NSTで活躍する看護師の役割とは?ラウンドの流れや必要な資格を解説

「NSTって具体的に何をするの?」「NSTで看護師はどんな役割を果たせるの?」
NST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)は、栄養状態の改善を必要とする患者さまを多職種でサポートするチームであり、多くの病院で導入されています。看護師は、チームのなかで欠かせない役割を担っています。
この記事では、NSTの看護師の役割や活動の流れ、チームで活躍するために必要なスキルを解説します。この記事を読むと、NSTでの役割を理解し、チーム医療の要として活躍できるようになるでしょう。
NST(栄養サポートチーム)における看護師の役割
NSTにおいて看護師は、患者さまの栄養状態と生活環境を把握している専門職としての役割を果たします。
- 患者さまの栄養状態の観察と情報収集
- 多職種との情報共有と提案
- 栄養ケア計画への参画
- 患者さまやご家族のサポート
- チーム活動の推進
患者さまのリアルタイムな情報は、管理栄養士の評価や医師の治療方針の決定に不可欠です。
患者さまの栄養状態の観察と情報収集
NSTの看護師の役割は、患者さまの状態を観察し、次の情報を収集することです。
- 摂食・嚥下状況:食事の進み具合、ムセの有無、食事に対する意欲
- 口腔内の状態:口腔内の清潔度、義歯の適合状況、味覚の変化
- 全身状態:浮腫や脱水の有無、皮膚の状態、意識レベル
- 排泄状況:便通の状態、下痢や嘔吐の有無
臨床現場での情報は、栄養アセスメントの基本であり、介入の方向性を決定づけるため重要です。
多職種との情報共有と提案
現場で集めた情報を、医師や管理栄養士、薬剤師、リハビリテーション専門職などの多職種と共有し、患者さまの状態に合わせて次のような介入策を提案します。
- 情報共有:患者さまのバイタルサインの変化や食事量の推移などを報告
- 提案:「食事量が少ない原因は、疼痛ではなく、食後の嘔気かもしれません」といったように、観察にもとづき介入を提案します
NSTの看護師は、患者さまの生活背景やご家族の思いといった、数値には現れない大切な情報を把握しています。そのため、患者さまの意向に沿った栄養計画を進めるチームの要として活躍できるのです。
関連記事:多職種連携における看護師の3つの役割!具体例や大切なことを解説
栄養ケア計画への参画
NSTの看護師は、作成した栄養ケア計画を患者さまが無理なく実行できるかを判断する役割を担います。栄養ケア計画が正しくても、患者さまのADLや睡眠を妨げたり、スタッフの負担が大きすぎたりすると、ケアを継続できず、栄養状態の改善につながらないからです。
たとえば、経腸栄養剤を注入する際、看護師が「この速度だと胃残量が多くなり、誤嚥のリスクが高まる」と指摘し、注入の速度を調整することを提案します。
NSTの看護師が計画に参画することで、現場目線で実現できるかどうかの視点が加わるため、患者さまの栄養状態の改善が期待できます。
患者さまやご家族のサポート
NSTの看護師は、栄養管理の過程で生じやすい患者さまやご家族の心理的・精神的な負担に対してサポートします。
栄養管理は、食生活や価値観にかかわる問題であり、治療が長期化するほど、不安や抵抗感が増え、治療への意欲を失う可能性があります。
- 栄養教育:栄養管理の目的や必要性をわかりやすく説明し、理解を促す
- 不安の傾聴:食事が摂れないことへの不安や経口栄養剤への抵抗感などを傾聴する
- 嗜好の反映:管理栄養士と連携して可能な範囲で嗜好を食事に反映できるようにする
心理的なサポートを通じて患者さまが治療に前向きになれるようにすることが、ケアを続けていくために大切です。
チーム活動の推進
NSTの看護師には、栄養計画が病棟でスムーズに実行されるように、チーム活動を広める役割も担います。NSTの方針を病棟スタッフが正しく理解していないと、栄養ケア計画が実行されず、患者さまの栄養状態が悪化する恐れがあるからです。
具体的には、病棟の看護師や介護士に向けて、新しい経腸栄養剤の使用方法や最新の口腔ケアの方法など、スキル向上に役立つ勉強会を実施したり、ケアの方法をわかりやすく伝えたりします。
現場のスタッフへの指導により、NSTの活動を病棟に根付かせることで、患者さまに質の高い栄養ケアが届くのです。
NSTラウンドの流れと活動内容
NSTラウンドは、基本的には1週間に1回、栄養管理が必要な患者さまに対し、アセスメントから評価、改善策の実行までをおこないます。
- 患者さまの情報共有
- ラウンドで患者さまを観察
- 観察結果をもとに多職種で改善策を検討
- 記録し報告書を作成
この一連の流れを繰り返して、患者さまの栄養状態が改善できるように活動しています。
患者さまの情報共有
まずは、NSTのメンバーが集まって、患者さまの基本情報、病状、現在の栄養状態を報告し共有します。
- 看護師:食事をする様子や患者さまからの訴えといった情報を伝える
- 管理栄養士:カロリー計算の結果や、どのくらい栄養が摂れているかの評価を伝える
- 医師:治療方針や栄養管理を進めるための注意点を共有する
この段階で、チームメンバーが患者さまの課題について、共通認識を持つ必要があります。
ラウンドで患者さまを観察
情報共有が終わったら、病棟へ移動し、患者さまを訪問します。数値データだけではわからない、リアルな問題点を観察し、その場でNSTの看護師が病棟のスタッフと意見交換できるからです。
- 体位:食事のときの姿勢は適切か、嚥下しやすい体位になっているか
- 環境:食事環境は集中できるか、提供された食事の形態は適切か
- 褥瘡(じょくそう)や浮腫:皮膚の状態や栄養状態悪化のサインがないか
また、NSTの看護師には、患者さまの思いや病棟の看護師の意見をスムーズに伝えられるようにする調整役も担います。
観察結果をもとに多職種で改善策を検討
ラウンドの後、チームで観察結果を共有し、改善策がないかについて再度話し合います。
そのなかで、NSTの看護師は患者さまの嗜好に合わせた食事内容への変更や、食事しやすい体位の調整など、現場で実施できる方法を提案します。
記録し報告書を作成
NSTラウンドで決定した改善策は、記録用紙や報告書にまとめ、病棟の看護師や主治医と共有します。
看護記録にNSTでの決定事項を書いて、病棟スタッフが実行できるようにします。
NSTラウンドの事例
3つの事例からNSTの看護師がチームでどのように活躍しているかを解説します。
事例1:摂食嚥下障害患者への栄養介入
| 食事中にムセが多く、経口摂取量が不安定な患者さまに対し、NSTが介入しました。NSTの看護師は、食事のときの不適切な体位と食後の口腔内の食物残渣の多さを報告。これを受け、言語聴覚士や理学療法士と協働して体位を調整しました。病棟の看護師は、食前・食後の口腔ケアやマッサージを実施し、誤嚥性肺炎のリスク軽減に貢献しました。 |
NSTの看護師が摂食行動の観察や口腔内の衛生状態についての情報を提供したことで、嚥下機能や栄養状態の改善につながりました。
事例2:がん化学療法中の低栄養への対応
| がん化学療法による強い嘔気と食欲不振で、栄養摂取量が目標値を下回る患者さまに対応しました。NSTの看護師は、「嘔気は午前中が強く、午後や夕食前は比較的落ち着いている」という時間帯別の情報を報告しました。管理栄養士は嘔気が落ち着く午後に高カロリーの補食を提供。看護師は食事前の口腔ケアを行い、必要に応じて栄養補助食品の摂取をサポートすることで、栄養状態の改善を促しました。 |
時間帯によって患者さまの症状に違いがあるという情報提供により、患者さまの体調に合わせた食事介入が可能となりました。
事例3:褥瘡のある高齢者への栄養管理
| 褥瘡があり、体位変換をおこなっているにもかかわらず治癒が遅延している高齢患者さまに介入しました。NSTの看護師は、患者さまから「体圧分散マットが硬いと感じており、夜間は動かずにいる」という訴えを報告。病棟の看護師と連携し、マットの種類を変更しました。管理栄養士は経腸栄養剤の注入量の増量を提案し、看護師は除圧のための体位を指導することで早期治癒に貢献しました。 |
褥瘡の治癒には、栄養状態の改善と除圧の両面からの介入が必須です。NSTの看護師が患者さまの不快感という観察情報を拾い上げたことで、褥瘡の治癒を妨げていた原因を特定し、解決策を検討できました。
NSTで活躍する看護師になるためのポイント
NSTで多職種から信頼され、チーム医療を推進できる看護師になるためには、専門知識と技術が欠かせません。
- 栄養についての基礎知識を身につける
- 観察力と報告力を高める
- 専門資格の取得や研修の受講でスキルアップを図る
これらのポイントを実践することで、NSTの活動に主体的に取り組めるようになり、専門性を高められるでしょう。
栄養についての基礎知識を身につける
NST活動の議論に参加し、看護師が意見を述べるためには、基本的な栄養学の知識が不可欠です。管理栄養士や医師などの議論内容を理解し、患者さまの病態と栄養管理の関連性を正しく判断するためには、次のような専門知識が必要です。
- 病態と栄養:糖尿病、腎臓病、肝臓病などの疾患と栄養管理の関係の理解
- 栄養剤:経口栄養剤、経腸栄養剤、中心静脈栄養の成分や適応、副作用の把握
- 評価指標:BMI、血清アルブミン値など栄養状態の評価に必要な指標の理解
NSTの看護師は基礎知識を身につけることで、多職種間の専門用語が飛び交う場でも自信を持って発言でき、チームに貢献するメンバーとして認められるでしょう。
観察力と報告力を高める
NSTの看護師にとって、臨床での情報を正確に捉え、論理的に伝えることが重要なスキルです。
検査データにあらわれない患者さまの訴えやわずかな変化が、栄養状態の改善につながります。
観察力と報告力によって、NSTにおいて看護師は患者さまの代弁者としての役割を確立し、チームの議論の方向性を決める重要な情報源となるのです。
専門資格の取得や研修の受講でスキルアップを図る
NST活動で中心的な役割を果たすためには、専門資格の取得や外部研修への参加によって、自身のスキルアップを図る必要があります。
たとえば、NST専門療法士の資格取得を目指したり、院内のNST研修や日本栄養治療学会が主催するセミナーに参加したりして、最新の知識を学びましょう。
資格や知識を身につけることは、NSTの活動に貢献できるようになるだけでなく、病院からの評価を高め、キャリアアップや待遇改善において強みとなります。
関連記事:看護師がスキルアップできる資格一覧25選!プラスの資格を取るメリット
NSTの看護師についてのよくある質問
NST活動への参加を検討している、またはチームでの役割に疑問を持つ看護師へ。活動時間や新人からの参加可否など、具体的な疑問にお答えします。
Q1:NST活動はどのくらいの時間を使いますか?
NSTの活動時間は、病院の規模や患者数によって異なります。NST専任の看護師は置かれず、病棟業務と並行して活動することが多い傾向です。次のような時間配分が一般的です。
- 情報共有・カンファレンス:週に1回、1時間程度
- ラウンド:週に1回、1時間~2時間程度
- 記録・計画作成:ラウンド外の時間に、随時
NST活動は、週に合計3〜5時間程度を目安とする施設が多いものの、病院規模や患者数により大きく異なります。自分の病棟業務の合間で活動を行うケースが一般的です。
Q2:NSTで学んだことは普段のケアにどう活かせますか?
NSTで学んだ「栄養と全身状態の関連性」は、日々の業務に活かせ、ケアの質を高められます。
「低栄養が褥瘡を治りにくくする」という視点から、食事量や栄養摂取の状況をアセスメントするようになります。また、術後の患者さまに対し、早期の経口摂取に向けた取り組みや、嚥下訓練の重要性を意識した看護介入ができるようになるでしょう。
Q3:新人看護師でもNSTに参加できますか?
病院によりますが、新人看護師でもNSTに参加可能です。まずは病棟のNST担当の看護師に相談し、カンファレンスやラウンドの見学参加から始めるのがおすすめです。
ただし、NST稼働認定施設として認められるためには、「セミナー受講医が常勤していること」に加え、日本栄養治療学会が定める基準を満たす必要があります。具体的には、栄養治療専門療法士やNST専門療法士の資格取得者など、所定の専門職がチームに含まれていることが求められます(※認定要件の詳細は、日本栄養治療学会の基準に基づきます)。また、さまざまな状況にある患者さまの栄養状態をアセスメントし、改善に向けて取り組む必要があるため、高度なスキルが必要です。
そのため、新人看護師はサポート役として情報収集や記録をおこない、実務を通じて知識を深めていくのが良いでしょう。
Q4:NSTの知識を学べるおすすめの研修や勉強会はありますか?
NSTの知識を体系的に学べるのは、おもに次の機関が主催する研修です。
- 日本栄養治療学会
- 各都道府県看護協会
また、多くの病院では、NST委員会が定期的に院内スタッフ向けの勉強会を開催しているため、参加を検討してみましょう。
NST看護師の役割を理解し、チーム医療で活躍しよう!
NST活動は、患者さまの病状や生活の質にかかわる重要なチーム医療です。看護師が知識と観察力を活かして介入することで、患者さまの栄養状態の改善に期待できます。NSTへの参加を通じて、チーム医療の中心的な存在として活躍し、専門性を高めましょう。
NSTで培った多職種連携力や専門的なアセスメント力は、訪問看護ステーションでも高く評価されます。訪問看護師のキャリアに特化した求人サイト「NsPaceCareer」では、多数の求人を紹介しているため、転職を検討している方は、ぜひ活用してみてください。
<参考サイト・文献>
NsPace Careerナビ 編集部 「NsPace Career ナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「NsPace Career」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。
