キューブラーロスの理論の5段階とは?看護のポイントと実践例を解説

公開日:2025/12/02 更新日:2025/12/02
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ターミナル期(終末期)の患者さまやご家族のケアは、看護師にとっても高い専門性が必要で難しい場面の1つです。

精神科医キューブラーロスが提唱した「死の受容過程」の理論は、死を宣告された患者さまによくみられる心理反応を5つの段階として整理したモデルです。

ただし、これはあくまで典型的な反応パターンであり、すべての人が当てはまるわけでも、順番どおりに進むわけでもありません。

本記事では、この理論の概要と、各段階における看護の関わり方を分かりやすく解説します。理論を理解することで、患者さまの否認や怒りなどの背景にある気持ちをつかみやすくなり、ターミナルケアの質向上につながるでしょう。

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キューブラーロスの理論は「死の受容過程」を5段階にわけたもの

キューブラーロスは、自身の著書「死ぬ瞬間-死とその過程について」で、回復の見込みがない病気の宣告を受けた患者さまの“よくみられる心理反応”を5つの段階として整理しました。

  • 否認(Denial)
  • 怒り(Anger)
  • 取引(Bargaining)
  • 抑うつ(Depression)
  • 受容(Acceptance)

これらは、典型的な反応の一例であり、必ずしも順番に進むものではありません。複数の段階を行き来する方や、当てはまらない方も多く存在します。

そのため、5段階は“患者の心を理解するためのヒント”として活用し、個別性に沿ったアセスメントが重要です。

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キューブラーロスの理論の5段階と看護師としてのかかわり方

ここからは、各段階の特徴と看護師の関わり方を具体的に見ていきます。

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1.否認

予期しなかった死の宣告を受けたとき、患者さまは「誤診だ」「そんなはずはない」と現実から目を背けようとします。これは、衝撃から心を守るための自然な防衛反応です。

この段階で、看護師は患者さまの感情を否定したり、無理に現実を受け入れさせようとしたりすると、信頼関係を損なうリスクがあります。

そのため、「いつでも話を聞く準備がある」という患者さまのペースに寄り添う姿勢でかかわり、患者さまが次の段階に進むためにサポートします。

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2.怒り

怒りの段階では患者さまは、「なぜ自分が」「なぜ今なのか」と感じ、怒りの矛先が周囲の人に向くことがあります。

看護師は、この怒りを個人的な攻撃として受け取らないことが大切です。患者さまの感情をそのまま受け止め、「大きなつらさを抱えておられるのだろう」という姿勢で傾聴します。

また、ご家族は患者さまの怒りに戸惑い、深く悲しむこともあります。

看護師はまずご家族の気持ちに寄り添い、その怒りが病気や死への恐怖から生じていることを、分かりやすく伝えていくことが大切です。

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3.取引

取引の段階では、患者さまが死を避けたい思いから、神や医療者に「もし〇〇できたら……」といった願いや条件を示すことがあります。

このような思いを否定せず、「そう思われるのですね」と受け止めることが大切です。

患者さまの“何かをしたい”という気持ちを尊重し、現実的に実現できる範囲で支援できる方法を一緒に探すことで、気持ちの安定や安心感につながります。

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4.抑うつ

抑うつの段階では、死が現実味を帯びてくることで、患者さまは希望を見いだせず、深い悲しみや絶望感に包まれることがあります。言葉数が減り、静かに一人で過ごしたいと感じる方もいます。

この段階では、「頑張って」「大丈夫ですよ」といった励ましは避けましょう。こうした言葉は意図しない形で、患者さまの悲しみを否定してしまうことがあります。

話さなくてもそばにいる、気持ちをそのまま受け止めるという看護師の姿勢が、患者さまの心を支えるうえで大切です。

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5.受容

感情の揺れが落ち着き、患者さまは静かに死を受け入れる準備を始めます。これは諦めではなく、残された時間を見つめ直し、身辺整理やご家族との別れに気持ちを向ける時期です。

この段階では、患者さまが少しでも安らかに、そして自分らしく過ごせるよう援助することが看護師の役割になります。ご家族との静かな時間を望まれる場合は、その思いを尊重し、必要以上の介入は避けます。

一方、ご家族が患者さまの死を受け入れられるのは、実際に亡くなられた後になることも少なくありません。患者さまと同様に、ご家族に対するサポートも引き続き重要です。

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キューブラーロスの理論の5段階を看護に活かすポイント

キューブラーロスの理論は、患者さまへのケアを“画一化するためのマニュアル”ではなく、あくまで心の状態を理解するための枠組みです。患者さまの状態に合わせて柔軟に関わるために、次のポイントを意識して活用するとよいでしょう。

  • 段階ごとのかかわり方に「正解」は1つではない
  • 否認や怒りは防衛反応であり責めないこと
  • 多職種連携で患者さまの状態を共有し、一貫した支援につなげる

こうした視点を持つことで、患者さまの感情の背景をより深く理解でき、質の高いケアを提供できるようになるでしょう。

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段階ごとのかかわり方に「正解」は1つではない

キューブラーロスの5段階は、患者さまによって順番が前後したり、複数の段階を行き来したりするなど、反応の現れ方には大きな個人差があります。数時間のうちにいくつかの段階を経験する方もいれば、1つの段階に留まる方もいます。

そのため看護師は、患者さまの状態をアセスメントしながら、「今は否認が強いようだ」「昨日は怒りを表していたが、今は取引の段階かもしれない」といった形で、変化を柔軟に捉えていくことが大切です。

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否認や怒りは防衛反応であり責めないこと

「否認」の場面でみられる非協力的な姿勢や、「怒り」の段階での強い言葉は、病気や死への恐怖に対する自然な防衛反応です。

とはいえ、患者さまやご家族の感情が激しく揺れる場面は、看護師にとって大きな負担となることもあります。

実際に、厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査報告書」によると、看護師の約7割(69.8%)が「人生の最終段階であることを患者さまやご家族が受け入れられない」ことにケアの難しさを感じていると回答しています。

こうした状況では、看護師自身が「この方は大きなつらさを抱えている」と視点を切り替えながらかかわることが重要です。負担が大きいときには、一人で抱え込まずカンファレンスで話し合うことで、よりよい支援とチームとしての一貫性が保てます。

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多職種連携で患者さまの状態を共有し、一貫した支援につなげる

ターミナルケアでは、看護師のほかに医師やソーシャルワーカー、薬剤師など多職種で支え合う体制が欠かせません。

患者さまが今どの段階にあるのか、どのような感情を抱いているのかをチームで共有することで、一貫したかかわりが可能になります。

職種によってかかわる時間・役割・場面が異なるため、情報共有があるかないかで患者さまの安心感は大きく変わります。

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キューブラーロスの理論の5段階と家族ケアのポイント

患者さまだけでなく、ご家族もまた、患者さまの死を予期する悲嘆のプロセスをたどります。そのため看護師は、ご家族の感情の揺れにも目を向けてアセスメントし、適切にサポートする必要があります。

家族ケアで特に意識したいポイントは次の3つです。

  • ご家族が否認・怒りの状態にあるときのケア
  • ご家族の反応と患者さまの段階が異なる場合のケア
  • 多職種と連携しながら行う家族支援

患者さまとご家族の心の段階が異なると、気持ちがすれ違い、互いに理解しにくくなることがあります。看護師は、それぞれの感情を丁寧に受け止めながら、両者が安心して過ごせるよう支援することが求められます。

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ご家族が否認・怒りの状態にあるときのケア

ご家族の中には「まだ他の治療法があるはずだ」と否認したり、「なぜもっと早く気づかなかったのか」と怒りを医療者に向けたりする方もいます。

このような場面では、まずご家族の感情を否定せずに受け止める姿勢が大切です。

医師と連携しながら、病状や治療の限界について丁寧に共有するとともに、ご家族の価値観・文化的背景・宗教観や、これまでの介護経験にも配慮してかかわることで、理解を支えることに繋がります。

説明だけでは十分でない場合も多いため、感情そのものに寄り添う姿勢が欠かせません。

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ご家族の反応と患者さまの段階が異なる場合のケア

患者さまがすでに受容の段階に入り穏やかに過ごしていても、ご家族がまだ否認や怒りの段階にいるなど、心のプロセスに「ズレ」が生じることがあります。

このズレは、患者さまとご家族の間にすれ違いを生み、気持ちの距離を感じさせてしまうことがあります。

看護師は、両者の状態をよく観察して、患者さまには安楽を、ご家族には不安を吐き出せる時間をつくることで橋渡しをします。

また、「このように穏やかに過ごされているのは、気持ちの整理が少し進んでいる可能性もあります」と背景を分かりやすく伝えることで、ご家族の理解を促すことができるでしょう。

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多職種と連携しながら行う家族支援

ターミナルケアでは、早い段階から多職種と協力しながら家族支援を進めることが重要です。

ご家族が抑うつの段階で深い悲しみや疲労を抱えている場合や、取引の段階で治療への強い希望を示す場合など、心理的負担が大きくなる場面では、以下の専門職と連携することで、より包括的な支援が可能になります。

  • 精神科医
  • 臨床心理士
  • 医療ソーシャルワーカー

多職種がそれぞれの専門性を活かして早期から関わることで、ご家族の心の健康を守り、不安や葛藤を軽減できます。結果として、患者さま・ご家族双方にとってより良いターミナルケアにつながります。

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キューブラーロスの理論の実践例

ここでは、看護師が「否認」や「抑うつ」の段階にある患者さまに直面した際の、介入例を紹介します。理論を実践につなげるためのヒントとして活用してください。

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事例1:「否認」にある患者さまへのかかわり方

余命宣告を受けたAさん(70代男性)は、「先生は間違っている、私は必ず治る」と繰り返し、治療方針の説明を拒否し、看護師に対しても距離を置くようになっていました。 看護師は、Aさんの「治りたい」という思いを否定せず、「そのように感じておられるのですね」と受け止め、無理に話を聞き出そうとはしませんでした。
清潔ケアや食事介助の際に丁寧にかかわり、言葉を多く交わさなくても「いつでもそばにいます」という姿勢を示し続けることで、信頼関係を築くことができました。

否認は、「死ぬかもしれない」という衝撃から心を守るための自然な反応です。無理に現実を押しつけるのではなく、看護師は患者さまのペースに合わせて関わることが、次の段階へ進むための大切な準備になります。

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事例2:「抑うつ」にある患者さまへのかかわり方

Bさん(60代女性)は、死が迫る現実から希望を失い、口数が減って「家族に申し訳ない」と自分を責めるようになりました。食事や清潔ケアも拒む姿がみられました。
看護師は、「とてもつらい状況ですよね」「寂しいお気持ちなのですね」と言葉にして寄り添いました。また、沈黙を保ちながら背中を擦ったり、そっと優しく手を握ったりして、言葉以外の方法でも支え続けました。

抑うつは、死の現実を受け入れたうえでの悲嘆のプロセスです。この感情を否定せず、共感的に寄り添うことが求められます。看護師は沈黙を恐れず、言葉よりも接触や受容的な姿勢でかかわり、患者さまが悲しみを表現することで、心が安定するように支えます。

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キューブラーロスの理論の5段階についてのよくある質問

ここでは、キューブラーロスの理論について、看護師が現場で抱きやすい疑問や、患者さまの心理状況に関する、よくある質問をQ&A形式でまとめました。現場での理解や実践のヒントとしてお役立てください。

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Q1:キューブラーロスの理論の5段階は必ずこの順番で進むのですか?

キューブラーロスの理論の5段階は、必ずしもこの順番で進むとは限りません。

これは「心の変化を理解するためのモデル」であり、実際には以下のような経過がみられます。

  • 怒りの後に再び否認に戻る
  • 取引を経ずに抑うつへ進む
  • 複数の段階を同時に経験する

そのため看護師は、順序ではなく“いま患者さまがどのような感情状態にあるのか”を丁寧にアセスメントすることが大切です。

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Q2:患者さまとご家族で段階が違うときの対応はどうすれば良いですか?

患者さまと、ご家族で「感情の段階が異なる」ことは珍しくありません。

重要なのは、それぞれの感情を否定しないことです。必要に応じて、医師やソーシャルワーカーと連携し、両者の間で生じている認識や感情のズレを埋めるための話し合いの場を設定したり、情報共有の仕方を工夫したりしましょう。

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Q3:患者さまから怒りを向けられたときはどう対応すれば良いですか?

患者さまからの怒りは、「死への恐怖」「理不尽さ」「痛みや苦痛」などが背景にあり、看護師個人への非難ではないと理解しましょう。

怒りを遮らず、安全な環境で傾聴することが大切です。

「とてもつらいですね」「怖いお気持ちがあるのですね」と寄り添い、患者さまの感情を受け止めることで、信頼関係が保たれ、感情の安定につながります。

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Q4:キューブラーロスの理論の覚え方はありますか?

キューブラーロスの理論を覚えるコツは、語句の暗記ではなく、「患者さまの心がどのように動いているか」をイメージするのが効果的です。

また、5段階の頭文字をとった「D(Denial)A(Anger)B(Bargaining)D(Depression)A(Acceptance)」という覚え方もあります。

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Q5:キューブラーロスの理論と悲嘆のプロセスの5段階は違いますか?

5段階モデルはもともと、「死を宣告された患者本人の心理変化」を説明するために提唱された理論です。

その後、研究者や実践者によって、死別や喪失を経験した家族の“悲嘆プロセス”にも応用されるようになりましたが、これは後世の拡張的な解釈であり、原著の想定とは異なります。

現在の臨床や教育では広く使われていますが、背景を理解したうえで活用することが大切です。

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キューブラーロスの理論への理解はターミナルケアの質を高める!

キューブラーロスの5段階の理論を理解すると、ターミナル期にある患者さまの感情やニーズをより的確に捉えられるようになります。

さらに、患者さまの「否認」や「怒り」といった一見ネガティブな反応も、死に向き合う過程であらわれる自然な心の動きとして受け入れられるようになります。

その結果、患者さまの尊厳を守りながら、より質の高いケアにつなげていくことができます。

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<参考サイト・文献>

泉, キューブラー・ロスと死ぬ瞬間, 薬理と臨床 第31巻第2号 2021年5月.

人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査報告書|厚生労働省

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記事投稿者プロフィール画像 NsPace Careerナビ 編集部

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