ナラティブ看護とは?4つの目的と事例、実践できる場所を解説

患者さまとかかわるなかで「もっと患者さまの気持ちに寄り添いたい」「どうしたら信頼関係を築けるだろう」と感じている看護師の方もいらっしゃるでしょう。
このようなときに知っておきたいのが「ナラティブ看護」です。患者さまに合ったケアを提供するためには、このナラティブ看護が不可欠です。
この記事では、看護師が理解しておきたいナラティブ看護の基礎から実践方法まで、詳しく解説します。最後までお読みいただくと、看護の現場ですぐに活用できる知識が身につくため、ぜひ参考にしてください。
ナラティブ看護とは対話によって信頼を築く看護
ナラティブ看護について理解するために、まずは基本的な定義と、なぜ注目されているのかを詳しく見ていきましょう。
ナラティブ看護の定義
ナラティブ看護は、患者さまの体験や思いを大切にし、対話を通じて信頼を築く看護実践の方法です。
ナラティブとは、出来事や経験を順序立てて語る「物語・語り」の意味を持ち、医療・看護では患者さまの経験や価値観を共有することを指します。患者さまが自分の病気や治療に対してどのように感じ、どのような体験をしているかに耳を傾けるのがナラティブ看護といえます。
ナラティブ看護は患者さま一人ひとりの体験や価値観を重視し、患者さま中心のケアを実現できるでしょう。
ナラティブ看護が注目されている理由
ナラティブ看護が注目されているのは、病気を治すだけでなく、患者さまの感情や考えに寄り添えるからです。
現代の医療では、エビデンスにもとづき、どの患者さまにも同じようにケアすることが求められる一方で、一人ひとりの体験や感じ方が十分にくみ取られない場合があります。ナラティブ看護は、この課題を解決するアプローチとして注目されているのです。
患者さまが体験を語ることで、看護師は症状だけでなく、その背景にある生活習慣や価値観、家族関係、これまでの治療経験まで含めて理解できます。さらに、語ることで患者さま自身が自分の力に気づき、前向きになれる点も魅力のひとつです。
ナラティブ看護の4つの目的と得られる効果
ナラティブ看護の実践で得られる効果は、次のように多岐にわたります。
- 患者さま中心のケアを実現する
- 患者さまとの信頼関係が深まる
- 患者さまの自己決定を尊重・促進する
- 看護師自身が成長できる
詳しく解説します。
1.患者さま中心のケアを実現する
患者さまの物語を聴くことで、看護師はその人のニーズを理解し、最適なケアを提供できます。
たとえば、同じ糖尿病の患者さまでも、人によって困っていることは違います。Aさんは仕事の都合で食事の時間がバラバラになり、血糖コントロールが難しいと思っている一方、Bさんは食事制限で家族と同じメニューを食べられず、孤立感を感じているかもしれません。
同じ病名でも、生活や気持ちによってケアのポイントは変わるのです。ナラティブ看護では、こうした生活背景や感情を大切にし、柔軟なケアをおこないます。
2.患者さまとの信頼関係が深まる
ナラティブ看護の目的のひとつは、患者さまと信頼関係を築くことです。患者さまが自分の体験を語ることで、症状だけでなく、次のようなことを知るきっかけになります。
- 生活の様子や大事にしていること
- 家族との関係
- 過去の治療の経験
事例としてがん治療中の患者さまが「味覚が変わり食事が楽しめない」と語ったとしましょう。これらのストーリーから、看護師は「少量でおいしいと感じられる食事の提案」や「ご家族との食事時間を維持する工夫」など、患者さまの満足度を高める支援につなげられます。
対話により信頼関係が深まると、患者さまは自分の思いや不安を話しやすくなるため、治療やケアに前向きに取り組めるようになります。
3.患者さまの自己決定を尊重・促進する
ナラティブ看護は、患者さまの自己決定の尊重・促進を目的としています。
患者さまが自分の物語を語ることで、これまでの経験や感情が整理され「自分にとって何が大切か」がはっきりし、自分らしい選択がしやすくなるためです。
治療について話す際も、自身の生活背景や価値観をふまえ、治療が自分の人生にどのように影響するのかをイメージできるようになるでしょう。看護師は、患者さまが自分の意志で治療の方向性を決められるようにサポートし、自信を持てるよう支援します。
患者さまは納得のいく治療を受けられるため、治療への満足度・生活の質の向上が期待できます。
4.看護師自身が成長できる
患者さまの物語に真摯に耳を傾けることで、看護師の相手の立場に立って物事を考える力が向上し、患者さまの気持ちの理解が深まります。
また、患者さまのさまざまな体験や価値観に触れることで、看護師自身の視野が広がり、臨機応変に対応できるようになります。こうした成長は、看護師としての専門性を高め、温かみのあるケアの提供につながるでしょう。
ナラティブ看護の実践場面と具体例
ナラティブ看護が活用できる、次の場面の実践例を解説します。
- 日常的なケア場面
- 在宅・地域でのかかわり
- ターミナルケア
- 急変・緊急時
具体的な事例を知り、ぜひ現場で取り入れてみてください。
日常的なケアの場面
<実践例> 患者さまが会話のなかで亡くなった妻のことに触れた際に、看護師が「奥さんはとても優しい方だったのですね」と何気なく語りかけた。この言葉に患者さまは、看護師が亡くなった妻のことを人として認め、優しい方という表現で敬意を示してくれたと感じ「人生で大切にしていた人を、看護師も大切に思ってくれている」と感じられた。 |
患者さまの語る物語を共感的に受け止めることで、その人が大切にしてきた出来事や人物に込めた思いまで知ることができ、看護師のケアや声がけにも活かせます。信頼関係が深まり、患者さまに合ったケアが提供できるようになるでしょう。
在宅・地域でのかかわり
<実践例> 重症筋無力症患者の女性が自身の在宅療養生活について語ったナラティブを通じて、病気以上に孤独、不安、社会保障の不足、疎外感などに苦しんでいることが明らかになった。このナラティブを通じて、利用者さまは自らの体験に意味を見出して感情を整理でき、看護師は利用者さまの苦しみを理解し、支援方法を見つけられた。 |
在宅療養中の利用者さまは、家庭内での生活や日常的なサポートについて多くの思いを抱えています。看護師が利用者さまとそのご家族の物語を聴くことで、健康状態や生活の質が向上する方法を見いだせ、利用者さまの満足度が高まるケアが提供できます。
ターミナルケア
<実践例> 緩和ケアを受けている患者さまに、看護師が「人生で記憶に残っていること、大切なことは何ですか?」「もう一度話しておきたいことはありますか?」といった質問を通じて、患者さまの人生についての話を傾聴し、それを形として残した。 |
ターミナルケアでは、患者さまの人生の総括や死に対する不安を理解し、患者さまの意思を尊重したサポートが求められます。ナラティブ看護の活用によって、患者さまが自分らしく過ごすために支援できるでしょう。
急変・緊急時
<実践例> 交通事故で救急搬送されてきた子どもの保護者に、病状や今後の治療について医師から説明した後に、看護師がベッドサイドでご家族に声をかけた。「お子さんのこと心配ですよね…。先ほどの先生からの説明で難しかったことはありませんか。」ご家族は、涙を流しながら子どもの誕生日の準備をしていた矢先だったこと、自宅で留守番をしている兄弟児のことが心配であることなど、堰を切ったように話し始めた。患者さまの生活や、保護者であるご家族の想いを聴くことで、今後のケアに活かせる情報がたくさんあり、翌日のカンファレンスでは継続した支援のための共有がチームでなされた。 |
急変時や緊急時には、患者さまが話せない場合が多く、ご家族の不安や疑問が強くあらわれます。このような状況でも、看護師はご家族の感情に寄り添い、タイムリーな情報提供を通じて信頼関係を築かなければなりません。
そこでナラティブ看護を実践すると、ご家族が抱える不安や思いを言葉で表出でき、感情の整理と患者さまを思った治療の選択ができるようになります。
ナラティブ看護を実践するうえで注意すべきこと
ナラティブ看護は、あらゆる場面で実践できる一方、注意しなければならない点があります。2つのポイントを詳しく見ていきましょう。
プライバシーと尊厳を守る
ナラティブ看護を実践する際に重要なのは、患者さまのプライバシーと尊厳を守ることです。というのも、患者さまが自分の物語を語る際には、個人的な内容や感情が含まれるためです。
看護師は患者さまの情報を次のように適切に取り扱い、信頼を損なわないように配慮しなければなりません。
- 患者さまが話した内容を無断でほかの人に伝えないようにする
- 患者さまの同意を得て、必要な場合に限ってほかのスタッフと共有する
- 患者さまが語りたいことを自由に話せるように安心できる環境を整える
こうした環境があると、患者さまも心を開きやすくなり、ナラティブ看護の効果が高まります。
感情的なサポートを提供する
患者さまが自分の体験を語る際、過去のつらい経験や病気の不安などがよみがえり、心に負担を感じる場合があります。
たとえば、副作用で体調がつらいことや、将来どうなるかわからなくて不安な気持ちを話して、涙を流すこともあるでしょう。
このとき、看護師はその感情を否定したり、急いで答えを出そうとしたりせず、ただ耳を傾けて共感することが大切です。看護師が患者さまの感情を受け止めることで、患者さまは思いを整理し、不安をやわらげられます。
ナラティブ看護についてのよくある質問
ナラティブ看護について、よくある質問をまとめました。患者さまの本当の思いに寄り添ったケアを提供したい看護師は、ぜひ活用してください。
Q1:ナラティブ看護をレポートに書き残すポイントはありますか?
ナラティブ看護をレポートに書く際には、患者さまの物語を中心に、ケアがどのようにおこなわれたのかをはっきり示すことが重要です。次のポイントを押さえて記述してみてください。
- 患者さまの語りを忠実に記録する
- 看護実践としての効果を評価する
- 今後の看護実践にどう活かすかを考える
これらを意識して振り返られると、患者さまとの会話や反応から何を感じ、どのようにケアに活かせたかを整理できます。ナラティブ看護の成果をエピソードとしてレポートにまとめられるでしょう。
Q2:ナラティブ看護を小児の患者さまに実践するときに注意することは何ですか?
小児の患者さまにナラティブ看護を実践する際は、無理に話させることなく、子どもの発達段階に合わせたアプローチが必要です。
たとえば、注射を怖がっている未就学児には、ぬいぐるみを使って「くまちゃんも注射を受けたよ。怖かったなあ。君はどう?」と、子どもが自分の恐怖心を表現できるように促します。
年齢に合った方法でコミュニケーションを取りながら、子どもの感情を尊重することが、小児におけるナラティブ看護の大切なポイントです。
Q3:ナラティブ看護は新人でも実践できますか?
ナラティブ看護は、新人看護師でも実践可能です。
最初は「どこまで話しても良いのかな」と難しく感じるかもしれませんが、患者さまとの対話を重ねていくうちに、その重要性や効果を実感できるようになります。
ただし、ナラティブ看護には十分な経験やサポートが必要であるため、先輩看護師のサポートを受けながら、少しずつ慣れていくと良いでしょう。
ナラティブ看護を実践して患者さま中心のケアを実現しましょう
ナラティブ看護は、患者さまの体験や感情に寄り添い、患者さま中心のケアを実現するためのアプローチです。
患者さまが自分の物語を話すことで、看護師は価値観やニーズを深く理解できるため、より個別的なケアを提供でき、療養生活の質の向上が期待できます。
とくに、訪問看護の現場では、ナラティブ看護を活かした患者さまの思いに沿ったアプローチが必要です。
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<参考サイト・文献>

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