震後に体育館が医療拠点になった場合、点滴セットが10本しかないのに重症者が30人いるような状況が起こり得ます。救急看護の発想では全員に点滴をしたいところですが、災害看護では「誰に使うと命が救えるか」を判断しなければなりません。
災害看護が必要とされる背景
日本で災害看護が必要とされる理由は、日本が世界有数の災害大国であるためです。
国土面積は世界の0.29%しかありませんが、世界で起きるマグニチュード6以上の地震の18.5%、世界の活火山の7.1%が日本に集中しています。地震や津波、豪雨など大規模災害が繰り返し発生するこの国で、医療の専門職として災害に対応できる看護師の存在が不可欠です。
2024年の能登半島地震では、道路が寸断されて医療機関にたどり着けない集落が生じ、高血圧や糖尿病などの持病を抱えた住民が薬を入手できなくなる事態が起きました。このような状況で活躍したのが、DMATや災害支援ナースとして派遣された看護師です。
関連記事:震災時に医療機関や訪問看護の現場はどうなった?事例から知る必要な備え
災害サイクルから見る災害看護の役割と活躍する場所
災害看護の役割は、発災直後だけに限りません。災害サイクルを通じて、看護師はさまざまな場所で活躍します。
災害看護の役割
各段階の特性を理解することが、災害の現場で役割を果たすために欠かせません。
| 時期 | 状況 | 看護師の役割 |
| 急性期 | 発災直後〜72時間。多数傷病者の発生、救出救助活動 | トリアージ、救急処置、DMATとの連携 |
| 亜急性期 | 72時間〜1か月。避難所生活、外部支援の本格化 | 避難所での健康管理、慢性疾患の対応、心理的支援 |
| 慢性期 (復旧復興期) | 数か月~数年。仮設住宅への移行、地域医療の再開 | 継続看護、孤立予防、リハビリテーション看護、地域復興支援 |
| 静穏期 | 平時。次の災害への備え | 防災教育、院内訓練 |
| 前兆期 | 災害の予兆・警戒段階 | 備蓄確認、情報収集、初動体制の整備 |
「静穏期」と「前兆期」が含まれていることが特徴です。普段から院内の災害訓練に参加したり、研修で学んだりすることも災害看護の実践と言えます。
災害現場での業務内容
災害看護に携わる看護師(本記事では便宜上「災害看護師」と表記します)の業務は、急性期の救命処置から慢性期の心理的支援までサイクルごとに異なります。
たとえば、急性期では救護所でトリアージタグを付け、亜急性期では避難所を巡回して「高血圧の薬が切れた」「インスリン注射ができない」という方に対応します。
支援で大切なのは、現地のやり方を尊重することです。支援者が交代するたびにやり方が変わることへの戸惑いの声も被災地から聞かれており、問題がなければその地域の文化や習慣を尊重しながらサポートする必要があります。
災害看護師が活躍する場所
災害看護師は、さまざまな場所で活躍します。
- 病院:被災地の医療機関で傷病者の受け入れや治療を担う
- 避難所:被災者の健康管理や慢性疾患対応を行う
- 訪問看護や在宅医療:自宅や仮設住宅で医療的ケアが必要な方を支援する
- DMATや災害支援チーム:被災地に派遣され組織的に活動する
- 行政や保健所:地域の健康状況を把握し、支援を調整する
活躍する場所は発災直後から復興期まで、サイクルや被災地の状況によって変わります。看護師が関わる現場は時間とともに移ります。
災害看護で大切な6つのこと
災害現場では「助けたいのに物資も人手も足りない」といった、平時には経験しない葛藤に直面します。そのような場面で判断の軸となる原則を紹介します。
- 「CSCATTT(スキャット)」を理解して行動すること
- 限られた資源で優先順位を判断すること
- 被災者の生活背景まで考えること
- 自身の安全を守ること
- 多職種や地域と連携すること
- 平時から備えること
どれか1つが欠けても現場での対応は不十分になります。6つをセットで理解しておくことが大切です。
「CSCATTT(スキャット)」を理解して行動すること
CSCATTTを理解して動くことで、指示系統が崩れた現場でも判断の軸を失わずに行動できます。災害現場では「誰が指示を出しているのかわからない」「どこに搬送すべきか判断できない」といった混乱が起こります。
| 頭文字 | 意味 | 具体的なイメージ |
| C | Command & Control(指揮命令・統制) | 施設内の指揮命令と、他機関との連携を確立する |
| S | Safety(安全) | 自身・現場・スタッフや患者の安全を確保する |
| C | Communication(情報伝達) | 無線や衛星電話などを使い、警察・消防・救援機関と情報を共有する |
| A | Assessment(評価) | 施設や被災地の状況を把握し、患者受け入れの可否を判断する |
| T | Triage(トリアージ) | 被災者の緊急度や搬送順位を決める |
| T | Treatment(治療) | 緊急度の高い被災者から適切に治療する |
| T | Transport(搬送) | 施設の状況を考慮し、後方搬送や広域搬送を行う |
病院や避難所に負傷者が次々と運び込まれる中、誰が指示者かわからず、スタッフが個別判断で動き始めると現場は崩れます。CSCATTTは行動を整理する枠組みです。
限られた資源で優先順位を判断すること
災害看護では「全員を救う」ではなく「今ある薬や人手で、助けられる可能性が高い人から対応する」という判断が必要です。
トリアージは多くの施設では医師が担当しますが、大規模災害では看護師が担う場面も起きており、法的整備が追いついていないという課題も指摘されています。
看護師が黒タグを付け、十分に声をかけることもできないままその場を離れ、次の傷病者の評価へ向かわなければならない場面もあり、何年経っても忘れられないと語る看護師もいる現状です。災害現場では、つらい葛藤を抱えながらも、限られた資源を最大限に活かすための冷静な判断力が求められます。
被災者の生活背景まで考えること
災害看護では、「生活がどう崩れているか」を評価することが重要です。
避難所では、「トイレに行きたくないため水分を控える」「周囲に迷惑をかけたくなくて痛みを我慢する」など、生活環境による健康悪化が起こります。こうした背景を見落とすと治療やケアの効果は十分に得られません。
実際に、2016年の熊本地震では深部静脈血栓症(DVT)予防の理解不足が問題となり、ラジオで予防体操を放送したり、子どもが作成のポスターを掲示したりして行動改善を促した事例もあります。専門知識を現地の生活に合わせた形で届ける工夫が必要です。
自身の安全を守ること
看護師の安全確保は、災害医療を継続させるための条件です。以下のように安全確保に努める必要があります。
- 建物の安全確認を怠らない
- 避難所ではマスクや手袋など感染対策を徹底する
- 長期派遣では十分な睡眠と栄養を
また、精神的な負担も大きく、被災者の苦しみに共感するあまり自分まで傷つく「二次受傷」や、「燃え尽き症候群」は、広島県をはじめ行政機関も注意を呼びかけているリスクです。派遣後のデブリーフィングや相談窓口を活用しましょう。
多職種や地域と連携すること
災害医療は、単独では成立せず、医師・薬剤師・社会福祉士・行政職員など、多職種と地域をつなぐ連携が不可欠です。
避難所では医療的な問題だけでなく、生活環境の悪化や孤立など、医療者だけでは解決できない課題が生じます。看護師は状態を把握しながら「この人には医師が必要」「この問題は行政に動いてもらう必要がある」と適切な職種につなぐ役割を担います。
熊本地震では「協力したかったけれど言い出せなかった」中学生や住民に声をかけたことで、避難所全体でDVT予防や感染管理に取り組む雰囲気が生まれました。地域の力を引き出すことも、災害看護師の大切な仕事です。
平時から備えること
災害時に動ける看護師になれるかは、平時の準備と訓練の質で決まります。
災害発生直後は、自宅や家族の状況が不明なまま勤務するケースもあり、その中で冷静に動けるかどうかは事前準備が欠かせません。
院内災害訓練への参加はもちろん、ACLSといった救急教育コースの受講、個人としての食料や水の備蓄、家族との連絡方法の確認まで、日頃の小さな積み重ねが、いざというときの自分を支えます。
災害看護師になるには?
「災害看護に関わりたいけれど、何から始めればいいかわからない」という方に向けて、無理なく始められる3つのルートを紹介します。
病院の災害訓練や院内研修に参加する
まず取り組みやすいのが、勤務先の院内訓練や研修への参加です。
多くの病院では年1回以上の災害訓練を実施しており、トリアージや搬送の手順を体験できます。災害現場で動けるかどうかは、平時の反復練習によって決まります。訓練で覚えた動きが、混乱した現場でも自然と出てくるようになります。
学会やセミナーで最新知識を学ぶ
院内訓練だけでは得られない最新の知見や現場の体験談を学べるのが、学会やセミナーへの参加です。
日本災害看護学会や日本看護協会では、「災害への備えと対応」「看護管理者に必要な災害時マネジメント」などの研修を開催しています。派遣経験のある看護師の生の声を聞ける貴重な機会でもあります。まずはオンラインで参加できる入門セミナーから始めるのもおすすめです。
大学院や専門課程で災害看護を学ぶ
災害看護をより深く学びたい方は、災害看護を専門とする大学院や専門看護師課程への進学という選択肢もあります。
時間とコストはかかりますが、組織の災害対応力を底上げできる人材になれることが魅力です。
災害看護で役立つ資格や研修
災害看護に関わる方法は、手軽に登録できるものから高度な専門資格まで幅広くあります。 自分のキャリアステージや目標に合った選択肢を見つけましょう。
災害支援ナース
災害支援ナースとは、日本看護協会に登録し、災害発生時に被災地へ派遣される看護師のことで、2026年3月時点では1万1,472名が養成研修を修了しています。
登録には、厚生労働省医政局の災害支援ナース養成研修(オンデマンド約20時間+都道府県の集合研修約10時間)の修了が必要です。
東日本大震災や熊本地震でも多くの災害支援ナースが派遣され、現地の看護師の人員不足を補ったり、避難所でインフルエンザや感染性胃腸炎の感染拡大を予防したりしました。
研修の申込みは施設単位となるため、まずは看護師長に相談してみましょう。
DMAT研修
DMAT(災害派遣医療チーム)は、大規模災害や多数傷病者が発生した事故の際、発災直後(おおむね48時間以内)に活動を開始する急性期医療を担う専門チームです。
厚生労働省によると、DMAT隊員になるには、指定の医療機関に勤務していることが前提となり、看護師として5年以上の実務経験があることが望ましいとされています。所属施設の推薦を受けてDMAT隊員養成研修(約2日間)を修了することで参加できます。
関連記事:DMAT看護師になるには?仕事内容や必要な経験、向いている人の特徴を解説
災害専門看護師
災害看護専門看護師は、日本看護協会が認定する専門看護師の分野で、災害看護領域に特化した資格です。取得には、以下の要件を満たさなければなりません。
- 5年以上の看護実務経験(うち3年以上は専門分野)
- 看護系大学院修士課程の修了
- 認定審査の合格
日本看護協会の調査によると、2025年12月時点で49名が活躍しています。被災地での看護実践だけではなく、病院や地域での防災教育、後進の育成など幅広いフィールドで活躍できます。
関連記事:災害看護専門看護師とは?6つの役割と仕事内容、なり方をわかりやすく解説
災害看護に向いている看護師の特徴
災害看護に求められる特徴は、資質ではなく、訓練や経験を通じて身につけていけるものです。「自分には向いていないかも」と感じている方も、まず以下を読んでみてください。
- 冷静に判断できる
- 状況に応じて柔軟に対応できる
- チームで協調して動ける
- 相手の生活背景まで考えられる
- 不完全な環境でも主体的に動ける
今すべてが当てはまらなくても問題ありません。院内訓練への参加や資格取得を通じて、少しずつ育てていけます。
災害看護に関するよくある質問
災害看護に関心を持ち始めた方から寄せられることの多い質問に回答しました。
Q1:未経験でも災害看護に参加できますか?
はい、参加できます。
ただし、準備なしにいきなり被災地へ向かうことはおすすめできません。医療資源が限られ、情報も錯綜する中で、基礎的な知識やトリアージの手順を身につけていないまま現場に入ると、支援どころか現場の混乱を招く恐れがあります。
まずは院内の災害訓練への参加や、都道府県看護協会の養成研修の受講を通じて基礎を身につけることが大切です。
Q2:災害看護に役立つセミナーや本はありますか?
セミナーや研修としては以下がおすすめです。
- 日本災害看護学会の学術集会や研修会
- 各都道府県看護協会主催の災害看護セミナー
- 日本DMAT事務局によるDMAT研修
書籍としては、日本看護協会出版会から出されているものが参考になります。
Q3:訪問看護師も災害支援に関われますか?
はい、訪問看護師の役割は重要です。
在宅で人工呼吸器を使っている方や透析が必要な方は、災害時に支援を必要とします。訪問看護師は利用者さまの自宅環境や病状などを把握しているため、「どこに誰がいて、どんな支援が必要か」を誰よりも知っている存在です。
平時から利用者さまの緊急時対応計画の作成に関わることが、そのまま災害時の支援につながります。
災害看護は命だけでなく生活を支える看護
災害看護では、急性期に命を救い、亜急性期に健康を守り、慢性期に生活を取り戻す手助けをする役割を担います。すべての段階で、看護師は被災した人々の身近な専門職として寄り添います。
災害時に生活を支えるケアを実践するうえで、訪問看護の経験は強みになります。利用者さまの生活背景を把握し、地域のネットワークを築く訪問看護の仕事は、災害看護とつながっています。訪問看護への転職やキャリアチェンジを考えている方は、訪問看護に特化した求人サービスナスキャリ(NsPaceCareer)にご相談ください。
<参考サイト・文献>
土を知る / 意外と知らない日本の国土|国土技術研究センター
災害時こころのケア活動マニュアル – 広島県|広島県公式ホームページ
NsPace Careerナビ 編集部 「NsPace Career ナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「NsPace Career」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。
