「地域でともに生きる」重症心身障害児者と家族の生活を支える~横浜市多機能型拠点こまち 訪問ステーションなごみ 森田さん 菅原さん 竹内さんにインタビュー

公開日:2025/04/10 更新日:2025/04/17
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病気や障害を抱えた子どもの成長した姿が見たい。副施設長 森田さんのあゆみ

森田様:

新卒で子ども専門病院に入職して以来、ずっと子どもの看護をやってきました。病院ではNICUに勤めた12年間を通して、障害児や低出生体重児など病気や障害を抱えた子どもたちが、将来どのように成長していくのかが気になっていました。病院では、子どもが退院してしまうとまた会える機会は少なく、成長している姿が見れないのです。

退院後の子どものことが気になっていたのですが、転勤をきっかけにこどもとは接点がなくなってしまいました。でもやっぱり自分がやりたいことを考えたとき、病気や障害を抱えた子どもたちの成長した姿が気になり、専門的な道に進もうと決めたんです。

重症心身障害者の入所施設に就職し、そこで一から学びました。経験を積んで管理者としても働き、定年になると同時に退職しました。

当施設が設立されたときに声をかけていただき、立ち上げの頃から副施設長として関わり、現在で8年目になります。

「管理者という立場で、スタッフを支えたい」とお話しされる菅原さん

子どもと家族の生活を支えたい。管理者 菅原さんのこれまで

菅原様:

看護学校卒業後はリハビリテーション病院で4年間働いた後、幼い頃に特別学級の障害を持ったお子さんと関わった記憶が強く残っていたことと、地元に戻りたいという思いもあり、転職活動を行いました。

ちょうど先輩が働いていた旭区の重症心身障害児者の施設とご縁があって、その施設で26年ほど勤めました。訪問看護ステーションの立ち上げに関わって責任者として働いたり、一般病棟に戻ったりしたこともあります。

当施設に来たのは、以前の同僚がいるということを知ったことがきっかけでご縁があり、転職という形で入職しました。

現在は管理者という立場で、スタッフを支えたいという気持ちでやっています。私は施設での勤務が長くありますが、自分では在宅のイメージができていたつもりです。でも実際に利用者さんのご自宅を訪問して、ご家族の負担の大きさに衝撃を受けました。

訪問看護で子どもの希望を叶えたい。リーダー看護師 竹内さんの軌跡

竹内様:

看護学校を卒業後、大学病院のこどもセンターで5年間働きました。勤務していた病棟は重症心身障害児者が多く入院しているところで、みんなかわいくて大好きでした。

ただ、その病棟だとすごく忙しくて、発達の面や遊びで関わるのが難しく、病棟の保育士さんにその部分をお願いしていたんです。私自身も発達や遊びを通した関わりがしたいという想いが強く、看護師6年目を迎えたときに重症心身障害児者の入所施設に転職しました。

転職後は療育も看護にも関わって、生活のなかの医療に看護師が関わるということを楽しく学びましたが、そこでも「できない壁」がありました。たとえば、外出に関わることです。

長期入所していた男の子の七五三のお祝いに神社に行きたいということがあったのですが、施設のルールで行きたいときに行けず、すごく悲しい思いをしました。「在宅に行けたら、もっといろんなことができる可能性が広がるのかもしれない」と思ったのが訪問看護に興味をもったきっかけです。

自分の結婚や出産を機に入職したのが、保育事業を併設したこども専門の訪問看護ステーションです。4年間働いた経験から、さまざまな事業と関連を持つのが大切だと感じました。当施設は1つの場所でさまざまな事業があり、かつ協働しやすい環境が整っています。ここで働いたら自分のスキルアップにもなると考え、入職させてもらいました。

重症心身障害児者を取り巻く環境の変化

森田様:

医療的ケアが必要な重症心身障害児者を対象にしている施設は、全国的にも多くありません。横浜市が平成21年に初めて、「将来にわたる安心施策」を提言し、医療と福祉を一体化した横浜市多機能型拠点が作られました。

当施設は多機能型拠点の3館目として設立されました。それまでは人工呼吸器をつけているような重症な方が通所できる施設は珍しいことでしたね。スタッフも重症の利用者さんを看たことがない人が多かったので「ケアするのが怖い」「本当にうちの施設でみることができるのだろうか」と心配があったり「急変があったらどうしよう」という不安を抱えたりしていました。

ただ、利用者さんが安心安全に過ごせる場にするという責任感が大きかったので、一から勉強したり、経験や知識のあるスタッフが他の人に教えたりしていましたね。今はその経験のある人たちが次の世代に教育しているので、スタッフのレベルが上がってきています。

当施設には看護師、支援員、リハビリスタッフ、医師、相談員、ドライバー、事務職、管理栄養士など多職種が在籍しています。それぞれの職種で教育課程も違うので、各々の専門性を活かせるかを考えましたし、専門性はあっても重症心身障害児者に特化している方はとても少ないので、すべての職種のレベルを一定に上げるのは大変でしたね。

「当施設では日常の全体的なサポートをひとつの場所で完結でき、多職種が同じ目標をもって連携・協働してひとりの利用者さんをサポートできるのが強み」とお話しされる森田さん

子どもと家族の人生を豊かにするために。スタッフの密な連携でサポート

森田様:

利用者さん一人ひとりが人生を楽しく全うすることが大切だと考えているので、人生を充実させるために、いろんな活動を考え、提供していくことを心がけています。

家族の力だけでは体験できることにも限りがありますが、当施設に来るといろんなことが体験できます。また、訪問看護が入ったり通所に通うことで、家族にはゆっくり過ごす時間が提供でき、利用者さんには楽しい生活を送っていただけるよう努めています。

生活をサポートするという点では、NICUを退院してすぐの0歳の赤ちゃんから、訪問や通所、学校に行ったら放課後デイサービス、卒業したら生活介護……というように、地域のなかで小さいうちから大人になってもいろんな支援を受けながら生活できるというサポートができたらと考えています。

また、ご家族も含めたサポートとして、朝起きてから夜寝るまでの支援をしていくことが大切だと思っています。朝はヘルパーさんが訪問して着替えやご飯のサポート、通学のサポート。放課後は通所や訪問看護、ヘルパーが入浴介助やご飯のサポートなど、日常生活のなかでご家族の負担を減らすお手伝いをしていきたいです。

短期入所で夜も家族に休んでもらう時間を作ることもしています。

当施設では、日常生活のサポートを一つの場所でまるごと完結できます。多職種のスタッフが“同じゴール”を見据えて連携し、一人ひとりの利用者さんをチームで支える体制が整っているのが私たちの強みです。

ご家族に寄り添い、その力を信じるケアを

菅原様:

訪問看護で大切にしているのは、ご家族に寄り添うことです。たとえば感染対策。病院に比べると自宅での感染対策のルールはゆるいです。ですが、それでも子どもとお母さんが元気で、大変でなければそれで良くて、お家でのやり方を崩さずに寄り添う形でいいのかなと思うようになりました。

どんなに親しくなったご家族でも、ちょっとしたことで信頼関係は壊れてしまうので、配慮しながら責任を持って関わっています。

当ステーションでは、施設内のさまざまな専門職のスタッフがヘルプとして関わりますが、在宅の経験が少ない場合もあります。その際、スタッフには「ご家族が行っていることを大切にする」ということが「ご家族を支える」ことにつながると伝えています

慣れるまではスタッフ同士で同行や密な情報提供を行い、フォロー体制を整えています。ヘルプに来てくれたスタッフも同じ利用者さんに関わっていることもあり、訪問と通所で、お互いに情報交換ができることもありますね。ご自宅と施設では利用者さんが見せてくれる表情やご家族の様子がちがうことがあるので、新たな発見にもなります。

竹内様:

訪問看護では、ご自宅にうかがうという面では緊張感や怖さはありますが、信頼関係を築き、ご家族のチームの一員として関われることに喜びややりがいを感じます。利用者さんのケアを通して、ご家族なりの楽しさや喜びを感じてもらえたときは、やっててよかったなと思いますね。

NICUから退院した子どものご両親には、現状の受け入れに時間が必要だったり、自宅での生活をイメージすることが難しい家族もたくさんいらっしゃいます。私たちが関わることで、病院では得られない選択肢をお伝えできたらと考えています。

たとえば、人工呼吸器を使っている子どもでも保育園に通えることや、預かってくれる場所があることなど、育児を楽しむための環境が作れるとすごくうれしいです。「介護ではなく育児が楽しめました」という言葉をいただいたこともあり、とても印象に残っていますね。

大切にしているのは、ご家族が行っていることを認め、サポートに徹することです。訪問看護では指導的立場にならず、ご家族のやり方を尊重しサポートする姿勢を持つと、ご家族に受け入れてもらいやすいと感じています。

自身のご経験を笑顔でお話しされる竹内さん

スタッフの働きやすさにも注力

森田様:

重症心身障害児者の看護に携わっている人は一握りしかいないのが事実です。重症心身障害児者の方たちも普通の人と変わらない生活を送れるよう支援していくために、私たちのスキルを上げていく必要があると思っています。利用者さん自身が言葉で発信できないことが多いので、その方の想いや希望などをしっかり受け止められる看護師や支援者になってほしいという思いがあります。

訪問看護の現場では自分で判断をして、家族に聞かれたことや利用者さんの状態を見て判断して次の行動に移さなければいけません。自分で判断するのが怖かったり、自信がなかったりしたうえ、その場で誰かに相談できないというのが一番大変なところかなと思います。

スタッフには、判断に迷ったときには私や先輩スタッフにすぐ電話で聞いてもらうようにし、それが難しければ、ご家族が不安にならないような返し方をするように伝えています。小児の経験がなかったり、訪問看護未経験でも、スタッフ同士でしっかりとフォローする体制を整えていますよ。

当ステーションの考えとして、地元で誰でも働けるようにという思いがあります。子育て中の方だと夜間に仕事に出るのは難しいこともあるので、24時間対応はしていません。現状のスタッフの人数も少なく、オンコール当番の頻度が増えて負担が大きくなってしまうので、今の体制で頑張ろうと思っています。

病院とのスムーズな連携で安心を

森田様:

病院との連携で大切にしているのは、退院支援チームの看護師や主治医と連絡を取り合ったり、カンファレンスに参加したりすることです。

当施設内のなごみクリニックは地域医療ネットワークに所属しており、利用者さんが入院した先の電子カルテをなごみクリニックの電子カルテで閲覧できるようになっています。入院中の様子や検査データ、使っている薬などが閲覧でき、入院中の様子がわかるのです。

ほかにも大学病院の小児科医が週2回、外来診察に来てくれてるので、医師から直接、利用者さんの状況を教えてもらえることもあります。

当ステーションは重症心身障害児者に特化しているということもあり、利用者さんから緊急で呼ばれることはあまりありません。重症心身障害児者のご家族は、緊急時には医師に連絡するという判断をされる方も多いですね。そのぶん、利用者さんに一緒に入っている24時間対応の訪問看護や在宅クリニックの医師とは、密な情報交換を心がけています。

子どもと家族の豊かな生活を守るために。取り組みと展望

森田様:

現在、教育委員会から依頼を受けて通学支援事業に取り組んでいます。気管切開や吸引が必要な方は、学校のスクールバスを利用できず、ご家族が送迎しなくてはいけません。毎日、朝と夕の2回の送迎は大変なことです。

そこで私たちが介入し、ドライバーが運転し、看護師が添乗する形で送迎をサポートしています。しかし、通学支援サポートを希望される方が多いものの、看護師の数が足りず、十分に対応できていないのが現状です。

学校の送迎という短い時間ではありますが、家族にとってはすごく大きなシーンになります。小学校1年生から高校3年生まで毎日はとても大変だと思うので、通学支援制度が整備されていくことを願っています。

ほかにも、昨年、在宅看護協会主催で行われた医療的ケア児支援の「支援看護師育成研修」に5名の看護師が参加しました。支援看護師は学校や保育所などから要請を受け、医療的ケア児支援のために施設に在籍している看護師に対して指導する形で介入できるのです。

医療的ケア児支援法が施行され、人工呼吸器を使用している子どもも通学できるようになり、家族の代わりに看護師が学校に付き添うことができるようになったことは大きな進展です。今後、重症心身障害児者のサポートで、看護師がさまざまな場所で活躍できることを期待しています。

インタビュアーより

多職種連携でお子様とご家族の人生を支える多機能型拠点こまち様。職種間の垣根を超えたチームワークがとても印象的でした。スタッフの皆さんの穏やかで柔らかい雰囲気がとても素敵なステーション様です!

事業所概要

横浜市多機能型拠点こまち 訪問看護ステーションなごみ(横浜市瀬谷区)

住所:横浜市瀬谷区二ツ橋町489-45

運営方針・理念

法人基本理念

1.地域の人々に共感と信頼の得られる社会福祉事業を行うことにより、地域の人々の安心した暮らしの実現を支援します。

2.地域の関係機関と連携しながら、地域における福祉の環境づくりに貢献します。

3.堅実かつ効率的な経営につとめ、サービスの質の向上と安定的な提供を確保します。

行動指針

1.ご利用者が地域において安心して毎日楽しく過ごせる環境を作ります。

2.個別支援を中心に医療ケアのみならず生活全体を考えたサービス提供を行います。

3.地域生活を支える在宅サービスや日中活動等の充実に取り組みます。

4.ご利用者と地域が交流できる場を作り、地域と共に成長します。

5.障害のある皆さまが気軽に安心して相談できる診療所を目指します。

事業所紹介ページ:https://ns-pace-career.com/facilities/14331

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記事投稿者プロフィール画像 NsPace Careerナビ 編集部

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