看護の定義とは?日本看護協会の構成要素6つと継続看護や家族看護の定義

看護師として働くなかで、さまざまな悩み不安を感じて自身の看護観が揺らぐことはありませんか。このときに、看護の定義について改めて確認すると、原点に立ち返り、モチベーションのアップにつながったりケアに活かせたりするでしょう。
この記事では、日本看護協会や国際看護協会(ICN)が提唱する看護の定義を中心に、さまざまな分野の看護の定義を詳しく解説します。
看護の定義【日本看護協会】
まずは、日本看護協会の看護の定義を紹介します。
日本看護協会の看護の定義は「看護とは、広義には、人々の生活の中で営まれるケア、すなわち家庭や近隣における乳幼児、傷病者、高齢者や虚弱者等への世話等を含むものをいう」とされています。
この定義は、看護が個人だけでなく、家族や集団、地域社会までを対象としており、健康状態にかかわらず、あらゆる人々にケアを提供することを強調しています。
この定義を理解することは、看護師として働くうえで、患者さんやその家族、地域社会を視野に入れたケアを提供するために重要です。
看護の定義【国際看護協会(ICN)】
国際看護協会(ICN)は、看護の定義について次のように述べています。
国際看護協会による看護の定義
国際看護協会による看護の定義は、次のとおりです。
「看護とは、あらゆる場であらゆる年代の個人および家族、集団、コミュニティを対象に、対象がどのような健康状態であっても、独自にまたは他と協働して行われるケアの総体である。看護には、健康増進および疾病予防、病気や障害を有する人々あるいは死に臨む人々のケアが含まれる。また、アドボカシーや環境安全の促進、研究、教育、健康政策策定への参画、患者・保健医療システムのマネージメントへの参与も、看護が果たすべき重要な役割である」とされています。
引用:定款・定義|日本看護協会
国際看護協会の看護の定義は、看護が文化や国境を越えても変わらない価値があることを示しています。世界中の人々が、健康な状態から病気を抱える状態まで、あらゆる健康状態において、適切なケアを受けられる権利を持つことをあらわしています。
この定義を理解することは、看護師として働くうえで、グローバルな視点を持ち、さまざまな役割を担うために不可欠です。
国際看護協会の「看護師の4つの定義」
国際看護協会では、看護の定義をさらに具体的に示すために「看護師の倫理網領」として4つの基本領域を定めています。
- 看護師と患者またはケアやサービスを必要とする人々
- 看護師と実践
- 看護師と看護専門職
- 看護師とグローバルヘルス
これらの看護師の定義では「どのような人が看護師であるのか」「看護師はどのような仕事、ケアができるのか」などが定められています。
看護の定義【分野別の定義】
看護には、さまざまな分野があります。ここでは、次の6つの分野における看護の定義を解説します。
- 継続看護の定義
- 家族看護の定義
- 訪問看護の定義
- クリティカルケア看護の定義
- 公衆衛生看護の定義
- 精神科看護の定義
それぞれの分野における看護の定義を見ていきましょう。
継続看護の定義
継続看護とは「その人にとって必要なときに、必要な場所で、適切な人によって看護を受けるシステムである」とされています。
引用:本看護科学学会.看護学学術用語検討委員会.n.d.JANSpedia-看護学を構成する重要な用語集-https://scientific-nursing-terminology.org/terms/continuing-nursing-care/
継続看護は、患者さまが退院後も継続して適切なケアを受けられるように、病院と在宅、あるいは施設と連携して、患者さまの生活を支援することです。
退院後の患者さまは、慣れない生活環境に戻ったり、治療を継続する必要があったりと、さまざまな不安や課題を抱えています。これらの不安を解消するために、看護師は次の役割を担っています。
- 健康管理
- 精神的なサポート
- 日常生活の支援
患者さまが安心して在宅や施設で生活を送るためには、看護師のサポートが不可欠です。
家族看護の定義
家族看護の定義はいくつかありますが、「家族をひとつの単位とし、家族にある機能と家族の健康についてのケアを高めるサポートをする看護のこと」です。
家族看護では、個人だけでなく、家族全体を支援するという視点を持つことが重要です。
家族は、お互いに影響し合いながら生活しているため、家族の誰かが病気になると、ほかの家族にも影響が及ぶことがあります。
家族看護の視点を持つことで、個人だけでなく、家族全体の健康をサポートするためには欠かせません。
関連記事:家族看護とは何か、看護職に求められることは【総論 前編】
訪問看護の定義
訪問看護とは「訪問看護師は利用者さまの自宅に訪問して、療養生活を支えるためにおこなうサービスのこと」です。
自宅で療養する利用者さまに対して、看護師が自宅を訪問してケアを提供します。
身体的なケアだけでなく、精神的なケアや生活指導などもおこなったり、ご家族に対して介護の方法や生活上のアドバイスをしたりすることもあります。
訪問看護は、利用者さまとご家族が自宅で安心して療養生活を送れるように、多岐にわたる支援を提供するサービスです。
クリティカルケア看護の定義
クリティカルケア看護とは「病気やケガ、手術などによって生命の危機状態にある患者さまに対して、集中的な治療と看護を提供すること」です。
クリティカルケアは、おもに救命救急センターや集中治療室(ICU)などでおこなわれます。
これらの場所では、患者さまの状態が不安定で、集中的な治療と観察が必要となるため、専門的な知識やスキルを持つ医療スタッフが24時間体制で対応しているのです。
また、クリティカルケアチームは、医師や看護師、臨床工学技士などの多職種で構成されています。
公衆衛生看護の定義
公衆衛生看護とは「公衆衛生看護の対象はあらゆるライフステージにある人であり、健康の保持増進と疾病予防などを目的としている看護のこと」です。
公衆衛生において、看護師は地域住民に対して次のことを実施します。
- 健康相談
- 健康教育
- 予防接種
- 健康診断
また、地域における健康問題の把握や、健康増進のための活動計画の策定などもおこないます。健康教育や予防接種などさまざまな活動を通じて、地域社会全体の健康レベル向上に貢献しています。
精神科看護の定義
精神科看護と「精神的健康について援助を必要としている人々に対し、個人の尊厳と権利擁護を基本理念として、専門的知識と技術を用い、自律性の回復を通して、その人らしい生活ができるよう支援すること」です。
精神科看護は、精神疾患に関する専門的な知識とスキルが必要です。また、患者さまの精神的な安定を支援するだけでなく、社会復帰に向けた支援もおこないます。
看護の定義【偉人別の定義】
こんどは看護の分野の発展に貢献した偉人たちの言葉から、看護の定義を見ていきましょう。
- フローレンス・ナイチンゲールの看護の定義
- ヴァージニア・ヘンダーソンの看護の定義
- フリードマンの家族看護の定義
それぞれの看護の定義や看護理論をもとに、日々の実践で活かしていきましょう。
フローレンス・ナイチンゲールの看護の定義
フローレンス・ナイチンゲールは有名な「看護覚え書」を執筆しています。
そのなかで「看護とは、環境を適切に整え、食事内容を適切に選択し適切に与えること。このようなすべてのことを患者さまの生命力の消耗を最小に整えること、を意味する」と、定義しています。
フローレンス・ナイチンゲールは、19世紀の産業革命で活躍した人物であり、クリミア戦争での看護活動を通じて、看護の重要性を社会に示しました。
看護師には「鋭い観察眼」と「よく動く手」を持つことや、何が本当に患者さんのためになるかを考え、ケアしていく力が求められます。
ヴァージニア・ヘンダーソンの看護の定義
ヘンダーソンは「看護婦の独自の機能は、病人であれ健康人であれ各人が、健康あるいは健康の回復(あるいは平和な死)の一助となるような生活行動を行うのを援助することである。その人が必要なだけの体力と意志力と知識とをもっていれば、これらの生活行動は他者の援助を得なくても可能であろう。この援助は、その人ができるだけ早く自立できるようにしむけるやり方で行う」ことと定義しています。
また、ヘンダーソンは、人間の基本的欲求14項目にまとめ、看護師が患者さまのこれらの欲求を充足するための援助をおこなうことが重要であると述べました。
患者さまにケアする際には「患者さまのニーズとケアが合っているか」を常に考えていくことが大事です。
フリードマンの家族看護の定義
フリードマンは「家族看護とは、家族が健康なときも、健康障害があるときも、ヘルスケアのニードに対してケアをすること」と定義したと言われています。
この定義は、家族を個人の集まりではなく、相互に影響しあうシステムとして捉えるというフリードマンの家族観にもとづいています。
また、家族メンバーが病気になった場合、ほかの家族の精神的なサポートや家事の分担なども家族看護の対象となるため、日々のケアで活かしていくことが大切です。
関連記事:【看護師コラム】在宅看護での「家族」とは? 簡単そうで難しい「家族」の定義
看護の定義に関するよくある質問
看護の定義に関して、よくある質問をまとめました。
Q1:看護の意義と定義の違いは?
看護の意義とは、看護が社会においてどのような役割を果たすか、どのような価値を持つかということです。
一方、看護の定義とは、看護とは何か、どのような活動であるかを言葉で説明したものです。
Q2:ANAの看護の定義とは?
ANA(アメリカ看護協会)では、看護の定義は専門職として看護で次の6つの特徴を認めるものへと変化してきました。
- 健康と癒しを促すケアリング関係の提供
- 物理的社会的環境における健康や疾患に対する人間の経験と反応への配慮
- 患者あるいは集団の身体的社会的主観的経験の理解から得た知識と客観的データとの統合
- 判断とクリティカルシンキングの活用による診断と治療過程への科学的知識の応用
- 学術的研究による専門職としての看護知識の促進
- 社会的公平性の促進に対する社会的公的政策への影響
ANAの定義の変化は、看護の役割が病気の治療だけでなく、人々の生活全体を支援する方向へ拡大していることを示しています。
看護師は、医療現場だけでなく、地域社会においても、人々の健康を支える重要な存在となっています。
まとめ:看護師の仕事をするときに悩んだときには看護の定義を見直してみよう
看護の定義は、時代や社会の変化とともに、常に進化し続けています。
看護師として働くとき、看護の定義を意識しながら、患者さまやご家族にとって最善のケアができるように努めなければなりません。
もし、看護の仕事で悩んだり、迷ったりしたときには、この記事で紹介した看護の定義を読み返してみてください。
<参考サイト・文献>
継続看護 continuing nursing care|日本看護科学学会
日本公衆衛生看護学会による 公衆衛生看護関連の用語の定義|日本公衆衛生看護学会
リウ真田知子,第1編米国における家族看護の歴史的遺産・家族を取り巻く現状;家族看護学の定義について, 家族看護学研究第9巻,第1号,2003年.

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