看護師の残業が多いのはなぜ?減らすための方法を解説
看護師の仕事は多岐にわたり、残業が発生しやすい環境にあります。残業が長引くと心身に負担がかかり、離職意向につながる要因になります。
この記事では、看護師の残業の実態や多くなる主な要因、残業の多い・少ない職場、対応策を解説します。
より良いワークライフバランスを実現するために、ぜひ参考にしてください。
看護師の月平均残業時間は?データで見る実態
日本看護協会「2023年 病院看護実態調査」によると、看護師(正規雇用)の月平均残業時間は5.2時間で、1~4時間未満が最も多く30.4%を占めています。
一方、月20時間以上の残業をしている看護師は全体のわずか0.8%で、残業が長時間化するケースは少数派です。
具体的なデータは、以下のとおりです。
月平均残業時間 | 割合 |
0時間 | 4.7% |
0時間超~1時間未満 | 10.8% |
1~4時間未満 | 30.4% |
4~7時間未満 | 23.4% |
7~10時間未満 | 13.3% |
10~15時間未満 | 11.2% |
15~20時間未満 | 2.8% |
20時間以上 | 0.8% |
無回答、不明 | 2.6% |
「2019年 病院および有床診療所における看護実態調査」によると、1カ月の残業が20時間以上になると、看護師の仕事や生活の満足度が低下し、離職意向が高まる傾向がみられます。
一方、残業が5時間未満では、就業継続意向が高まる結果となりました。
看護師の残業が多くなる主な要因
看護師の残業が発生する要因には、以下のような要因があります。
2交代制や3交代制勤務の引き継ぎ
看護師は2交代制や3交代制といった勤務形態があり、引き継ぎにより残業が発生しやすい傾向があります。
勤務交代時には患者さまの状態や実施した医療行為、今後の対応などを正確に伝える必要があり、この過程がスムーズに進まない場合、想定以上に時間を要することも珍しくありません。
看護記録作成
看護記録の作成は、就業時間内に完了させることが望ましい業務です。しかし、業務量が多い場合、時間内に終わらず残業につながるケースがあります。
近年では電子カルテの普及により効率化が進む一方で、紙媒体での記録が必要な施設では、記録による残業が生じる可能性があります。
急変の対応
看護師は、急患の受け入れや患者さまの急変対応の役割を担っており、これが残業の大きな要因となっています。
病院側に以下のような体制が整っていない場合、看護師一人ひとりの負担が増え、残業が発生しやすくなります。
- 適切な人員配置
- 急変時対応のための教育訓練
- 急変時対応に必要な医療機器や設備の整備
- 情報共有を迅速化するシステムの構築
- 多職種連携しやすい環境
サポート体制が充実している病院では、業務をスムーズに引き継ぎ、残業を抑えられる場合もあるでしょう。
人手不足
厚生労働省のデータによると、2023年の看護師の有効求人倍率は2.31倍で、1人の看護師を複数の事業所が取り合っている状況です。
十分な人員が確保できていない場合、1人あたりの業務負担が増え、残業せざるを得ない状況が発生するでしょう。
研修や勉強会への参加
看護師は新しい医療技術や知識を学ぶために、研修や勉強会に参加する機会が多くあります。ただし、これらが勤務時間外に実施される場合、残業時間の増加につながります。
一部の病院では勤務時間内に参加を促す仕組みが導入され、負担軽減に努めていますが、
すべての職場で実現しているわけではありません。
看護師の残業が多い職場と少ない職場
看護師の残業時間は、病床規模や就業先の種類、診療科目によって大きく異なります。
ここでは、日本看護協会の調査データをもとに、残業が多い職場と少ない職場の特徴を解説します。
病床規模による残業時間の違い
日本看護協会による「2023年 病院看護実態調査」によると、病床規模が大きいほど看護師の月平均残業時間は長くなる傾向があります。
以下は、病床規模でみた看護師1人あたりの月平均の残業時間数の割合です。
病床規模 | 平均残業時間 |
99床以下 | 4.2時間 |
100~199床以下 | 4.8時間 |
200~299床以下 | 4.8時間 |
300~399床以下 | 6.2時間 |
400~499床以下 | 7.1時間 |
500床以上 | 8.7時間 |
このデータから、病床数が増えるほど患者数や業務量も多くなるため、自然と残業時間が長くなると考えられます。
就業先による残業時間の違い
「2021年 病院看護実態調査」では、フルタイムで働く正規雇用職員を対象とした平均残業時間が就業先ごとに公表されています。
就業先 | 平均残業時間 |
行政 | 34.1時間 |
看護系教育機関 | 27.7時間 |
病院 | 16.9時間 |
訪問看護ステーション | 16.7時間 |
介護施設 | 14.1時間 |
診療所 | 13.6時間 |
助産所 | 2.0時間 |
もっとも残業が多いのは「行政」で43.1時間、少ないのは「助産所」で2.0時間という結果でした。
この差は業務の性質や職場環境、必要な業務量に起因していると考えられます。
診療科目による違い
診療科目によって、残業の発生頻度は異なります。
たとえば、手術室や産科など、手術時間や分娩進行が予測しづらい診療科目では、フォロー体勢が整っていなければ残業が発生する可能性があるでしょう。
一方、透析室や外来などのように業務が時間通りに進む診療科目では、残業が少ない傾向があります。
看護師の残業を減らす方法
日本看護協会は、厚生労働省の働き方改革も踏まえ、看護師が働き続けられる環境を実現するための対策を提案しています。
その中で特に重要な取組みは、以下の通りです。
- 夜勤・交代制勤務者は時間外労働をなくす
- 可視化されていない時間外労働を把握し、必要な業務は所定労働時間に取り込む
時間外労働には、業務開始前の残業(前残業)、持ち帰り業務、勤務時間外での研修参加(業務時間外残業)などが含まれます。
こうした取り組みを積極的に導入している病院では、残業の発生を抑えられるでしょう。
参照元:日本看護協会|看護職の働き方改革、就業継続が可能な看護職の働き方の提案p.5
さらに、看護師自身が工夫できる方法もあります。
以下に、主な取り組みを解説します。
業務フローの改善
業務フローの改善は業務の効率化を図れるため、残業時間を削減できます。
具体的には、以下の方法が効果的です。
重複作業の洗い出しと削減
同じ内容を複数の書類に記入したり、複数人が同じ確認作業を行ったりしている場合、これらの作業を見直すことで、業務がシンプルになります。
マニュアルの整備
マニュアルを整備すると業務の質の均一化も図れ、作業をスムーズに進めやすくなります。新しいスタッフにも効率的な教育が可能となり、時間短縮につながるでしょう。
タスクの分担
適切なタスク分担は、看護師一人ひとりの負担を軽減し、業務効率の向上に繋がります。
主な看護業務には、患者さまへの投薬やバイタルチェック、食事介助、排泄介助、ご家族との面談、記録業務などが含まれます。
それぞれの業務にかかる時間や負担を把握し、看護師のスキルや経験に応じてタスクを分担すると、業務効率の向上につながるでしょう。
たとえば、経験豊富な看護師には複雑な医療処置や急変時の対応を、経験の浅い看護師には比較的負担の少ない業務や補助的なタスクを任せるといった工夫が効果的です。
さらに、状況に応じてタスクを柔軟に再分担すると、突発的な事態にも迅速かつ適切な対応できます。
時間管理の徹底
限られた時間内で効率的に働くためには、時間管理の徹底が不可欠です。
時間管理を徹底すると、質の高い看護を提供しつつ、看護師自身の負担も軽減できます。
具体的な方法は、以下のとおりです。
- 計画を立てる:勤務開始前には、その日の業務内容と必要な時間を予測し、大まかなスケジュールを立てる
- 集中して取り組む:複数のタスクを同時に進めようとせず、1つのタスクに集中して取り組む
- 定期的に計画を見直す:患者さまの容態変化や突発的な出来事に応じて、計画を柔軟に修正する
これらを実践することで、効率的な業務遂行と残業削減が可能になるでしょう。
業務の優先順位付け
限られた時間で効率的に働くためには、業務の優先順位付けが重要です。
緊急度(今すぐ対応が必要か)と重要度(患者の治療や状態に与える影響)を基準に業務を分類することで、効率的な対応が可能になります。
たとえば、急変対応や容態悪化している患者さまのケアは、緊急度も重要度も高いため最優先で対応しなければなりません。
一方で、定時の服薬や検温などのルーティン業務は、重要度は高いものの緊急度は低いため、計画的に行うことが可能です。
緊急度と重要度の両方を考慮すると、限られた時間で効率的に対応できるでしょう。
勤務形態の見直し
看護師の残業を減らすためには、勤務形態の見直しも有効な手段です。
柔軟で多様な働き方を取り入れると、個々の事情に合わせて働きやすくなり、残業時間の削減につながります。
具体的な方法は、変則シフトや短時間勤務の活用です。
従来の8時間勤務に加え、10~19時勤務のような変則的な時間帯のシフトも検討すると、勤務時間を分散化でき、特定の時間帯への業務集中を避けられます。
また、子育てや介護などの事情を抱える場合、短時間勤務制度を活用するのも一つの方法です。
残業時間の違いを活かした職場選び
看護師がライフワークバランスを重視する場合、就業先の特徴や診療科目の傾向を理解することが重要です。
残業が少ない職場を選ぶことで、心身の負担を軽減し、働きやすい環境を整えやすくなります。
たとえば、外来や透析室など時間が管理しやすい診療科目を選んだり、病床数が少ない病院を検討したりするのも有効です。
まとめ
2023年の調査では、正規雇用の看護師の月平均残業時間は5.2時間で、病床数が多い就業先ほど残業時間が長くなる傾向があります。
残業の主な要因は勤務形態や記録業務、突発的な対応、人手不足、研修などです。
残業は多いほど心身に負担がかかり、離職意向の高まりにつながりかねません。
そのため、就業先の残業への取り組み姿勢を、あらかじめ確認しておくことが大切です。
残業を減らすためには、業務フローの改善や時間管理の徹底、柔軟な勤務形態の導入が有効です。
自分に合った方法を取り入れ、働きやすい環境づくりを目指しましょう。
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