夜勤は看護師の寿命を縮める?健康的に生活する7つのコツとキャリアの選択肢

「夜勤は体に負担がかかる」「夜勤を続けると健康に影響が出るかもしれない」
こうした声を、看護師として働くなかで耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
夜勤には、高収入やスキルの習得といったメリットがある一方で、生活リズムが乱れやすく、健康への影響が気になる働き方でもあります。
この記事では、夜勤が体調や健康にどのような影響を与える可能性があるのかを整理し、健康的に働き続けるための工夫や、ライフスタイルに合わせたキャリアの選択肢をご紹介します。夜勤と上手に付き合いながら、長く活躍するためのヒントとしてご活用ください。
夜勤と看護師の寿命は関係がある?短くなるといわれる理由
夜勤が看護師の健康や寿命に影響を与えるといわれる理由は、体内時計の乱れが引き起こすさまざまな不調にあります。
- 体内時計の乱れによる自律神経への影響
- ホルモンバランスの乱れ
- 生活習慣病を発症するリスク
- 発がんリスク
- 慢性的なストレスとメンタルヘルス
夜勤は、人間の生理機能に逆らう働き方であるため、長期的に健康リスクを高める可能性があります。
体内時計の乱れによる自律神経への影響
夜勤によって体内時計(サーカディアンリズム)が乱れると、自律神経系の機能に影響を及ぼし、全身の恒常性(ホメオスタシス)の維持が難しくなることがあります。これは、心身の健康や生活の質にとって大きなリスクとなります。
人間の体内には、約24時間周期のリズムを刻む「概日リズム」が存在し、これは視交叉上核(脳の視床下部に位置する領域)を中心とした神経ネットワークによって制御されています。自律神経系—すなわち交感神経と副交感神経のバランス—は、この概日リズムの影響を強く受けており、生活リズムが乱れることで機能不全を起こしやすくなります。
夜勤で昼夜が逆転する生活が続くと、交感神経が優位になりやすく、副交感神経による回復や休息の働きが抑制され、以下のような症状が生じることがあります。
・入眠困難や中途覚醒といった睡眠障害
・慢性的な倦怠感や集中力の低下
・胃腸の不調(便秘・下痢・食欲不振など)
・抑うつ気分や不安感の増加
こうした影響が蓄積されると、慢性的な体調不良につながり、結果的に健康寿命を短縮する一因となる可能性があります。
ホルモンバランスの乱れ
夜勤によって光環境や生活時間帯が通常とは異なる状態になると、ホルモン分泌のリズムにも大きな影響が及びます。特に、睡眠と深く関係する「メラトニン」の分泌が抑制されることが問題視されています。
メラトニンは、脳の松果体から分泌されるホルモンで、暗い環境下でその分泌量が増加し、自然な眠気を誘導すると同時に、抗酸化作用や免疫機能の調整、細胞修復などにも関与しています。しかし、夜勤中の明るい照明環境はこのメラトニンの分泌を妨げ、以下のような健康リスクを高めることが知られています。
・睡眠の質の低下(熟眠感の欠如・中途覚醒の増加)
・疲労の回復が遅れ、慢性疲労につながる
・免疫力の低下や感染症への抵抗力の低下
・長期的には生活習慣病やがんリスクの上昇との関連も指摘
これらが原因で、夜勤を終えて朝方から睡眠をとる際になかなか寝つけず、寝ていても何回も途中で目が覚めてしまうのです。また、しっかりと疲労回復しないため、身体は病気になりやすい状態に置かれます。
生活習慣病を発症するリスク
夜勤を含む交代制勤務は、生活リズムの恒常的な乱れを招きやすく、長期的には生活習慣病の発症リスクを高める要因となり得ます。特に、心筋梗塞や脳卒中といった動脈硬化性疾患との関連が指摘されています。
不規則な勤務形態により、食事時間や睡眠時間が一定しなくなると、糖代謝や脂質代謝を調整する内分泌系の働きに影響が及びます。体内時計の乱れは、インスリン感受性の低下や血圧の日内変動異常を引き起こしやすく、血糖値や血圧のコントロールを困難にすることが知られています。
実際の夜勤業務では、短時間で摂取できる高糖質・高脂質の食品に偏りやすく、エネルギー過多や栄養バランスの崩れが生じがちです。加えて、夜勤明けの強い疲労感により身体活動量が低下し、慢性的な運動不足に陥るケースも少なくありません。
このように、食事内容の偏り、身体活動量の低下、自律神経系およびホルモン分泌リズムの変調といった複数の因子が相互に影響し合うことで、夜勤を継続する看護師は、糖尿病、高血圧症、脂質異常症などの生活習慣病を発症するリスクが高まる可能性があります。臨床現場で自身の健康管理を行ううえでも、これらの背景を理解しておくことが重要です。
発がんリスク
夜間勤務を含む交代制勤務については、国際的な研究機関により、発がんリスクとの関連性が示唆されています。ただし、これは「夜勤を行うことで必ずがんを発症する」という意味ではなく、一定の条件下でリスクが高まる可能性を示した評価です。
実際に、世界保健機関(WHO)の下部組織である国際がん研究機関(IARC)は、体内時計の乱れを伴う交代制勤務を「グループ2A(ヒトに対して発がん性がある可能性が高い)」に分類しています。この分類は、疫学研究や動物実験などから得られた証拠を総合的に評価したものであり、「発がん性が疑われる要因」であることを示しています。
夜勤による長時間の人工照明への曝露は、睡眠・覚醒リズムを司るメラトニンの分泌を抑制すると考えられています。メラトニンは、概日リズムの調整に加え、抗酸化作用や細胞増殖の制御、免疫機能の調節にも関与しており、その分泌低下が長期的に健康へ影響を及ぼす可能性が指摘されています。
このように、夜勤や交代制勤務は、体内時計やホルモン分泌を介して、がんリスクに影響を与える可能性がある要因の一つと位置づけられており、勤務形態や生活習慣を含めた総合的な健康管理が重要とされています。
慢性的なストレスとメンタルヘルス
夜勤を含む交代制勤務は、身体的負荷に加えて心理的ストレスが蓄積しやすく、メンタルヘルス不調のリスクを高める可能性がある勤務形態とされています。これらの影響は、長期的には健康寿命や生活の質(QOL)にも関与します。
夜勤帯は日勤と比較して配置人員が少ない中で、急変リスクの高い患者を担当することが多く、迅速かつ的確な判断が求められます。そのため、緊張状態が持続しやすく、精神的な負担が大きくなりがちです。特に三交代制勤務では、日勤・準夜勤・深夜勤と勤務時間帯が頻繁に変化することで、睡眠・覚醒リズムが安定せず、心理的ストレスの要因となります。
こうした状態が慢性化すると、ストレス反応が持続し、抑うつ症状や不安症状を呈するリスクが高まることが報告されています。また、慢性的な心理的ストレスは視床下部—下垂体—副腎皮質系(HPA軸)や自律神経系の調整機能に影響を及ぼし、睡眠障害、易疲労感、身体症状の増悪などを引き起こす可能性があります。
このように、夜勤に伴うストレスは精神面にとどまらず、自律神経系や内分泌系を介して全身の健康状態にも影響することから、早期のセルフケアや職場での支援体制の活用が重要といえるでしょう。
関連記事:看護師の夜勤の働き方とは?勤務体制やメリット・デメリットを解説
看護師が夜勤を続けながら健康的に生活する7つのコツ
夜勤によるリスクを抑え、健康的に働き続けるためには工夫が必要です。
- 生活リズムを整える
- 夜勤中に適度に仮眠を取る
- 栄養のバランスが良い食事にする
- 定期的な運動を続ける
- スタンダード・プリコーションを徹底する
- 健康診断を受けて身体の状況を知る
- ストレスチェックを受けて精神状況を把握する
夜勤の負担を仕方ないと諦めずに、これらの具体的な対策を生活に取り入れることが、心身の健康には欠かせません。
生活リズムを整える
夜勤明けと休みの日で生活リズムが大きく変わらないよう、睡眠時間と起床時間をなるべく一定に保つことが重要です。
夜勤明けでも午前中に一度仮眠を取ったら、昼過ぎには起きて活動し、夜は早めに就寝するなど、リズムの崩れを最小限にすることをおすすめします。
夜勤中に適度に仮眠を取る
夜勤中に積極的に仮眠を取ることは、看護師が健康的に勤務を続けるために大切です。わずかな仮眠時間であっても、疲労の蓄積を抑え、医療事故のリスクを予防する効果が期待できます。
日本看護協会は、深夜0~4時の間で2時間以上の仮眠を確保することが望ましいとしています。患者さまの状況や緊急入院などにより連続した仮眠を確保するのは難しい場合は、少しの時間でも仮眠を取ることを意識しましょう。
仮眠前にはカフェイン摂取を控え、アイマスクや耳栓を利用するなどして環境を整えると睡眠の質を高める必要があります。
栄養のバランスが良い食事にする
夜勤中は手軽に食べられるお菓子やパンを手に取りがちです。ですが、血糖値が急上昇する高カロリーなものよりも、主菜(魚や肉などのタンパク質を中心とした料理)と副菜(野菜を中心とした料理)を組み合わせた栄養バランスの良い食事が、夜勤の食事として理想です。
夜勤中の間食や夜勤明けの食事でも、砂糖が多い菓子パンや油分・塩分が多いスナック菓子などは避けましょう。
・おにぎり・ゆで卵
・サラダチキン
・ヨーグルト
これらの食事を選ぶことで、夜勤中でも栄養バランスの良いメニューにすることができます。
定期的な運動を続ける
運動は、ストレス解消や生活習慣病の予防に有効です。
軽いストレッチや散歩など、無理のない範囲で定期的な運動を続けましょう。夜勤後の疲労回復や、良質な睡眠にもつながります。
スタンダード・プリコーションを徹底する
夜勤を含む不規則な勤務は、睡眠不足や疲労の蓄積を招きやすく、結果として感染防御機能が低下する可能性があります。そのため、夜勤中は日勤以上に感染対策を意識することが重要です。
すべての患者の血液・体液・分泌物・排泄物を感染源とみなすスタンダード・プリコーションは、医療従事者自身を守る基本的かつ最も重要な対策です。手指衛生の徹底、適切な個人防護具(マスク・手袋など)の使用を確実に行うことで、夜勤帯における感染リスクを最小限に抑えることができます。
特に夜勤中は集中力の低下や判断の遅れが生じやすいため、「忙しいから」「一瞬だから」といった油断を防ぐ意識づけが必要です。基本的な感染対策を確実に実践することが、患者の安全だけでなく、看護師自身の健康を守ることにもつながります。
健康診断を受けて身体の状況を知る
夜勤による健康リスクを早期に発見するため、健康診断は毎年受診しましょう。
夜勤をしている看護師は、法律にもとづき年に1回の「定期健康診断」と6ヶ月に1回の「特定業務従事者の健康診断」を受けられる可能性があります。
異常が見られたら放置せず、専門医に相談して早期に対策することが大切です。
ストレスチェックを受けて精神状況を把握する
夜勤は日中の勤務よりも精神的な負担がかかりやすい働き方です。
2015年12月から、労働者が50人以上の事業場では年に1回ストレスチェックを受けることが義務化されました。
職場でおこなわれるストレスチェックで、気になる項目がある場合は産業医や専門の相談窓口を利用し、ストレスを溜め込まないようにしましょう。
看護師で夜勤がつらい場合のキャリア選択肢
夜勤を続けることが体力的、あるいは家庭との両立の面で難しくなった場合は、無理をせず働き方や職場を変えることも大切です。
- 夜勤の回数を減らしてもらえるように相談する
- 勤務形態を変更してもらうように相談する
- 夜勤のない職場に転職する
健康を害してキャリアを中断する前に、これらの選択肢を検討することが重要です。自分の健康状態やライフステージに合わせて、働き方を検討してみましょう。
夜勤の回数を減らしてもらえるように相談する
夜勤がつらくなった場合では、すぐに転職を考えるのではなく、まずは看護師長に夜勤回数を減らせないか相談してみましょう。
病棟や看護師長の方針にもよりますが、「身体がきつくなってきたため月5回の夜勤を月2回に減らしてもらいたい」と提案をすることで、理解を得られる可能性があります。
勤務形態を変更してもらうように相談する
夜勤による負担を感じるようになった場合は、無理を重ねる前に、日勤常勤や短時間正職員など、夜勤を含まない勤務形態へ変更できないか、看護師長や人事課に相談してみることも一つの方法です。また、透析室や外来など、夜勤のない部署への異動が可能かどうかを確認するのもよいでしょう。
夜勤手当がなくなることで収入面に変化が生じる可能性はありますが、生活リズムや体調を整えやすくなることで、現在のライフステージや体力に合った働き方を選択できるようになります。自身の健康状態や将来を見据えながら、無理なく働き続けられる勤務形態を検討することが大切です。
夜勤のない職場に転職する
現在の職場で働き方の変更が難しい場合は、思い切って夜勤のない職場へ転職することもひとつの手段です。。
- 病院の外来
- 病院の透析室や手術室
- クリニック
- 訪問看護ステーション
- 健診センター
これらの職場では夜勤がないケースがほとんどです。しかし、職場によってはオンコール対応が求められる可能性があるため、求人情報やホームページでチェックしましょう。
関連記事:看護師が夜勤なしで働ける職場15選!年収やキャリアを維持するコツと事例
看護師の寿命についてのよくある質問
ここでは、夜勤と健康についてのよくある疑問にお答えします。疑問を解消し、安心してキャリアを築くための参考にしてください。
Q1:夜勤をしている看護師の平均寿命は?
夜勤をしている看護師の平均寿命を特定した公的なデータはありません。
しかし、前述の通り、夜勤が生活習慣病や発がんリスクを高める可能性は指摘されています。夜勤による寿命への影響は、個人の生活習慣や健康管理によって複雑な要因に左右されるため、自己管理が重要になります。
Q2:夜勤は何歳まで続けるのが理想ですか?
夜勤を続ける理想的な年齢に明確な基準はありません。
体力が低下し始める40代後半から50代を目安に、体調の変化に応じて夜勤の頻度や働き方を見直す看護師が多くいるようです。また、この年代はライフステージが変わり、子育てや介護などの事情もあって働き方を見直す方が多いようです。まずは自身の健康状態を優先し、無理なく続けられる範囲で働くことが理想です。
Q3:若手の看護師でも夜勤の健康リスクはありますか?
夜勤による体内時計の乱れや、それに伴う睡眠・ホルモン分泌への影響は、年齢にかかわらず起こり得ます。若手であっても、夜勤を含む不規則な勤務が続けば、生活リズムへの負荷は避けられません。
特に若手の看護師は、臨床経験が浅い段階で夜勤に入ることが多く、業務判断や急変対応に対する緊張感が強くなりやすい傾向があります。その結果、心理的ストレスが蓄積しやすく、疲労感や睡眠の質の低下につながることがあります。
夜勤による影響は個人差が大きいため、若いうちから「健康的に夜勤を続けるための工夫」を意識し、自身の体調やストレス反応に早めに気づくことが重要です。
Q4:夜勤明けの過ごし方で寿命を縮めてしまうことはありますか?
夜勤明けに高カロリーの食事を取ったり、疲労感から長時間の寝だめをしたりすることは、生活リズムをさらに乱し、寿命に悪影響を与える可能性があります。
夜勤明けは軽い仮眠で済ませ、昼過ぎに起きて活動し、夜間に質の良い睡眠を取れるように努めましょう。
Q5:夜勤なしの職場へ転職すると年収は下がりますか?
一般的に、夜勤手当がなくなる分、年収は下がる傾向があります。
しかし、夜勤がない職場でも、専門性の高い資格やスキル、管理職としての経験があれば、年収を維持できたり、年収が上がったりするケースも少なくありません。
夜勤を続けても寿命を縮めない健康的な働き方ができる!
夜勤は一定の身体的・精神的負担を伴う働き方ですが、夜勤そのものが直ちに健康や寿命を左右するわけではありません。生活リズムや睡眠、食事、ストレス管理などのポイントを意識し、自身の体調変化に向き合うことで、リスクを抑えながら夜勤を続けることは十分に可能です。
一方で、夜勤による心身の不調が長引いたり、「今の働き方が合っていない」と感じたりした場合は、無理を重ねる必要はありません。勤務形態の調整や、夜勤のない職場への転職を検討することも、将来を見据えた前向きな選択肢の一つです。自分の健康状態やライフステージに合った働き方を見直したいと感じたときは、訪問看護に特化した求人サイトNsPaceCareerにご相談ください。あなたが無理なく、長く看護師として働き続けられる環境を見つけるお手伝いをします。
<参考サイト・文献>
2. Cancer in Humans|International Agency for Research on Cancer; 2020.
NsPace Careerナビ 編集部 「NsPace Career ナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「NsPace Career」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。
