ウェルネスとは?看護領域で活用できる3つの場面と看護診断の例を解説

「ウェルネス」と聞いても、どこか抽象的で、看護の現場でどう活かせばいいのかピンとこない――そんなモヤモヤを感じたことはありませんか?
確かに、ウェルネスは一般的に「健康的なライフスタイル」として語られることが多く、看護師として「その人らしい生き方を支えるケア」にどうつなげればいいのかが見えにくい部分があります。
この記事では、看護の視点からウェルネスをどう捉えるべきかを丁寧に紐解きながら、実際にどのような看護場面で活用できるのか、さらにウェルネス型の看護診断をどう現場に落とし込むかまでを具体的にご紹介します。
読み終えるころには、「できないことを補う」ケアから一歩進んだ、「その人の強みを引き出す」ウェルネス志向の看護が、自分の中に根づいているはずです。
ウェルネスとは「より良く生きること」|看護分野と一般的な概念との違い
看護分野で求められるウェルネスは、単なる健康的な生活にとどまらず「どのような状態でも、その人らしく生きられるように支えること」を指します。一般的なウェルネスとの違いは、次のとおりです。
項目 | 一般的なウェルネス | 看護分野のウェルネス |
定義 | 「自分の力を発揮しながら、自分らしく前向きに生活し、周りの環境も健康的に整えていこう」という考え方 | 問題だけでなく、その人の健康的で良好な部分にも目を向けて支援する考え方 |
ポイント | 生活習慣を見直す、行動に移す、価値観の変化を促す、評価して改善するの一連の流れを繰り返す | 患者さまがもともと持っている「強み」に着目し、個人の能力を引き出す |
ウェルネスという言葉は近年、あらゆる業界でビジネスや生活改善のキーワードとして注目されています。
一方で、看護の場面では、疾患や障害の有無だけでなく、患者さまの価値観や生活背景、社会的つながりまで含めて全体を見渡す姿勢が求められます。
ウェルネスを活用できるおもな3つの看護場面
ウェルネスの視点は、看護実践のさまざまな場面で応用されています。
とくに「その人らしく生きる」ことを支える必要がある次の領域では、ウェルネス志向のケアが役割を果たします。
- 母性看護
- 老年看護
- 在宅看護
詳しく見ていきましょう。
1.母性看護
母性看護では、妊娠・出産・育児という人生の変化を迎える女性に対して、身体的な変化だけでなく心理的・社会的な側面にも寄り添った支援が必要です。
たとえば、妊娠中の不安や育児への期待などは、個人の感情や価値観によって異なります。
ウェルネスの視点を取り入れると「健康な妊娠・出産を迎える」ことだけでなく「自分らしく母親としての役割を築く」プロセスまで支援できます。
また、家族やパートナーとの関係性まで含めてケアすることで、より広い視点で母性を捉えられるのです。
2.老年看護
高齢者看護のポイントは、加齢による身体機能の低下や慢性疾患の影響を受けながらも、生活の質(QOL)を維持・向上させることです。
ウェルネスの考えにもとづくと「できないことの改善」だけでなく「今できていること」や「本人の楽しみ・生きがい」を見出せ、日常生活に合わせた支援へとつなげられます。
編み物を楽しみにしている高齢者の場合、目の負担を減らすために照明を準備したり、手指の動きを保つためにリハビリテーションをおこなったりして、趣味を続けられる環境づくりが可能です。
このように、日常生活のなかにある楽しみを支えることは、高齢者の意欲や自立した生活の継続に大きく役立ちます。
3.在宅看護
在宅や地域における看護では「病院中心の医療」から離れ、生活の場を支える支援へと切り替える必要があります。
「最期まで自宅で過ごしたい」という希望に沿い、次のような支援をおこなうことが「その人らしい生活を送る」というウェルネスの理念につながります。
- 訪問看護師と協力し、痛みや不安をコントロールしながら生活できる体制を整える
- ご家族の介護の負担を減らすために動線を考えてベッド・福祉用具を置く
- 民生委員や地域の方の訪問機会を整える
利用者さまの価値観や強みを活かしつつ、自分らしい最期を迎えるための環境づくりが、QOLや自己決定を尊重するかかわりとなるでしょう。
このように訪問看護は、患者さまのウェルネスを重視した看護を実践するのにおすすめの分野です。訪問看護の求人を探す際には、訪問看護専門求人サイト「NsPaceCareer」を活用すれば、条件に合った職場を効率よく見つけられます。
ウェルネスの理念を実践できる訪問看護で、自分らしい看護を始めてみましょう。
ウェルネス型看護診断の具体例
ウェルネス型看護診断は、より良いレベルを目指す意欲や状態を維持している場合に活用する臨床診断です。
特徴は「できていないこと」ではなく「すでにある強みをさらに伸ばしたい状態」に着目する点です。
ここでは多くの病院で採用されている「NANDA-I看護診断」を用いて、母性看護、老年看護、在宅看護の場面での活用例を解説します。
母性看護で活用できるウェルネス型看護診断
項目 | 内容 |
NANDA-I看護診断名 | 出産育児行動促進状態 |
定義 | 出産や育児に関連した健康行動をより効果的にする準備が整っている状態 |
活用できる場面 | ・妊娠中の女性で、出産や育児を学びたいと考えている ・母親学級や両親学級に積極的に参加しようとしている ・育児経験はあるが、より良い育児をしたいと新しい知識やスキルを取り入れる意欲がある |
妊娠・出産・育児に向けた前向きな姿勢を具体的な行動につなげるために活用します。日々のかかわりやアセスメントで把握した意欲や強みを、育児スキルの習得や家族関係づくりの計画に反映させましょう。
老年看護で活用できるウェルネス型看護診断
項目 | 内容 |
NANDA-I看護診断名 | 健康自己管理促進準備状態 |
定義 | 慢性疾患を抱えながらも、健康管理をさらに効果的におこなえるようにする準備ができている状態 |
活用できる場面 | ・慢性疾患を抱えつつ、食事や運動を調整しようとしている ・医師の説明を聞き、治療や薬の管理をしたいと思っている ・健康診断を受けて生活改善に取り組みたいと考えている |
高齢者が持つセルフケア能力や健康意識を評価し、生活の質を高める支援計画に活かします。また、必要に応じてご家族の支援を得ながら主体的に健康管理を進めたいという場合にも活用できる診断です。
在宅看護で活用できるウェルネス型看護診断
項目 | 内容 |
NANDA-I看護診断名 | セルフケア能力促進準備状態 |
定義 | 日常生活動作を自立しておこなう力の強化が可能な状態 |
活用できる場面 | ・脳梗塞後の後遺症で一部ADLに制限はあるが、「できることは自分でやりたい」という意欲がある ・高齢であっても、自立的におこなおうとしている ・COPDや心不全などの慢性疾患を抱えながらも、日常生活動作を無理なく続けたいと考えている |
利用者さまやご家族の意欲や強みを把握し、生活環境の改善やケア方法の検討に活用できる診断です。利用者さまができる部分を伸ばしていくことが、まさにウェルネス志向の在宅看護といえます。
ウェルネスの視点をアセスメント・看護計画に活かす方法
ウェルネスの視点を看護実践に落とし込むためには、アセスメントや看護計画の立案方法にも工夫が必要です。ウェルネス視点を活用するための具体的な方法を解説します。
できていること・強みに着目してアセスメントする
従来の看護アセスメントでは「問題点の把握」がおもな目的とされてきましたが、ウェルネスの視点では「患者さまの力」や「前向きな姿勢」に注目します。
たとえば、日常生活動作の一部が自立している場合は「どこができているか」「どうすれば維持・向上できるか」という観点でアセスメントをおこないます。
これにより、患者さまが「自分にもできることがある」と実感できるようになり、着替えや食事など日常生活動作を自らおこなう成功体験を積み重ねられるのです。こうした経験を引き出すためにも、強みを見極めるアセスメントが重要です。
ウェルネスにもとづいたゴールを設定する
ウェルネスの視点を看護計画に活かすには「その人がどのように生きたいか」「何を大切にしているか」にもとづいたゴールが必要です。
「安全に自宅の庭を散歩する習慣を取り戻す」といった、患者さまの生活やこれまでの習慣に即した目標が良いでしょう。
このようなゴール設定は、看護の質を高めるだけでなく、患者さまの満足度や生活の質の向上にも影響します。
ポジティブな看護診断を活用する
NANDA-Iには「健康増進の準備ができている状態」といったポジティブな診断名があり、ウェルネスの視点に適しています。
たとえば「健康管理行動の強化の準備ができている」といった、患者さまの前向きな状態を評価できる診断名を活用すると、課題ではなく「可能性」に目を向けた支援がおこなえます。
ポジティブな看護診断を使うことで、看護師も「できることに注目する」思考へと変化するため、ケアの質が向上するでしょう。
患者さまの思いや生活背景を記録に反映して共有する
看護記録においても、症状や処置の記録だけでなく、患者さまの価値観・思い・生活背景を反映することで、チーム全体で「その人らしさ」を共有できます。
たとえば「週に一度、孫とのビデオ通話が楽しみ」という情報を共有すれば、次のような支援が可能です。
- タブレットやスマートフォンの操作方法をサポートする
- 通話がしやすい時間帯に合わせてスケジュールやケアを調整する
- 通話時に快適に過ごせるよう、静かな環境や座位保持を整える
このように、記録を通じた情報共有は、患者さまの思いに寄り添ったケアを実現できるでしょう。
看護分野のウェルネスについてのよくある質問
看護分野のウェルネスについてのよくある質問にお答えします。現場でウェルネス志向を取り入れる参考にしてください。
Q1:看護診断にはウェルネス型のほかにどのような種類がありますか?
看護診断は、ウェルネス型のほかに、次の3つがあります。
- 現在起きている問題に対して立案される「問題焦点型」
- 問題が複数発生するときに使用する「シンドローム型」
- 将来的に問題が発生するリスクがある場合に用いられる「リスク型」
看護診断には患者さまの現状や予測される状態に応じて複数の型があり、ウェルネス型はそのなかでもポジティブな変化や健康増進の可能性に焦点を当てる点が特徴です。
Q2:ウェルネスとウェルビーイングの違いは何ですか?
「ウェルネス(Wellness)」と「ウェルビーイング(Well-being)」は似ている概念ですが、ニュアンスが異なります。
健康のために運動や食事に気を配ることはウェルネスの実践であり、それにより得られる心身の充実感はウェルビーイングといえるでしょう。
看護分野では、ウェルネスを「行動や生活を支援する視点」、ウェルビーイングを「その人のQOLや幸福感を評価する視点」と区別して使うこともあります。ただし、文献により解釈が異なるため注意が必要です。
ウェルネス視点の看護を理解して日常のケアに活かしましょう
看護の現場では、看護師も患者さまも「できないこと」に目が向きがちです。
しかし、ウェルネスの視点は、そうした考え方に偏りがちな場面で、今できていることや、これから伸ばせる可能性に焦点を当てる支えとなります。
ウェルネスを取り入れることで、患者さまも「自分にもできることがある」という自信を持て、看護師はその強みを活かしたケア計画を立てられるようになります。
日常のケアでもウェルネスを意識し、患者さまのQOLの向上、看護師のやりがいを実感できる看護へとつなげましょう。
<参考サイト・文献>
戦略3「ヘルスケア・ウェルネス戦略」|日野市公式ホームページ
T.ヘザー・ハードマン,上鶴重美,カミラ・タカオ・ロペス,NANDA-I看護診断-定義と分類2024-2026原書第13版,2025年,医学書院,p182,371,466.
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