ゼロから立ち上げた「ここにいていいと思える場所」 ~くつろ樹訪問看護ステーション 谷川さんにインタビュー~

手術室にいた若手看護師は、なぜ精神科訪問看護に惹かれたのでしょうか――。函館で「流し」をしていた高校時代から、海外経験、精神科病棟での葛藤、そして訪問看護の立ち上げへ。2025年9月に開設した「くつろ樹訪問看護ステーション」を立ち上げた谷川さんに、これまでの歩みと仲間への想いをうかがいました。人柄あふれる語り口から、精神科訪問看護の奥深さと温かさが伝わってきます。

【府中市・精神科特化】土日祝休み/未経験歓迎◎時短・Wワークも相談可!くつろ樹訪問看護ステーション
事業所名
雇用形態
給与
就業場所
函館の「流し」から手術室へ──異色のキャリアの始まり
―まずは谷川さんが看護師を目指したきっかけを教えてください。
「もともとは美容師になろうと思ってたんです。でも、ちょうど就職氷河期で、高校生の頃は飲み屋さんで“流し”として音楽活動をしていました。僕には医学部に進んだ兄がいて、“それじゃ食っていけないぞ”って。話すのが好きなら看護師は向いてるんじゃない?って言われて…」
谷川さんの地元は函館。街の飲み屋でギターを片手にお客さんのリクエストに応えて歌いながらお金を頂く、そんな青春時代でした。音楽が好きで人と関わることが好きだったからこそ、看護師という道に自然と導かれていったのかもしれません。
―その後、看護学校に進まれたんですね。
「はい。僕は男子校だったから、看護学校は女子校に行くような感覚で、最初はすごく恥ずかしかったです。プリントを後ろに渡すのも緊張して、後ろを見ないで渡していたぐらい。でもだんだん慣れて、まずは外科を目指すようになりました」
最初は戸惑いばかりだった環境も、少しずつ自分の居場所になっていきます。仲間や先生との関わりの中で、医療の面白さを見出していったのだそうです。
―外科を志したのはどういう理由からですか?
「手術室で“ボスになる”って思ってましたね。実際に総合病院のオペ室に入ったら、もう天職だと思いました。医師との信頼関係ができると、手術時間が短縮される。努力すればよくなるっていう、それがすごく面白かったんです」
努力の積み重ねが患者さんの回復に直結する。その実感が外科看護の大きなやりがいだったと振り返ります。
―その後、海外にも行かれたとか。
「はい。カナダのマニトバ州でホームステイをしながら、ご縁があって精神科の現場でもボランティアをしました」
異文化の中で見た医療のあり方は、後に精神科看護を深めていく上での原点になったといいます。
「刑務官みたい」と感じた精神科での転機
―日本に戻られてからは、精神科に進まれたんですね。
「手術室では、麻酔の時点で大声で叫んでいたり、外科ではお腹が開いたまま話し続けたりする精神疾患を持った患者さんとかいて。精神科知っておいた方が良いな…とは思っていたんです。手術室看護は大変だったし、結婚を機に“楽な科に行こう”と思って精神科に入ったんです。でも最初は全然楽じゃなかった。今まで培ってきたスキルが全然使えない。コミュニケーションが下手すぎてもう全然面白くなかったんですよ。正直何度もやめようと思ったのだけど、ある時晴天の霹靂のようなことがあって。」
精神科での最初の数年は、外科でのスキルがまったく活かせず、苦しさばかりが募ったそうです。
「僕がいたのは、精神科の急性期だったので拘束する場面も多かったんです。とにかく拘束具が外れないように、刑務官のような気持ちで必死に絞めていたんですけど…ある時新人の看護師の子が“これは人としてどうかと思う”と、カンファレンスで泣きながら話していたんです。僕はその言葉を聞いて雷に打たれたような衝撃を受け、そこから患者さんと丁寧に向き合うようになりました。すると、一人ひとりに物語があることに気づいて…。それから一気に精神科にハマっていきました」
自分の中の価値観が揺さぶられた瞬間。そこから「相手の声を聞く」ことを徹底するようになったと言います。
―どんどんハマっていった精神科看護ですが、 気づけば何年経ちましたか。
「はい、それからずっと精神科で17年になりました。外科での技術は通用しなくても、人と向き合うことの深さに引き込まれていったんです」
単に病気を治すだけでなく、その人の人生そのものを支える営み。それが精神科看護の魅力だと語ってくれました。

訪問看護はロジカルで、そして笑顔が支える現場
―病院を出て訪問看護に進まれたきっかけは何ですか。
「病院では頑張っても給与が上がらない仕組みが嫌で、その後経営の勉強をするために大学に編入もしたんです。それで、コンサルをやるか訪問看護を立ち上げるかどちらかだなと考えていました。じゃあ、訪問看護やるか!ってなって。精神科訪問看護師として、現場を回って沢山経験させてもらいました。」
様々な経験や学びの道を歩み、巡り合った精神科訪問看護。
「精神科は“劇的ビフォーアフター”が好きな人に向いていると思うんです。変化がはっきり見えるから。訪問看護では利用者さんが確実に一歩ずつ前に進む姿が見られる。だから楽しいんです」
訪問看護は、病院以上に「生活」と隣り合わせの現場。利用者さんの家に入るからこそ、その人の本当の姿に触れられるのだといいます。
「精神科訪問看護はめちゃくちゃロジカル。勉強もそれなりに必要です。でもそれ以上に笑顔が大事。“一訪問一笑い”を意識しています。精神科で身につけた知識や技術は、家庭にも人生にも活かせます。僕自身、奥さんとの喧嘩も減ったし、子育ても楽になりました」
精神科で培った技術は、職場だけでなく日常生活や家族関係にも影響を与えてくれる。看護師としてだけでなく、一人の人間としても豊かになれる領域だと感じているそうです。
DIY事務所と自転車圏内。府中で築く「ここにいていい」職場
― 「くつろ樹訪問看護ステーション」を立ち上げられた背景を教えてください。
「23区内の訪問看護ステーションで副所長をしていたときに働きすぎてしまったんですね。どうせたくさん働くなら自分の住んでいる町に貢献しようと思って一度地元・府中でやろうと決めました。その後、府中市の訪問看護ステーションで精神科を立ち上げた経験を活かして、2025年9月にオープンしました」
―ステーションの理念を一言で言うと?
「“ここにいていい”と思える場所であることです。利用者さんもスタッフも、まずは安心できる場所であることを大切にしています」
職場の環境づくりにも、谷川さんらしい工夫があります。事務所はDIYでカフェのようなオフィスに仕立てたそうです。
「めちゃくちゃ大変でしたけど、自分で作るのが好きなんです。ここに来る人が心地よいと感じてもらえたら嬉しいですね」
また、訪問は自転車です。基本的には半径3km圏内に限定し、スタッフが安心して働ける仕組みも意識されています。利用者さんの心身のケアを全人的に支える精神科訪問看護の特性上、一定の体力が求められる場面もあるそうです。
「精神科や訪問看護が初めての方にとっては、年齢によっては負担を感じやすい側面もあるかもしれません。ただ、20〜30代など若い世代の方で、精神科訪問看護に対して意欲を持ってチャレンジしてくださる方であれば、未経験でも大歓迎です」
さらに、スタッフとの「お互いを知るミーティング」を重視。健全な自己開示を通して信頼関係を築き、チーム全体の雰囲気を良くしているそうです。

インタビュアーより
取材を通じて感じたのは、精神科訪問看護が「共に悩み、共に学ぶ営み」であることでした。谷川さんは「相互成長」という言葉を何度もお話しくださり、人が互いに影響し合う存在であることの尊さを感じました。
そして、おしゃれな事務所、ライブのような現場の空気、「一訪問一笑い」という言葉。そのすべてに、谷川さんの人柄と理念がにじんでいました。未経験の看護師の方へ、一緒に伴走してくれる優秀な先輩看護師さんが在籍されています。新たなキャリアの道を一緒に歩んでみたい、そんな探求心がわいてくる訪問看護ステーションです。
事業所概要
- 事業所名:くつろ樹訪問看護ステーション
- 住所:東京都府中市緑町2丁目9−3 グリーンコーポ101
- 事業所紹介ページ:https://ns-pace-career.com/facilities/14883

「NsPace Career ナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「NsPace Career」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。