申し送りがうまい看護師になるには?3つの例文と伝え方のコツを解説

「申し送りが近づくと、頭が真っ白になってしまう…」
そんな経験、ありませんか?
看護師なら誰でも一度は感じるこの“申し送りの壁”。でも、ちょっとしたコツと準備で、誰でも『伝えるのがうまい人』になれるのです。
申し送りは、患者さまの安全を守る大切な業務のひとつです。
この記事では、看護師の申し送りに必要な基本の項目や活用できる例文、効率的なメモの取り方を紹介します。申し送りの不安を解消し、自信を持ってチームの一員として活躍するための一歩を踏み出しましょう。
看護師における申し送りとは
厚生労働省による医療事故の分析でも、医療従事者間での連絡や情報伝達の不足が原因となるヒヤリ・ハット事例が多く報告されています。つまり、申し送りの質は、患者さまの安全につながっているといえるのです。
- 申し送りの目的
- 申し送りで必ず伝えるべき4つのポイント
- 状況に応じて伝えるべき項目
ここからは、申し送りの目的や基本の項目を解説します。なぜ申し送りが重要なのか、基礎を確認していきましょう。
申し送りの目的
看護師の申し送りは「患者さまの安全を守るために、必要な情報を正確に次の担当者に引き継ぐこと」が目的です。厚生労働省が定める「新人看護職員研修ガイドライン」でも、看護職員を支える要素として「事故防止のためのチーム医療に必要なコミュニケーション」が挙げられています。
申し送りをしても情報の共有が不十分だと、ケアの不足や医療ミスにつながる恐れがあります。チーム医療の一環として、申し送りを通して患者さまをスタッフで支える意識を持つことが重要です。
申し送りで必ず伝えるべき4つのポイント
申し送りの内容を整理するのに役立つフレームワークに「SBAR(エスバー)」があります。病院や施設で広く使われている方法で、漏れなく情報を伝えるのに効果的です。
【SBARの内容】
項目 | 内容 |
S(Situation:状況) | 今、患者さまに何が起こっているのか |
B(Background:背景) | なぜそのような状態になったのか |
A(Assessment:評価) | 患者さまの変化を自分はどうアセスメントしたか |
R(Recommendation:提案・依頼) | 引き継いだ看護師にどうしてほしいか |
このSBARのフレームワークを使えば、聞き手は患者さまの現状から今後の対応までの流れをすばやく理解できます。とくに、緊急性の高い情報を伝える際に役立つでしょう。
状況に応じて伝えるべき項目
SBARに加え、患者さまの状態や状況に応じて、次の項目を付け加えると、さらに丁寧な申し送りになります。
- 今後の計画:今後の検査や処置の予定、リハビリテーションの進捗など
- 注意事項:転倒・転落リスク、感染対策の注意点、食事形態の変更など
- 患者さまの訴え:「痛みが続いている」「お風呂に入りたいと言っていた」など
- ご家族からの要望:「面会時間の変更をお願いしたい」「〇〇は本人に伝えないでほしい」など
これらの情報を付け加えることで、申し送りがより具体的になり、チームで患者さまを多角的にとらえられるようになります。
【状況別】看護師の申し送り例文集
ここからは、「実際にどう話せばいいのか分からない…」という方のために、現場ですぐに使える申し送り例文を3パターンご紹介します。
例1:新規入院患者の申し送り
【例文】
〇〇号室、山田花子さま、75歳女性です。 S:本日10時に右大腿骨頸部骨折で緊急入院されました。 B:既往歴は高血圧、糖尿病です。認知症もあり、見当識障害がみられます。 A:入院時は不安が強く「ここはどこ?」と何度も訴えがありました。医師からご本人と家族に対して「手術は明日午前中の予定」と説明があり、ご本人も理解されています。しかし落ち着かない表情や周囲を見回す様子が見られ、不安は残っているようです。 R:転倒・転落リスクが高いため、巡視時に注意深く観察をお願いします。また、明日オペ室入室まで絶飲食であることもお伝えください。ご家族は朝、来院予定です。 |
新規入院の患者さまは、情報が少ないうえに、不安を抱えていることが多い印象です。患者さまの基本情報に加え、入院時の様子や今後の注意点をしっかり伝えましょう。
例2:状態変化(発熱・血圧低下など)があった患者の申し送り
【例文】
〇〇号室、鈴木一郎さま、68歳男性です。 S:先ほど、体温38.5℃の発熱がありました。 B:今日の朝までは36.8℃で経過していました。血圧120/70mmHg、脈拍98回/分と軽度上昇しています。呼吸状態は安定しており、呼吸苦の訴えはありません。 A:胃癌の術後の創部感染も考えられ、医師に報告しました。血液検査と尿検査が追加で指示されています。 R:採血・採尿後、解熱剤を投与します。今後は30分ごとのバイタルサイン測定をお願いします。解熱剤投与後の効果と、全身状態の変化に注意して観察をお願いします。 |
状態が変化した患者さまの申し送りは、SBARのフレームワークがとくに有効です。客観的な事実と、それに対する自分のアセスメントをしっかりと伝えましょう。
例3:術後患者の申し送り
【例文】
〇〇号室、佐藤健さま、55歳男性です。 S:胃癌の術後1日目です。 B:術後は疼痛コントロールが順調で、PCA(自己調節鎮痛法)を積極的に使われていました。本日午前中より離床し、車椅子座位が可能です。 A:疼痛は安静時VAS3程度と軽減傾向にあります。創部は発赤・腫脹なく、排液量は80ml/8時間(淡血性)で推移しています。ドレーン部位にも異常所見は見られていません。 R:明日より経口摂取開始予定のため、腹部膨満感・嘔気・排便状況などの消化器症状に注意して観察をお願いします。また、創部の発赤・熱感・出血量の変化があれば速やかに報告してください。疼痛増強時にはPCA使用を促して対応をお願いします。 |
術後患者さまの申し送りでは、術後の経過や疼痛コントロールの状況、今後のリハビリなど、その日のポイントを確実に伝えることが重要です。
看護師の申し送りが効率的にできるメモの取り方
「申し送りのメモがごちゃごちゃして、何がどこに書いてあるかわからない…」「メモを取るのに必死で、患者さまの話に集中できない…」と悩む看護師は少なくありません。
効率的なメモの取り方を身につけることで、申し送りにかかる時間を短縮でき、ポイントを絞って次の担当者に伝えられるでしょう。
「話す順番」でメモする
情報収集に使うメモの患者さまごとのスペースに、あらかじめSBARと書き込んでおくのがおすすめです。
【SBARメモの例】
S: B: A: R: |
業務中に患者さまから得た情報や実施したケアを、このフレームワークに沿って記録していきます。
【例:患者さまが「胸が痛い」と訴えられた】
S:胸痛の訴えあり B:術後3日目 A:バイタル安定。心電図に変化なし R:医師に報告済み。次回バイタル測定時にも確認 |
このように、その場でサッと書き込む習慣をつけることで、申し送り前にあらためて情報を整理する手間が省けます。口頭でうまく伝えられるでしょう。
申し送りのテンプレートを活用する
詳細な情報整理が必要な場合は、あらかじめテンプレートを作っておくと便利です。ノートや電子カルテのメモ機能に、自分なりのテンプレートを登録しておきましょう。
【申し送りテンプレートの例】
部屋番号・氏名 | |
基本情報 | 疾患・入院目的・年齢など |
今日の経過 | 時間帯にわけて書く |
バイタルサイン | 血圧・SpO2・体温など |
訴え | 疼痛・気分不快など |
処置 | 点滴・創処置・リハビリなど |
検査 | 血液検査・画像検査など |
今後のケア | 注意点・観察項目・処置予定など |
その他 | 家族の要望・他職種との連携など |
このテンプレートを埋めるようにメモを取っていくと、抜け漏れなく、聞き手にも伝わりやすい申し送りができます。自分にとって使いやすいようにカスタマイズして、オリジナルのテンプレートを作ってみるのも良いでしょう。
看護師の申し送りのコツ
申し送りは、ただ情報をならべるだけでは不十分です。ここでは、聞き手がより理解しやすく、スムーズに伝えるための4つのコツをご紹介します。
- 結論から伝える
- 「客観的な事実」と「自分の考え」を区別して話す
- 具体的な数字や表現を使う
- 患者一人ひとりの「ポイント」を明確にする
それぞれのコツを押さえて、申し送りで患者さまの情報をしっかりと伝えましょう。
結論から伝える
申し送りが苦手な看護師は、情報を伝えたいあまり、話が長くなってしまいがちです。しかし、相手はまず「結論」を知りたいと思っています。
【NG例】 | 【OK例】 |
「朝から〇〇さんの食事の摂取量が少なくて…でも水分は取れていて、バイタルは安定しているんですが、血圧がちょっと高めで…」 | 「〇〇さんの食事量が、今朝から半分ほどに減っています。水分は自力で取れており、バイタルも安定していますが、血圧が普段より少し高めです」 |
まず、伝えたいことから話し始めましょう。結論を先に伝えることで、聞き手は話の全体像を把握しやすくなります。
「客観的な事実」と「自分の考え」を区別して話す
申し送りでは「調子が良さそうです」というような、主観的な表現は避けましょう。
まずは「客観的な事実」を具体的に伝えます。そのうえで「自分の考え(アセスメント)」を添えることで、説得力のある申し送りになります。
【NG例】 | 【OK例】 |
「今日は少し元気がないみたいです」 | (事実)「リハビリ後、ベッドサイドで横になり、うつろな表情で一点を見つめていました」 (考え)「疲労もあるかと思いますが、精神的な落ち込みもみられるため、今後も様子を観察すべきと考えています」 |
【OK例】のように「事実」と「考え」を区別すると、聞き手は事実にもとづいて状況を判断できるだけでなく、あなたのアセスメントや看護観も理解できます。
具体的な数字や表現を使う
「熱が高い」「咳が出る」といったあいまいな表現ではなく、具体的な数字や表現を使って伝えましょう。
【NG例】 | 【OK例】 |
「熱が高かったので、解熱剤を使いました。」 「咳がよく出ています。」 | 「体温38.5℃ありました。解熱剤を使用後、37.2℃まで下がっています」 「湿性咳嗽が頻回にみられ、SpO2は95%まで低下しました」 |
このように、誰が聞いても同じように認識できる情報を伝えることが重要です。
患者一人ひとりの「ポイント」を明確にする
患者さまには、その日の重要な「ポイント」があります。それは、今後の看護の方向性を決める重要な情報です。
【ポイントを伝える例】
「〇〇さんは、今日初めてリハビリを頑張ったので疲労の蓄積と転倒リスクに注意して観察をお願いします」 「〇〇さんは、腹痛の訴えが強いので、疼痛コントロールに注意してください」 |
このように、その日の看護のポイントとなる部分を明らかにすることで、次に担当する看護師が、どこに注意して業務にあたるべきかすぐに判断できます。
看護師の「申し送りが苦手」を克服するために
申し送りが苦手だと感じる原因は、人それぞれです。しかし、その多くは「完璧に話さなければ」というプレッシャーからくるものでしょう。ここでは申し送りが苦手という思いを克服するためのヒントを紹介します。
- 事前の準備をする:勤務中にメモを取り、申し送りの5分前に内容を整理する時間を取る
- 先輩に相談する:不安なことや、どう伝えたらいいかわからないことは「〇〇さんの情報は、どう伝えたらわかりやすいですか?」と先輩に相談してみてください
申し送りは、場数を踏むことで上達します。毎日が練習だと考えて、小さな成功体験を積み重ねていきましょう。
看護師の申し送りでよくある質問
看護師の申し送りに関して、よくある質問とその回答をまとめました。
Q1:申し送りで大切なことは何ですか?
申し送りで大切なことは「患者さまの安全を守る」という目的を意識することです。そのうえで、次の3つのポイントを心がけましょう。
- 正確に具体的に伝える:あいまいな表現を避け、具体的な数字や客観的な事実を伝えること
- 要点をしぼって伝える:結論を先に話し、必要な情報を効率よく伝えること
- 「なぜ?」を説明できるようにしておく:なぜその情報が重要なのか、自分のアセスメントや今後の注意点を説明できるようにしておくこと
これらを意識すると、次に申し送りを受ける看護師が患者さまの状態を正確に把握でき、質の高いケアを継続できます。
Q2:術後の申し送りの目的は何ですか?
術後の申し送りのおもな目的は、術後の合併症を早期に発見し、適切な対応につなげることです。手術後は、さまざまな合併症のリスクが高まります。そのため、術後の申し送りでは、次のポイントを重点的に伝えましょう。
- バイタルサインの変化:血圧や脈拍の変動、SpO2の低下など
- 出血の有無と量:ドレーンからの排液量や性状、創部の状態など
- 疼痛コントロールの状況:鎮痛剤の効果や、痛みの訴え
- 循環動態と呼吸状態:呼吸音や浮腫の有無、冷感など
これらの情報を正しく共有すると、異常の早期発見と迅速な対応が可能になり、患者さまの安全の確保につながります。
完璧な申し送りより、患者のための確実な情報共有を
申し送りは、慣れるまでは緊張や不安がつきものです。「うまく話さなければ」「ミスしたらどうしよう」とプレッシャーを感じることもあるでしょう。
ただし、申し送りで大切なのは、完璧に話すことではありません。次に勤務する看護師が、安心して患者さまをケアできるよう、必要な情報を正確にわかりやすく伝えることです。
まずは自分なりに準備を重ねて、伝えるべきことを確実に届けられるようにしましょう。その積み重ねが、信頼される看護師としての一歩になります。
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<参考サイト>

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