診療看護師とは?できること4つや給料、難易度を詳しく解説
「診療看護師ってどういう資格なの?」「診療看護師になってできるようになることを知りたい!」
看護師として活躍するなかで「診療看護師(NP:Nurse Practitioner)」という資格を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。
診療看護師は医師の指示をもとに、定められた範囲までの診療行為ができるため、近年の医療現場で重要な役割を果たすと期待されています。
この記事では、診療看護師の概要やできること、給料などについて詳しく解説します。診療看護師に興味がある方のほかに、看護師としてスキルアップや収入アップを目指す方は、ぜひ参考にしてください。
診療看護師とは
まずは、診療看護師の概要について次の3つのポイントにわけて解説します。
- 診療看護師の役割
- 診療看護師の人数
- 診療看護師の給料
それぞれをみて、診療看護師について詳しく知っておきましょう。
診療看護師の役割
診療看護師とは「日本NP教育大学院協議会が認定する資格をもつ看護師」です。
この資格を持つ看護師は、医師と連携しながら一定レベルの診療をおこない、患者さまの生活の質が向上できることを目指します。
診療看護師は次の3つの領域にわかれます。
- プライマリケア(成人・老年)
- プライマリケア(小児)
- クリティカルケア
また、診療看護師の方の具体的な役割には次のようなものがあります。
- 医師の指示による特定行為(厚生労働省が認める21区分38行為)
- 医師の指示による相対的な医行為(腹腔穿刺・気管挿管・中心静脈カテーテル挿入など)
- 治療やケアのプランの立案
- 看護師と医師との連携
- 一般の看護師の教育や人材育成
「一定レベルの診療をおこなえるかどうか」が、診療看護師と一般の看護師との違いです。
診療看護師の方は、患者さまの状態を評価し、診断や治療方針の立案をサポートすることも担います。
さらに、特定行為ができる看護師について詳しく知りたい方は、下記の記事を参考にしてください。
関連記事:特定行為ができる看護師とは?4つのメリットや課題を詳しく解説
診療看護師の人数
日本NP教育大学院協議会「NP資格認定者」によると、診療看護師の資格認定者数は872人(2024年4月1日時点)です。
その内訳は、次のとおりです。
- プライマリケア(成人・老年):187人
- プライマリケア(小児):10人
- クリティカルケア:675人
診療看護師は高度な医療知識とスキルを持ち、医師と協働して診療にあたるため、その役割の重要性がますます高まっています。
ただし、診療看護師の資格を取得するためには決まった教育プログラムを修了し、認定試験をパスする必要があるため、養成数は限られているのが現状です。
近年、医療現場で診療看護師の需要が増加していることから、今後は資格認定者数の増加が予想されます。
診療看護師の給料
診療看護師の方の給料は「一般の看護師の年収+資格手当」です。
厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、一般の看護師の年収は508万1,300円です。
資格手当は勤めている医療機関によって異なるため、その額によって年収は変わります。診療看護師の詳しい給料事情については下記の記事で詳しく解説しているため、参考にしてください。
関連記事:診療看護師の年収はいくら?働きながら大学院に通う方法を紹介
診療看護師は何ができるの
次に、診療看護師の資格を取得した後は「どのようなケアができるのか」「どういった業務を実施できるようになるのか」などについて解説します。
- 診察や手術の介助などの相対的な医行為をおこなう
- 各種プランを作成する
- 医師と看護師の連携を強める
- 一般の看護師の教育
診療看護師を目指すときの参考になれば幸いです。
診察や手術の介助などの相対的な医行為をおこなう
医師が本来おこなう医行為を医師の指示のもとで診療看護師の方が代行することが可能です。
具体的には、次のようなことができます。
- 診察
- 手術の介助
- 処置(腹腔穿刺・気管挿管・中心静脈カテーテル挿入・胸腔ドレーン挿入)
- 薬剤の処方
- 検査の指示
診療看護師の方は医師がおこなうべき診療業務の一部を実施できるため、医療現場の効率の向上に貢献できます。
各種プランを作成する
診療看護師の方は、患者さまの個別ニーズにもとづいて治療計画やケアプランの作成を担当します。
具体的には、クリニカルパスやリハビリテーションのプランなどの作成や見直しに携わります。
また、ほかの医療スタッフとの連携を図り、プランの実行をスムーズに進めることも重要な役割です。これにより、患者さまの健康管理において中心的な役割を果たしています。
医師と看護師の連携を強める
診療看護師の方は、医師と看護師の橋渡し役として、チーム医療の強化に貢献します。
実際に、現場の看護師の方からは「診療看護師がいてくれるから声をかけやすい」「指示を待つ時間がなくなり、スムーズに動けるから安心できる」といった声があります。
また、手術や検査が多い病棟では、看護師の方が指示を仰ぎたいときに医師が不在という状況も発生しがちです。
しかし、診療看護師の方はいれば、医師の指示のもとですぐに対応できるため、患者さまは素早くケアを受けられます。
看護師の方の待ち時間も短縮され、業務の効率がアップします。
一般の看護師の教育
診療看護師の方は、一般の看護師の方に対する教育や指導も重要な役割です。
たとえば、院内で研修や勉強会を開いて患者さまのケアに関する最新の知識を共有したり、実践に活用できるスキルを指導したりします。
これは「現場の事情をわかってくれているから今から使えそう」「今までの疑問が解決できた」など現場の状況に沿った内容であるため、一般の看護師の方から好評です。
また、医療現場でのトラブルシューティングや判断力向上のためのトレーニングも担当する機会も多く、その役割は多岐にわたります。
このように、診療看護師の方は看護師の方のキャリア開発を支援して、個々のスキルアップを促進することで、医療現場の質の向上にも大きく貢献しています。
診療看護師の1日のスケジュール
ここでは、診療看護師の方のスケジュールを紹介します。
時間 | スケジュール |
8:00 | ・業務開始 ・診療科のカンファレンスに参加して治療方針やケアの方向性を確認 |
9:00 | 外来診療で初診や問診を実施 |
10:30 | 集中治療室や心臓血管外科など急性期病棟の患者さんをラウンド |
12:00 | 休憩 |
13:00 | 午後開始の手術の介助 |
15:00 | ・午前と同じように病棟をラウンド ・病棟から連絡があれば、内科の病棟にもラウンドする場合もある |
16:30 | 当直医師や夜勤の看護師に申し送り |
17:00 | 業務修了 |
上記のスケジュールは、あくまでも参考例であり働く場所によって1日の流れはかわります。
診療科のカンファレンスに参加したり、病棟をラウンドしたりなど看護師よりも医師に近いスケジュールになっているケースもみられます。
日本NP教育大学院協議会の調査によると、診療看護師の勤務形態は次のとおりです。
- 「日勤のみの勤務形態」:57.4%
- 「日勤と必要に応じて当直」:14.8%
- 「日勤と夜間オンコールあり」:12.7%
看護師の方の一般的な勤務形態である2交代制・3交代制で働く診療看護師は合わせて10.1%(2交代制:8.4%、3交代制:1.7%)に留まっています。
したがって、診療看護師の方の勤務形態は日勤がメインであり、オンコールや当直などをともなうことが多く医師と同じような働き方をしているといえるでしょう。
診療看護師になるには
診療看護師になるためには、指定の大学院で学んだ後に認定試験に合格しなければなりません。ここでは、資格を得るまでの一般的な流れを説明します。
- 実務経験を積む
- 指定の教育課程がある大学院で修士の学位を取る
- 認定試験に合格する
- 資格を取得して5年ごとに審査を受ける
診療看護師に興味があるものの、制度や仕組みが難しく感じている看護師の方も多いでしょう。ひとつずつ解説します。
1.実務経験を積んで大学院を終了する
診療看護師になるためには、まず看護師として5年以上の実務経験を積むことが求められます。
その後、診療看護師の資格取得を目指して、指定された大学院に進学し、専門的な知識とスキルを学びます。大学院を修了することで、資格試験の受験資格が得られます。
3:2. 診療看護師のための教育課程がある大学院で修士の学位を取る
大学院に入学して診察診断学や薬理学、疾病病態論など講義や演習で43単位を取得したり研究の審査で合格したりして修士の学位を得ます。
指定の教育課程がある会員校は、次の18大学院です。
・北海道医療大学大学院 ・国立大学法人 秋田大学大学院 ・東北文化学園大学大学院 ・国立大学法人 山形大学大学院 ・東京医療保健大学大学院:国立病院機構キャンパス ・国際医療福祉大学大学院 ・佐久大学大学院 ・藤田医科大学大学院 ・愛知医科大学大学院 ・公立大学法人 島根県立大学大学院 ・公立大学法人 大分県立看護科学大学大学院 ・国立大学法人 富山大学大学院 ・森ノ宮医療大学大学院 ・東京医療保健大学大学院:五反田キャンパス ・令和健康科学大学 ・国立大学法人 大阪大学大学院 ・聖隷クリストファー大学大学院 ・公立大学法人 名古屋市立大学大学院 |
参考:会員校紹介|日本NP教育大学院協議会(2024年4月1日現在)
会員校は増加傾向であり、診療看護師の需要の高まりにともない、今後さらに増えていくでしょう。
診療看護師の認定試験に合格する
診療看護師になるためには「NP資格認定試験」に合格しなければなりません。
「プライマリケア(成人・老年)」「プライマリケア(小児)」「クリティカルケア」の3領域から、自分が取得したい領域を選んで受験します。
例年は2月頃に、修了した大学院で受験の申込みをおこない、3月初旬に試験が実施されます。合格発表は、試験の1週間前後でおこなわれることが一般的です。
認定試験に合格したうえで認定されると、診療看護師として働くことができます。
診療看護師の資格を取得して5年ごとに審査がある
診療看護師としての資格を取得した後も、資格を持ち続けるためには5年ごとに審査を受けなければなりません。
この審査は、専門的な知識や実務スキルが最新の医療基準に合致しているかを確認するために実施されます
たとえば、2024年におこなわれた審査では次の2つの実績が求められました。
- 臨地(教育現場を含む)での実践:2,000時間以上
- 診療看護師としての社会的な活動の実績:50点以上
資格を維持するためには、継続的に活動しながらスキルをアップデートして、最新の医療知識やスキルを習得することが重要です。
このプロセスによって診療看護師としての信頼性を維持し、医療現場での役割を効果的に果たせるでしょう。
診療看護師の難易度
診療看護師の認定試験の合格率は非公表となっていますが、難易度は高いといえます。
看護師として5年以上の臨床経験が不可欠であり、指定の大学院で2年間学ばなければならないからです。
大学院では、看護学にくわえて医学や特定行為についても学ぶため、プログラムが非常に厳しく学業を続けていくのが困難な場合もあります。
このように、資格を取得するには高い学力と努力、そして強い意思が不可欠です。その分、専門職としての責任は大きく、やりがいも感じやすいです。
診療看護師になるメリット
ここでは、診療看護師になるメリットを解説します。
- 手当がつき給料が高くなる
- チーム医療のなかで活躍できる
- キャリアアップしやすくなる
- 医師が不在でも診療機能を維持できる
それぞれを詳しくみていきましょう。
手当がつき給料が高くなる
診療看護師の資格を取得すると給与アップが期待できます。
というのも、ほとんどの医療機関で、診療看護師の方には特別手当が支給されることが多いためです。その結果、年収が向上することがあります。
日本NP教育大学院協議会の調査によると、基本給にくわえて資格手当が支給されると回答した割合は63.3%でした。
また、診療看護師の方の役割が医療現場で重要視されるため、より責任のあるポジションを任されることもあり、これにともなう手当や昇進の機会も増えます。
高い専門性を持ち働き続けることで、安定した収入と職業的な満足感を得られることがメリットのひとつです。
チーム医療のなかで活躍できる
診療看護師の方は、チーム医療の重要な一員として活躍できます。
医師やほかの医療スタッフと密に連携して、患者さまの診療やケアを統括する役割を担うからです。
具体的には、診断や治療計画の立案において医師をサポートしたり、医師が不在の際に指示を代行したりします。
この役割によって、患者さまに対するケアの質が向上し、医療チーム全体の効率も改善されます。
さらに、診療看護師に役割が果たされることで、医師の負担軽減にもつながり、医療現場の運営がスムーズになるでしょう。
キャリアアップしやすくなる
診療看護師になることで、キャリアアップの機会が広がります。
診療看護師の方は専門的なスキルを備えており、患者さまの管理において重要な役割を果たしているからです。
この専門性により、医療機関内での昇進のチャンスが増えるだけでなく、ほかの医療関連の職種や教育・研究分野でのキャリアパスも開かれる可能性がありま。
資格を取得することで、医療チームのリーダーシップを発揮し、専門領域での知識を深められるため、職業的な信頼性も向上します。
こうしたスキルと経験は、職場での高い評価につながり、長期的なキャリア形成に期待できます。
医師が不在でも診療機能を維持できる
診療看護師は、医師が不在の際でも医療機能を維持する重要な役割を果たします。
これにより、医師が不在の時間帯でも患者さまへの継続的なケアが可能です。特に、急な医療ニーズが発生する環境では、診療看護師が主導で対応できるため、診療体制が安定し、医療サービスの質が向上します。
これにより、医療機関の運営がスムーズに進み、患者さまの安心感を高められます。
診療看護師になるデメリット
診療看護師になるメリットがある一方で、デメリットもあります。
- 資格取得までに時間と費用がかかる
- 医師との連携を負担に感じる
それぞれのデメリットを知っておき、診療看護師の資格を取得した後に後悔しないようにしましょう。
資格取得までに時間と費用がかかる
診療看護師の資格取得には、相応の時間と費用がかかることがデメリットです。
通常、資格取得には大学院での学習が必要であり、これには約2年の時間を要します。また、学費や受験料、教材費などの経済的な負担も大きいです。
さらに、指定の教育課程があるのは18の大学院のみであり、居住地の近くに大学院がない場合は家賃や食費、交通費といった費用もかかります。
臨床での実習も含まれるため、大学院に通うためには一時的に休職したり退職したりしければならない場合もあり、大きな負担となります。
資格を取得した後は高い専門性を発揮しなければならないため、その価値を見出すには計画的な準備と十分な努力が必要です。
医師との連携を負担に感じる
診療看護師には医師との密接な連携が求められますが、これが負担に感じることもあります。
医師と協力して診療計画を立て、治療方針を決定する責任がありますが、そのコミュニケーションが頻繁で複雑になることがあります。
この連携がストレスとなり、特に経験が浅い場合や忙しい現場では負担が大きく感じられるかもしれません。
医師との意見調整や情報共有は重要ですが、これにともなう時間的・精神的な負担は、診療看護師を目指す看護師の方にとって考慮すべきポイントです。
しかし、この負担を乗り越えることで、より専門的なケアを提供できるようになることもまた、診療看護師としてのメリットです。
診療看護師と認定看護師や専門看護師との違い
ここでは、診療看護師と「認定看護師」「専門看護師」の違いを紹介します。
診療看護師と認定看護師の違い
診療看護師の方は、医療行為に関して高度なスキルを要求され、大学院での学びが必要です。
一方、認定看護師の方は、特定の専門分野での実務経験と研修を経て専門的な知識を持ちますが、医療行為の範囲は診療看護師ほど広くありません。
認定看護師の方は、がん看護や緩和ケアなどの特定分野に特化し、その分野での専門性を活かしたケアを提供します。認定看護師の資格取得には、専門領域に特化した研修や試験が求められます。
どちらも看護師としての専門性を高める資格ですが、資格取得までのプロセスや医療行為の範囲、特化する領域には違いがあります。
関連記事:認定看護師になるには?条件や取得までの流れ、資格取得によるメリットも解説
診療看護師と専門看護師の違い
診療看護師の方は、医療行為を含む高度な診療支援をおこない、診療の補助や患者教育、診断支援など幅広い業務を担当します。
一方、専門看護師の方は、特定の看護分野での高度な知識とスキルを持ち、臨床において専門性を発揮します。
専門看護師の方は、がん看護や緩和ケア、慢性疾患看護など特定の領域に特化し、その領域での看護の質を向上させることに焦点を当てています。
医療行為の範囲は診療看護師の方よりも狭く、おもに看護の質向上に取り組みます。
両者は異なるアプローチで看護の質を向上させていますが、役割と専門性において明確な違いがあります。
診療看護師の方は広範な医療支援を、専門看護師の方は特定分野での専門的なケアを提供します。
関連記事:専門看護師とは?専門分野14個の種類や認定看護師との違いを解説!
まとめ
診療看護師の方は、医師の指示のもとで診療行為を実施できる資格であり、医療現場で重要な役割を果たしています。
資格取得には、看護師としての実務経験を経て、指定の大学院で学び、認定試験に合格する必要があります。
診療看護師の方は診療行為や治療計画の立案、医師との連携、一般看護師の教育を担当します。給与は、一般の看護師の方より高くなる傾向があります。
今後の医療現場での需要が増加するなかで、診療看護師の役割と重要性も高まるでしょう。
特に、救急医療や在宅医療の現場では診療看護師のニーズが高まっています。
社会的貢献度の高い診療看護師、挑戦してみてはいかがでしょうか。
参考サイト・文献
「NsPace Career ナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「NsPace Career」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。