看護におけるケーススタディとは?目的や書き方の5つのコツ、例文を解説

「ケーススタディの書き方がわからない」「看護過程との違いって何?」
ケーススタディ(事例研究)の提出を前に、このように悩んでいる看護師は少なくありません。
ケーススタディの書き方がわからないと、せっかくの実践経験が評価されず、学びの機会を逃してしまう恐れがあります。
この記事では、ケーススタディの目的や評価されるように仕上げるためのコツについて例文を交えて解説します。看護を「伝わる言葉」で言語化できるようになり、その経験を活かしてキャリアアップを実現できるでしょう。
看護におけるケーススタディとは?
看護におけるケーススタディとは、受け持った患者さまへのケアの場面を取り上げ、アセスメントや介入などを分析し、専門的な知識や知見を導き出す研究手法です。
ここでは、ケーススタディの目的や看護過程との違いを紹介します。
ケーススタディの目的
ケーススタディの目的は、特定の事例で得られた学びを、今後のケアに広く応用できるようにすることです。
患者さまへの介入がなぜうまくいったのか、看護理論やエビデンスをもとに分析することで、ほかの事例にも活かせる知識やスキルを導き出せるからです。
たとえば、認知症患者の行動・心理症状(BPSD)に対して、看護師が実施した非薬物的介入が有効だったとします。ケーススタディでは、その介入方法を分析し、「環境調整や声掛けのタイミングなど、どの要素が有効だったか」という知見を明らかにします。
ケーススタディと看護過程の違い
ケーススタディと看護過程は、どちらも看護実践を深めるものですが、目指すゴールや目的が異なります。
| 項目 | ケーススタディ | 看護過程 |
| 最終的なゴール | 知識を深め、今後のケアに活かす | 看護問題の把握・計画・実施・評価のサイクルを通して、患者さまの健康状態の改善を目指す |
| 目的 | 実践を振り返り、ほかの事例にも使える知識を見つけ出す | 患者さまの問題を把握し、看護診断から計画・実践・評価までを通して、適切なケアを提供する |
| 実施するタイミング | ケアが終わった後に、すべてを振り返って分析する | ケアの提供中に、アセスメントから評価までを継続的に行うプロセスとして実施する |
ケーススタディは、経験を次回以降のケアに活かすために欠かせない研究といえます。
看護ケーススタディの基本構成と流れ
ケーススタディは、読む人がケアの流れや背景を具体的にイメージできるように構成しましょう。
- 対象者の概要
- 看護過程
- 問題点と介入内容
- 結果と考察
- 今後の課題と学び
この構成に沿って整理すれば、看護師の思考や判断の根拠が伝わりやすくなり、他の事例にも応用可能な実践知として高く評価されるでしょう。
対象者の概要
事例として取り上げる患者さまの情報を次のようにまとめます。
- 基本情報:年齢、性別、入院経過、診断名
- 社会的な背景:家族構成、職業、生活環境などの情報
- 事例を選んだ動機:「なぜこの患者さまを取り上げたのか」という動機
情報をまとめる際には、個人情報保護の観点から患者さまが特定されないよう配慮して記述する必要があります。
看護過程
患者さまが抱える問題に対して、どのように考えてケアを進めたのか、順序立てて整理します。
- データ収集とアセスメント:入院時から問題発生までの経過、主観的・客観的データ、看護診断
- 看護計画:計画した介入目標とケア
- 看護実践と評価:計画を実行した内容と、それに対する患者さまの反応や状態の変化
この流れを明らかにすることで、実施したケアが計画的であったことが評価者に伝わります。
問題点と介入内容
看護実践でとくに対応が難しかった点や、ほかの看護師にも共有したい独自の工夫について深く掘り下げます。
困難な場面を示した後、それを乗り越えるためにどのような看護理論や文献を参考にしたか、介入によって患者さまの体調や気持ちがどう変化したかを、具体的に記しましょう。
ここは、看護師の状況判断力と創意工夫をアピールする部分です。理論にもとづいた介入と具体的な効果を記述することで、チームの知識向上に役立てましょう。
結果と考察
結果と考察は、ケーススタディのなかでも重要な部分です。
客観的なデータを提示し、「なぜその結果が得られたのか」を分析することで、別の場面でも通用する知識やスキルとして活用できます。
たとえば「退院後もタバコは止められない」という患者さまが、生活指導後に「このままではまずい。禁煙外来に通って生活を見直します」と意識が変化したとします。「ヘルスビリーフモデルにもとづき、看護師の指導によって患者さまの疾病に対する脅威の認識が変わり、行動するメリットが大きいと感じたため」と、理論をもとに説明します。
この考察により、自分のケアの有効性を証明できるため、専門性の高さを指導者に評価してもらえるでしょう。
今後の課題と学び
「今後の課題と学び」は、今回の経験を過去の事例で終わらせず、看護実践にどう活かすかという意志を示すために重要です。
事例を通じて得た教訓や、自己の能力の変化などを明らかにして、改善すべき点を提示することで、振り返る力と、学びをほかの患者さんへ活かす力が評価者に伝わります。
たとえば、「患者さまとの信頼関係が大切だと改めてわかった」ことに加えて、「退院指導を早くから始めて、ご家族や多職種にも協力してもらう工夫を取り入れるべきだった」と具体的な行動計画を書きます。
「今後の目標と教訓」は、この経験をバネに、看護師としてもっと成長したいという熱意と、ケアを良くするためのアイデアを示す、大切な結びの要素となるでしょう。
看護のケーススタディの書き方のコツ
ケーススタディが評価されるためには、論理的な思考と客観性が不可欠です。次に、質を高める書き方のコツを解説します。
- 看護理論・エビデンスを意識して書く
- 経過の記録ではなく「考察」を中心にする
- 文献やガイドラインを根拠に活用する
- 主観的な感想を最小限にして論理的に整理する
- 客観的な表現・文体で統一する
これらのコツを実践することで、看護師の専門性が評価され、今後のキャリア形成において強みとなるでしょう。
看護理論・エビデンスを意識して書く
ケーススタディでは、感情ではなく、看護理論や科学的なエビデンスにもとづいてまとめる必要があります。看護師の感情や主観的な感想ではなく、「〇〇理論にもとづき、この介入は妥当であった」という客観的な裏付けを示すことで、看護実践が専門的な知見として認められます。
理論やエビデンスを軸に論理を組み立てることが、説得力のあるケーススタディの作成には欠かせません。
経過の記録ではなく「考察」を中心にする
ケーススタディでは、日々の記録や経過の羅列ではなく、考察を文章の中心とすると、「なぜその結果になったのか」という背景を掘り下げられます。
経過は簡潔に留め、考察に重点を置くことで、実際のケアの場面でも患者さまに対応しやすくなるでしょう。
文献やガイドラインを根拠に活用する
個人の経験や判断だけの主張は説得力に欠けるため、アセスメントや介入には、最新の文献や診療ガイドラインといった根拠を活用すべきです。
たとえば、新型インフルエンザの感染管理の妥当性を主張する場合、「最新のガイドラインに沿って病院内で対策に取り組んだ」と、厚生労働省や日本看護協会など信頼できる情報を引用することで、看護師の判断が妥当であったと判断できます。
主観的な感想を最小限にして論理的に整理する
ケーススタディでは、「大変でした」「苦労しました」などの主観的な感想は抑え、事実と論理で整理しましょう。感情的な記述は、文章が客観的ではないと判断され、信頼性を下げてしまいます。
客観的な表現・文体で統一する
ケーススタディを通じて、常体(~である、~だ)の表現や文体で統一しましょう。
「~と思います」「~と感じました」といったあいまいな表現は、文章が信用できないと判断される要因になりがちです。
たとえば、「不安を感じたと思います」ではなく、「不安感が高まっていると考えられる」、「介入は成功しました」ではなく、「介入により〇〇という結果が得られた」と表現します。
客観的な表現と統一された文体にすることが、読者が信頼して読み進めるためには不可欠です。
看護のケーススタディの例文
これらの事例は、看護理論や科学的な視点をどのように実践に結びつけ、考察するかを示す見本です。テーマ選定と考察の視点に注目してください。
事例1:糖尿病患者の自己管理支援を通じた学んだ事例
| 50代の2型糖尿病患者A氏は、食事・運動療法の必要性を理解しているものの、「忙しいから無理」と自己管理に消極的でした。看護師は、生活指導で患者さまの価値観と目標を明確にするようにしました。その結果、A氏は「糖尿病の合併症で孫と遊べなくなるのは避けたい」という動機を見出し、自発的に食事の記録や運動を始めるようになりました。 |
この事例では、ヘルスビリーフモデルにもとづき、血糖コントロールがうまくいかなければ健康面で重大な問題になることを患者さまに認識してもらえた事例です。
事例2:終末期患者への精神的ケアを中心とした事例
| 進行がんの終末期にあるB氏(70代)は、「なぜ自分だけがこんな目にあわなきゃいけないんだ!」と医療者に対して怒りをあらわにしていました。看護師は、治療の話題を避け、B氏の過去の人生や後悔について傾聴する時間を設けました。B氏は感情を出すようになり、死に対する恐怖から、「自分らしい最期の迎え方」を模索するように変化したため、残された時間を穏やかに過ごすための緩和ケア計画へとつなげられました。 |
キューブラー・ロスの死の受容の5段階を参考に、患者さまの感情をアセスメントしケアしたところ、死を少しずつ受け入れられるようになった結果、緩和ケアにつなげられた事例です。
関連記事:ナラティブ看護とは?4つの目的と事例、実践できる場所を解説
ケーススタディの書き方でよくある失敗と対策
貴重な事例に取り組んでも、書き方のポイントを間違えると、記録や感想文と見なされ、指導者に評価されない可能性があります。次の失敗を避けることが大切です。
- 「経過の羅列」で終わってしまう
- 根拠があいまい/文献が引用されていない
- 自分の学びや感情を入れすぎてしまう
これらの失敗を避けることで、ケアが論理的な知見として評価者に伝わります。看護師としての能力を正しく示すために、意識して書き進めましょう。
「経過の羅列」で終わってしまう
「〇月〇日、〇〇をした。患者さまはこうだった」と時系列を並べるだけでは、考察になりません。
「結果と考察」に全体の文字数の半分近くを割き、「なぜこのとき、このケアを選んだのか?」と意思決定のプロセスを明らかにすることで、ほかの看護師も実践の場で活かせるようになります。
根拠があいまい/文献が引用されていない
自分の経験や主観のみで介入の妥当性を主張すると、説得力に欠けます。
学術文献やガイドラインを参照し、主張の直後に「文献1」のように引用元を明記することで、信頼性の高いケーススタディになります。
自分の学びや感情を入れすぎてしまう
「この経験は私にとって学びになりました」といった個人的な感想は、最後の「今後の課題と学び」の項目で簡潔に留めます。
本文は「患者さまの状態」や「介入の内容」とし、客観的な事実と看護師の判断に焦点を当てることで、ほかの看護師が事例を信頼し、ケアに役立てられる実用的なレポートに仕上がるでしょう。
看護のケーススタディについてのよくある質問
ケーススタディを書く中で、「どのくらいの文字数が必要?」「感想はどこまで書いていいの?」といった疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。
ここでは、よくある質問とその解説を通じて、安心して書き進めるためのポイントをまとめました。
Q1:看護のケーススタディは何文字くらい書けば良いですか?
一般的なケーススタディは、本文のみで4,000字から8,000字程度が目安となります。
ただし、文字数は職場の規定により異なるため、作成する前に確認しましょう。
Q2:看護のケーススタディで、参考文献はどのくらい必要ですか?
ケーススタディの説得力を高めるために、最低でも5冊程度の文献や専門書を引用することが推奨されます。
最新のガイドラインや、事例に関連する先行研究の論文を含めることで、看護師の介入が客観的で最新の根拠にもとづいていることを証明できます。
Q3:看護のケーススタディで、自分の感想はどこまで書いて良いですか?
感情や感想は、「今後の課題と学び」の中で簡潔に述べましょう。その際は「〇〇と感じた」で終えるのではなく、「〇〇の経験から、△△という看護能力の重要性に気づいた」といった具体的な学びに言い換えると、説得力が増します。
看護のケーススタディは学びを言語化しケアの質を高める機会!
ケーススタディは、看護師の経験を専門的な知識やスキルにするために欠かせません。
自分の実践を客観的に振り返り、学びを言語化することは、自身のキャリアの土台を築くだけでなく、他の看護師のケアにも役立つ知見となります。
実は、訪問看護でもケーススタディに取り組む事業所はあり、在宅という生活の場での看護は、病院とは異なる視点での気づきや成長につながります。たとえば、家族支援や多職種連携、セルフケア支援など、多面的なアセスメント力が求められる分、ケーススタディの題材も豊富です。
「在宅でこそ、もっと看護を深めたい」「学びを活かせる現場で働きたい」と感じた方は、職場選びを見直してみるのも一つの方法です。
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<参考サイト・文献>
泉,キューブラー・ロスと死ぬ瞬間, 薬理と臨床 第31巻第2号2021年5月.
NsPace Careerナビ 編集部 「NsPace Career ナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「NsPace Career」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。
