訪問看護の利用者とは?ケアや求められるスキル、おすすめ資格を紹介
「訪問看護の利用者さまはどのような人?」
「訪問看護師はどのようなケアをするの?」
初めて訪問看護をスタートする人は、どのような看護をすればよいか気になるでしょう。病院での経験は長いけど、訪問看護ができるか不安という人も多いようです。
この記事では、訪問看護の利用者さまの実態や提供する看護ケアについてまとめています。また、訪問看護師に求められるスキルやおすすめの資格についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
訪問看護の利用者さまとは?
訪問看護の利用者さまは、さまざまな健康上の理由で自宅での医療や看護のサポートが必要な人です。
ここでは、実際の利用者さまの人数や年齢、疾患の種類について紹介します。
訪問看護の利用者数
1ヶ月あたり約69万人が訪問看護を利用しており、毎年著しく増えています。とくに、要支援1〜要介護2の増加の割合が大きいです。
将来、高齢者の人口が増えていくことを考えると、訪問看護の需要も、より一層増えると予想されます。
訪問看護利用者の年齢
赤ちゃんから高齢者まで、すべての年齢の方が訪問看護の対象者です。
厚生労働省の調査によると、65歳以上の高齢者がおよそ半数を占めています。次に多い年齢は、難病や障害をもつ20〜64歳の成人の方です。小児は割合が少ないですが、小児疾患をもつ赤ちゃんから、訪問看護が利用されます。
年齢 | 割合 |
0~19歳 | 約10% |
20~39歳 | 約10% |
40~64歳 | 約30% |
65~84歳 | 約37% |
85歳以上 | 約12% |
訪問看護利用者に多い疾患
介護保険の利用者では「循環器系の疾患」と「筋骨格系及び結合組織の疾患」が多いです。一方、医療保険の利用者で多い疾患は「神経系の疾患」「精神及び行動の障害」です。
それぞれの訪問看護ステーションがすべての疾患をみるというわけではありません。
「精神科に特化している」「ターミナルケアを中心としている」というように、訪問する利用者さまの層を、疾患領域ごとに特色を出している訪問看護ステーションもあります。
訪問看護の利用者さまにおこなう看護ケア
健康上の問題を持ちながらも、自分が住み慣れた場所で療養生活を送れるようにすることが訪問看護師の役割です。
ここでは、訪問看護師が行うケアについて、いくつか紹介します。
健康状態の観察
バイタルサインや会話から、利用者さまの健康状態を確認します。専門家として、ご本人やご家族が発見できていない異常の有無を、観察していきます。
訪問した日の状態だけでなく、訪問日以外の把握をすることで体調変化の予測やアセスメントに繋げられます。もちろん、利用者さまからだけでなく、ご家族からも情報を得るとよいでしょう。
生活援助
訪問看護師は、利用者さまが安心して自宅で暮らせるように、生活援助をします。生活援助とは、食事介助や入浴介助、身の回りの環境整備などです。
生活援助で大切なことは利用者さまの望む自立をめざすことです。例えば、歩行能力が安定しないために、宅配弁当の受け取りと準備ができずに困っている利用者さまには、リビングから玄関までの歩行練習を一緒に行い、ご自分で食べられるようにサポートします。
疾患や治療に関する教育
訪問看護師は、利用者さまに対して疾患や治療に関する指導をします。例えば、糖尿病を患う利用者さまには、日々の食事管理やインスリン注射が実施できているかを確認します。
病状や治療法について理解を深めてもらい、利用者さま自身で無理なく管理できることをめざします。
また、自宅療養を続けるためには利用者さまだけでなく、ご家族の理解も不可欠です。必要時には、ご家族にも教育や指導をします。
医療処置
訪問看護師によって行われる医療処置は、自宅での医療ニーズに応える看護です。浣腸・摘便や褥瘡の処置、経管栄養法の管理などの医療処置を行います。
入院せずに専門的な医療を提供し、利用者さまが安心して自宅で過ごせることをめざします。
心理的なサポート
訪問看護師は心理的なサポートも行います。利用者さまやご家族は、疾患に対する不安だけでなく、自宅で療養することへの不安や悩みなども抱えています。
不安や悩みを共有するためには、何気ない日常会話でも、相手に関心をよせて、丁寧に誠実な態度で傾聴することが重要です。利用者さまの不安や悩みに対し、専門的なアドバイスを行い、1つひとつを解決していきます。
福祉保健サービスの利用サポート
訪問看護師は、福祉保健サービスの利用をサポートすることも大切な役割です。手すりをつけるための住宅改修や、療養費を抑えるための制度の利用など、利用者さまのニーズに合わせた福祉保健サービスを、多職種と協議した上で提案します。
利用者さまやご家族のほとんどが、どのような福祉保健サービスを利用できるか知りません。適切な支援を受けられるように、訪問看護師は地域の福祉保健サービスを知っておくとよいでしょう。
訪問看護師に求められるスキル
一般的に訪問看護師には、以下のようなスキルが求められています。
- フィジカルアセスメント
- 医療処置のスキル
- コミュニケーションスキル
- 多職種と連携するスキル
- 緊急時に対応するスキル
それぞれについて解説します。
フィジカルアセスメント
訪問看護師には、フィジカルアセスメントスキルが不可欠です。フィジカルアセスメントとは、身体の状態を評価し、健康問題を把握するためのスキルです。
バイタルサインの確認に加え、視診や触診、打診、聴診から、症状や体調の変化を把握します。前回の訪問から変わったことがないか、訪問ごとに評価することが訪問看護師に求められます。
医療処置のスキル
訪問看護師は在宅酸素療法や人工呼吸器の管理、点滴、薬物を用いた疼痛管理などの医療処置をサポートします。
ケアを安全に行うために、専門的な処置に関するスキルが求められます。利用者さまが自宅で療養生活を続けるために必要なスキルです。
医療処置は、訪問看護師自身の手技のスキルだけでなく、ご家族に指導するスキルも求められます。訪問看護師がいない時間に、ご家族が無理のない範囲で管理できるように指導することで、安定した療養生活を実現できます。
コミュニケーションスキル
利用者さまやご家族との信頼関係の構築には、良好なコミュニケーションが不可欠です。信頼していただくことで、利用者さまやご家族の希望を伺え、訪問看護師からの提案やケアを受け入れてもらいやすくなります。
コミュニケーションでは、ただ聞くだけでなく、話を理解して共感することがポイントです。例えば、出来ない依頼を受けた場合、「できない」と答えるのでなく、「そのように希望されているのですね」と受け入れ、訪問看護師としての提案を伝えます。
多職種と連携するスキル
訪問看護では、医師や介護士などの多職種との協力が必要です。それぞれの職種が連携し、専門性を発揮することで、利用者さまのニーズを満たせて、生活の質の向上につながります。
しかし、それぞれの職種の間で、ケアの優先順位や意見の相違が生じることも少なくありません。そこで、訪問看護師は利用者さまやご家族の代弁者となり、リーダーシップをとって、それぞれの意見をまとめるスキルも求められます。
緊急時に対応するスキル
訪問看護師は、利用者さまの緊急事態に対応しなければなりません。緊急事態とは、急な発熱や転倒、脱水、意識障害などです。
利用者さまは自宅で過ごしているため、病院とは異なり、できる医療処置が限られています。また、訪問看護師は基本的に1人で緊急事態に対処するケースが多くなります。そのため、利用者さまの緊急事態に備え、日頃から利用者さまの病態変化の予測や、研修やシミュレーションをしておくとよいでしょう。
訪問看護師のスキルアップにおすすめの資格
ここでは、訪問看護師としてスキルアップするための資格について紹介します。
- 在宅ケア認定看護師
- ケアマネジャー
- 終末期ケア専門士
- 認知症ケア専門士
- 特定行為研修
在宅ケア認定看護師
訪問看護師が取得している資格の中で多い資格のひとつです。日本看護協会から認定を受けることで取得できます。
在宅ケア認定看護師は、利用者さまがご自宅で適切なケアを受けられるようにサポートする専門家です。また、地域との連携を通して、在宅医療全体の質を向上させる役割もあります。
ケアマネジャー
ケアマネジャーは、高齢者や障がい者などの利用者さまに対し、適切なサービスを提供するためにケアプランを計画・調整する専門家です。ニーズ評価やサービスの調整を通じて、福祉サービスを提案し、利用者さまの生活をサポートします。
訪問看護師が連携することの多い職種のひとつです。訪問看護師がケアマネジャーの資格を取得することで、調整や協力をしやすくなります。
終末期ケア専門士
終末期ケア専門士は、終末期(末期がんや重篤な疾患)の利用者さまとそのご家族に対する、精神的・身体的・社会的なサポートを提供する専門家です。疼痛管理や心のケア、ご家族への支援など、利用者さまとご家族が安心して最期を迎えるためのケアを担当します。
自宅で最期を迎える利用者さまにとって、訪問看護師は大きな支えです。終末期ケアをおこなう知識やスキルが高いと、利用者さまやご家族により安心感を与えるケアが提供できるでしょう。
認知症ケア専門士
認知症ケア専門士は、認知症の利用者さまとそのご家族に専門的なサポートを提供する専門家です。認知症に特化した知識やスキルを持ち、コミュニケーションや行動の援助、日常生活のサポートを行い、ご本人とご家族が安心して生活できるようにケアします。
認知症をもつ利用者さまに、訪問看護を提供する機会は多いです。認知症の専門的知識を持つことで、利用者さまやご家族に適切なサポートができるでしょう。
特定行為研修
特定行為研修は、医師が作成した手順書にもとづき、看護師が利用者さまの状態を見極めて、適切なタイミングで診療の補助を行う研修です。
訪問看護で役立つ特定行為区分は以下のとおりです。
- 栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連
- 褥瘡管理関連
- 呼吸器関連
- ろう孔管理関連
脱水や栄養不足時の輸液や、悪化した褥瘡の切除、気管カニューレの交換、胃瘻チューブの交換など、本来なら利用者さまの状態を報告して、医師の指示がなければできない処置を、手順書に示された病状の範囲内であれば看護師が行えます。医師の指示を待たずにタイムリーな処置が可能になるため、利用者さまの状態が悪化する前に適切な対応ができるようになります。
まとめ
訪問看護の利用者さまは、自宅で医療や看護のサポートが必要な方を対象としています。高齢者や慢性疾患、小児、障害者、終末期の方など対象に限りはありません。赤ちゃんから高齢者まで利用しますが、とくに高齢の利用者さまが多いです。
自宅で療養する利用者さまの健康状態の把握や、生活援助、心理的サポート、指導や教育、医療処置、福祉保健サービスの利用サポートなどが訪問看護師の役割です。必要時には利用者さまだけでなく、ご家族の支援も行います。
訪問看護の利用者さまとご家族のニーズを満たせるように、フィジカルアセスメントやコミュニケーションスキル、医療処置のスキルなどが、訪問看護師に求められます。そのため、スキルアップをめざすには、在宅ケア認定看護師や特定行為研修、ケアマネジャーなどの資格の取得がおすすめです。
訪問看護は、利用者さま1人ひとりと向き合い、寄り添った看護ができるやりがいのある仕事です。利用者さまの望む生活を実現するために、試行錯誤をしながらスキルを磨くことで、看護師として大きく成長できるでしょう。
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