看護師のパワハラ事例8選|これって普通?我慢すべき?正しい対処法を解説

看護師の職場では、「これって指導?それともパワハラ?」と悩む場面が少なくありません。
人前で怒鳴られたり、無視されたりする経験に、心がすり減っている方もいるでしょう。
看護業界におけるパワーハラスメント(以下、パワハラ)は、指導の厳しさや強いストレスが背景にある、深刻な問題です。
厚生労働省の定義にもとづくと、これらの職場での体験はパワハラかもしれません。
この記事では、看護師の職場で多いパワハラの事例を言動と業務にわけて解説します。さらに、パワハラを我慢し続ける必要がない理由や、自分の心身を守るための対処法、相談窓口も紹介します。つらい状況から抜け出し、自分らしく働ける道を見つけましょう。
看護師のパワハラの実態
厚生労働省によると、パワハラは「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要、かつ相当な範囲を超える」「就業環境が害される」、この3つを満たしたものと定義されています。
患者さまの命にかかわる現場では、指導とパワハラの境界があいまいになりがちです。ここでは、実際に起こっているパワハラの実態を解説します。
看護師の34.5%がパワハラを経験している
日本医療労働組合連合会「2022年看護職員の労働実態調査」によると、看護師の34.5%が職場でパワハラを受けたことがあると回答しています。
約3人に1人がパワハラを経験している計算になります。一部の職場では依然として深刻な課題となっていることがうかがえます。
パワハラの加害者として「看護部門の上司」が多い傾向がみられる
同調査では、パワハラの加害者として「看護部門の上司」を挙げた人が最も多く、全体の60.1%を占めています。
ただし、これは「上司だからパワハラをしている」という意味ではありません。
指導や評価を担う立場にあるため、関わりが多く、ハラスメントと感じられる場面が生じやすいことを示しています。
看護師の職場でパワハラが起こりやすい理由
看護師の職場でパワハラが起こりやすい背景には、医療現場特有の構造的な問題があります。
- 上下関係があり指導とパワハラの境界があいまいになりやすい
- 慢性的な人手不足で、現場に心理的な余裕がない
- 患者の命を預かる責任が大きく、緊張感が高まりやすい
とくに、新人看護師に対する指導では、指導のつもりでもパワハラにあたる言動が生じやすい傾向があります。「人命にかかわるミスを防ぐ」という理由から、厳しい指導や強い叱責が正当化されやすいことも、その一因です。
さらに、慢性的な人手不足により現場に余裕がなく、常に緊張感の高い状態になりがちです。その結果、ミスに対する叱責や過度な追及が起こりやすい環境が生まれています。
関連記事:看護師はブラック・やめとけといわれる理由は?ブラックな職場の見分け方
これはアウト?看護師のパワハラ事例【言動編】
ここでは、厚生労働省の定義にもとづいて、看護師の職場でよく見られるパワハラ事例を紹介します。
※ここで紹介する事例は一例です。すべての職場や人に当てはまるわけではありません。
- 人前で怒鳴られ人格を否定される
- 「使えない」「向いてない」と繰り返し言われる
- 無視・冷たい態度・挨拶を返されない
- ミスを必要以上に責め続けられる
これらの行為は、状況や頻度によっては、心理的な攻撃や人間関係の切り離しに該当する可能性があるとされています。
「指導の一環なのか、それとも行き過ぎた対応なのか」と迷ったときは、一人で抱え込まず、第三者に相談することも大切です。
人前で怒鳴られ人格を否定される
| ナースステーションやミーティング中など、人前で看護師長から大声で怒鳴られる。 「だから、あなたはダメなのよ」「この仕事には向いていないのでは?」「続けるのは難しいのでは?」など、本人の適性や継続を否定するような言葉を投げかけられる。 |
状況や言動の内容によっては、心理的な攻撃と受け取られる可能性があります。
指導を行う際には、冷静さや配慮が求められます。
「使えない」「向いてない」と繰り返し言われる
| 患者さまのケアに時間がかかった際、先輩から「能力が低くて使えない」「あなたはこの仕事に向いてない」など、能力そのものを否定する言葉を繰り返し言われる。 |
成長を促す目的ではなく、精神的に傷つけることを目的とした発言であり、パワハラに該当する可能性があります。
無視・冷たい態度・挨拶を返されない
| リーダーの看護師に業務上の報告をしても無視される。また、業務に必要な情報や連絡事項を自分だけ共有してもらえない。 |
このような状態が継続すると、仲間外れや人間関係から切り離されていると受け取られる可能性があり、チーム医療の円滑な連携に影響を及ぼすおそれがあります。
ミスを必要以上に責め続けられる
| 一度のミスについて、業務終了後に呼び出され、長時間にわたり責め続けられる。ほかの看護師のミスは許されているのに、自分だけが繰り返し責められ、ターゲットになっていると感じる。 |
ミスは改善を促す指導が必要ですが、精神的な苦痛を与えるほど責め続けるのはパワハラといえます。
これはアウト?看護師のパワハラ事例【業務・配置編】
「業務の指示だから仕方ないのかな」と感じてしまうケースでも、内容や負担のかかり方によってはパワハラにあたる場合があります。
ここでは、業務や配置に関するパワハラの事例を紹介します。
- 特定の看護師だけ、明らかに業務量が多い
- 法定の休憩時間を取らせてもらえない
- 正当な理由なく、夜勤・残業を押しつけられる
- 十分な説明や配慮がないまま、希望しない部署異動を強要される
これらのケースは、業務上の必要性を超えた「過大な要求」や「個人の侵害」として、パワハラに該当する可能性があります。
業務や配置であっても、看護師の健康や働く権利が守られることが前提です。
特定の看護師だけ、明らかに業務量が多い
| ほかの同僚と比較して、明らかに多くの患者を受け持たされたり、負担の大きい業務ばかりを割り振られたりする。 |
特定の看護師だけに業務負担が偏っている場合、パワハラに該当する可能性があります。
これは、業務の適正な範囲を超えた「過大な要求」と受け取られることがあります。
法定の休憩時間を取らせてもらえない
| 勤務中に十分な休憩時間が取れず、昼食を食べる時間さえ確保できないほど業務を強制される。 |
労働基準法第34条では、6時間超の労働で45分以上、8時間超で1時間以上の休憩付与が義務づけられています。
この基準が守られていない場合、労働基準法に抵触する可能性があり、心身の疲弊を招く恐れもあります。
正当な理由なく、夜勤・残業を押しつけられる
| 特定の看護師にだけ、明確な理由や説明がないまま、同僚が嫌がる夜勤や残業を押しつけられる。 |
このような状態が継続すると、労働環境の悪化につながり、状況によってはパワハラと受け取られる可能性があります。
十分な説明や配慮がないまま、希望しない部署異動を強要される
| 正当な理由や十分な説明もないまま、本人が希望しない部署や不慣れな部署への異動を命じられる。 |
このような異動は、大きな精神的負担となり、結果的に退職を考えざるを得ない状況に追い込まれるケースもあります。
看護師がパワハラを受けたときの対処法
パワハラを我慢し続ける必要はありません。今すぐすべてを行う必要はないため、ご自身の状況に合わせて、できそうなことから少しずつ試してみてください。
ここでは、つらくなったときの対処法について順を追って解説します。
- まずは事実を記録しておく
- 信頼できる同僚や先輩に相談する
- 相談窓口を活用する
- 心身の症状がある場合は産業医もしくは専門医を受診する
- 休職して職場から離れる
- 症状が改善しない場合は退職する
これらの対処法は、自分を守り、状況を見直すための選択肢です。1人で抱え込まず、無理のないペースで少しずつ行動していきましょう。
まずは事実を記録しておく
パワハラかもしれないと感じたときには、無理に結論を出そうとせず、まず事実を残しておくことが大切です。メモ帳やスマートフォンのメモ機能など、手軽な方法で構いません。
記録する際には、次の項目を参考にしてみてください。
| 項目 | 記録する内容 |
| いつ(日付、時間) | 20 XX年〇月〇日〇:〇頃 |
| どこで(場所) | 病棟のナースステーション、休憩室など |
| 誰から(加害者) | 看護師長 Aさん、看護主任 Bさんなど |
| 何をされたか(内容) | 「使えない」と大声で怒鳴られた、あいさつを無視されたなど |
| 目撃者 | 看護師Cさん、理学療法士Dさんなど |
こうした記録は、状況を整理したり、第三者に説明したりする際の大切な材料になります。メールの内容を削除せず保存したり、可能であればスマートフォンやICレコーダーなどで残したりして、時系列を整理しておきましょう。
信頼できる同僚や先輩に相談する
職場の同僚や、利害関係のない信頼できる先輩に相談してみましょう。
話を聞いてもらうだけでも気持ちが楽になり、状況によっては一緒に証言してくれる協力者になる可能性もあります。
ただし、相談相手を慎重に選ぶことが重要です。
病棟内に情報が広がりすぎると、かえって働きにくくなり、状況が悪化するかもしれません。相談相手は、最小限の人数に留めましょう。
相談窓口を活用する
職場の中で相談できそうな場合は、院内の相談窓口を利用する方法があります。ハラスメント相談窓口や人事部、看護部長などがその例です。
一方で、院内での相談が難しいと感じる場合は、院外の公的機関を利用する方法もあります。
「どこに相談すればいいかわからない」という方のために、代表的な相談窓口を以下にまとめました。
| 相談窓口 | 特徴 | 相談方法 |
| 厚生労働省の総合労働相談コーナー | 都道府県の労働局や全国の労働基準監督署など379か所に設置 | 面談や電話相談 |
| 厚生労働省の労働条件相談「ほっとライン」 | 専門知識を持つ相談員が、法令・裁判例をふまえた相談対応や各関係機関を紹介 | 電話相談 |
| 日本看護協会「看護職のためのメンタルヘルス相談窓口」 | 臨床心理士、精神保健福祉士、看護職が対応し、相談内容に応じて専門機関を紹介 | 電話相談 |
院外の窓口では、職場に知られずに中立的なアドバイスを受けられます。相談の際は、記録したものを準備しておくと、具体的な解決策を提示してもらえるでしょう。
心身の症状がある場合は産業医もしくは専門医を受診する
不眠、食欲不振、気分の落ち込みなど、心身の不調を感じた場合は、無理をせず専門家に相談することも大切です。
- 院内の産業医:職場環境の改善について意見をらえる場合があります。
- 精神科・心療内科:診断書が、休職や今後の対応を考える際の参考になることがあります。
症状を放置すると悪化する危険があります。1人で無理する必要はないため、早めに相談してみてください。
休職して職場から離れる
心身の不調が続く場合は、診断書をもらって休職することも選択肢です。一時的に職場から離れることで、冷静に今後のことを考える時間を作れるでしょう。
休職中は、治療に専念し、心身を回復させることに集中してください。この期間は、何かを決めるための時間ではなく、回復を最優先する時間と考えてください。
復職や今後の働き方については、体調が落ち着いてから考えても遅くありません。
症状が改善しない場合は退職する
パワハラが改善しない場合は、自分の心と身体を守るために退職を検討しましょう。
心身の症状が悪化する状況のままでは、今後看護師としてだけではなく、働くこと自体が難しくなる恐れがあります。
状況によっては、退職も自分を守るための現実的な選択肢です。心身の健康を最優先に考え、パワハラのない環境に身を置くことも一つの選択肢です。
退職は逃げではなく、自分を守るための判断といえます。
看護師はパワハラを受けて退職するときの注意点
パワハラが改善されず、退職を選択肢の一つとして考える場合には、退職後の生活や手続きができるだけスムーズに進むように、いくつか確認しておきたいポイントがあります。
- 就業規則を確認して退職時期を検討する
- 引き止められにくい理由を考えておく
- 会社都合の退職として扱われる可能性があるか確認する
これらのポイントを事前に知っておくことで、退職手続きを落ち着いて進めやすくなります。無理に急ぐ必要はありません。ご自身のペースで、次のステップを考えていきましょう。
就業規則を確認して退職時期を検討する
退職の意思を伝えてから、実際に退職が成立するまでの期間は、就業規則で定められていることが一般的です(多くは1〜2か月程度)。まずは、職場の就業規則を確認してみましょう。
パワハラが原因で、すぐに職場を離れたいと感じる場合もあるかもしれません。その際は、有給休暇の扱いや欠勤なるかどうかなど、人事や相談窓口に事前に確認しておくと安心です。
法的に問題なく退職するためにも、規則を事前に把握しておくことで、不利にならない形で退職日を検討しやすくなります。
引き止められにくい理由を考えておく
職場によっては、「これから待遇を良くしていくから」「次の人材が育つまで待ってほしい」というように引き止められることも少なくありません。
「家庭の事情」「体調不良」など、これ以上詳しく説明しなくても理解されやすい理由を伝えることで、退職の話が長引きにくくなる場合があります。
退職理由は、後から変更する必要がない内容を選んでおくと、落ち着いて手続きを進めやすくなります。
会社都合の退職として扱われる可能性があるか確認する
パワハラが原因でやむを得ず退職する場合には、「会社都合の退職」として扱われる可能性があります。その際、記録や第三者の確認が参考になることがありますが、自分だけで判断する必要はありません。
会社都合退職と認められると、失業保険の受け取りや退職金の上乗せ、有給休暇の消化などのメリットがあるため、ハローワークや労働基準監督署に相談して確認しましょう。
事前に話を聞いておくだけでも、今後の見通しが立てやすくなるでしょう。
看護師のパワハラについてのよくある質問
ここでは、看護師のパワハラについてのよくある質問に回答します。
Q1:パワハラの証拠がなくても相談できますか?
パワハラの明確な証拠がなくても、相談することは可能です。
証拠がない場合でも、まずは院内の相談窓口や外部の労働相談窓口に話を聞いてもらいましょう。相談窓口が、加害者への聞き取り調査を行い、事実確認を進めてくれる場合があります。
ただし、状況を整理し、具体的な対応を検討してもらうためには、できる範囲で事実を記録しておくと役立つ場合があります。
Q2:パワハラを相談したら評価が下がりませんか?
自分の評価への影響が心配な場合は、外部の相談窓口を利用するという選択肢もあります。
院内の相談窓口が機能していない場合や、相談することで不利益を被る心配がある場合は、厚生労働省や労働基準監督署などの外部の相談窓口を利用してください。
外部機関であれば、職場内の人事評価を気にせずに相談しやすいというメリットがあります。
Q3:新人看護師でもパワハラだと声を上げていいですか?
新人看護師であっても、声を上げて問題ありません。「新人だから我慢すべき」「指導の一環だ」と考える必要はありません。
業務上必要な指導を超えて、精神的な苦痛を感じる言動はパワハラです。何よりも自分の心身の健康が大切です。無理をせず、信頼できる窓口を活用しましょう。
パワハラを我慢し続ける必要はない!つらくなる前に対処しよう
看護師の職場でパワハラは珍しくない現状がありますが、それは「普通のこと」ではありません。自分の心と身体を守るために、我慢せずに適切な対策を取ることが重要です。
まずは相談・環境調整など、職場の中でできることを試してみましょう。
それでも改善が見込めない場合には、転職も自分を守るための選択肢の一つです。パワハラの状況が改善されず、心身の負担が大きい場合には、休職や配置転換、転職といった選択肢を検討することも大切です。
転職は「逃げ」ではなく、自分を守るための現実的な選択肢の一つです。
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<参考サイト・文献>
職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)|厚生労働省
NsPace Careerナビ 編集部 「NsPace Career ナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「NsPace Career」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。
