アドボカシーとは?看護における意味と4つの実践例をわかりやすく解説

「アドボカシーって何?」「患者さまの代弁者として看護師は何をすれば良いの?」
アドボカシーについて、このような疑問を持つ方もいるでしょう。アドボカシーは、看護師にとって重要な概念のひとつです。患者さまの権利を守り、意思を尊重した看護を提供するために欠かせないスキルといえます。
この記事では、看護におけるアドボカシーについて、意味や実践例、必要なスキルを解説します。患者さまに寄り添った、質の高いケアを実践したい看護師は、参考にしてみてください。
アドボカシーとは「患者の代弁者」としての看護師の役割
まずはアドボカシーの基本的な考え方を確認しておきましょう。
- アドボカシーの語源と一般的な意味
- 看護におけるアドボカシーの定義
- 看護師がアドボカシーを担う理由
上記を解説します。
アドボカシーの語源と一般的な意味
「アドボカシー(advocacy)」は「擁護」「支持」「代弁」を意味する言葉です。
病気や年齢、障がいなどによって自分の気持ちや要望をうまく伝えられない人のために、代わりに声を上げて支援することとして使われています。
支援をおこなう人は「アドボケイト」と呼ばれ、看護師をはじめ、弁護士や社会福祉士など、さまざまな職種でアドボカシーが実践されています。
看護におけるアドボカシーの定義
看護におけるアドボカシーとは、看護師が患者さまの本当の気持ちや希望を汲みとり、医師や家族などに伝える役割のことです。
患者さまのなかには「痛いけど我慢しなければ」「治療について疑問があるけど先生には直接聞きにくい」など、さまざまな思いを抱えている方もいます。
日本看護協会「看護職の倫理綱領」では、患者さまの権利や尊厳を守ることが明記されており、アドボカシーの考え方と深く関係しています。
とくに、意識レベルの低下や認知機能の変化などで、自分の気持ちをうまく言葉にできない患者さまにとって、看護師のアドボカシーは欠かせないサポートです。
看護師がアドボカシーを担う理由
看護師がアドボカシーの役割を担うのは、患者さまにとって身近な存在であるためです。1日を通して患者さまと接するなかで、表情の変化や何気ない一言に気づきやすい立場であるといえます。
たとえば、手術前の患者さまが「先生には言いにくいけど、本当に手術が怖い」と看護師に打ち明けたとしましょう。医師にその患者さまの不安を伝えることで、手術の必要性や実際の手順、術後の生活など、より丁寧な説明につなげられます。
また、医師や栄養士、リハビリスタッフなど、多職種をつなぐ橋渡し役も、看護師の重要な役割です。
看護におけるアドボカシーの4つの実践例
ここからは、アドボカシーの概念を踏まえ、患者さまに寄り添う看護の実践例を紹介します。
- 患者さまの希望や不安を汲みとりチームに伝える
- 治療やケアの選択肢をわかりやすく説明する
- 患者さまの権利や尊厳を守る行動をとる
- ご家族や医療者との間に立って調整する
それぞれみていきましょう。
患者さまの希望や不安を汲みとりチームに伝える
「退院したら1人で生活したい」「この薬を飲み続けて大丈夫?」など、患者さまの気持ちを受け止め、看護師が医師や薬剤師などに伝えることがアドボカシーの基本です。
患者さまのなかには「先生に質問するのは申し訳ない」「薬剤師さんには何となく聞きにくい」と遠慮したり、気持ちをうまく表現できなかったりする方もいます。
看護師は、患者さまの表情や何気ない一言から本音を察知し、チームに伝える役割を担います。
治療やケアの選択肢をわかりやすく説明する
医師からの説明時に医学用語が出てきた場合、患者さまが「何を言われているのかよくわからない」と感じることがあります。看護師は、医師の説明を患者さまが理解できる言葉に変えて伝える役割を担います。
例えば「経皮的冠動脈形成術」という難しい名前の手術も「心臓の血管が詰まっているところを風船で広げる治療です」と説明することで、患者さまもイメージしやすくなるでしょう。
患者さまや家族が治療内容をきちんと理解できれば「この治療を受けたい」「別の方法はないですか」といった率直な意見を言いやすくなります。患者さまの年齢や理解力に合わせて言葉を選び、話しやすい雰囲気を作ることも看護師の役割です。
患者さまの権利や尊厳を守る行動をとる
看護師は、患者さまが大切に扱われているか、プライバシーが守られているかを配慮する必要があります。
一例として、患者さまが「嫌だ」と感じるリハビリがおこなわれそうになったり、十分な説明がないまま治療が始まったりした場合、看護師が間に入り状況を調整することがあります。
「患者さまが安心できているか」「納得して治療を受けているか」を常に考えて行動することで、患者さまの権利や尊厳を守れるのです。
ご家族や医療者との間に立って調整する
看護師は、患者さまとご家族の間に入り、話し合いをサポートする役割を担います。
具体的には、高齢の患者さまが「家に帰りたい」と希望しているのに、ご家族が「施設に入ってほしい」と考えているような場合です。患者さま本人の気持ちが置き去りにされてしまわないよう、それぞれの思いを聞きとり、退院後の生活の場を調整する必要があります。
また、医師と患者さまの間で話がかみ合わないときも、看護師が橋渡し役として、お互いの理解が深まるよう立ち回ります。
看護師がアドボカシーを実践するために必要なスキル
アドボカシーを実践するためには、次のスキルが必要です。
- 傾聴力と観察力
- チーム間での伝達力・調整力
- 倫理的判断力と専門性
- 主体性と責任感
これらの能力は、日々の看護業務を意識的に取り組むことで身につけられるものばかりです。それぞれみていきましょう。
傾聴力と観察力
患者さまが抱える心配事や不安を感じとるためには、傾聴力と観察力が大切です。
たとえば「痛みはどうですか?」と質問した際に「大丈夫です」と返答があっても、いつもより声が小さかったり、目を合わせてくれなかったりする場合があります。これらは何か問題を抱えているサインかもしれません。
こうしたサインを見逃さずに、患者さまの心の変化をいち早く察知して、本当に必要な支援は何かを理解することが、アドボカシーの出発点です。
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チーム間での伝達力・調整力
看護師には、患者さまから聞いた思いを正確に伝え、チームのスタッフ間でスムーズな話し合いができるよう調整する力が必要です。
医師を前にすると緊張して本音を言えない方も、接する機会が多い看護師には「実は夜眠れなくて」「この薬の副作用がつらくて」といった悩みを打ち明けてくれるのです。
看護師が患者さまの声を集め、適切なタイミングで多職種に伝え、協働することで、より良い医療につなげます。
倫理的判断力と専門性
看護師には、医療や看護に関する専門的な知識と、これまでの経験を活かして適切に判断する力が求められます。
アドボカシーを実践するなかで、医師の指示に疑問を感じることもあるでしょう。そのような場合は、日本看護協会が定めた「看護職の倫理綱領」を参考にして「患者さまはこう考えているようです」「別の方法はありませんか」と意見を述べることも大切です。
こうした行動は、単に患者さまの声を代弁するだけではなく「患者さまにとって何が一番良いのか」を常に考え、専門職として最善を尽くすことにつながります。
主体性と責任感
看護師がアドボカシーを実践するには、主体性と責任感が欠かせません。患者さまのために「何ができるだろうか」と常に考え、行動に移すことが重要なのです。
看護師一人ひとりが「患者さまの代弁者は自分だ」という意識を持ってアドボカシーに取り組むことで、病院全体の医療の質も向上していきます。
アドボカシーをもっと活かして働きたいと考える看護師には、訪問看護もおすすめです。訪問看護では、利用者さまと1対1で向き合うため、より個別性の高いアドボカシーを実践できます。
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看護師がアドボカシーを実践するときの注意点
アドボカシーを実践する際には、いくつかの課題や注意すべきポイントがあります。
- 一方的な代弁にならないように注意する
- 自分の価値観を押しつけない
- 多職種と連携し、独断で動かない
- 倫理的ジレンマに直面したときの相談先を把握しておく
それぞれみていきましょう。
一方的な代弁にならないように注意する
患者さまやご家族の立場から見たときにどう感じるかを常に意識し、一方的な判断を避けましょう。看護師が「患者さまのため」と行動しても、実際に患者さまが望んでいることと異なる場合があるためです。
「先生にこのように伝えても構いませんか?」「本当にこれがあなたの気持ちでしょうか?」といった確認を必ずとり、患者さまが主役のアドボカシーを心がけましょう。
また、患者さまの気持ちは日によって変わることもあるため、気持ちに変化があるかどうか、定期的に確認することも重要です。
自分の価値観を押しつけない
「私だったらこうする」「普通はこうするものだ」という自分の考えを患者さまに押しつけてしまうことは、本当のアドボカシーとはいえません。
患者さまが何を大切にして生きてきたか、どのような人生観を持っているかを理解して、その方らしい選択ができるよう支援しましょう。
たとえば、看護師としては「まだ治療を続けてほしい」と思っても、患者さまが「もう十分頑張ったから、自然に任せたい」と考えている場合は、その気持ちを尊重しなければなりません。
人それぞれ考え方や生き方は違います。常に患者さまの立場に立って「何が一番良いのだろう」と考える姿勢を大切にしましょう。
多職種と連携し、独断で動かない
アドボカシーは看護師だけでおこなうものではなく、医師やリハビリスタッフ、薬剤師など、チーム全体で協力して実践するものです。
看護師だけで判断して行動すると、患者さまの気持ちとずれてしまったり、ほかの治療と矛盾が生じたりする可能性があります。そのため、医師や多職種と相談しながら進めることが大切です。
ミーティングや情報交換の場を活用し、チーム全体で患者さまの希望を共有しましょう。それぞれの専門分野を活かして協力することで、看護師1人では気づけないような視点から、より良いアドボカシーを実現できます。
倫理的ジレンマに直面したときの相談先を把握しておく
アドボカシーを実践していると「どちらが正しいのかわからない」「どう判断すれば良いのか迷う」という難しい場面に出会うことがあります。
そのようなときは1人で抱え込まず、先輩看護師や看護師長、病院の倫理委員会などに相談しましょう。どこに相談すれば良いかを普段から確認しておくとすぐに対応できるため安心です。
また、普段から事例検討会に参加したり、倫理についての勉強会に出席したりすることで、判断力を身につけることも大切です。
看護師のアドボカシーについてのよくある質問
ここからは、看護師のアドボカシーについてよくある質問に回答します。
Q1:アドボカシーはどの職種にも必要なスキルですか?
アドボカシーは看護の現場だけでなく、福祉・医療・家庭・教育など、さまざまな場面で使われているスキルです。
たとえば、障がいのために意思表示が困難な方、家庭や学校では自分の権利を主張することが難しい子どもたちなども対象となります。
ただし、職種によってアドボカシーの実践方法や重視するポイントは違います。それぞれの専門分野を活かしてアプローチすることが大切です。
Q2:看護師がアドボカシーに取り組むことで起こりやすい葛藤はありますか?
アドボカシーを実践していると、看護師はいろいろな場面で「どうすれば良いのだろう」と悩むことがあります。
実際に、患者さまの気持ちと家族の希望が異なる場合です。認知症の患者さまが「家に帰りたい、家族と一緒にいたい」といっているのに、家族は「1人では危険だから施設に入ってほしい」と希望している場合、どのように働きかけるのか迷います。
こうした悩みを感じるのは当然のことで、患者さまのことを真剣に考えている証拠でもあります。
Q3:アドボカシーの勉強は、どこでできますか?
看護師のアドボカシーを学べる場所は、さまざまです。
日本看護協会が開催する看護倫理の研修会や、勤務先でおこなわれる倫理研修などに参加することで、アドボカシーの実践方法を学べます。また、看護倫理の書籍を読んだり、インターネットで最新の情報を調べたりすることも効果的です。
日々の仕事のなかで、先輩看護師がどのようにアドボカシーを実践しているかを観察することも大切です。「先輩はどのように患者さまの気持ちを代弁しているのだろう」「いつ医師に相談しているのだろう」と意識して見ることで、教科書では学べない実践的なスキルを身につけられるでしょう。
看護師のアドボカシーは患者さまの「意志」を尊重する
看護におけるアドボカシーは、患者さまの権利を守り、その方が本当に望む医療やケアを提供するために大切な考え方です。
看護師が患者さまの代弁者として、口に出せない気持ちや希望をチームで共有することで、その方らしい療養生活につなげられます。
毎日の看護業務のなかで「患者さまは何を望んでいるのだろう」というアドボカシーの視点を大切にしてみてください。
<参考文献・サイト>

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