介護老人保健施設の看護師の役割6つ!やりがい・辞めたいと感じる理由
介護老人保健施設に関心はあっても、身近に働いている人がいないとイメージがわきにくいでしょう。
介護老人保健施設(老健)は、リハビリを通じて利用者さまが在宅生活に戻れるよう支援する施設です。介護老人保健施設の看護師の方は、利用者さまの健康をサポートする役割を担っています。
この記事では、介護老人保健施設での看護師の具体的な役割や1日の仕事の流れ、給料の目安などを解説します。介護老人保健施設での働き方が自分に合うのかを考える参考になれば幸いです。
介護老人保健施設の看護師の役割6つ!
介護老人保健施設で働く看護師の方のおもな役割は次の6つです。
- 利用者さまの健康管理
- 医師の指示にもとづいた医療処置
- 利用者さまの生活支援
- 多職種連携の橋渡し役
- 利用者さまとほかのスタッフへの感染対策の周知
- 看取りケア
ひとつずつみていきましょう。
利用者さまの健康管理
利用者さまの日々の体調管理をおこなうことが、看護師の基本的な役割です。
血圧や体温、脈拍といったバイタルサインの測定をはじめ、薬の管理や体調の変化の記録も含みます。異常が見られた場合は、医師やご家族に連絡したり、必要に応じて病院に搬送したりします。
疾患を持つ方も多くいらっしゃるため、悪化を防ぐために早めに変化を察知することが大切です。
介護老人保健施設は、細かな変化にも気づきやすい看護師の観察力が活かされる現場といえるでしょう。
医師の指示にもとづいた医療処置
医師の指示のもと、利用者さまにつぎのような医療処置をおこないます。
2023年に厚生労働省が行った調査で、介護老人保健施設で提供されている医療の内容について、以下のような結果が明らかになりました。
医療行為 | 割合 |
胃ろう・腸ろうによる栄養管理 | 93.4% |
カテーテル(尿道カテーテル・コンドームカテーテル)の管理 | 91.7% |
喀痰吸引(1日8回未満) | 87.6% |
ストーマ(人工肛門・人工膀胱)の管理 | 84.8% |
酸素療法 | 66.1% |
静脈内注射(点滴含む) | 60.6% |
喀痰吸引(1日8回以上) | 50.3% |
経鼻経管栄養 | 41.7% |
これは提供可能な医療のため、すべての介護老人保健施設で継続的に対応しているとは限りません。あくまでも提供する準備はできている、というニュアンスであることはご承知おきください。
施設によって実施している医療行為を知っておくことは、求人を探す際のひとつの目安となるでしょう。
利用者さまの生活支援
医療的なケアだけでなく、利用者さまの日常生活を支える業務も含まれます。
介護スタッフがおもに生活支援を担うことが多いですが、看護師の方も以下のように臨機応変な対応が大切です。
- 食事介助
- 入浴介助
- 排泄介助
- 入眠介助
- 認知症の方への支援
利用者さまが快適に生活できるよう、丁寧なケアが求められます。
多職種連携の橋渡し役
リハビリテーションのフタッフや介護職、医師など、さまざまな職種と連携するのも看護師の方の役割です。
介護スタッフと共通の認識が持てるよう、お互いの知識や理解をすり合わせて同じ目標に向かうことが大切だからです。
たとえば、定期的にカンファレンスに参加し、リハビリテーションの進捗や治療方針を確認しながら、利用者さまに最適なケアを提供するための調整役を担います。
利用者さまの健康状態やケアの内容を共有し、スムーズに連携できるようにしましょう。
利用者さまとほかのスタッフへの感染対策の周知
看護師の方は、施設の感染対策を管理する役割を担います。
介護老人保健施設で生活している方は高齢で様々な疾患を抱えている場合も多く、感染症がきっかけで状態が悪化する恐れがあるため、次のような感染症対策は重要です。
- 手洗いや消毒の指導
- 感染マニュアルの作成
- 感染防止に必要な備品の整備
施設内での感染や、感染症の蔓延を防ぐため、スタッフと協力して取り組む必要があります。
看取りケア
人生の最期を迎える利用者さまに寄り添う看取りケアも、看護師の方の役割です。
介護老人保健施設は、そもそも病院から在宅へ帰る際の中間施設とされており、リハビリテーションを通して回復を目指すところです。
しかし、2009年に介護報酬に介護老人保健施設における「ターミナルケア加算」が追加されました。
多死社会において、介護老人保健施設も看取りの役割を担うことになったのです。
看取りケアは利用者さまの苦痛を和らげるだけでなく、ご家族のサポートもおこないます。
利用者さまとその家族が穏やかに過ごせるよう、心のこもったケアが求められます。
介護老人保健施設で働く看護師の1日の流れ
老健での看護師の方の1日は、日勤と夜勤で異なります。
<日勤のスケジュール例>
時間 | 仕事内容 |
8:30 | ・出勤 ・夜勤スタッフからの申し送り ・利用者さまの状態や1日のスケジュールを確認し調整 |
9:00 | ・健康チェックとケア準備 ・バイタルチェックや服薬のサポート ・入浴予定の入居者の体調チェック |
10:30 | ・医療処置や診察の介助 ・医師の診察に同席し、処置を補助 |
12:00 | ・昼食の見守りと介助 ・服薬確認や口腔ケアも合わせて実施 |
13:00 | 休憩 |
14:00 | ・午後のケア ・入居者の状態を確認し、医療処置が必要であれば対応。 ・多職種との情報共有やカンファレンス。 |
16:00 | ・記録の作成 ・1日のケア内容や処置の記録を入力 |
16:30 | ・夕食前の準備とサポート ・経管栄養の準備と注入や薬の準備を実施。 |
17:00 | 夜勤スタッフへの引き継ぎ |
17:30 | 退勤 |
<夜勤のスケジュール例>
時間 | 仕事内容 |
17:00 | ・出勤 ・日勤スタッフから申し送り |
17:30 | ・健康チェックとケア準備 ・入居者の巡回とバイタルチェック |
18:00 | ・夕食の見守りと介助 ・経管栄養の注入や食事の介助、服薬確認を実施 |
20:00 | 就寝準備 |
21:00 | ・夜間の巡回 ・定期的に巡回し、必要に応じて点滴や吸引、褥瘡ケアを実施 |
2:00 | 施設の状況に応じて、交代で仮眠や休憩 |
6:00 | ・起床をサポート ・朝の身支度の介助や健康状態をチェック |
7:00 | ・朝食の見守りと介助 ・経管栄養の注入や食事の介助、服薬確認を実施 |
8:30 | ・申し送り ・特記事項を記録し、日勤スタッフに入居者の夜間の状態を伝達 |
9:00 | 退勤 |
介護老人保健施設の規模にもよりますが、夜勤は看護師1人と介護スタッフ3〜4人といったケースが一般的のようです。
病棟の夜勤のように緊急入院はなく、急変もほとんどないため介護スタッフとともに生活支援を実施します。
介護老人保健施設の看護師の給料
ここでは、介護老人保健施設の看護師の給料を紹介します。ほかの施設と比較して、給料の実態を参考にしてください。
施設 | 給料(常勤) | 給料(非常勤) |
介護老人保健施設 | 46万9,573円 | 36万1,973円 |
介護老人福祉施設 | 45万5,491円 | 37万4,513円 |
介護医療院 | 46万520円 | 38万5,451円 |
訪問看護 | 46万3,927円 | 39万3,566円 |
施設によって違いがあるため、自分に合った条件を確認しましょう。
介護老人保健施設で看護師として働く際にやりがいを感じるとき・メリット
介護老人保健施設では、利用者さまの生活を支えながら看護師としてのやりがいを感じられる場面が多くあります。
- 利用者さまの回復を見守ることができる
- 多職種連携のスタッフとかかわり仕事できる
- 身体的な負担が少ない
それぞれの特徴をみていきましょう。
利用者さまの回復を見守ることができる
介護老人保健施設での看護業務は、利用者さまの生活支援が中心です。
リハビリテーションや日常生活のサポートを通じて、利用者さまが少しずつ回復する姿を間近で見られます。
たとえば、自力で立てなかった方が歩行器を使って歩けるようになったり、食事を一人で取れるようになったりする瞬間に立ち会えることは達成感につながります。
利用者さまの希望でご自宅へ帰ることができたときは、喜びを共有できるでしょう。
多職種連携のスタッフとかかわり仕事できる
介護老人保健施設では、看護師や介護職員、リハビリテーションのスタッフに加えて栄養士や医師など多くの職種が協力して利用者さまを支えています。
それぞれの専門知識を活かし、情報を共有しながらケアプランを進めるチーム医療が特徴です。
たとえば、利用者さまのリハビリテーションの進行状況について多職種と話し合いながら、看護面でのアプローチを調整する場面も少なくありません。
こうした連携を通じて、自分一人では得られない新しい知見やスキルを学ぶ機会もあります。
身体的な負担が少ない
病院勤務に比べると、急性期の対応が少なく命に直結する場面も限られます。
そのため、突発的な業務が重なることがあまりないため「休憩が取れない」「残業が続く」といった身体的な負担が少ないのが特徴です。
比較的ゆったりとしたペースで働けるため、家庭や育児と両立しながら看護師として働き続けたい人にとって、介護老人保健施設はバランスの取りやすい環境といえます。
介護老人保健施設で看護師として働く際に辞めたいと感じるとき・デメリット
一方で、介護老人保健施設では、特有の課題や働きにくさを感じることもあります。
- 夜勤があり生活リズムが不規則になりがち
- 医療スキルが向上しにくい
- 病院と比べて給料が低くなりやすい
それぞれの特徴をよく理解し、介護老人保健施設が自分に合っているかを見極めましょう。
夜勤があり生活リズムが不規則になりがち
介護老人保健施設は看護師も交代勤務が必要な場合があります。
夜勤専従のスタッフがいる施設もありますが、多くの場合は夜勤を分担します。
夜勤明けの疲れや、昼夜逆転による体調の不調を抱える看護師も少なくありません。
また、夜勤中は限られた人数で対応します。施設の配置基準によっては、夜勤中に看護師がひとりで、ほかは介護スタッフという場合もあり、急変時にプレッシャーを感じることもあるでしょう。
医療スキルが向上しにくい
介護老人保健施設では、看護師が担う業務がおもに健康管理や日常ケアであるため、医療処置の機会が限られています。
そのため、急性期病院でおこなう高度な看護スキルへの自信がなくなると感じる人もいます。とくに、将来的に病院勤務に戻りたいと考えている人にとっては、介護老人保健施設での経験がキャリアにどう影響するかを慎重に考える必要があります。
一方で、育児休暇から復帰する場合や長期のブランクがある場合は、働きやすい職場であるといえるでしょう。
病院と比べて給料が低くなりやすい
介護老人保健施設での給与水準は、病院勤務と比較すると低い傾向があります。
とくに、夜勤手当や昇給幅が少ない施設の場合、収入面での不満を感じやすいでしょう。
日勤のみ・夜勤専従など働き方によって給料は大きく変わるため、給与面の待遇が気になる方はしっかり情報収集しましょう。
介護老人保健施設の看護師に向いている特徴
介護老人保健施設での勤務が向いている人には、いくつかの特徴があります。
ここではそのポイントを紹介するので、自分に合うかどうか考える参考にしてください。
- 高齢者とのコミュニケーションが得意な人
- 看護師としての実務経験が豊富な人
- コミュニケーションが積極的に取れる人
それぞれ詳しくみていきましょう。
高齢者とのコミュニケーションが得意な人
介護老人保健施設で働く看護師の方は、利用者さまの生活に寄り添うことが求められます。
日々の業務の中で、利用者さまの何気ない言葉や仕草に気づき、適切な対応ができることが大切です。
たとえば、普段は明るい利用者さまが急に元気がなくなったような様子を見せたとき、その変化に気づいて原因を探り、安心させられるような人が向いています。
看護師としての実務経験が豊富な人
病棟のように先輩看護師が何人もいる環境ではないため、看護師一人ひとりにある程度の判断力や経験が求められます。
たとえば、バイタルサインの急な変化に早く気づき、適切に対応する力が必要です。さらに、利用者さまのなかには、要介護度や医療ニーズが高い方もいるでしょう。
経験豊富な看護師の方であれば、利用者さまの状態に応じた柔軟な判断ができ、チーム内でも信頼を得やすいです。
コミュニケーションが積極的に取れる人
介護老人保健施設でのケアは、多職種との連携が前提です。
そのため、介護職員やリハビリテーションのスタッフと積極的に情報交換をおこない、利用者さまに最適なケアを提供できる姿勢が大切です。
多職種との連携が重要な環境で働くため、介護スタッフやリハビリテーションのスタッフなどと情報共有を密におこなう必要があります。積極的に意見を交換し、チームの一員として協力できる人が求められます。
介護老人保健施設の特徴を知って自分に合うか考えよう
介護老人保健施設の看護師の方の役割や働き方には、ほかの医療機関とは異なる特徴があります。やりがいやメリットがある一方で、デメリットを感じることも少なくありません。
自分の性格やスキル、希望する働き方と照らし合わせながら、働く環境として適しているかを考えてみましょう。
また、介護老人保健施設は医療と介護の知識や経験をバランスよく磨ける現場でもあります。この記事の情報を、つぎのキャリアを選ぶ手助けとしたり、転職するきっかけにしたりして活用してください。
<参考文献・サイト>
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