看護におけるユマニチュードとは?認知症ケアを支える4つの柱と5つのステップ

公開日:2025/10/09 更新日:2025/10/09
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「患者さまにまた拒否されてしまった…」という場面を経験し、心が折れそうになる方もいるでしょう。

ユマニチュードは「あなたを大切に思っています」という姿勢を示すことで、患者さまが安心感を得られるケアを目指す技法です。患者さまの反応がやわらぎ、看護師のストレスも減らせることから、認知症ケアを中心に注目が集まっています。

この記事では、ユマニチュードの4つの柱と5つのステップを中心に、ユマニチュードの基本、実践のポイントを解説します。最後までお読みいただき、明日からのケアに活かせるヒントを得てください。

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看護におけるユマニチュードとはおもに認知症患者さまに対するケア技法

ユマニチュードは、フランスで生まれた「人間らしさ」を大切にするケアの技法で、とくに認知症ケアで注目されています。

「見る・話す・触れる・立つ」の4つの柱を基本に、患者さまが「自分は人として大切にされている」と感じられるようなケアをするのが目的です。「いつもやっていることと変わらない」と思われがちですが、これまでの調査では、実際のケアで、相手を尊重する意識がともなっていないケースが多いと指摘されています。

たとえば、目を見ずに話しかける、いきなり触れるなどが、とくに認知症患者さまに恐怖や拒否を生むこともあります。

ユマニチュードは、こうした患者さまの背景を理解し、安心してケアを受けられるアプローチをわかりやすく示す考え方です。

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看護現場におけるユマニチュードの4つの柱

ユマニチュードでは、ケアをおこなううえで「あなたは大切な存在です」というメッセージを、行動で伝えることが大切だとされています。その基本となるのが、次の「見る・話す・触れる・立つ」という4つの柱です。

4つの柱意味・目的具体例
見る相手の存在をしっかりと認めていることを伝え、安心感を与える・目線の高さを合わせて話す
・会話中にしっかり目を見る
話す声のトーンや言葉選びで、相手に安心感や敬意を伝える・ゆっくり落ち着いた声で話す
・名前を呼んでから話しかける
触れるやさしい触れ方で、信頼と安心を身体で感じてもらう・手を添える、肩にやさしく触れる
・冷たい手で触れないようにする
立つ自分の力で立つ・動くことを支え、尊厳と身体機能を守る・できる範囲で立位や歩行を促す
・立ち上がりをサポートする
参考:ユマニチュードとは|日本ユマニチュード学会

簡単な行為のように見えて、相手の気持ちに深く影響を与えるケアの土台となります。これまでは「ただの声かけ」「ただの手の動き」と考えていたケアも、看護師が意味を理解しておこなえば、相手の反応や関係性が大きく変わってくるでしょう。

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看護現場でユマニチュードを実践するための5つのステップ

ユマニチュードではケアを物語と捉え、その順序を「5つのステップ」としています。いずれのステップでも「見る・話す・触れる・立つ」の4つの柱を組み合わせた「マルチモーダル・コミュニケーション」が基本です。

  • 出会いの準備|相手に「今からケアが始まる」と知らせる
  • ケアの準備|正面からやさしく合図して合意を得る
  • 知覚の連結|見る・話す・触れるを同時におこなう
  • 感情の固定|ケア後の安心感を記憶に残す
  • 再開の約束|「また来ますね」と次の安心につなげる

詳しくみていきましょう。

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1.出会いの準備|相手に「今からケアが始まる」と知らせる

ケアに入る前に、ドアをノックする、名前を呼ぶ、声をかけるなどして「私はここにいますよ」「ケアを始めますね」と患者さまに気づいてもらう時間をとります。

突然病室に入ったり、身体に触れたりすることは、とくに認知症の方にとっては驚きや混乱の原因となります。ゆっくり丁寧に準備し、安心できる存在であると認識してもらうことが、信頼関係を構築する第一歩です。

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2.ケアの準備|正面からやさしく合図して合意を得る

ケアを始めるときは、相手の正面に立ち、目線を合わせ、やさしく声をかけることが大切です。

「これから始めても良いですか?」という一言は、相手の安心感や尊厳を守る意味があります。無理に始めるのではなく「一緒に進めていきましょう」という姿勢が、ケアの拒否の軽減にもつながります。

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3.知覚の連結|見る・話す・触れるを同時におこなう

ケアをおこなうときは「見る・話す・触れる」の3つを同時におこなうのがポイントです。

たとえば、目を見ながら「おはようございます」と声をかけ、そっと手を添えると、患者様にとって「いま何をされているのか」が伝わりやすくなります。患者さまの不安や混乱を防げるでしょう。

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4.感情の固定|ケア後の安心感を記憶に残す

ケアの最後には「気持ち良かったですね」「ありがとうございました」など、前向きな言葉をかけて終えるようにします。認知症であっても、感情の記憶はしっかり残るといわれているためです。

「またこの人にケアしてもらいたい」と感じてもらえるように、ポジティブな終わり方を意識しましょう。

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5.再開の約束|「また来ますね」と次の安心につなげる

ケアの最後には「夕食の時間にまた来ますね」と次に会うことを伝えましょう。

患者さまは「この人がまた来てくれる」と予測でき、安心感につながります。このような約束の積み重ねによって、患者さまは心を開くのです。

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看護現場でユマニチュードを実践するときに大切なこと

ユマニチュードの技法を効果的に活かすためには、単に「4つの柱」や「5つのステップ」をなぞるだけでは不十分です。

  • 相手の「できる力」を引き出すサポートを意識する
  • 「あなたを大切に思っています」と伝わるようにかかわる
  • ポジティブな雰囲気を作り、安心できるケアを提供する

看護現場でユマニチュードをおこなうときに意識したい3つのポイントを押さえることが、患者さまと信頼関係を築くためには重要です。

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相手の「できる力」を引き出すサポートを意識する

ユマニチュードでは「その人にできること」を見極め、引き出すかかわりが基本です。

たとえば、食事の際にスプーンを持てそうであれば「持ってみますか?」とやさしく声をかけるだけで、患者さまは「自分でできた」という実感につながり、自尊心が守られます。

「私はまだできる」という感覚が、患者さまの心の安定や前向きな気持ちにつながります。

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「あなたを大切に思っています」と伝わるようにかかわる

「あなたを見ています」「気にかけていますよ」という思いを、言葉・視線・態度のすべてで伝えることが、ユマニチュードの本質です。

  • 目を合わせて笑顔で話しかける
  • 名前を呼んでから話しかける
  • 穏やかな声で語りかける

このような工夫によって、患者さまの安心感は変わります。感情や記憶が不安定になりやすい認知症の方でも、看護師のまなざしや声のトーンから「想い」はしっかり届くでしょう。

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ポジティブな雰囲気を作り、安心できるケアを提供する

看護師の表情や声のトーン、落ち着いた動作が、ケアを受ける方の安心感につながります。

たとえば、業務の忙しさに追われて無言で慌ただしく動くと、患者さまは「怖い」「何をされるのかわからない」と不安になりやすくなります。

そのため、忙しいときでも笑顔を絶やさず、ケアのときはゆったりとしたテンポで動き、雰囲気から「大切に思っています」と伝えることが大切です。

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看護現場のユマニチュードで得られる効果

ユマニチュードを日常のケアに取り入れることで、患者さまだけでなく、ケアを担う看護師にも良い影響が期待できます。ユマニチュードの実践で得られる、おもな効果を解説します。

  • 患者さまの心が穏やかになり安心感を得られる
  • 認知症の症状や身体機能の改善が目指せる
  • 看護師の精神的負担の軽減が期待できる
  • ケアの質が向上する

患者さまとの関係性が良くなり、スムーズなケアが可能となります。看護師は、やりがいを持って業務に取り組めるでしょう。

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患者さまの心が穏やかになり安心感を得られる

ユマニチュードの「見る・話す・触れる・立つ」を正しい知識のもとで実践すると、患者さまに安心感が伝わりやすくなります。

排泄ケアや口腔ケアで抵抗があった認知症患者さまにユマニチュードを取り入れた結果、拒否的行動がやわらいだという事例も報告されています。

丁寧なまなざし、やさしい声かけが相手の気持ちを落ち着かせ、ケアの時間を穏やかに過ごせるようになるでしょう。

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認知症の症状や身体機能の改善が目指せる

ユマニチュードは、認知機能や身体機能を保つケアとしても注目されています。

認知症患者さまへのユマニチュードの実践によって、BPSD(認知症の行動・心理症状)の悪化を防げたという報告があります。また、車椅子やベッドからの移動をすべて介助せず「一緒に歩きましょう」と「立つ・歩く」動作を日常的に取り入れ、人間らしさを表出するという考えがユマニチュードの特徴です。

こうしたアプローチによって、筋力やバランス感覚の低下を防ぎ、身体機能の維持・改善につながると期待されています。

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看護師の精神的負担の軽減が期待できる

ユマニチュードの技法を学ぶと、患者さまの拒否や抵抗などの行動に理由があると理解できるようになります。

正しい知識でケアにあたることで、そもそも拒否や混乱といった反応が減り、看護師の心にも自然と余裕が生まれます。

「どうしてもうまくいかない」「また拒否された」という悩みやストレスが少しずつやわらぎ、「このかかわり方で良いんだ」と納得しながらケアに臨めるようになるでしょう。

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ケアの質が向上する

ユマニチュードを導入した施設では、スタッフ全体で「ケアの質」を意識する文化が根づく傾向があります。

たとえば、日本ユマニチュード学会のブロンズ認証を取得した施設では、職員がユマニチュードの考え方を理解し、ケアの手順や意図を共通化したことで「個人の感覚に頼らないケア」が実現し始めているという報告があります。

このように、ユマニチュードの導入は組織全体のケアの質向上にもつながるのです。

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看護におけるユマニチュードのデメリット

ユマニチュードは「人間らしさ」を大切にした看護を実現するうえで多くのメリットがあります。しかし、実際に導入・実践していくには、次のようにいくつかの課題もあります。

  • 習得までに時間がかかる
  • スタッフ間で実践レベルに差が出やすい
  • 効果のあらわれ方に個人差が生じやすい
  • 導入コスト・研修コストがかかることがある

こうした点をふまえつつも、日常のケアに少しずつユマニチュードの視点を取り入れていくことで、看護の質を大きく変えるきっかけになるはずです。

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ユマニチュードが活用できる看護現場

ユマニチュードは、病院内に限らず、さまざまな看護の場面で活用できるケア技法です。

ここでは、とくに活用が期待されている「訪問看護」と「介護施設」におけるユマニチュードの可能性について解説します。

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訪問看護

訪問看護では、利用者さまが住み慣れた自宅で過ごしているため、ユマニチュードの4つの柱を生活の一部として自然に取り入れやすい環境です。

とくに「出会いの準備」「再開の約束」のステップを意識した声かけや接し方をおこなうことで「あの人が来ると安心できる」と感じてもらえるケアが実現しやすくなります。

また、訪問看護ステーションがユマニチュードの認証を受けている場合、利用者さまやご家族にケアの質や方針が伝わりやすく、安心してサービスを選んでもらえるという利点もあります。

NsPaceCareerでは、ユマニチュードを学べる・実践できる訪問看護の職場探しをサポートしています。「もっと丁寧に向き合える職場で働きたい」という看護師は、ぜひチェックしてみてください。

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介護施設

多くのスタッフが協力して利用者さまを支える介護施設では、ケアの質や方針の統一が欠かせません。

ユマニチュードの導入により「見る・話す・触れる・立つ」といったケアの基本姿勢が共有され、スタッフ間での認識のズレやケアのばらつきを減らす効果が期待できます。

また、職員研修やカンファレンスを定期的におこなうことで、ユマニチュードの実践レベルを維持・向上させられるほか、入浴や移動時の拒否行動の軽減にもつながるでしょう。

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看護のユマニチュードについてのよくある質問

ユマニチュードを実践するなかで、看護師が感じやすい疑問にお答えします。高齢者や認知症ケアへの理解を深め、より効果的なユマニチュードの実践につなげていきましょう。

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Q1:看護におけるユマニチュードが批判される理由は何ですか?

ユマニチュードには多くの利点がありますが、次のような声があるのも事実です。

  • 今やっているケアと何が変わるのかわからない
  • 実践に手間や時間がかかる
  • 人手不足で実践が難しい
  • 即効性や効果が見えにくい

導入には一定の理解と準備が必要ですが、少しずつ取り入れることで、現場での変化を実感できるようになるでしょう。

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Q2:看護師がユマニチュードを実践するのに資格や費用は必要ですか?

看護師個人がユマニチュードを日々のケアに活かすために、資格は必要ありません。

しかし、知識がないまま実践することで、患者さまに不安を与えたり、期待する効果が得られなかったりする恐れがあります。深く学びたい看護や介護の専門職や、認知症患者さまのご家族向けにサポーター養成講座や研修制度が設けられており、施設単位でユマニチュードの認証を取得する制度もあります。

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ユマニチュードとは「その人らしさ」を取り戻すこと!理想の看護を実現できる現場を見つけましょう

ユマニチュードは、単なるテクニックではなく「その人らしさ」や「人間としての尊厳」を大切にする看護のあり方です。

4つの柱と5つのステップに沿って実践できると、患者さまの表情や反応が変わり、信頼関係が築かれ、看護師自身の気持ちも軽くなるといった好循環を生み出せます。「拒否されるのがつらい」「患者さまとの関係に悩んでいる」といったときこそ、ユマニチュードの考え方がヒントになるはずです。

今の職場で取り入れるのが難しい場合は、ユマニチュードを実践している施設や、ケアにしっかり向き合える訪問看護の現場を選ぶ方法もあります。ユマニチュードという考えを、ぜひ現場で実践してみてください。

<参考サイト・文献>

ユマニチュードとは|日本ユマニチュード学会

マルチモーダル・コミュニケーションの観点を取り入れた待遇コミュニケーション研究・教育の新たな展開|柳東汶

認知症を知る|認知症介護情報ネットワーク

ユマニチュードの「4つの柱」と「5つのステップ」|一般社団法人日本終末期ケア協会

拒否的言動のある認知症患者へユマニチュードを用いたケアの効果―3 事例とのかかわりを通してー|山形県三川病院

Comfort (ケア) の概念モデルに基づく心不全認知症患者への看護介入-自己学習に基づいたユマニチュードを用いて|平島洸

ユマニチュード認証のブロンズ認証として「⻄⼤井こうほうえん」を新たに決定|日本ユマニチュード学会

訪問看護をしています。ユマニチュードを実践していますが、上司から「そんなことはしないでいい」と言われてしまいます。|日本ユマニチュード学会

ユマニチュードの絆vol.8『批判されるユマニチュード、羨まれるユマニチュード』|日本ユマニチュード学会

ユマニチュードを知る・学ぶには|日本ユマニチュード学会

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記事投稿者プロフィール画像 NsPace Careerナビ 編集部

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