利用者さんを地域全体で支えるために~求められる訪問看護への取り組み 大田さんにインタビュ~越谷ロイヤル訪問看護ステーション

病棟での経験から訪問看護へ転職し、管理者を勤める大田さん。「病院と在宅が連携して地域全体で利用者さんをサポートしたい」という想いのもと、スタッフの育成にも力を入れています。大田さんのこれまでの経験や訪問看護師として大切にしていることを伺いました。
看護師のキャリアは循環器病棟からー訪問看護との出会いと地域包括ケアへの興味
看護学校を卒業後、急性期病院で働いていました。そこで入退院をくり返す人や在宅酸素を導入して退院する人が多かったので「この患者さんたちは自宅でどんな生活をしているのだろう」と感じ、在宅医療に関心を持つようになりました。その後、訪問入浴での仕事を経て、訪問看護に転職しました。
経験を重ねていく中で、訪問看護を提供するうえで、利用者さんを中心に考えたときに、在宅側だけで利用者さんを支えるのは難しいケースがたくさんあったんです。そこで「地域包括」という視点で、病院と在宅がどのように連携しているのかを知りたいと考えていました。

時代の変化と訪問看護に求められるものー自分たちがやりたい看護ではなく相手の求めに応えること
時代とともに老々介護や認認介護、おひとりさま、核家族などの背景が増えている印象があります。国の制度で病院のあり方も変わってきているので、入退院の期間も短く、医療機器を導入して退院される利用者さんも多くなりました。
それに病院とは異なる部分で「この疾患だからこの訪問看護」みたいなクリティカルパスのようには当てはまらないんですよね。疾患はあるけれども、利用者さんのこれまでの人生や大事にしていることなどを把握しつつ、生活の中に私たちが入っていくので、利用者さんにより提供する看護は多種多様です。
新型コロナ感染症が流行したとき、越谷市では救急隊と訪問看護ステーション、クリニックで連携して「患者さんを在宅で死なせない」というミッションのもとに、保健所も巻き込んで対応しました。実際に私たちも患者さんの自宅に在宅酸素の機器を運んだんですよ。
自分たちがやりたい看護というより時代に沿って求められる訪問看護を提供できることが、訪問看護には必要だと考えています。
スタッフの育成も一人ひとりの個別性に合わせる。教える側とともに成長を
訪問看護師が増えれば、越谷市で訪問看護を必要としている人に差し伸べる手が増えると考えているので、スタッフの教育にも力を入れています。
私たちのステーションには新卒も入職しますが、新卒で入って今3年目になるスタッフが、オンコール対応やエンゼルケアも対応できるくらい成長しているんですよ。
これは病院のラダー教育もあり、1年目から訪問看護の配属だけれども、看護技術や病院の役割については病院でしっかり学んでもらうおかげでもあると思います。
教育体制にはプリセプター制度を取り入れています。単独での訪問も、すぐに自立ということはなく、スタッフの個性に合わせて進めています。プリセプター制度を取り入れることで、教える側も自分の看護観を客観視できるところがあるんですよね。
看護学生も積極的に受け入れて、みんなが教える側を経験できるようにしています。教えることで自分たちも成長できるんです。
フォロー体制については、訪問先で迷ったときには必ず連絡してもらうようにしています。電話をくれたときにその場で問題を解決することを心がけていて、利用者さんの様子を写真や動画で送ってもらうこともあります。
「これは緊急性があるから救急車呼ぼう」と緊急時の判断もできるように、管理者の私はあまり訪問に出ず、スタッフからの連絡を常に受けられるようにしていますね。

先をみる看護―利用者さんとご家族の目線で考えることを意識
私たちは訪問看護を提供するうえで「先をみる看護」を大切にしています。病院のように医療者がずっとそばにいるわけではないので、利用者さんをそばで見ているご家族が不安にならないようにサポートしています。たとえば、日中に訪問して調子が悪そうだったら、発熱時の対応方法や薬の飲み方などを事前にお伝えする形です。
先をみて看護をしておくと、いざその場面になったときに「ああこれ、看護師さんが言ってたことだ!」とご家族が落ち着いて対応できるんです。電話で相談されることもありますが「昼間にお伝えしたようにしたら大丈夫ですよ」と伝えると、ご家族も理解されているので、オンコール当番の人は出動しなくて済むんですよね。
ご家族にとって「いつもと違う状態」は不安が大きいので、ご家族が安心できるような関わり方をすると、夜間の出動回数や救急車を呼ぶ回数も少なくなります。お看取りのケースでも、今後起こりうる症状や呼吸の変化を伝えつつ、時期を見て葬儀屋さんの説明もしたりしています。
スタッフ全員で先をみる看護を大切にしているので、オンコールの人にも前もって状況を共有でき、もし連絡があっても当番の人も慌てずに済むんです。利用者さんもご家族も看護師も安心して夜を過ごせるように努めています。
先をみる看護を実践するうえで、お看取り後のご家族にアンケートを取っているんですよ。自分たちの看護を振り返る目的なので、もちろん良いことも悪いことも返ってきますが、ご家族からの声が一番スタッフの心に響くんですよね。
価値観を自分中心におくのではなくて、利用者さんを中心に考えていかないと、自分の看護に満足するようになってしまうので。「あのとき看護師さんがこう言ってくれたから心強かった」と言っていただけることもありますし、利用者さんやご家族の言葉は自分たちが訪問看護を提供するうえでの糧になっていますね。
働く環境づくりで大切にしているのは互いに受け入れること―利用者さんの「その人らしさ」を中心に考える
看護の体制としては担当制ではありますが、日々の訪問はチームで対応しています。夜間のオンコール当番がみんなあるので、できるだけ緊急時の電話で利用者さんと「初めまして」にならないようにしています。
スタッフの看護観はみんなそれぞれではありますが、誰も間違いはないんです。ただ、利用者さんの主担当と主担当ではないスタッフが入ったときのアセスメントが違ったとしても、どちらのアセスメントも否定は絶対にしないように伝えています。
看護の根底には「人が好き」なことがあると思いますが、訪問看護ではとくに重要だと思っていて、新人にもベテランにも「その人らしさ」を考えるようにと伝えています。そのうえで、スタッフ同士でアセスメントがちがっても、どんなケアやサポートにつなげていけばいいのかとか利用者さんの希望につながる看護をするためにどうしていけばいいのかを建設的に意見交換できるように意識していますね。
もちろんスタッフみんな性格がちがうので感情が出てしまうとうまくいかないこともありますが、仕事上では利用者さんのQOLが最優先なので、そこは気持ちの切り替えができるように声をかけています。
当ステーションでは自分の看護が否定されることはないので、考えを発信しやすい環境だと思います。インシデントもそうで、誰にでもあり得ることなので、人を責めるのではなくて出来事や事象について話し合うことを大切にしています。インシデントを挙げてくれたときにはお礼を伝えるようにしていますよ。
自分たちで訪問看護ステーションを構築していく過程では、スタッフの意見を取り入れることが大切だと考えているので、管理者の私を含め、主任や副主任がスタッフの考えを否定しないということを徹底してやっています。

地域包括ケアの必要性と自分たちができること
今後の目標は、地域包括ケアを進めていくことです。在宅側のそれぞれの職種や事業所の結びつきに、まだ高い壁があるのではないかと感じているんです。多職種連携には医師、看護師、ケアマネジャー、ヘルパーなどが関わりますが、そのなかでもそれぞれの専門職が上下関係なく、同じ並びにいる感覚が大切だと思っています。
たとえば、ご家族が本音を医師や看護師に言いにくいことがあっても、ヘルパーさんやケアマネさんには言えることがあるんです。なので、利用者さんやご家族の身近な存在である職種からの情報をキャッチすることはとても重要なんですよね。利用者さんのために、それぞれの専門職の視点から「自分たちがどのような役割を担っていけるのか」を明確にして連携をとっていかなければ、チームケアにはならないと考えています。
また、病院側と在宅側の連携も足りていないところがあると感じていますね。最近では在宅側のスタンスが変化してきていて、自宅で過ごしつつ、ときどき入院する利用者さんも増えています。療養場所が変わることが当たり前になりつつありますが、生活の場が変わるときはきっと利用者さんは孤独だと思うんです。私たちのステーションの母体には病院がついているので、利用者さんがレスパイト入院されると、私たちも顔を見に行けます。
病院側の看護師も私たちが介入していることがわかっているので、看護師同士の連携がスムーズに取れるんですよね。そうすると利用者さんが病院にきても、顔の見えるつながりができているので、安心につながるかなと思います。これは母体に病院があるステーションの強みですね。
地域包括ケアにおける意思決定支援では、病院と在宅それぞれのメリットやデメリット、終末期を過ごす場所や在宅だと何ができるのかなどの選択肢を利用者さんやご家族に伝えることが大切だと思っています。利用者さんが改めて人生を考えるとき、よりよい意思決定をサポートできる看護師を増やしていきたいです。
インタビュアーより
ご自身の経験から「先を見る看護」や「求められる看護」の考え方を培われ、訪問看護に対する大切なものをスタッフの方々へも共有されている姿が印象的でした。教育体制も整っており、先輩スタッフからフォローを受けながら訪問看護に必要な伝える力やアセスメント力を習得できます。積極的に見学を受け入れたり、病院のTikTokに出演されたりなど、訪問看護の魅力を伝えるために精力的に行動され、魅力あふれるステーション様です。
事業所概要
越谷ロイヤル訪問看護ステーション(埼玉県越谷市)
住所:〒343‐0815 埼玉県越谷市元柳田町6‐45
運営方針・理念:
平成8年に訪問看護ステーションを開設して依頼、併設病院である新越谷病院の基本理念である「愛し愛される病院」を共有し、地域に密着した医療の提供を心がけています。ご依頼を断らないことをモットーに、明るく、元気に、温かい心をもって、ご本人やご家族さまの支えになれるよう努力し、他職種とのチームワークも大切にしています。

「NsPace Career ナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「NsPace Career」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。