看護師の働き方改革とは?ワークライフバランス実現への取り組み5つと事例

公開日:2024/08/22 更新日:2024/08/22
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「看護師としての働き方に疑問がある」「今の働き方が改善されるのか不安」

看護師としての働き方で、このように悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

今回は、2019年から推進されている「看護師の働き方改革」について解説します。この記事を読めば「職場での働き方が正しいのか」「今後、どのような改善があるのか」が分かります。

看護師の働き方改革についての不安を解決するきっかけが見つかる記事になっていますので、ぜひ最後までご覧ください。

看護師の働き方改革とは?

働き方改革とは、政府による「働く人がそれぞれの事情に応じて働き方の選択を可能にするための取り組み」です。働く人の事情とは以下が挙げられます。

  • 子育て中である
  • 高齢になり長時間働けない
  • 介護によりこれまでどおり働けない

日本では、労働に対するニーズが多様化しており、労働環境の改善やこれまでにない働き方が求められています。

また、看護職をはじめとした保健・医療・福祉分野も例外ではありません。このような状況から、働き方改革により2019年4月1日から働き方のルールが変更されました。

看護師の働き方改革の取り組みが必要な3つの理由

看護師の働き方改革はなぜ必要なのでしょうか。以下の3つの理由が考えられます。

  • 看護師の人手不足
  • 看護師のワークライフバランスの整えにくさ
  • 過重労働や時間外労働による看護師の負担の大きさ

それぞれ、みていきましょう。

看護師の人手不足

日本の高齢化率は、2040年に過去最大の35%を超えると推定されており、受け皿として医療・福祉の人材がさらに必要になると考えられています。

厚生労働省の発表によると、2025年までに必要な看護師数の想定は188〜202万人です。

一方で、2025年の看護師数は175〜182万人と想定されており、この時点で最大27万人の看護師が不足する見込みだとされています。

看護師の退職理由は「勤務時間が長い・ 超過勤務が多い」「夜勤の負担が大きい」などさまざまです。

看護業界において人手不足の状況が続くことで、患者さまへの医療やケアの質に影響したり現場が回らなくなったりする恐れがあります。

人手不足を補うためにも、働き方改革による労働環境の課題の見直しは必要だと考えられます。

看護師のワークライフバランスの整えにくさ

看護師の方は、夜勤や交替勤務による負担からワークライフバランスを整えにくく、働き方改革による環境改善が必要とされています。

厚生労働省の「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況」によると、看護師の方の退職理由で多いのが「妊娠・出産」「子育て」「介護」など、ライフステージごとのイベントです。

このようなかたちで退職する理由には、仕事とプライベートを両立しにくい現状が関連していると考えられます。

人手不足を改善するためにも、働き方改革により柔軟な働き方の実現が求められています。

過重労働や時間外労働による看護師の負担の大きさ

看護師の方のなかには「緊急の入院対応」「研修・勉強会への参加」など、時間外労働により負担を感じている方もいるでしょう。

「日本医療労働組合連合会」によるアンケート調査では、月の時間外労働が「20時間以上」であった割合が19.4%「30時間以上」が9.0%であったとしています。

月の時間外労働全体の割合
なし7.4%
5時間未満28.5%
5〜10時間未満22.4%
10〜20時間未満22.3%
20〜30時間未満10.4%
30〜40時間未満4.4%
40〜50時間未満3.1%
50〜60時間未満0.8%
60〜70時間未満0.3%
70〜80時間未満0.1%
80時間以上0.3%

参考:看護職員の労働実態調査|日本医療労働組合連合会

また、同調査により「看護記録」「就業前の情報収集」などによる時間外労働で賃金の未払いもあることも分かっています。こうした問題を改善するためにも働き方改革は必要です。

看護師の働き方改革の5つの取り組みとポイント

看護師の働き方改革のポイントを5つご紹介します。

  • 夜勤の負担を減らす
  • 時間外労働を減らす
  • 年次有給休暇を年5日は取得する
  • 労働時間を把握して記録する
  • 「同一賃金同一労働」で同じ待遇をする

それぞれ、みていきましょう。

夜勤の負担を減らす

看護師の働き方改革では、日本看護協会から「就業継続が可能な看護職の働き方」として、夜勤について以下が提案されました。

  • 勤務による拘束時間は13時間以内とする
  • 仮眠時間の取得の確保と仮眠環境を整備する
  • 頻繁な昼夜の入れ替わりが生じない交代制勤務の編成とする
  • 勤務間インターバル制を導入して勤務ごとの間隔を11 時間以上あける

勤務間インターバル制度とは、勤務終了後からつぎの出勤までに一定時間以上の休息時間を設けるものです。これにより看護師の方の生活時間や睡眠時間を確保できます。

勤務間インターバル制度導入により「日勤が18時に終わったあと、翌日0時から深夜勤務で出勤する」といった勤務はなくなると考えられます。

時間外労働を減らす

働き方改革により、36協定(※)にもとづき以下のように時間外労働の上限が設けられるようになりました。

  • 時間外労働の上限は原則的に月45時間、年360時間
  • 上記を超える時間外労働をおこなわせるとき、年720時間以内、複数月平均80時間以内、月100時間未満とする

また、業務上必要であり受講を指示された研修や自己学習の時間、業務の準備などは労働時間として取り扱うこととなっています。

さらに、看護師の方は医師や理学療法士など多職種とコミュニケーションを図りながら業務を進めるなかで時間外労働が発生するケースもあります。

(※)36協定:労働基準法36条に基づき、時間外労働や休日出勤などについて、労働者と使用者(経営者や会社代表)間でかわす労使協定のこと。36協定がない状態での残業や休日労働は、労働基準法違反となり罰則が科されるおそれがある。

年次有給休暇を年5日は取得する

働き方改革により、全ての企業(病院や施設も含む)において、雇用主は年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に年5日の年休を取得させることが義務化されました。

雇用主(使用者)は、労働者が有給休暇を取得しやすいように職場環境を整えることが決められています。以下はその具体例です。

  • 有給休暇申請のルールを周知・再確認する
  • 有給休暇取得しやすい人員配置とする
  • 年次有給休暇管理簿を作成し、労働者に取得状況が分かるようにする
  • 年次有給取得は本人の意向を確認して事業者が決める

これまで有給休暇の取得日数について雇用主に義務はなく、職場によって取得日数に差があるケースもありました。

この取り決めにより有給休暇が取得しやすくなり、看護師の方に負担が少ない働き方が可能となっています。

労働時間を把握して記録する

労働者が「どれくらい働いているか」を正しく評価できるよう労働時間の記録が必須となりました。労働時間を把握する方法は原則として、以下があげられます。

  • タイムカード・ICカードによる記録
  • パソコンをはじめとした電子機器のログイン〜ログアウトまでの記録

「パソコンをはじめとした電子機器」とは、看護師の方の場合は電子カルテが当てはまるでしょう。事業者は、出退勤時刻の記載のない出勤簿から、タイムカード、ICカードのような客観的な記録が残るものへの切り替えが求められます。

「同一賃金同一労働」で同じ待遇をする

働き方改革により「同一賃金同一労働」の考え方が導入されました。

同一賃金同一労働とは、雇用形態をもとに不合理な待遇差の解消を目指すための取り組みです。「同一賃金同一労働ガイドライン」では賃金や、各種手当の支払いについて以下のように記載されています。

待遇特徴
基本給・基本給は、労働者の能力や経験、業績または成果に応じて支払うもの ・趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給をおこなわなければならない
賞与同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給をおこなわなければならない
各種手当同一の内容の役職には同一の、違いがあれば違いに応じた支給をおこなわなければならない
福利厚生・教育訓練・食堂、休憩室、更衣室といった福利厚生施設の利用 ・転勤の要件が同一の場合の転勤者用社宅 ・慶弔休暇や健康診断にともなう勤務免除・有給保障

参考:同一労働同一賃金ガイドライン|厚生労働省

たとえば、「パートだから福利厚生は使えない」「時短勤務だから通勤手当を支給しない」といった雇用形態による違いは認められません。

一方で、業務範囲や責任範囲による待遇差は合法です。「役職による給与(役職手当)の差」「夜勤の有無による給与(夜勤手当)の差」などはあるため注意しましょう。

看護師の働き方改革の事例

具体的な看護師の働き方改革の事例を3つご紹介します。

  • 夜勤の負担を減らすために遅出のスタッフを配置した事例
  • 時間外労働を減らすため勤務時間中に研修をおこなった事例
  • 年次有給休暇を年5日取得するために勤務を調整した事例

それぞれみていきましょう。

事例1:夜勤の負担を減らすために遅出のスタッフを配置した事例

夜勤の負担を軽減するために、遅出スタッフを配置した病院の事例をご紹介します。

こちらの病院では、二交替による長時間勤務による負担を軽減するため、三交代勤務を採用しています。

しかし、夜勤回数の増加、業務の負担が大きくなり、新しい勤務形態が必要となっていました。結果として、採用したのが以下のような勤務形態です。

勤務形態勤務時間
通常の三交代・日勤:8:30~17:00 ・準夜:16:00~ 0:30 ・深夜:0:00~ 9:00
早出・遅出・早出:7:30~16:00 ・遅出:13:00~21:00/11:00~19:00
6時間30分勤務・勤務1:8:30~15:00 ・勤務2:14:30~21:00 ・勤務3:10:30~17:00

遅出・早出スタッフの配置により、夜勤スタッフの業務負担を軽減できています。

また、12時間のインターバルを基本とし、看護職員の生活に応じた勤務の組み合わせを実現できました。柔軟な視点で、ニーズに応じて勤務体制を整えた事例です。

事例2:時間外労働を減らすため勤務時間中に研修をおこなった事例

時間外労働を減らすためには勤務中の業務の見直しが重要です。

事例の病院では研修や会議が時間外におこなわれており、職員の負担となっていました。また、業務自体の負担もあり、時間外労働をなくすためには業務整理が必要でした。

時間外労働を減らすための取り組みは以下のとおりです。

  • ノー残業デーを取り決めた設けた
  • 日勤の前残業がなくなるよう出勤時間を固定した
  • 日勤帯に研修や会議をおこなって残業がなくなるようにした
  • オムツ交換や食事介助など介護業務は介護士や看護助手に依頼するようにした
  • 朝の申し送りの時間を遅らせて情報収集による前残業をなくした

時間外労働が発生しても、残業代として適切に評価することが大切です。こうした取り組みは職員のモチベーション維持にもつながります。

事例3:年次有給休暇を年5日取得するために勤務を調整した事例

こちらの事例となる病院は、子育て支援を先進的におこなっている病院です。

女性職員の育児休暇取得率は100%であり、常勤短時間勤務制度(※)の導入などにより、育児世代が働きやすい環境を整えてきました。

一方で、不満が上がったのが育児世代以外の職員です。不満の内容は「連続で休暇が取りにくい」というものでした。

そこで導入したのが「1週間の連続休暇取得奨励制度」です。所定の休暇と年休を組み合わせることで1週間休暇を取れるようにしています。

結果として、年休を取得する機会が増えて、2020年度の84%をはじめ2019〜2021年度の年休取得率は70〜80%台で推移しています。

※常勤短時間勤務制度:1日の勤務時間を通常よりも短縮した働き方。制度の要件を満たした従業員(たとえば、子が3歳までの場合)は、フルタイムの勤務時間を原則6時間に短縮できる。

看護師の働き方に悩むときは転職を検討

働き方改革により、看護師の働き方は改善されつつあります。

一方で職場によっては、前述したとおり「入院」「急変の対応」などによる時間外労働があるのが現状です。

日本医療労働組合連合会の調査では「1年前と比べた仕事量の変化」についての問いに26.7%が「大量に増えた」と回答しています。なお、これは働き方改革がはじまった2019年以降である2022年におこなわれた調査です。

1年前の仕事量の変化全体の割合
大幅に増えた26.8%
若干増えた38.2%
変わらない30.0%
若干減った4.2%
大幅に減った0.9%

参考:看護職員の労働実態調査|日本医療労働組合連合会

労働環境は職場によって異なります。もし、働き方に悩み「看護師をやめたい」と考えているなら転職するのも方法のひとつです。

なお、看護師の方の職場は病院だけではありません。決まった働き方にとらわれず、様々な求人を検索することで、働き方が広がります。たとえば、訪問看護ステーションでは、基本的に日勤業務であり、子育て世代が多く活躍しています。自分にあう職場を検討してみるのもよいでしょう。

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まとめ

看護師は、社会的に需要が高まっている職業です。

ただし、人員不足や負担の大きさから働き方の改善が必要とされています。

2019年からはじまった看護師の働き方改革ですが、実際には「時間外労働が減らない」「仕事の負担が大きい」といった職場もまだあります。

ですが、これらの働き方改革を知っておくことで、労働者としての権利や内容が相談しやすくなるかもしれません。

看護師の方が働きやすくなるような社会になっていくことが、より良い医療の提供にもつながっていくのではないでしょうか。

参考サイト・文献

働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて|厚生労働省  

我が国の人口について|厚生労働省 

医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会|厚生労働省

看護師等(看護職員)の確保を巡る状況|厚生労働省

看護職員の労働実態調査|日本医療労働組合連合会

看護職の働き方改革|日本看護協会 

就業継続が可能な看護職の働き方|日本看護協会 

年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚生労働省 

客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になりました|厚生労働省 

「同一労働同一賃金ガイドライン」の概要①|厚生労働省

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記事投稿者プロフィール画像 NsPace Careerナビ 編集部

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