特定行為看護師とは?業務内容やメリット・デメリットの解説

公開日:2024/04/24 更新日:2024/04/24
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特定行為看護師とは、「特定行為に係る看護師の研修制度」を修了することで、これまで医師や歯科医師のみが行なっていた診療補助行為の一部が実施できる看護師のことです。

法律上では特定行為看護師という資格は存在せず、この研修制度を受けた看護師のことを、便宜上「特定行為看護師」と呼んでいます。

活躍の幅が広がるキャリア展開といえますが、どのような業務ができるのか、特定行為看護師になるデメリットはあるのか、気になる方もいるでしょう。

この記事では、特定行為看護師の業務内容や認定看護師との違い、なるための方法やメリット・デメリットを解説します。

特定行為看護師とは

特定行為看護師とは、医師や歯科医師が作成した手順書に即して、21区分38行為の診療補助行為ができると認められた看護師のことです。

内閣府による「令和4年版高齢社会白書」によると、2025年には国民の約3人に1人が65歳以上、約5人に1人が75歳以上になるとされています。

国は2025年に向けて在宅医療等の推進を図るため、2014年6月に「特定行為に係る看護師の研修制度」を創設し、2015年10月に開始しました。

参照元:厚生労働省|特定行為に係る看護師の研修制度の概要

特定行為研修の修了者は年々増加しており、直近1年では2,043人増え、2023年3月には6,875人になりました。

修了者は特に東京都や神奈川県、大阪府などのエリアで多く、7割を超える看護師が病院勤務です。なかでも、急性期病棟で活躍している人が多い傾向があります。そのほか、訪問看護ステーションや診療所、教育機関、介護福祉施設などで活躍している人もいます。

参照元:厚生労働省|特定行為研修制度の現状及び推進策の推進状況等について(報告)

特定行為看護師と認定看護師の違い

看護師のキャリア展開のうち、特定行為看護師と認定看護師の違いは以下のとおりです。

 特定行為看護師認定看護師
扱い特定行為研修の修了者日本看護協会による資格
受講に必要な実務経験約3~5年を推奨5年以上(うち3年は認定分野)
研修期間6ヵ月~2年 ※指定研修機関による6ヵ月・615時間以上
更新審査なし5年ごと
参照元:厚生労働省|特定行為に係る指定研修における教育内容特定行為に係る看護師の研修制度に関するQ&A日本看護協会|認定看護師

特定行為看護師は資格ではなく、特定行為研修の修了者になります。

看護師としての実務経験が3年以上あれば研修を受けることができ、更新のための審査は必要ありません。

一方、認定看護師はある特定の看護分野において、熟練した看護技術と知識をもっていると日本看護協会に認定を受けた看護師資格です。

5年以上の実務経験を前提とし、取得後は5年ごとの更新審査が必要です。

認定看護師のカリキュラムにはA課程とB課程があり、そのうちB課程は特定行為研修を組み込んでいます。

2027年度からはB課程のみの選択になるため、認定看護師においても今後は特定行為ができることが前提になっていくでしょう。

特定行為看護師になるには

特定行為看護師になるには、厚生労働大臣が指定する研修機関で「特定行為研修」を修了しなければなりません。

研修内容には、臨床病態生理学やフィジカルアセスメントなどの全員が学ぶ「共通科目」と、特定行為区分ごとに学ぶ「区分別科目」があります。

共通科目は合計で250時間、区分別科目は選択により5~34時間の研修が必要です。

区分別科目には呼吸器関連や循環器関連などがあり、研修を受けやすいよう以下の6つの領域別にパッケージ化されています。

パッケージ区分別科目
在宅・慢性期領域・呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 ・ろう孔管理関連 ・創傷管理関連など4区分
外科術後病棟管理領域・呼吸器(気道確保に係るもの)関連 ・腹腔ドレーン管理関連 ・栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連など12区分
術中麻酔管理領域・呼吸器(気道確保に係るもの)関連 ・動脈血液ガス分析関連 ・術後疼痛管理関連など6区分
救急領域・呼吸器(気道確保に係るもの)関連 ・動脈血液ガス分析関連 ・精神及び神経症状に係る薬剤投与関連など5区分
外科系基本領域・栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カ テーテル管理)関連 ・創傷管理関連 ・動脈血液ガス分析関連など7区分
集中治療領域・呼吸器(気道確保に係るもの)関連 ・循環器関連 ・循環動態に係る薬剤投与関連など6区分
参照元:厚生労働省|領域別パッケージ研修

領域別パッケージ研修は、各領域において一般的な患者さまを想定し、実施頻度が高いと想定される特定行為をまとめた研修です。

特定行為区分ごとに研修を受けるより、短い時間数で研修を修了できます。

たとえば、在宅領域に関連した区分別科目をすべて受講する場合、通常かかる時間数は330時間です。

そこで在宅・慢性期領域パッケージを選択すると、各区分で5症例ずつの実習を前提として311時間で修了できます。

研修には講義・演習・実習があり、一部の指定研修機関では講義と演習にe-ラーニングを導入しています。

修了後には医師や歯科医師が作成した手順書に即し、現場で特定行為を実施することが可能です。

参照元:厚生労働省|これからの医療を支える看護師の特定行為研修制度

特定行為の内容

特定行為看護師が行なえる特定行為は、以下の38行為です。

  • 経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの位置の調整
  • 侵襲的陽圧換気の設定の変更
  • 非侵襲的陽圧換気の設定の変更
  • 人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整
  • 人工呼吸器からの離脱
  • 気管カニューレの交換
  • 一時的ペースメーカの操作及び管理
  • 一時的ペースメーカリードの抜去
  • 経皮的心肺補助装置の操作及び管理
  • 大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行なうときの補助の頻度の調整
  • 心嚢ドレーンの抜去
  • 低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定及びその変更
  • 胸腔ドレーンの抜去
  • 腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された穿刺針の抜針を含む。)
  • 胃ろうカテーテル若しくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボタンの交換
  • 膀胱ろうカテーテルの交換
  • 中心静脈カテーテルの抜去
  • 末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入
  • 褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去
  • 創傷に対する陰圧閉鎖療法
  • 創部ドレーンの抜去
  • 直接動脈穿刺法による採血
  • 橈骨動脈ラインの確保
  • 急性血液浄化療法における血液透析器又は血液透析濾ろ過器の操作及び管理
  • 持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整
  • 脱水症状に対する輸液による補正
  • 感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与
  • インスリンの投与量の調整
  • 硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与及び投与量の調整
  • 持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整
  • 持続点滴中のナトリウム、カリウム又はクロールの投与量の調整
  • 持続点滴中の降圧剤の投与量の調整
  • 持続点滴中の糖質輸液又は電解質輸液の投与量の調整
  • 持続点滴中の利尿剤の投与量の調整
  • 抗けいれん剤の臨時の投与
  • 抗精神病薬の臨時の投与
  • 抗不安薬の臨時の投与
  • 抗癌剤その他の薬剤が血管外に漏出したときのステロイド薬の局所注射及び投与量の調整

参照元:看護師の特定行為研修ポータルサイト

いずれの特定行為も、実施するためには医師の指示のもとで手順書に即し、身体所見を確認・判断しなければなりません。

手順書とは、看護師が診療の補助を行なえるようにするために、医師や歯科医師があらかじめ指示として作成する文書です。

おもに、看護師が診療の補助を行なう患者さまの病状の範囲や、行なえる業務内容などが定められています。

特定行為看護師になるメリット

特定行為看護師になるメリットは、主に以下の3つです。

  • 活躍の場が広がる
  • キャリアアップにつなげやすい
  • 収入アップが見込める

それぞれ解説します。

活躍の場が広がる

特定行為看護師になると、あらかじめ医師が作成した手順書のもとさまざまなケアを提供できるため、活躍の場が広がります。

たとえば、病棟では患者さまの状態変化に合わせ、臨時薬剤を投与できたり、持続点滴中の降圧剤や利尿剤を調整したりできます。

また、在宅でも脱水徴候がみられたときの輸液補整や、血流のない褥瘡の壊死組織の除去など、医師不在時でも臨機応変に対応可能です。

実際、特定行為看護師の活躍に関して、以下のような報告があります。

  • 的確な気づきで早期対応でき急変時のコールが減少した
  • 医師が病棟にいないときでもタイムリーに処置ができた
  • 医師と修了者によるダブルチェックで薬剤管理のヒヤリハットが減少した

参照元:厚生労働省|看護師の特定行為研修の修了者に関する医師との協働の事例集

必要な特定行為研修を修了することで、さまざまな状況に対処できるようになります。

キャリアアップにつなげやすい

就業先によっては、キャリアアップ選択の一つとして、特定行為看護師の支援制度を設けている医療機関もあります。

特に、就業先が指定研修機関になっている場合、研修が出張扱いとなったり、交通費が支給されたりなど、研修修了まで手厚い支援を受けられる可能性があります。

特定行為研修の受講を考えている場合、就業先が指定研修機関にあたるか、支援制度があるか確認してみましょう。

収入アップが見込める

就業先によっては、特定行為看護師に対する手当が支給され、収入アップが見込める可能性があります。

令和2年度の厚生労働省の調査によると、特定行為ができる看護師として就業先から手当てを支給されている人の割合は26.4%でした。

1年あたりの報酬額は10万~20万円が30%と最も多く、次いで5万~10万円が23.9%、5万円以下が20.8%で、30万円以上支給されている人は全体の15.3%でした。

参照元:令和2年度看護師の特定行為研修に係る実態調査・分析等事業

就業先によって手当の有無や支給額は異なるため、特定行為看護師を目指す場合は事前に確認しておくとよいでしょう。

特定行為看護師のデメリット

特定行為看護師になると活躍の幅が広がるものの、以下のデメリットもあります。

  • 業務中に特定行為が実施できない
  • 看護師の業務負担が増える
  • 特定看護師が活躍できる体制が整っていない職場もある
  • 十分な手当てが支払われない

それぞれ解説します。

業務中に特定行為が実施できない

特定行為看護師になっても、就業先によっては業務中に特定行為が実施できない場合があります。

厚生労働省の調査によると、特定行為を実施できない理由として「特定行為を実施する対象者がいない(21.6%)」が挙げられています。

特定行為を必要とする患者さまがいない状況では、すぐにその知識やスキルを発揮できない可能性もあるでしょう。

参照元:厚生労働省|特定行為に係る看護師の研修制度について

看護師の業務負担が増える

通常の看護業務との両立や、特定行為を実施する時間の確保に困難を感じている特定行為看護師も多いようです。

厚生労働省の調査によると、通常業務に加えて修了者が手順書を作成しなければならない状況もあり、負担を感じている特定行為看護師は38.3%います。

また、通常の業務や認定看護師としての業務と両立することが負担になっている場合もあります。

参照元:厚生労働省|特定行為に係る看護師の研修制度について

特定行為看護師が活躍できる体制が整っていない職場もある

就業先によっては、特定行為看護師が活躍できる体制が整っていないケースもあります。

厚生労働省の調査によると、看護師が特定行為を実施していない理由で最も多かった回答が「就業先で特定行為研修修了者が活動できるような体制がない(51.7%)」でした。

次いで「その他の内容(33.4%)」には「特定行為に関連する部署に配属されていない」「手順書が未整備・未完成、医師が充分にいる」などが含まれます。

また、特定行為を実施するうえで看護師が困難に感じることには、以下の内容があります。

特定行為を実施するうえで困難に感じること割合
特定行為研修制度について周知すること53.6%
症例が少ない31.1%
医師の理解を得られない25.4%
その他23.8%
同僚・上司の理解を得られない19.4%
医師が手順書の作成・見直しに非協力的13.4%
患者・家族の理解を得られない2.9%

その他に含まれる内容は「特定行為を実施するためのシステム・体制づくりがない」「スキルアップのための時間確保が難しい」などです。

参照元:厚生労働省|特定行為に係る看護師の研修制度について

職場によっては、特定行為についてまだ周りに理解を得られていない場合もあります。

特に、手順書の作成をする必要のある医師の協力が得られないと、特定行為看護師としての知識やスキルを発揮しにくくなるでしょう。

十分な手当てが支払われない

就業先によっては、特定行為研修を修了したとはいえ十分な手当てが支払われるとは限りません。

厚生労働省の調査によると、特定行為研修修了者のうち73.6%の人は、特定行為に対する手当てを受けていないと回答しています。

参照元:令和2年度看護師の特定行為研修に係る実態調査・分析等事業

職場によっては十分な手当てが支給されない場合もあるため、あらかじめ就業先の条件を確認しておくとよいでしょう。

まとめ

特定行為看護師とは、特定行為研修を修了後、医師や歯科医師が作成した手順書をもとに38の診療補助行為が実施できる看護師のことです。

特定行為研修を修了することで、医師の代わりにできる処置が増え、看護師として活躍の幅が広がります。

ただし、すぐに知識やスキルを発揮できるかどうかは、就業先の状況によります。

特定行為看護師を目指すときには、就業先で特定行為を実施できる体制や手当があるかどうか、確認しておくとよいでしょう。

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記事投稿者プロフィール画像 NsPace Careerナビ 編集部

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