看護師が社会福祉士になるには?ダブルライセンスのメリット4つと受験資格を解説

「患者さまの退院後の生活をサポートしたい」「地域医療に深くかかわりたい」
このように考える看護師は少なくありません。看護師に加え、社会福祉士の資格を持つことで、医療と福祉の両面から患者さまやご家族を支えられるようになります。また、このダブルライセンスは、医療現場だけでなく地域包括ケアシステムで高く評価され、キャリアアップや転職にも有利に働くでしょう。
この記事では、看護師が社会福祉士の資格を取得する方法や、ダブルライセンスを持つことのメリット、資格取得後に活躍できる職場を解説します。理想とする働き方を実現するための一歩を踏み出してみてください。
看護師が社会福祉士になるルートと受験資格
看護師が社会福祉士の資格を取得するには、学歴や実務経験によってルートが異なります。
- 社会福祉士国家試験の受験資格
- 社会福祉士国家試験の流れとスケジュール
- 社会福祉士国家試験の概要と合格基準
- 社会福祉士国家試験の合格率と難易度
自分に合った方法で資格取得を目指しましょう。
社会福祉士国家試験の受験資格
看護学校卒業者が社会福祉士の国家試験を受験するには、いくつかのルートがあります。最終学歴によって要件が変わるため注意が必要です。
- 2年制の看護学校:実務経験2年+養成学校1年
- 3年制の看護専門学校:実務経験1年+養成施設1年
- 4年制の看護大学:養成施設1年
何年制の看護学校を卒業したかで、受験資格を得る方法が変わります。いずれの場合も、養成施設で1年間以上学ぶ必要があります。
社会福祉士国家試験の流れとスケジュール
看護師が社会福祉士になるまでのおおまかな流れと時期は次のとおりです。
時期 | 流れ | |
1 | 8月上旬 | 社会福祉振興・試験センターに「受験の手引き」を請求 |
2 | 9月4日から10月3日 | 受験申し込み(郵送) |
3 | 翌年2月1日 | 試験 |
4 | 3月3日 | 試験センターのホームページで合格発表 |
5 | 3月6日 | 結果通知や申請書類が届く |
6 | 5を提出して1か月後 | 社会福祉士登録証の交付 |
試験に合格したら、社会福祉士として登録することで、資格を活かして働けます。合格後の手続きも忘れないようにしましょう。
社会福祉士国家試験の概要と合格基準
社会福祉士の国家試験の概要は次のとおりです。
形式 | 筆記試験(5者択一のマークシート・129問) |
試験時間 | 3時間45分 |
試験科目 | 全19科目(医学概論、心理学、社会保障、高齢者福祉、障害者福祉、ソーシャルワークなど) |
受験料 | 1万9,370円 |
配点は1問1点の129問で、合格基準は正答率60%前後(77点ほど)が目安となります(指定科目すべてで得点が条件)医学概論、心理学の一部など看護師の専門知識と重なる部分がある一方で、福祉制度や社会保障、ソーシャルワーク理論などは新たに学ぶ必要があります。
社会福祉士国家試験の合格率と難易度
過去5回の社会福祉士国家試験の合格率を次の表にまとめました。
試験 | 合格率 |
第33回 | 29.3% |
第34回 | 31.1% |
第35回 | 44.2% |
第36回 | 58.1% |
第37回 | 56.3% |
社会福祉士国家試験の合格率は、例年30%~50%前後を推移しており、出題の範囲も合わせて考えると難易度は高めといえます。また、社会福祉士の資格の更新は不要です。
看護師と社会福祉士のダブルライセンスのメリット4つ
看護師と社会福祉士のダブルライセンスは、キャリアに多方面で良い影響を与えます。
- 医療と福祉の両面から患者さまやご家族を支えられる
- 退院支援や地域包括ケアでの専門性が評価される
- 将来的に管理職を目指せる
- 転職の選択肢が増える
これらのメリットを活かすことで、専門性を高め、より多くの患者さまの人生に貢献できるでしょう。
医療と福祉の両面から患者さまやご家族を支えられる
看護師と社会福祉士のダブルライセンスを持つことで、病気はもちろん、生活や心の問題まであらゆる面で患者さまをサポートできるようになります。医療の知識だけでなく、福祉の知識も加わることで、暮らしを支える視点を持てるようになるためです。
たとえば、難病を抱えるお子さまの家庭を支援する際に、看護師として医療ケアや体調管理をおこなうだけでなく、社会福祉士としてデイサービスの情報を案内したり、ご家族の介護負担が軽減するための支援制度を提案したりすることも可能です。
このように、患者さま一人ひとりに合わせた支援をおこない、生活の質の向上に貢献できるでしょう。
退院支援や地域包括ケアでの専門性が評価される
退院支援や地域包括ケアの現場では、ダブルライセンスを持つことで専門性が高く評価されます。病院から地域での生活に変わる際に、医療と福祉、いずれの視点での支援が必要となるためです。
一例として、肺炎で入院後、1人暮らしに戻る高齢の患者さまには、回復の確認や再発防止の生活指導に加え、孤立を防ぐための地域サロンや交流会への参加を促す支援計画を立てられます。
病院と地域をつなぐ架け橋となり、患者さまが安心して地域で暮らせるようサポートできるでしょう。
将来的に管理職を目指せる
ダブルライセンスは、幅広い分野でのマネジメント能力が身につけられるため、将来的に管理職を目指すうえで強みとなります。
具体的に、看護師長を目指す場合、患者さまの治療計画だけでなく、退院後の生活支援や地域連携の視点を持つことで、多職種間の調整がスムーズに進みます。
また、地域包括支援センターで管理職を目指す場合、看護師としての健康管理や保健指導の知識と、社会福祉士としての地域ネットワーク構築や課題解決能力を合わせ持つことで、地域全体の福祉向上に貢献できるでしょう。
医療と福祉の双方の視点を持つことで、リーダーシップを発揮する機会が増え、キャリアアップを実現できます。
転職の選択肢が増える
看護師と社会福祉士のダブルライセンスは、転職における選択肢を増やします。医療機関のほかに、次のフィールドで活躍できます。
- 地域包括支援センター
- 高齢者福祉施設
- 障害者福祉施設
- 行政機関
多様なフィールドで専門性を活かしたキャリアを築けるでしょう。
関連記事:地域医療とは?看護師の7つの役割と貢献できる場を詳しく紹介
看護師と社会福祉士のダブルライセンスのデメリット
看護師と社会福祉士のダブルライセンスはメリットがある一方で、いくつかデメリットもあります。取得を検討する際には、これらの側面も理解しておくことが大切です。
- 資格取得までに時間と費用がかかる
- 働きながら勉強するのは負担が大きい
- すぐに給料アップにつながるとは限らない
- 業務範囲が広がり責任が増えることもある
これらのデメリットを把握し、対策することで、スムーズに資格を取得でき、ダブルライセンスを活かしたキャリアを築けるでしょう。メリットとデメリットを比較し、自分の目標に合った選択をしてみてください。
資格取得までに時間と費用がかかる
看護師が社会福祉士の資格を取得するには、養成施設に通うための時間と学費がかかります。
3年制の看護学校を卒業して看護師になった場合、1年間の実務経験に加えて、養成施設で1年間学ぶ必要があります。
費用は、それぞれの養成施設や看護師の状況により異なりますが、昼間に通学する養成施設では約100万円、通信制の養成施設では約50万円必要といわれています。さらに、授業料のほかにテキスト代や受験費用など、経済的な負担がかかることがデメリットの1つです。
このように、資格取得には時間と費用が必要となるため、人によっては大きな負担になる場合があります。
働きながら勉強するのは負担が大きい
看護師として働きながら、社会福祉士の勉強を進めることは負担になりがちです。これは、日々の業務が忙しく、勉強できる時間が限られているためです。
具体例として、夜勤明けの疲れた状況で参考書を開いたり、休日を国家試験対策に費やしたりすることなどが挙げられます。その結果、プライベートな時間が減りストレスを感じることで、心身に影響をきたす可能性があります。
すぐに給料アップにつながるとは限らない
ダブルライセンスを取得したからといって、すぐに給料アップにつながるとは限りません。
資格手当の有無や昇給の基準は職場によって異なり、資格取得だけではすぐに基本給に反映されないケースがあるためです。
資格取得はあくまでもスタート地点であり、実際の業務でその知識やスキルを活かすことで徐々に評価されていくのが一般的です。
業務範囲が広がり責任が増えることもある
ダブルライセンスを持つことで、業務範囲が広がり、それに伴い責任が重くなる場合もあります。医療と福祉の両面からかかわるため、複雑な問題に対応するケースが増えるからです。
たとえば、高齢者福祉施設で働く看護師が社会福祉士の資格も持っている場合、身体的なケアだけでなく、ご家族からの生活相談や行政機関との連携など、さまざまな課題への対応が求められることがあります。
判断を求められる場面が多くなり、精神的な負担が増す恐れがあります。
看護師と社会福祉士のダブルライセンスを活かせる職場
看護師と社会福祉士のダブルライセンスは、多様な職場でその専門性を発揮できます。次の職場では、とくに活躍が期待されるでしょう。
- 地域包括ケア病棟
- 退院支援室
- 訪問看護ステーション
- 地域包括支援センター
- 高齢者福祉施設
- 障害者福祉施設
これらの職場では、医療と福祉の知識を兼ね備えた専門性が高く評価され、生活の質向上に貢献できます。あなたの能力を最大限に活かせる場所がきっと見つかるはずです。
看護師と社会福祉士のダブルライセンスを活かす実例
ここでは、看護師と社会福祉士のダブルライセンスを実際にどのように活かせるのか、具体的な事例から紹介します。
実例1:脳卒中患者の退院支援
脳卒中で入院し、身体に麻痺が残った患者さま。退院後の自宅での生活に不安を抱えていました。看護師としてリハビリテーションの継続や、自己導尿といった医療処置について指導し、社会福祉士として自宅の段差を解消するようにバリアフリー改修の相談に乗りサポートしました。また、日中の見守りが必要であったため、訪問介護サービスや地域のボランティア団体と連携して安心して生活できるように支援しました。 |
退院支援部門で働く看護師が、社会福祉士の資格も持っていると、退院後の生活支援において、患者さまの社会生活の課題も理解したうえで、解決策を提案できます。
実例2:地域包括支援センターでの支援
1人暮らしをしている高齢者から、体調を崩しがちで、食事に困っているという相談が地域包括支援センターに寄せられました。看護師の視点から、まず健康状態を把握し、医療機関への受診を促し服薬指導をおこないました。同時に、社会福祉士の視点から、生活保護の対象となる可能性を探り、申請手続きをサポートしました。また、近所の民生委員やボランティア団体と協力し、孤立を防ぐための見守り活動や、食事の宅配サービスの手配をするなど、医療と福祉の双方から生活全体を支えました。 |
高齢者が抱える問題が、医療的なものだけでなく、経済的や社会的なものなど多岐にわたるため、両方の専門知識が求められます。ダブルライセンスを活かして働くことで、地域住民のさまざまな課題に対応できるようになります。
看護師と社会福祉士のダブルライセンスについてのよくある質問
看護師と社会福祉士のダブルライセンスについて、よくある質問にお答えします。
Q1:看護師が社会福祉士の勉強をするコツは何ですか?
看護師が社会福祉士の勉強をするコツは、効率的な学習計画を立て、限られた時間を有効活用することです。
具体的には、通勤時間中にスマートフォンで過去問題を解いたり、休憩時間に参考書を読んだりするなど、スキマ時間をうまく使いましょう。また、医療系の知識は看護師にとって馴染みがある部分もあるので、福祉に特化した分野を中心に深く学習を進めることも重要です。通信講座や予備校の活用も検討してみてください。
Q2:看護師におすすめのダブルライセンスは何がありますか?
看護師におすすめのダブルライセンスは、個人のキャリアプランや興味によってさまざまですが、社会福祉士のほかにもいくつかあります。たとえば、次のような資格があります。
- 専門看護師
- 認定看護師
- ケアマネジャー
- 介護福祉士
- 精神保健福祉士
自身のキャリア目標に合わせて、最適な資格を選ぶことが大切です。看護師のおすすめのダブルライセンスは、下記の記事で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:看護師のダブルライセンスでおすすめの資格15選!医療系のメリットや実例
看護師と社会福祉士のダブルライセンスを活かして理想の働き方を実現しよう!
看護師と社会福祉士のダブルライセンスは、医療と福祉の視点で、患者さまやご家族を支えるための力となります。現在は、医療ニーズが複雑化し、限られた専門性だけでは対応が難しいケースが増えているため、今後さらに需要が高まる可能性があります。
資格取得には時間や費用がかかりますが、その分、キャリアの可能性を大きく広げ、将来の選択肢を豊かにしてくれるでしょう。ぜひこの機会に、ダブルライセンスの取得を検討し、あなたのキャリアを次のステップへと進めてみませんか。
とくに、地域での患者さまの暮らしを支える「訪問看護」の分野は、医療と福祉の知識、両方を活かしたい方にとって魅力的な選択肢です。訪問看護の仕事に興味がある看護師は、ぜひ「NsPaceCareer」を活用し、新たな可能性へ向けて、一歩を踏み出してみましょう。
<参考サイト・文献>

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