【看護師の言葉遣い】どこまで許される？注意される理由と正しいコミュニケーション
「親しみを込めたのに、言葉遣いで患者さまやご家族から注意された」「どこまでフランクに話して良いかわからない」と悩む看護師は少なくありません。
看護師の言葉遣いは「専門職としての信頼性」と「クレーム発生率」に直結する重要な要素です。
もちろん、すべてのタメ口が悪いわけではありません。ただし、まずは“誰にでも通用する安全ライン”として、丁寧語を基本にしておくことが大切です。
この記事では、看護師の言葉遣いが注意される理由、フランクな話し方が許される境界線を解説します。患者さまの年齢層や状況に応じたコミュニケーションのコツ、柔らかい敬語の例文集を紹介するため、自信を持って患者さまと接し、信頼される対応ができるようになるでしょう。
看護師がタメ口で注意される理由
看護師の言葉遣いは、患者さまと信頼関係を築くために大切です。言葉遣いが原因で患者さまに注意されたり、クレームにつながったりします。
- 「フランク＝失礼」と捉える患者さまが一定数いる
- 言葉遣いについてのクレームは発生率が高い
- 看護師は専門職としての信頼性が問われる
日本看護協会「看護職の倫理綱領」にあるように、看護師には高い倫理観が求められるため、看護師長から言葉遣いについて指導を受けるケースもあります。患者さまに不安を感じさせないように、丁寧な言葉遣いを心がけましょう。
「フランク＝失礼」と捉える患者さまが一定数いる
看護師にとっては親しみを込めた「フランクな話し方」であっても、患者さまやご家族の中には「失礼だ」「馴れ馴れしい」と捉える方が一定数います。
とくに、医療現場は、患者さまが不安を抱え、緊張している場です。このような心境で、「見下されている」と感じさせてしまうと、コミュニケーションが円滑に進まなくなります。
言葉遣いについてのクレームは発生率が高い
医療現場では、言葉遣いや態度についてのクレームの発生率は高い傾向にあります。
実際に、東京都保健医療局（旧・福祉保健局）が公表している「令和4年度 患者の声相談窓口 実績報告」の相談・苦情の内訳を見ると、「コミュニケーション（19.7％）」が最も多く、次いで「健康や病気についての相談（17.9％）」「医療行為、医療内容（15.2％）」の順となっています。
つまり、技術より“言葉”が原因でトラブルが起きているケースが最多ということになります。
これは、医療技術の専門性とは異なり、言葉遣いは誰もが「適切・不適切」を判断できるからです。丁寧ではない言葉遣いは、「患者さまを大切に扱っていない」という印象を与え、不満や不信感の原因となるため、看護師長から注意されることもあるのです。
看護師は専門職としての信頼性が問われる
看護師は、患者さまの命にかかわるケアや処置をおこない回復をサポートする専門職です。
カジュアルな話し方やあいまいな表現は、「この看護師に任せて大丈夫だろうか」という不安を患者さまに与え、看護師や病院の信頼性を損なう可能性があります。
どこまで許される？看護師のタメ口のライン
親しみやすさを持ちつつも、看護師としての信頼を失わない言葉遣いの境界線はどこにあるのでしょうか。
- 避けたいタメ口は上から目線・命令形
- 注意が必要なタメ口の表現
- 状況次第で許容されるタメ口
患者さまに対しては、あくまで丁寧語を基本として相手への敬意が伝わる範囲では、カジュアルな話し方が許容されます。上から目線や命令形は、不快感を与え、クレームにつながるため注意が必要です。
避けたいタメ口は上から目線・命令形
上から目線や命令形の言葉遣いは、避けなければなりません。
| 避けたい表現 | 適切な表現 |
| 「ちょっと、こっち向いて」 | 「顔をこちらに向けていただけますか？」 |
| 「じゃあ、次は薬飲んで」 | 「では、次の薬を飲んでもらえますか？」 |
| 「熱測っておいてね」 | 「検温させていただきますね」 |
これらの表現は、患者さまの立場を無視した命令と受け取られやすく、不快感の原因となります。
注意が必要なタメ口の表現
患者さまの状況によっては、タメ口が許容されることもあります。しかし、基本的には次のようなタメ語は避けるべきです。
| 避けたい表現 | 適切な表現 |
| 「〜でいい？」 | 「〜でよろしいでしょうか」 |
| 「大丈夫？」 | 「痛みはありませんか」「ご気分はいかがですか」 |
| 「お熱あるね」 | 「体温が高いですね」 |
特に「大丈夫？」は、“何が”大丈夫なのかが曖昧です。痛みなのか、気分なのか、呼吸状態なのか、患者さまは判断できません。
そのため、「痛みはありませんか？」「ご気分はいかがですか？」のように、対象を明確にして尋ねることが大切です。
状況次第で許容されるタメ口
長期入院で患者さまと信頼関係が築けている場合、状況や場所を限定してフランクな口調が受け入れられることがあります。
ただし、「丁寧語を基本とする」という前提を崩してはいけません。リラックスできる場面で、患者さまから親しみを求めてきた場合といった、例外的なケースに限られます。
患者さまに応じた適切な言葉遣いと接し方
患者さまが安心感を覚える言葉遣いは、年齢や入院期間によって異なります。
- 高齢の患者さま
- 若い患者さま
- 長期入院で関係性ができた患者さま
- ご家族
これらに応じて、言葉の「丁寧さ」と「共感の度合い」を調整する必要があります。一律の対応ではなく、相手に敬意と安心感が伝わる接し方を心がけることが重要です。
高齢の患者さま
高齢の患者さまに対しては、丁寧語を基本とし、敬意をもって接する必要があります。
具体的には、「〜でいらっしゃいますか」「〜なさいますか」といった敬語を使い、患者さまの尊厳を守る姿勢が大切です。専門用語は避け、一文ずつ区切りながら理解度を確認し、ゆっくり話しましょう。
また、傾聴の姿勢を大切にし、話を遮らず、患者さまのペースに合わせてコミュニケーションを進めることで信頼関係が深まります。
関連記事：【看護師向け】高齢者とのコミュニケーションのポイントや注意点・話題
若い患者さま
若い患者さまであっても、敬語を使う姿勢が不可欠です。
ただし、過度に堅苦しい言葉遣いは、心理的な距離が離れすぎる原因になるため、丁寧さを保ちつつ、話しやすいトーンを意識することが大切です。
また、「初めての入院で、不安が大きいですよね」「そう感じておられるんですね」といった共感の言葉を添えることで、敬意を払いながらも患者さまの不安に寄り添う姿勢を伝えられます。
長期入院で関係性ができた患者さま
長期入院で関係性が深まるほど、あえて丁寧さを保つことが重要になります。
なぜなら、距離が近づくと“馴れ馴れしさ”と誤解されるリスクも高くなるためです。まさに、「親しき仲にも礼儀あり」という状態を意識する必要があります。
敬語で話しながら、「今日は調子が良さそうですね！」といった個別の状況に対するポジティブな声かけや配慮を加えることで、親密さとプロ意識を両立させましょう。
ご家族
ご家族は、患者さまと同じように病状や治療方針に強い不安やストレスを感じていることが多いため、共感と感謝を伝える姿勢が重要です。
「心配ですよね」と寄り添い、病状や今後の見通しを説明する際は、断定的な表現や不確実な情報は伝えないよう細心の注意を払います。
タメ口で接してしまう看護師の共通点
言葉遣いがなぜ崩れてしまうのか、多くの看護師に共通する失敗パターンを知り、クレームを防ぎましょう。
- 忙しく余裕がないとタメ口になりやすい
- 職場の雰囲気に引きずられる
- 「親しみ＝距離が近い」と誤解している
- プライベートの口調が抜けない
これらの共通点は、環境と習慣によって引き起こされます。自分の状況と照らし合わせ、どのパターンに陥りやすいかを知ることが改善には欠かせません。
忙しく余裕がないとタメ口になりやすい
業務が多忙で時間に追われていると、言葉遣いを意識する余裕がなくなります。
指示を早く伝えたい、処置を早く終わらせたいという焦りから、自然と命令形や簡略化されたカジュアルな口調になってしまうのです。
職場の雰囲気に引きずられる
職場全体が、フランクな言葉遣いである場合、新しく入った看護師もその雰囲気に引きずられてしまいます。
その結果、患者さまへの対応にも影響がでます。
「親しみ＝距離が近い」と誤解している
「親しみやすい看護師」になろうとするあまり、親しみを距離の近さと誤解してしまうケースです。
カジュアルな口調を使うことが、患者さまとの壁を壊す方法だと勘違いしている場合があります。
プライベートの口調が抜けない
プライベートや友人に使うカジュアルな口調が、無意識のうちに仕事場でも出てしまうことがあります。
丁寧語を使う習慣が身についていないと、ふとした瞬間に間違った言葉遣いが出やすくなります。
看護師がタメ口にならないための対策と注意点
無意識のうちに不適切な言葉遣いになるのを防ぎ、患者さまが安心できる対応をするための具体的な対策を紹介します。
- 語尾を「です・ます」に統一する
- クッション言葉を使う
- 患者さまの年齢層に応じて調整する
語尾を「です・ます」に統一する
基本的な対策は、会話の語尾を「です・ます」に統一することです。
語尾を間違えてしまうと、それにつられて主語や動詞、全体的なトーンが崩れます。忙しいときこそ、意識して「です・ます」で終える習慣にしましょう。
クッション言葉を使う
依頼や提案、指示をする際に、「クッション言葉」を挟むことで、患者さまに柔らかい印象を与えるでしょう。
| 目的 | クッション言葉の例 |
| 依頼 | 「恐れ入りますが」「お手数をおかけしますが」 |
| 反論・意見 | 「差し支えなければ」「念のため確認させていただきたいのですが」 |
| 拒否・謝罪 | 「申し訳ございませんが」「あいにくですが」 |
クッション言葉は、本題に入る前のワンクッションとなり、患者さまの依頼や指示が難しい場面でも、配慮や敬意を伝えられます。これにより、コミュニケーションの摩擦を減らせます。
患者さまの年齢層に応じて調整する
患者さまに配慮を示すため、丁寧語や謙譲語を適切に使い分け、年齢層や立場に応じてその度合いを調整することが大切です。
とくに、初対面の患者さまやご家族に対しては、関係性を築けていないため、慎重な対応を心がけましょう。
関連記事：看護師の声掛け例13選！患者さまの不安を和らげるためのポイント
看護師のタメ口が原因で発生したクレーム事例
実際のクレーム事例から、看護師の言葉遣いの重要性を押さえましょう。
※以下の事例は、実際に寄せられた相談内容をもとに構成した匿名のイメージケースです。
看護師のタメ口がむかつくとご家族からクレームを受けた事例
| 高齢患者さまに対し、看護師が「Aさん、ご飯食べられた？」「大丈夫？眠れた？」といったタメ口で接していました。見舞いに来たご家族がこれを見て激怒し、「態度がなっていない」「患者を軽視している」として病院にクレームを入れました。 |
看護師は親しみのつもりで接していましたが、ご家族からは「尊厳を傷つける言葉遣い」と受け取られてしまいました。
特にご家族は、患者さまの状態を心配しているぶん、看護師の態度に敏感になりやすいため、タメ口が強い不快感につながることがあります。
距離が近すぎて馴れ馴れしいと感じクレームになった事例
| 長期入院中の若い患者さまに対し、看護師がプライベートの話題を持ち出したり、ニックネームで呼んだりするなど、患者さまとの距離を縮めていました。患者さまは当初、受け入れていましたが、「馴れ馴れしくて不快だ」「プロとして線引きがない」と感じ、担当変更を求めるクレームに至りました。 |
看護師は、患者さまが不安や悩みを表出しやすいように「仲の良い友人」のような関係を築こうとした結果、誤解を招きました。患者さまは、看護師との間に一定の距離を求めており、親密さに不快感を抱くリスクがあります。
看護師が安心して使える親しみある言葉の例文集
緊張しやすい場面でも、看護師としての専門性と優しさが伝わる親しみのある言葉を紹介します。
- 声かけ・処置前の説明で使える例文
- 痛み・不安への共感を伝える例文
- 忙しい場面でも使える短い例文
以下では、実際の場面でそのまま使える「言い換え例」を紹介します。
“命令形を避けつつ、患者さまの安心感につなげる” ことを意識した表現です。
声かけ・処置前の説明で使える例文
| 場面 | 避けたい表現 | 柔らかい敬語の例文 |
| 体位変換 | 「身体を拭くから横になって」 | 「失礼いたします。身体の向きを変えさせていただきますね」 |
| 採血前 | 「ここに針刺すよ。ちょっとチクッとするから」 | 「ここから採血をしますね。針を刺すときに痛みます」 |
| 依頼 | 「ここにサイン書いて」 | 「恐れ入りますが、こちらにご署名をお願いできますでしょうか」 |
処置前の説明では、患者さまの行動を命令するのではなく、「〜させていただきますか」という依頼する形にすることで、配慮を伝えられます。これにより、患者さまに不安を与えず、ケアをスムーズに進められるでしょう。
痛み・不安への共感を伝える例文
| 場面 | 避けたい表現 | 共感を伝える柔らかい敬語の例文 |
| 痛み | 「痛いね、我慢してね」 | 「おつらいですよね、すぐに対応いたしますね」 |
| 不安 | 「大丈夫だよ、心配しなくていいよ」 | 「ご不安な状況ですよね。どのあたりが一番気になっていますか？」 |
| 謝罪 | 「ごめんね、次から気をつける」 | 「大変申し訳ございませんでした。今後はこのようなことがないよう、十分注意いたします」 |
共感を伝える例文を使うことで、「自分の気持ちを理解してくれている」という安心感が患者さまに伝わり、看護師への信頼が深まります。「大丈夫です」と安易にいうのではなく、患者さまの不安に寄り添い、サポートするという姿勢が大切です。
忙しい場面でも使える例文
| 場面 | 避けたい表現 | 使える短いクッション言葉 |
| 声をかけられたとき | 「ちょっと待って」 「今忙しいから」 | 「申し訳ございません、少し後で伺います」 「恐れ入ります、少々お待ちください」 |
| 依頼をするとき | 「これやっといて」 「急いでね」 | 「お手数ですが、お願いできますか」 「恐れ入りますが、よろしくお願いいたします」 |
| 何かを渡すとき | 「はい、どうぞ」 | 「失礼いたします」 「ありがとうございます」 |
| 確認するとき | 「もう終わった？」 | 「確認させていただけますか」 |
忙しい場面で言葉を省略すると、患者さまに冷たい印象を与えます。クッション言葉は、本題に入る前に配慮を伝えることで、患者さまの不快感や誤解を防ぎます。
看護師のタメ口についてのよくある質問
患者さまからのクレームや職場の雰囲気に悩む看護師から、寄せられる質問とその回答をまとめました。疑問を解決し、自信を持って患者さまにケアするためのヒントが得られます。
Q1：職場全体がタメ口文化のときはどうすれば良いですか？
患者さまに対しては、タメ口にならないという線引きを徹底しましょう。
丁寧語を使うことで職場の模範となり、病棟の雰囲気が変わるきっかけになることもあります。まずは、語尾の「です・ます」統一から実践してみてください。
Q2：子どもや若い人にも敬語が必要ですか？
基本的には、子どもや若い人にも敬語を使うべきです。
ただし、子どもの場合、年齢に応じて柔らかい表現を選んだり、ご家族に対しては丁寧な言葉遣いを心がけたりするなど、状況に合わせて対応しましょう。
Q3：患者さまからタメ口で話されたら合わせていい？
基本的に、患者さまからのタメ口に合わせない方が良いでしょう。
患者さまが親しみを込めてタメ口で話してくれても、看護師としての立場を守るため丁寧語で返答するのが適切です。
丁寧語で返すことで、患者さまには安心感を、自分には“看護師としての立場と信頼性”を保つことができます。
看護師はタメ口ではなく丁寧な言葉で患者さまに信頼される対応をしよう！
看護師の言葉遣いは、マナーではなく、安全で質の高いケアを提供するためのスキルです。
カジュアルな話し方は、患者さまの不信感やクレームにつながるリスクがあります。丁寧な言葉遣いを心がけ、患者さまとの信頼関係を深めていきましょう。
言葉遣いは、訪問看護でもとても重要です。ご自宅という“生活の場”に入るからこそ、利用者さまやご家族との信頼関係がケアの質を左右します。
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＜参考サイト・文献＞
患者の声相談窓口 令和4年度 患者の声相談窓口実績報告｜東京都保健医療局
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