看護師の残業代の相場・計算方法・請求方法を解説

病院で働く看護師にとって、残業はよくあることです。退勤時間が過ぎても、患者さまの急変対応、夜勤への申し送り、看護記録の作成など、さまざまな理由で残業が発生します。
しかし、この残業時間に対して適切な残業代が支払われていないケースも多く見受けられます。とくに経験の浅い方は、「まだ仕事に慣れていないから時間がかかるのは仕方ない」「残業代を請求するのは気が引ける」と、悩みを抱えながら働いているのではないでしょうか。残業代が正しく支払われないことは、仕事へのモチベーションの低下だけでなく、心身の疲労にもつながってしまいます。
看護師にも、労働基準法で定められた残業代を受け取る権利があります。この記事では、看護師の残業代の相場から計算方法、未払い分の請求手順まで、具体的な対処法について紹介します。
看護師の残業代の相場
看護師の残業代の相場についてみていきましょう。厚生労働省による「毎月勤労統計調査」を参考にすると、令和6年12月の「医療・福祉」に関わる職場の超過労働給与は以下のとおりです。
事業規模 | 超過労働給与(円) |
5人以上 | 14,646 |
30人以上 | 20,017 |
1000人以上 | 47,494 |
500人以上 | 41,226 |
100~499人 | 18,361 |
30~99人 | 9,557 |
事業規模により異なりますが、労働者数が30人以上500人未満の職場では1〜2万円程度、労働者数500人以上の規模の大きな職場では3万円以上の超過労働給与が支払われていることがわかります。
なお、こちらのデータは看護師のみはなく、「医療・福祉」と幅広い分野での統計です。実際の看護師の残業代・残業時間とは異なることも考えられます。
看護師の残業代の計算方法
看護師の残業代の計算は、自身の勤務する職場が“変形労働時間制”を採用しているのか、“一般的な労働時間制”であるのかによって異なります。それぞれの場合の計算方法についてみていきましょう。
一般的な場合
まずは一般的な労働時間制の残業計算方法について紹介します。労働基準法では、原則として「1日8時間、週40時間を超えて労働させてはいけない」と定められています。この時間が“法定労働時間”です。法定労働時間を超えて働いた時間が残業となります。
残業に対する賃金の計算式は以下のとおりです。
「1時間当たりの賃金(時給)×1.25(割増率)×残業時間」
1時間当たりの賃金は、「月給÷所定労働時間÷所定労働日数」で求められます。
なお月給には、家族手当や通勤手当、住宅手当などは含まれません。
変形労働時間制の場合
変形労働時間制とは、月単位・年単位で労働時間のばらつきを調整できる制度です。主に夜勤や休日出勤が多いシフト制の病院などで採用されている制度です。
たとえば「1カ月単位の変形労働時間制」では、1ヶ月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間以内となるように、労働時間を設定します。これにより、労働時間が特定の日に8時間を超えたり、特定の週に40時間を超えたりすることが可能となるのです。
変形労働時間制においても、月単位で法定労働時間を超えた部分が時間外労働となります。たとえば1ヶ月の所定労働時間が“160時間”と決められた病院で、1ヵ月の実労働時間が200時間だった場合、40時間分の残業代が発生します。
残業代の計算方法や割増率は、一般的な労働時間制と同様です。
看護師の残業代が出にくい理由
看護師の残業代は、さまざまな理由により正しく支払われないケースが存在します。具体的な理由としては、以下が挙げられます。
- 残業時間の申告がしにくい職場の制度
- サービス残業が当たり前になってしまっている職場環境
- 人手不足による業務の長時間化
さらに大きな理由のひとつとしては、看護師の仕事自体が時間で割り切れるものではないということです。勤務終了直前に受け持ち患者さまが急変したり、緊急入院の対応をしなければならなくなったりと、突発的な出来事が起こることは日常的にあります。定時を過ぎたからといって、引き継ぎや記録をせずに退勤することはできません。
また、仕事をスムーズに始めるために、始業時間前に出勤して情報収集や点滴準備を行う“前残業”には、残業代が発生しない職場がほとんどでしょう。
このような現状から、「サービス残業が当たり前」という考え方が残っている職場も多く、残業代を十分に受け取りにくい環境ができてしまっているといえます。
看護師の残業として認められる業務
看護師の業務は多岐にわたります。なかでも残業として認められやすい業務には、以下のものが挙げられます。
- 勤務時間後の申し送り
- 勤務時間後の緊急対応
- 勤務時間後の看護記録作成
- 勤務時間外の研修・勉強会
それぞれ詳しくみていきましょう。
勤務時間後の申し送り
入院施設のある病院では、2交代制または3交代制の交替勤務を行っています。勤務交代のタイミングには、次の勤務者がスムーズに仕事を始められるよう、前勤務者から次勤務者へ申し送りを行います。申し送りの具体的な内容は以下のとおりです。
- 患者の状態変化の詳細な報告
- 医師の指示内容の伝達
- 処置や投薬の実施状況の共有 など
申し送りは勤務時間内に行うことが基本ですが、状況によっては勤務時間外になってしまうケースもあります。その場合は、残業として処理すべき業務のひとつであるといえるでしょう。
勤務時間後の緊急対応
緊急対応は、残業が認められる業務のひとつです。
医療機関では、勤務終了後やその直前に、以下のような予期せぬ出来事が発生することがあります。
- 入院中の患者さまの急な容態変化
- 予定外の緊急入院 など
とくに夜勤帯は少人数で病棟全体を見守らなければなりません。そのため、夜勤の始まる時間帯で緊急対応が発生した場合、日勤帯の看護師が残業してサポートすることがよくあります。このような緊急対応での残業は、患者さまの安全を守るために必要な業務です。多くの病院で残業代が支給される対象となっています。
勤務時間後の看護記録作成
看護記録の作成も、残業代がきちんと支払われるべき重要な業務です。
看護師は、基本的に受け持ち患者さま全員分の看護記録を作成しなければなりません。 本来は勤務時間内に完了させるべき業務ですが、実際の医療現場では、時間内に終わらないこともよくあります。その場合、勤務時間が終了してから看護記録を作成することになります。
勤務時間後に記録の作成を行う必要がある場合は、残業として扱われ、残業代が支給される対象となります。
勤務時間外の研修・勉強会
勤務時間外の研修・勉強会も、場合によっては残業として認められます。
医療技術は日々進歩しており、看護師にも常にスキルアップが求められています。そのため、多くの病院では研修や勉強会が頻繁に開催されているのです。病院で開催される研修や勉強会のなかには「職員全員参加必須」とされている研修もあり、残業代が請求できるものもあります。
看護師の残業時間の平均
日本看護協会の「2023年病院看護実態調査報告書」によると、正規雇用看護職員の 2023年9月における月平均超過勤務時間とその割合は以下のとおりです。
月平均超過勤務時間 | 割合 |
0時間 | 4.70% |
0~1時間未満 | 10.80% |
1~4時間未満 | 30.40% |
4~7時間未満 | 23.40% |
7~10時間未満 | 13.30% |
10~15時間未満 | 11.20% |
15~20時間未満 | 2.80% |
20時間以上 | 0.80% |
※各病院の回答(平均超過勤務時間)を合計し、回答病院数で除した参考値(n=3,604件)
この表によると、月平均超過勤務時間は「1~4時間未満 」が30.4%と最も多く、次いで「4~7時間未満」が23.4%となっています。多くの看護師が、毎月残業をしていることがわかります。また、10時間以上の残業をしていると回答した病院を合計すると約15%であり、看護師の仕事の大変さを表しているといえるでしょう。
なお、このデータにはサービス残業は含まれません。実際には、さらに長時間の残業をしている看護師がいることも予想されます。
看護師の残業代が未払いの場合の請求方法
「残業代が支払われていないけど、請求して大丈夫なのか」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。未払いの残業代を請求することは、労働者としての権利です。 一人で悩まずに、適切な対応方法を知っておきましょう。
ここからは、残業代の請求方法について具体的な方法を解説します。
労働時間を証明する証拠を集める
まずは、実際の労働時間を証明する証拠を収集しましょう。たとえば以下のものが挙げられます。
- タイムカード
- シフト表
- パソコンのログイン記録
- 電子カルテの記録 など
未払いの残業代を請求する際には、自分の都合ではなく、病院側の業務として残業していたという証拠が必要となります。
残業代を計算する
集めた証拠をもとに、残業代を正確に計算します。割増率を考慮することを忘れずに計算しましょう。
計算結果は第三者にも伝わるよう、わかりやすく整理しておきます。また、計算の根拠となる資料も合わせて保管しておきましょう。
病院に交渉する
計算結果をもとに、病院側に対して未払い分の残業代の支払い交渉を行います。未払い分全てを回収できなかったとしても、お互いに納得できる対応が受けられれば、そこで解決することもあるでしょう。
しかし、全く聞き入れてもらえない場合や隠ぺいされそうな場合には、交渉はむずかしいかもしれません。労働組合のある職場では、1人で交渉せずに、労働組合に相談するという手もあります。
労働基準監督署に相談
病院との交渉がうまく進まないときは、労働基準監督署に相談してみましょう。
労働基準監督署は、労働関連の問題に対応してくれる行政機関です。残業代の請求に正当性があると判断された場合には、病院側に未払い分の残業代を支払うよう働きかけをしてもらえます。
ただし、労働基準監督署の指導や勧告には強制力はありません。それでもなお病院側が支払いに応じない場合には、訴訟を行うかどうか、検討する必要が生じます。
訴訟
他の方法で解決が難しい場合は、最終手段として弁護士に相談し、訴訟を検討します。ただし、訴訟には時間とコストがかかるという点に注意が必要です。
また訴訟を行うところまで話が大きくなってしまった場合、今後その病院で勤め続けることがむずかしくなってしまうことも考えられます。これらを踏まえてじっくり考え、行動を起こすかどうか検討しましょう。
まとめ
この記事では、看護師の残業代の相場から計算方法、未払い分の請求手順まで、具体的な対処法について紹介しました。
緊急対応や申し送り、記録作成など、多忙によりやむを得ない残業の多い看護師の仕事。残業代を受け取ることは、労働基準法で定められた権利です。残業代の未払いに悩んでいる方は、一人で悩まず、労働組合や労働基準監督署に相談してみましょう。

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