患者に寄り添う看護レポートとは?書き方4ステップと具体例を紹介

「患者に寄り添う看護」は、看護師にとって不可欠なテーマですが、レポート課題では「何を書けば良いのかわからない」という声が多いのが現状です。
日本看護協会「看護師のまなびサポートブック」でも、学習し続けることの重要性がいわれており、日々の実践の振り返りとしてレポートの作成が有効です。ただし、レポートは感想文や体験記になりがちであり、看護観や専門的な思考を示すためには、構成と書き方のコツを押さえる必要があります。
この記事では「患者に寄り添う看護レポート」を書く目的と、書き方4ステップを解説します。看護実践を深めるレポートにして、看護師としての評価を高めましょう。
患者に寄り添う看護レポートを書く目的
研修で「患者に寄り添う看護」のレポートが求められる目的は、次のように看護師としての成長を確認するためです。
- 自分の看護観を言語化する
- 患者理解を深める
- 実践を振り返り成長につなげる
レポート作成を通じて、臨床経験を専門的な知識と結びつけられるため、自信を持ってケアできるようになるでしょう。
自分の看護観を言語化する
レポート作成の目的は「寄り添う看護」の定義や価値観を明らかにすることです。
たとえば、エンパワメント理論に基づいて患者さまの自己決定を支援し、看護過程の5段階(アセスメント・診断・計画・実施・評価)に沿って関わることで、看護師の判断に理論的根拠を持たせることができます。こうした理論と実践の結びつきが、専門性を伝えるうえで重要です。
患者理解を深める
レポートで事例を振り返ることは、患者さまの病気や症状の理解だけではなく、その人の人生観や価値観、社会的背景といった側面を掘り下げるための重要な機会です。
患者さまの背景を深く理解できなければ、寄り添う看護は実現できません。
具体的には「なぜ患者さまはあのとき不安そうだったのか」という問いに、病状の進行だけでなく「仕事復帰への不安」や「家族の負担が心配」などの思いまで掘り下げて分析します。
患者理解を深めることで、より個別性を意識したケアを模索できるようになると考えます。
実践を振り返り成長につなげる
レポートを書く目的は、過去の看護実践から、次にどう活かすか課題を見つけることです。
「あの対応でよかったのか?」「あのとき、根拠となる理論はなんだったのか?」と自問することで、これらの経験を現場で役立つ知識に変えられます。レポート作成は、看護師としての成長を可能にするのです。
患者に寄り添う看護レポートの基本構成
レポートでは、自分の振り返りだけではなく、思考と学びを読み手に伝える必要があります。一般的な論文構成である次の型を守りましょう。
- 序論|「寄り添う看護」の場面に選んだ理由
- 本論|具体的な事例とそこから得られた学び
- 結論|自己の課題と今後の看護への活かし方
基本構成を守ることで、看護観と専門的な思考を読み手に伝えられるレポートになります。
序論|「寄り添う看護」の場面に選んだ理由
序論では、この事例をレポートのテーマに選んだ動機と、伝えたい主張を明らかにすることが大切です。レポートのテーマと目的がはっきりしないと、本論での事例や分析の理解が不十分になる可能性があるからです。
たとえば、場面を選んだ理由は「優しく接することができたから」ではなく「いつも笑顔だった患者さまが急に食事を残し始めた。その変化に気づきケアした事例」のように記述します。
序論で主張と動機を明確にすることで、ポイントがわかりやすくなり、読み手もレポートをスムーズに読み進められるでしょう。
本論|具体的な事例とそこから得られた学び
本論は、具体的なエピソードを時系列で書いて、専門的な思考プロセスと学びを示す部分です。
一例として「患者さまの沈黙を尊重し3分間手を握った後、沈黙の有効性にもとづいて声をかけた」と、行動とその裏にある根拠を結びつけて記述しましょう。
本論で思考プロセスを詳細に分析することは、経験を専門的な知識と結びつけ、次の実践につなげる基本となります。
結論|自己の課題と今後の看護への活かし方
結論では、本論で得られた学びをまとめて、自分の課題と今後の展望を述べます。感想や反省で終わらせてしまうと、成長意欲や専門性が伝わらないため注意が必要です。
「沈黙の有効性を活かしつつ、視線や表情といったサインから不安をアセスメントできるようになる」と記述すると「看護師としてどう成長していくか」キャリアプランを読み手に伝えられ評価が高まるでしょう。
患者に寄り添う看護レポートの書き方4ステップ
実際にレポートを書くときの手順を4つのステップで解説します。
- 臨床経験を1つに絞る
- 「どんな寄り添いをしたか」を具体的に書く
- 「なぜその対応をしたのか」を根拠づける
- 「その経験から何を学んだか」を書く
このステップに沿えば、単なる体験談ではなく、思考や学びの伝わる説得力あるレポートに仕上がります。
1.臨床経験を1つに絞る
レポートのテーマは、複数の事例を扱うのではなく、臨床経験を1つに絞ることが重要です。事例を深く掘り下げることで思考や感情、判断のプロセスを分析でき、レポートの質が向上するからです。
具体的には「自分の対応が患者さまに変化をもたらした瞬間」や「対応に迷い、どちらの対応が正しいのか判断に困った場面」を選びましょう。1つの事例を深く考えることが、読み手に学びを伝えるためのポイントです。
2.「どんな寄り添いをしたか」を具体的に書く
レポートでは、「寄り添った」「親身になった」といった抽象的な感情表現ではなく、具体的なケアをイメージできるように書くことが不可欠です。具体的な行動でなければ、読み手はアセスメントや判断の根拠を理解できないからです。
「不安に寄り添った」だけでは伝わりません。たとえば「専門用語を使わず、方言を交えて3回説明した」といった具体例が必要です。
3.「なぜその対応をしたのか」を根拠づける
このステップでは、看護師の行動が感情的ではなく、専門的な知識や理論にもとづいていることを示すことが、レポートの評価の良し悪しをわけるポイントです。「行動」と「根拠」を結びつけることで、客観的に考えられていることの証明になります。
「不安を取り除くため」ではなく、「エンパワメント理論で、患者さまの決定を促すために、必要な情報のみを提供することが最善だと判断したため」のように記述しましょう。
4.「その経験から何を学んだか」を書く
この経験を通じて、看護観や知識がどのように変化したかを結論づけることがレポートの締めくくりです。次の看護にどう活かすかという成長への意思を明らかにしましょう。
「今後は、非言語的サインを読み取り、多職種の情報も含めてアセスメントする」と書くことで今後の看護実践に向けた決意となり、読み手である指導者の評価を高められます。
患者に寄り添う看護レポートを書くときの注意点
次の注意点を確認してレポートを書いてください。
- 患者情報は特定されないようにする
- 学びや根拠を添える
- 主観的すぎる表現は避ける
- 抽象的な表現で終わらせない
これらの注意点を守ることで、倫理的配慮がなされた信頼性の高いレポートとなります。指導者に提出する前に最終チェックしましょう。
患者情報は特定されないようにする
レポートでは、患者さまのプライバシーを保護するため、個人情報が特定されないように配慮し、匿名性を守ることが不可欠です。
実名は避け「70代男性(A氏)」のように、分析に必要な範囲の情報に限定し、背景は一部加工・抽象化する配慮が必要です。これは、看護職としての倫理観や守秘義務の遵守にもつながる重要な視点です。
学びや根拠を添える
レポートでは、「~だと思った」「~と感じた」という感想文で終わらせず、根拠を添える必要があります。
看護実践は感情だけでなく、科学的な知識と理論にもとづくことで、レポートに専門性と説得力が生まれます。
主観的すぎる表現は避ける
レポートを作成する際は、「私は素晴らしい対応をした」「自分が担当して良かった」といった自己評価が高すぎる表現や、独りよがりな解釈は控えましょう。
レポートの目的は客観的な分析と学びを表すことであり、過度な主観は思考が偏っているとネガティブな印象を持たれるため信頼性を損ないがちです。
抽象的な表現で終わらせない
レポートの結論は「これからも頑張る」「患者の気持ちを大切にする」といった精神論や目標で終わらせず、行動できる課題が求められます。
抽象的な目標では、次に何を改善すべきかがはっきりとせず、成長への意欲が読み手に伝わらないからです。「優しく接する」ではなく「非言語的サインを読み取るために、専門文献を読むことを課題とする」のようにすると良いでしょう。
患者に寄り添う看護レポートの具体例
「寄り添う看護」のレポートで専門性や倫理的な思考力をアピールするためには、具体的な事例に焦点を当てましょう。次の事例は、あなたのアセスメント能力を際立たせます。
- 患者の価値観を尊重したケア
- 沈黙や非言語的コミュニケーションの活用
- 不安や苦痛を傾聴し、治療へ前向きに導いた事例
これらのテーマは、スキルだけでなく倫理観やコミュニケーション能力を伝えられます。
患者の価値観を尊重したケア
| 70代の女性患者Aは、食生活への強いこだわりから、医師が指示した低塩分の治療食を拒否し、拒食傾向にありました。看護師は「食べてください」と促すのではなく、患者Aの食文化や人生観を詳しく傾聴し、そのこだわりを理解しました。栄養士や医師と協働し、患者さまの満足度や健康を損なわない範囲で別メニューを提案。患者Aが「これなら食べられる」と、治療への前向きな姿勢を取り戻すことができました。 |
この事例は、看護師が倫理的側面から患者さまの尊厳を守り、治療と価値観の両立を図るケアの重要性を理解していることを証明できます。
沈黙や非言語的コミュニケーションの活用
| 末期がんのBさん(60代男性)は、家族との面会後、言葉を発さず静かに涙を流していました。看護師は、声をかけず、ただそばに寄り添い、優しく手を握るタッチングを選択しました。看護師の温もりに触れるうちにBさんは安堵の表情を見せ、不安が和らいだ様子でした。看護師は、Bさんの表情の変化から、そばにいることが安心感につながったと考えました。今後は、非言語的な反応の意味をさらに深く理解できるよう、文献を活用して学びを深めていきたいと考えています。 |
非言語的なサインを読み取るアセスメント能力と、信頼関係の構築についての事例です。看護師として、非言語的サインからニーズを探る重要性を再認識し、今後の実践に活かせるでしょう。
不安や苦痛を傾聴し、治療へ前向きに導いた事例
| 緊急手術が必要なCさん(40代)は「仕事に穴を開けられない」と手術を頑なに拒否していました。看護師は、Cさんは仕事復帰に不安があるのではないかと考えました。医師とソーシャルワーカーと連携し、リハビリテーション専門の具体的な情報と、職場への復帰時期の見通しを伝えました。Cさんは「未来が見えた」と安心し、手術を受け入れるようになりました。 |
この事例は、看護師が傾聴を通じて不安の根源を特定し、患者さまの心理的な問題を解決に導く能力を持っていることを示します。
関連記事:寄り添う看護の具体例5つ!重要視される理由と実践ポイントを解説
患者に寄り添う看護レポートについてのよくある質問
ここでは、患者に寄り添う看護レポートについてのよくある質問に回答します。
Q1:患者に寄り添う看護レポートの参考文献の書き方は決まりがありますか?
レポートの参考文献の書き方は、職場が指定するルールに従ってください。指定がない場合は、日本看護協会誌や看護研究などの学術誌で用いられるように、次の書き方を参考にするのがおすすめです。
また、最新の看護研究論文やエビデンスに基づくガイドラインを参考にすることで、レポートの専門性や信頼性を高めることができます
| <雑誌の場合> 著者名全員(西暦発行年).表題.雑誌名,巻(号),開始ページ-終了ページ. [例] ◯◯◯◯,◯◯◯◯(1998).看護基礎教育入門.日本看護学教育学会誌,2(1), 32-38. <書籍の場合> 著者名(西暦発行年).書籍名.引用箇所の開始ページ-終了ページ,出版地:出版社名. [例] ◯◯◯◯(2005).看護教育入門編.23-52,東京:看護教育出版. |
Q2:患者に寄り添う看護レポートの書き出しはどうすれば良いですか?
レポートの書き出しは、テーマと目的を簡潔に示すことが重要です。具体的には、次のように書きましょう。
| 「本レポートは、〇〇病棟での実習において、価値観の相違から治療への意欲が低下していた患者Aへのかかわりを振り返り「寄り添う看護」の定義と実践方法を考察することを目的とする。」 |
Q3:患者に寄り添う看護レポートは何文字くらいで書けば良いですか?
文字数は、課題の指定に従うのが基本です。指定がない場合、一般的なレポートは2,000~4,000文字程度が多い傾向ですが、学校や研修施設によって異なるため、必ず事前に確認しましょう。
Q4:患者に寄り添う看護レポートの「体験」が思い浮かばないときはどうすれば良いですか?
レポートには「特別な感動」や「劇的な出来事」を探す必要はありません。次の日常的な場面を掘り下げてみましょう。
- 沈黙の瞬間:患者さまが話さなかった間に何をアセスメントしたか
- 自己決定の瞬間:患者さまが選択をしたとき、尊重するために何をしたか
- 不安のサイン:患者さまの表情や視線の変化にどのように気づき対応したか
Q5:失敗した場面を書いても大丈夫ですか?
看護師のレポートでは、失敗した場面を書いても問題ありません。失敗した場面こそ、深い学びにつながる可能性があります。
ただし、失敗を反省で終わらせず「あのとき、なぜ失敗したのか」を分析し「その失敗から何を学び、今後の看護にどう活かすか」という結論につなげることが大切です。
患者に寄り添う看護レポートは看護観を深めるチャンス!基本構成を守って作成しよう
「患者に寄り添う看護レポート」は看護観を深め、専門的な思考力を鍛えるチャンスです。
単なる体験記ではなく「序論・本論・結論」の基本構成を守り、具体的な行動と専門的な根拠のあるサポートを提出することで、次のケアに活かすことができ、指導者から高い評価を得られるでしょう。
これまでの経験で培った「寄り添う看護」を活かせる職場を探したい方は、訪問看護に特化した求人サイトであるNsPaceCareerへご相談ください。あなたの看護観に合った最適な職場探しをサポートします。
<参考サイト・文献>
NsPace Careerナビ 編集部 「NsPace Career ナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「NsPace Career」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。
