精神科訪問看護とは?対象の疾患や看護師の仕事内容、1日の流れや向いている人も解説!
国をあげて医療の在宅移行が進む中、精神疾患の方の医療も同様の流れを受けています。
精神科訪問看護(精神科訪問看護基本療養費)が該当する医療保険の訪問看護ステーションの件数は、2012年には5,974件だったのに対し2022年には13,866件と、10年で2倍以上の増加がみられており、実際のサービス実施状況からも需要の高まりが分かるのではないでしょうか。
今回は、需要が高まり続ける精神科訪問看護とは何か、対象の疾患や看護師の実際の1日の流れを踏まえた仕事内容、また精神科訪問看護に向いている人も解説します。
興味がある方はぜひ参考にしてください。
参照:厚生労働省「訪問看護」
精神科訪問看護とは?
そもそも「精神科訪問看護」と呼ばれるものは、どのようなものなのでしょうか。
厳密には「精神科訪問看護」というのは存在せず、下記を称する言葉として使われています。
・精神疾患の方へ提供される訪問看護
・精神科特化型の訪問看護ステーションで働く看護師
前者の場合は精神科特化型の訪問看護ステーションではなく、精神疾患以外の方への訪問看護も行いながら、精神疾患の方へ訪問も行っているケースです。
後者の場合は、精神疾患の方を中心として訪問看護を提供しています。
ここからは、精神疾患の方へ訪問看護を行う場合の対象者や、実際の需要の高まりの詳細のデータなど、精神科訪問看護についてさらに詳しくみていきましょう。
精神科訪問看護の対象者
訪問看護を利用する精神疾患の方は、主に下記の疾患の方が一般的です。
・統合失調症、妄想性障害
・気分障害
・発達障害
・不安障害
・アルコールや薬物使用障害
最も多いのが統合失調症で、次に多いのが気分障害の方です。
特に統合失調症の方は、内服や通院の継続が難しく治療が困難なケースが多いだけでなく、生活で困る場面に遭遇する方も多いため、治療の継続や生活のサポートなどの目的で訪問看護を導入するケースが多いのが特徴です。
気分障害の方は、うつ病や双極性障害、躁病を指す障害のことで、気分の変動によって日常生活に支障をきたします。
参照:厚生労働省「令和2年度 障害者総合福祉推進事業|精神科訪問看護に係る実態及び精神障害にも対応した地域包括ケアシステムにおける役割に関する調査研究報告書p35」
精神科特化訪問看護の需要の高まり
以前の資料とはなりますが、厚生労働省の資料から「精神及び行動の障害」という、いわゆる精神疾患の傷病分類があります。その中には、居宅で訪問看護を利用する方の人数が、2001年は6,728人なのに対し、2011年には20,546人とかなり増加していることがわかります。
精神科疾患を抱えながらご自宅で過ごし、訪問看護を利用する方の数が増加していることから、精神科訪問看護が提供できる、訪問看護ステーションの需要が高まっています。
参照:厚生労働省「傷病分類「精神及び行動の障害」の訪問看護基本療養費別利用者数の推移」
精神疾患の方への訪問看護の内容と主な仕事
ここでは精神科訪問看護のイメージを掴むためにも、精神疾患の方への訪問看護の内容と主な仕事について、1日のスケジュールを参考にあげながらそれぞれ解説していきます。
精神科特化型訪問看護ステーションでの1日のスケジュール
精神疾患の方への訪問看護では、基本的に1回の訪問を30分とすることが多いです。
ここでは1回の訪問を30分と想定した場合の、精神科特化型訪問看護ステーションでの1日のスケジュールを紹介していきます。
時間 | 業務 |
8:30 | 出勤・情報収集 |
8:45 | 朝のミーティングに参加しスケジュール共有・確認をする |
9:00〜 | 1件目の訪問先へ向かう |
9:30〜10:00 | 1件目の訪問 |
10:30〜11:00 | 2件目の訪問 |
11:30〜12:00 | 3件目の訪問 |
12:15〜13:15 | 昼休憩 |
14:00〜14:30 | 4件目の訪問 |
15:00〜15:30 | 5件目の訪問 |
16:00〜16:30 | 6件目の訪問 |
17:00〜 | 事務所に戻り記録をまとめる |
17:30 | 退勤 |
今回は例として、1件30分の訪問で、移動も30分としてスケジュールを立ててみました。
しかし、昼休憩は訪問看護ステーションによって異なり、決まった時間に事務所へ戻って食事を取るところもあれば、休憩が取れそうな時間で各自1時間ほど休憩をとるというところもあります。
また、身体的なケアも必要な方であれば、1時間の訪問を行う場合もありますし、遠方の訪問先であれば、移動に1時間ほど時間が設けられていることもあります。
そのため、基本的に1日あたり4〜6件の訪問が一般的と考えるのが良いでしょう。
精神科訪問看護の主な仕事内容
前述の1日のスケジュールだけでは、業務イメージがわかないという人もいるのではないでしょうか。
次に精神科訪問看護ステーションで行う、主な仕事内容について紹介していきます。
主な業務の例は下記のものです。
- バイタルサイン測定
- 服薬管理
- 生活や疾患、内服についてなど話を伺う
- 状況に応じて清潔ケアや、排泄ケアをおこなう
それぞれ詳しくみていきましょう。
バイタルサイン測定
病院と同じく体温や血圧、脈拍やSpO2などのバイタルサイン測定を行います。
精神疾患の方へのバイタルサイン測定は体調の確認だけが目的ではありません。
内服している薬の副作用で、バイタルサインに変化がないか確認します。
実際に、抗精神薬の併用によって頻脈がみられたという事例もあります。また、発熱の有無に関しては、悪性症候群という重大な副作用の早期発見にもつながる場合もあるかもしれません。
ただ記録欄に項目があるから測定するのではなく、測る意味を理解して測定していくのが大切です。
参照:統合失調症の身体合併症プロジェクト「抗精神薬多剤併用療法が統合失調症患者の安静時心拍数に与える影響」
服薬管理
前述のように統合失調症の方や、他の精神疾患の方は、治療の継続が難しいケースが多いです。その理由としては、病識が低く服薬コンプライアンスが悪い点が挙げられます。
そのため訪問看護では、お薬カレンダーを使って薬を管理する、薬の残数を数えて怠薬がないか確認するなどの服薬管理を行います。
また、OD(オーバードーズ)といって、大量に服薬してしまう方や指定された用量以上内服してしまう方もいるため、服薬管理は訪問看護師にとって非常に重要な仕事といえるでしょう。
生活や疾患、内服についてなど話を伺う
精神疾患の方への訪問看護では、身体的なケアより話を聞くことがメインとなります。
日々の生活での困り事や病気の調子、薬の副作用などさまざまな話を伺っていきます。
しかし、伺うといっても一問一答をするのではなく、詳しく利用者さまの思いや訴えを傾聴しながら調子を把握していくのが大切です。
後述の章で詳しく解説していきます。
状況に応じて清潔ケアや、排泄ケアをおこなう
うつ病の方や、統合失調症の方など、精神疾患の方の中にはうつ症状、幻聴や幻覚などの症状から、自分で髪や体を洗えないという方もいます。
そのような利用者さまの場合は、看護師がサポートして、利用者さまの洗髪やシャワー浴を行うケースもあります。
また、薬の副作用や活動性の低下による便秘などで、排泄ケアが必要なこともあります。
このようなケアをする場合は、1時間や1時間半ほどの訪問となることもあるでしょう。清潔ケアや排泄ケアの他にも、歩行訓練や近所の散歩(外出の練習)などのケアが入る場合は、1時間や1時間半ほどの訪問となる場合があります。
精神科訪問看護での利用者さまとの関わり方のコツ
前述の「生活や疾患、内服についてなど話を伺う」の章でもあったように、精神疾患の方との関わりでは、対話を通した関わりが重要となってきます。
訪問看護師は、さまざまな対話を通して情報を収集したり、利用者さまの状態を理解したりする必要があります。
しかし、どのように関わっていけば良いのかわからないという人も多いでしょう。
ここでは段落ごとに関わり方のコツを紹介していきます。
焦らずに待つ時間を作る
利用者さまと関わる中で緊張してしまったり、なかなか口を開かない利用者さまを相手に無言の時間を埋めようと、ついつい話しすぎてしまったりする訪問看護師の方もいます。
しかし、たくさん話をされることで、利用者様からすると問い詰められているような気持ちになったり、過去に怒られた経験を思い出して恐怖を感じてしまうもあります。
訪問看護師が無言の時間を気まずいと感じても、その時間は利用者さまからすると気まずいとは感じておらず、むしろ会話の返答をゆっくり考える時間かもしれません。
また無言の時間が必ず気まずいというわけではなく、無言で寄り添ってもらえることに安心感を感じている方もいるため、焦らずに回答を待つようにするのが良いでしょう。
もし利用者さまが気まずいと感じていたり、話しにくいと感じていたりするようであれば、該当の訪問看護師にどのように関わってもらえると話しやすいか、他の看訪問護師などと話をしてもらうのも良いでしょう。
利用者さまそれぞれに、コミュニケーションの得意不得意などの特性があるため、把握して関わっていく必要があります。
相手の発言を尊重する
統合失調症や妄想性障害のような幻聴や幻覚、妄想のある利用者さまだと、話の中で現実的ではない話をしたり、訪問看護師側には見えていない幻聴や幻覚の話をしたりする場合があります。
その際に、興味がなさそうにしたり、幻聴や幻覚だと簡単に片付けてしまったりしないようにしましょう。
幻聴や幻覚についての話を聞く中で、幻聴の内容がどんどんと強くなっている、自傷や他害を促すような内容になっている、「声の相手は前の職場の上司だ」などキーワードとなる大切な話が出てくることもあります。
現実味のない話であっても、相手の発言を尊重して否定せずに真剣に聞くようにしましょう。
対話の中で相手の観察も忘れずに
相手のペースに飲まれて話を聞いているうちに、いつの間にか訪問時間がすぎてしまって、思うように情報が聞き取れなかったという日もあるでしょう。
しかし、大事なのは話の内容だけではありません。相手の目線や仕草、話すトーンやスピードなども重要な観察ポイントです。いわゆる非言語コミュニケーションも大切にしていかなければならないと認識しておきましょう。
もし、利用者さまから一方的に話をされてしまって、内服の有無や通院状況など必要な話が聞けなかったのであれば、その状況も記録に残しておくと良いでしょう。気分が高揚しており精神状態の悪化の予兆かもしれませんし、強い妄想や幻聴から不安が強く話が止まらなかったのかもしれません。これらの情報は、重要なアセスメントのポイントとなります。
精神疾患の方の訪問看護における看護師の役割
前述の仕事内容を踏まえて、精神疾患の方の訪問看護における看護師の役割を大きく3つ解説していきます。
①体調管理
精神疾患のある利用者さまの中には、自分で体調不良について訴えるのが難しかったり、言語化することが苦手だったりする方もいます。
また、中には糖尿病や心疾患など、他の疾患も抱えているというケースもあります。精神科の訪問看護であっても、精神だけでなく身体面の看護も必要です。精神疾患を要因として、体調の自己管理がうまくできない方を支えるという役割がある点も、認識しておく必要があるでしょう。
②病状の悪化を防ぐ
体の調子だけではなく精神の症状の調子も、体調と同様に言語化できない方が多いです。
とはいえ、精神状態が悪化して再入院するのを防ぐことも訪問看護師の重要な役目です。訪問看護師の介入によって、悪化の兆候に気づいていく必要があります。
まずは、自分自身で悪化の兆候はどのようなものがあるのか把握しているか確認し、自覚がある方については訪問看護師にも教えていただきます。悪化の兆候はさまざまですが、幻聴や幻覚が増える、不眠などが一例です。
一方で、自分の症状悪化の兆候がわからないという方もいます。その場合は、入院時のサマリーや主治医の話から情報を得たり、ケースワーカーやご家族などから情報を聞いたりしながら、利用者さまと一緒に悪化の兆候を見つけていきます。
またその過程で、主治医とも状況を共有しながら悪化を防いでいく必要があります。薬の変更や心理療法の導入の必要性など、適宜主治医へ報告・相談していくようにしましょう。
③多職種連携など地域との連携
悪化を防ぐという過程でも記載したように、ケースワーカーや、入院していた病院の看護師、同病院の地域連携室のスタッフや指示書を発行している主治医など、さまざまな専門家が利用者さまの支援に関わっています。
その中で、利用者さまの身近で最新の情報を拾いやすい立場にいるのが訪問看護師です。
訪問看護師は、利用者さまの調子について、多職種と共有し、必要に応じて今後の対応について話し合うなど多職種との連携が欠かせない大切な役割を担っています。
精神科訪問看護ステーションで働くのに向いている人とは?
精神科訪問看護ステーションで働くのに向いている人とは、どのような人なのでしょうか。
ここでは向いている人について、それぞれ特徴を解説していきます。ただ、ここで紹介している、向いている人に当てはまっていなくても、働いていく中で適性が生まれたり、学んでいったりするケースもあります。
転職に興味がある方は、あくまでも参考としてご覧ください。
好奇心旺盛な人
精神疾患の方に起こる、些細な精神状態や環境の変化(部屋が前回より散らかっている、身だしなみが徐々に乱れていっている)などは、悪化の兆候といえる部分でもあり、看護師が気づいていかなければならない点です。
そういった些細な変化に注目していける好奇心旺盛な看護師の方は、精神科訪問看護ステーションで活躍しやすいかもしれません。
ただし、気になることをなんでも聞けば良いという訳ではありません。好奇心だけでなく、適度に謙虚な心も持っている必要があります。
礼節を弁えて関わっていく必要があることは念頭に入れなければならないでしょう。
積極的に行動を起こせる人
利用者さまと関わる中で、社会復帰のために多職種と連携を取る必要がある、主治医へ変薬の提案をした方が良いかもしれない、など考える場面もあるのではないでしょうか。
その際に、積極的に自分から連携を取ろうと行動を起こせる責任感のある人は向いているといえます。
病院以上に、訪問看護ステーションでは、主体性を持った看護実践や関わりが重要視されるのが特徴です。
とはいえ、最初から完璧に行動できていなくても問題ありません。まずは気になったことがあって行動を起こしたいと思ったら、先輩や他のスタッフなど周囲へ相談をすることが大切です。
コミュニケーションを取ることが好きな人
さまざまな疾患の利用者さまや、そのご家族とのコミュニケーションが欠かせないのはもちろん、多職種連携の中でコミュニケーションを取る場面も多いです。
多職種連携やチーム医療という関わりの中でも、コミュニケーションは非常に重要です。相手によって、適切な言葉遣いや態度でコミュニケーションをとっていく必要があります。さまざまな人と関わったり、コミュニケーションを取ったりするのが楽しいし、好きという人には向いている仕事といえるでしょう。
感情を切り替えられる人
精神疾患の方と関わる中で自分自身も影響を受けて、気づいたら気分が落ち込んでいたり、辛くなっていたりするという訪問看護師の方も少なくありません。
繊細な方は、周囲の感情に気づきやすくその感情に影響を受けやすいため、働いていると自分自身も辛くなってしまいます。
ただし、周囲の環境に鈍感であれば良いという訳ではなく、相手の繊細な感情の変化に気づけるという視点は重要です。
相手の繊細な感情にも気づきつつ、自分自身の感情も大切にして、仕事とプライベートで感情を切り替えられる人に向いているといえる仕事です。
精神科特化の訪問看護ステーションで働きたい人が気になる!Q&A
最後に精神科特化型訪問看護ステーションで働きたいという人が、気になる給料や労働環境について、Q&A形式で回答していきます。
周囲に聞きたくても聞きづらい点だと思いますので、ぜひ参考に検討してみてください。
Q.精神科訪問看護は他の訪問看護と比べると給料は良い?
精神科特化型の訪問看護ステーションの給料は、他の訪問看護と比べて大きく異なるわけではありません。
給料は300〜600万円程度と幅広く、インセンティブ制度やオンコールなどの制度による違いや、地域による給与差などから一概に精神科訪問看護だから給料が良いとはいえないのが実態です。
むしろ夜間のオンコール対応そのものが存在しない精神科特化型訪問看護ステーションもあるため、オンコールの手当がないことを考えると、通常の訪問看護ステーションの方が給料は良くなるケースもあります。
ただし基本給が高く、オンコールなしでもオンコールのある訪問看護ステーションと同等の給料がもらえているところもあるため、待遇などと合わせて求人を比較することが大切です。
Q.精神科特化型訪問看護ステーションの労働環境はどう?働きやすい?
精神科特化型訪問看護ステーションは、前述のスケジュールからもわかるように1日4〜6件程度訪問に行くことが一般的です。
精神科特化型訪問看護ステーションは、身体をメインとしている通常の訪問看護ステーションと比較し、1日の訪問件数が若干多い場合があります。その場合は、体力的に「きつい」と感じる方もいるかもしれません。スケジュールが厳しい、体力的にきついと感じたら管理者に相談するなどして、自分にとっての働きやすい訪問件数を掴んでいくと、徐々に働きやすくなっていくのではないでしょうか。
精神科訪問看護のきつさについては以下の記事でも解説していますので、参考にしてみてください。
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精神科訪問看護は注目されている業界!在宅で過ごす精神疾患の方を支えられる看護師になろう
ここまで精神科訪問看護とは何か、対象の疾患や実際の1日のスケジュールと主な仕事内容、また向いている人や気になる給料や労働環境についても紹介しました。
精神科訪問看護は、需要の高まりからも注目されている業界です。
なかには、精神疾患の方を専門にケアする、精神科特化型訪問看護ステーションもあります。
地域で暮らす、精神疾患の方を支えられる看護師になるためにも、ぜひ転職を検討してみてはいかがでしょうか。
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