OJTとは?看護師の教育を成功させる進め方の例と5つのコツを解説

「OJT」という言葉を耳にする機会は多くても「看護の現場でどう進めるべきか」と悩んでいる看護師も多いのではないでしょうか。
OJTは、看護師が業務を通じて成長し、患者さまにより良いケアを提供するために欠かせません。看護の現場では、新人看護師への教育方法の1つとされています。
この記事では、看護師が自信を持ってOJTを進められるように基本的な知識から、具体的な進め方、成功させるためのコツまでを紹介します。OJTについての疑問が解消され、明日からの教育に活かせるでしょう。
OJTとは看護の現場で実践を通じて教育する方法
OJTは、新人看護師が必要なスキルや知識を身につけるための効果的な教育方法です。ここでは、次のポイントを解説します。
- OJTの定義
- 看護業界におけるOJTの目的と重要性
- OJTとOff-JTの違い
OJTの本質を理解し、新人教育に役立てましょう。
OJTの定義
OJTとは「On-the-Job Training」の略で、実際の業務を通して知識やスキルを習得する教育方法を指します。現場で実際に体験しながら、知識や判断力を効率よく身につけられる点がOJTの強みです。
たとえば、先輩看護師が新人看護師に採血の手順を教える際、患者さまに実施するときの注意点やコツを指導するような場面がOJTにあたります。実践力を養えるのがOJTの特徴といえます。
看護業界におけるOJTの目的と重要性
看護業界におけるOJTの目的は、新人看護師が現場で必要な知識や技術を習得し、安全にケアをおこなうことです。学んだ知識を実際のケアに結びつけるために不可欠です。
緊急時の迅速な対応や、一人ひとりの患者さまに合わせた特別なケアなど、マニュアル通りにはいかない場面でも、OJTで得た実践的な力が役立ちます。
OJTは看護師の成長だけでなく、患者さまの安全と安心を守るためにも重要です。
OJTとOff-JTの違い
OJTとOff-JTは、どちらも人材育成のための教育方法ですが、実施される場所と内容に違いがあります。
項目 | 教育方法 |
OJT(On-the-Job Training) | 実際の職場で業務をおこないながら学ぶ教育方法 |
Off-JT(Off-the-Job Training) | 職場を離れて研修やセミナーなどで学ぶ教育方法 |
OJTは実践的なスキルを習得するのに向いており、Off-JTは基礎知識の習得や最新情報の学習に適しています。この2つの教育方法は、それぞれ異なるメリットがあるため、組み合わせて活用することが効果的です。
看護の現場でのOJT進め方の例
看護の現場でOJTを成功させるための具体的な5つのステップを、具体的な行動例を交えながら解説します。
- OJTの対象とするスキルを選ぶ
- OJTの対象者のレベルを把握する
- OJTの目標と指導計画を立てる
- OJTを実施する
- OJTを評価する
計画的にOJTを進め、新人看護師の確実なスキルアップをサポートしましょう。
1.OJTの対象とするスキルを選ぶ
OJTの対象とするスキルを選ぶことは、効率的な教育のために重要です。すべての業務を一度に教えようとすると、新人看護師が混乱してしまうからです。
「新人看護師がバイタルサイン測定のスキルを習得する」と優先順位を決めて取り組むことで、着実にスキルを身につけられます。段階的に学べるように習得するスキルを絞りましょう。
2.OJTの対象者のレベルを把握する
OJTの対象者のレベルを把握することは、適切な指導計画を立てるために不可欠です。
対象者の経験や知識レベルを把握できていないと、簡単すぎたり難しすぎたりする指導になり、効果が薄れてしまうからです。事前に何ができて、何ができないのかを知っておき、レベルに合わせた指導内容を検討しましょう。
3.OJTの目標と指導計画を立てる
OJTの目標と指導計画を立てることは、教育を順序良く進めるために大切です。
目標が明らかでないと、新人看護師も指導する看護師も何を目指すべきなのかわからなくなり、行き当たりばったりの指導になってしまうからです。
「点滴のダブルチェックを5Rに沿ってできることを目標に、週ごとに指導内容と達成度を確認する」といった具体的な行動計画を立てます。
4.OJTを実施する
OJTを実施する際は、単に業務をこなすだけでなく、学習の機会を作ることが重要です。疑問点があればその場で解説したり、業務後に振り返りの時間を持ったりすることで理解を深められます。
具体的には、採血の手技を指導する際には「なぜこの順番なのか」「どのような点に注意が必要か」といった根拠を説明し、その場でフィードバックします。
5.OJTを評価する
OJTを評価することは、対象者の成長を把握し、今後の指導に活かすために欠かせません。
達成度を定期的に確認し、良かった点と課題を伝えることで、新人看護師は成長を実感し、意欲的に取り組めます。
「車椅子への移乗ができるようになったね」と成長を伝え、次のステップとして「点滴の作成に挑戦しよう」と目標を示すと、新人看護師の成長を後押しできるでしょう。
OJTを看護師がおこなうメリット
看護の現場でOJTを取り入れることには、多くのメリットがあります。
- 即実践でスキルが身につきやすい
- 職場の雰囲気に早く慣れやすい
- 患者さまへの対応力が育ちやすい
- 指導する側も学びにつながる
新人看護師が早い段階で戦力になるだけでなく、指導する看護師にも学びの機会となるため、職場全体のスキルアップにつながります。OJTの導入や改善を検討する際の参考にしてください。
即実践でスキルが身につきやすい
業務を通じてスキルを習得するため、OJTは実践で役立つ能力が身につきやすいというメリットがあります。
点滴の準備から実施までを一連の流れで体験することで、実践的なコツや注意点を押さえられます。OJTは、看護師が現場で即戦力となるための効果的な方法です。
職場の雰囲気に早く慣れやすい
新人看護師は、業務内容だけでなく、職場のルールや人間関係など、さまざまな不安を感じています。この不安を解決できず、退職するケースも少なくありません。看護管理職が考える新人看護師のおもな退職理由は次のとおりです。
新人看護師の退職理由 | 割合 |
健康上の理由(精神的疾患) | 52.5% |
自分の看護職員のとしての適性への不安 | 47.4% |
自分の看護実践能力への不安 | 41.6% |
上司・同僚との人間関係 | 29.8% |
他施設への関心・転職 | 21.8% |
OJTでは、ほかのスタッフとコミュニケーションを取ることで、職場の雰囲気や人間関係に自然と慣れ、働きやすくなるでしょう。
患者さまへの対応力が育ちやすい
患者さまの状況は常に変化し、マニュアル通りにいかないことも多い現状です。さまざまな患者さまに対応するなかで、個別性に合わせたケアの方法や予期せぬ状況への対応力を養えます。
多様な状況に対応できる応用力を身につけ、質の高いケアを提供できるようになるでしょう。
指導する側も学びにつながる
OJTは、指導する側の看護師にとっても振り返りや学びにつながることがメリットです。後輩に教えることで、自身の知識や技術を確認する機会となり、理解がより深まります。
「採血はどの角度で穿刺すると良いですか?」「体位変換をうまくするコツはありますか?」など質問を受けることで、意識していなかった細かな点に気づかされ、自身のケアを見つめ直すきっかけにもなります。
OJTを看護師がおこなうデメリット
OJTには多くのメリットがある一方で、デメリットもいくつかあります。
- 教える側の負担が大きい
- 指導内容にバラつきが出やすい
- 教育効果が見えにくい
- 質問しづらくなることがある
これらのデメリットを理解し、適切な対策を講じることで、より効果的なOJTを実現できます。
教える側の負担が大きい
OJTは、教える側の看護師の負担が大きいというデメリットがあります。これは、通常の業務に加え、新人看護師の指導に時間を割くからです。
厚生労働省「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況」によると、看護師・准看護師の有効求人倍率は2.20倍である一方で、全職業は1.19倍です。つまり、人手不足の看護業界では指導時間の確保が難しい現状です。
指導内容にバラつきが出やすい
指導者によって経験や教え方が異なるため、OJTには指導内容にバラつきが出やすいことがデメリットです。
たとえば、指導者によって技術重視か精神的サポート重視かなど、指導の重点が異なるケースもあります。この一貫性のない指導は、新人看護師の学習効率を低下させ、スキル習得に遅れが生じる恐れも指摘されています。
教育効果が見えにくい
OJTは、教育効果が見えにくいというデメリットがあります。というのも、研修後のテストのように、はっきりとした数値として成果を測ることが難しいからです。
新人看護師の成長は、業務のなかでのわずかな変化として現れるため、効果を実感しにくいと感じる指導者もいるかもしれません。
このため、指導者側は指導の成果を実感しにくく、新人看護師も成長を把握しにくいという課題が生じがちです。
質問しづらくなることがある
OJTは、質問しづらくなることがある点もデメリットです。
指導者が忙しそうにしていると、遠慮してしまったり、自分の質問が業務の妨げになるのではないかと感じたりする新人看護師もいるでしょう。疑問を解消できないまま業務を進めることで、ミスにつながる可能性があります。
OJTを看護の現場で成功させるための5つのコツと注意点
OJTを効果的に進めるためには、いくつか重要なコツがあります。
- 「教える」ではなく「一緒に考える」意識を持つ
- 看護師の失敗を責めず、安心感を与える
- 観察だけではなく実践に移すタイミングを見極める
- 「できた・できない」ではなく「成長したか」で評価する
新人看護師が自身の成長を実感しながら、自信を持って現場で活躍できるようにするためには、指導者の意識やアプローチがカギです。ここでは、看護の現場でOJTを成功させるために実践すべきコツと注意点を解説します。
ゴールを明らかにする
OJTを成功させるためには、ゴールを明らかにすることが重要です。
何を目指しているのかがはっきりしていないと、指導者も新人看護師も方向性に迷います。
そのため「3ヶ月後までに、1人で点滴の準備と実施ができるようになる」といった具体的な目標を設定し、新人看護師と共有することで、お互いに目的意識を持って取り組めるでしょう。
また「いつまでに何をできるようになるか」を話し合い、目標達成シートを作成すると効果的です。
「教える」ではなく「一緒に考える」意識を持つ
OJTでは、「教える」のではなく「一緒に考える」意識を持つことが成功の秘訣です。指導者からの一方的な支援だけでは、新人看護師の考える力が育ちません。
新人看護師が判断に迷っているとき「どうしたら良いと思いますか?」「なぜそう思ったのですか?」と問いかけ、一緒に最善策を導き出すことで解決能力を高められるでしょう。
看護師の失敗を責めず、安心感を与える
看護師の失敗を責めず、安心感を与えることはOJTにおいて大切です。失敗を恐れるあまり、行動が消極的になったり、報告・連絡・相談が滞ったりするリスクがあります。
たとえば、新人看護師が薬の準備でミスをしてしまった場合「どうすれば防げたと思う?」と、改善点に焦点を当てることで、新人看護師は萎縮せず、前向きに学習に取り組めるようになります。
新人看護師のよくある悩みについて下記の記事でも解説しているため、この悩みをOJTの場面で活かしてください。
関連記事:新人看護師のよくある悩みとは?悩んだときの対処法も解説
観察だけではなく実践に移すタイミングを見極める
観察だけではなく、実践に移すタイミングを見極めることは、OJTの効果を高めるために重要です。
指導者が手本を見せた後「次は一緒にやってみよう」「次の患者さまのケアは主体的にやってみて」と促し、必要に応じてサポートに入るといった方法が考えられます。実践の場でフィードバックすると、スキルを習得しやすいでしょう。
「できた・できない」ではなく「成長したか」で評価する
「できた・できない」という視点ではなく「成長したか」という視点で評価すると良いでしょう。
新人看護師は最初から完璧にできるわけではなく、成長を少しずつ評価することでモチベーションを維持できます。
具体的には、以前は時間がかかっていた業務を短時間でこなせるようになった際に「おむつ交換の業務が、前よりもスムーズにできるようになったね」と評価し、その努力を認める言葉をかけることが大切です。
関連記事:新人看護師が直面するストレス7選!つらい気持ちを乗り越える方法
OJTでよくある悩みとその対処法
OJTを実行していくなかで、指導者も新人看護師もさまざまな悩みに直面します。
- 「教える時間がない…」業務と両立できない
- 「自分の教え方で本当にいいのか」と不安を感じる
- 看護師からの質問がない
ここでは、OJTでよくある具体的な悩みと、それらを解決するための方法を解説します。
「教える時間がない…」業務と両立できない
OJTで「教える時間がない…」と業務との両立に悩む指導者は少なくありません。
この悩みに対処するには、OJTを特別な業務ではなく「通常の業務の一部」として捉え直すことが大切です。また、短時間でも指導の時間を確保する、指導内容を細分化して少しずつ教える、ほかのスタッフと協力して指導を分担するなど、工夫を凝らすことで両立が可能になります。
業務とOJTを両立させる工夫で、効果的な指導を継続しましょう。
「自分の教え方で本当にいいのか」と不安を感じる
指導方法に自信が持てず、責任の重さばかりを感じていると、効果的なOJTにつながりにくいです。
この不安を解消するには、まず1人で抱え込まず、ほかの先輩看護師や上司に相談することをおすすめします。また、OJTの研修に参加したり、指導マニュアルを参考にしたりして、指導方法を学ぶのも良い方法です。
新人看護師からの質問がない
質問がないと、本当に理解しているのか、困っていることはないのか、などがわからず指導者として不安になりがちです。
新人看護師が遠慮している、何を質問していいかわからない、などさまざまな理由が考えられます。指導者から「何か困っていることはない?」と声をかけたり、定期的に振り返りの時間を取り、質問を促したりすることが有効です。積極的に声をかけ、質問しやすい雰囲気を作りましょう。
看護師のOJTについてのよくある質問
OJTについて、多くの看護師から寄せられる疑問点があります。ここでは、よくある質問とその回答をQ&A形式でまとめています。
Q1:OJTとプリセプター制度の違いは?
OJTとプリセプター制度は、どちらも新人看護師の教育にかかわるものですが、教育方法や期間などに違いがあります。
OJT | プリセプター制度 | |
対象者 | おもに新人看護師 (新人看護師に限らない) | 新人看護師 |
指導方法 | 実際の業務を通じて知識やスキルを習得する教育方法 | 特定の先輩(プリセプター)が、相談役や精神的なサポートも含めて指導 |
期間 | 定められた期間はなく継続的に実施 | 一定期間(およそ1年) |
OJTは、プリセプター制度のなかでおこなわれる教育の1つと考えられます。
Q2:OJTの教え方に正解はありますか?
OJTの教え方に正解はありません。新人看護師一人ひとりの個性や理解度、経験レベルが異なるからです。そのため、指導方法を統一することは難しく、対象者に応じた柔軟な指導が求められます。
具体的には、課題を明らかにすること、常にコミュニケーションを取り、新人看護師が安心して学べる環境を整えることなどが大切です。
Q3:OJTで使える評価ツールはありますか?
OJTで使える評価ツールはいくつか存在します。
たとえば、チェックリスト形式で到達目標の達成度を評価するツールや、ルーブリック(評価基準表)を用いて行動レベルで評価するツールなどがあります。また、業務のなかで気づいた点や成長した点を記録する日報も有効な評価ツールとなります。
これらのツールを活用することで、新人看護師の成長を客観的に把握し、フィードバックに役立てられます。
看護師のOJTは欠かせない!進め方の例を参考に教育に活かそう
看護の現場において、OJTは新人看護師の成長を促し、安全なケアを提供するために欠かせない教育方法です。単に業務を教えるだけでなく、新人看護師が主体的に学び、自ら考える力を育むための大切な機会となります。
新人看護師が自信を持って現場で活躍できるよう、OJTを教育に活かしてください。
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<参考サイト・文献>

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