プライマリーナーシングとは?看護師にとっての5つのメリットや実践のポイントを解説

「プライマリーナーシングってどのような仕組み?」「プライマリーナースの仕事内容を知りたい」
「プライマリーナーシング」は、患者中心の個別ケアを実現する看護提供方式のひとつです。現在では、急性期病棟から回復期、在宅医療まで幅広く導入されており、チームナーシングやPNS(パートナーシップ・ナーシング・システム)と併用されるケースも少なくありません。
この記事では、プライマリーナーシングの概要やメリット・デメリット、成功させるポイントについて解説します。記事を読むことで、プライマリーナーシングの業務内容や特徴を理解できるようになります。
プライマリーナーシングは同じ看護師が退院まで受け持つ看護方式
プライマリーナーシングについて、まずは基本的な内容を理解しましょう。
- プライマリーナーシングの定義
- プライマリーナースの位置付け
上記について解説します。
プライマリーナーシングの定義
プライマリーナーシングは、決められた看護師が入院から退院まで患者さまを専属で担当する看護方式のことです。
プライマリーナーシングの特色は、患者さま主体の個別ケアを重視することにあります。同じ看護師が一貫して担当し、患者さまの生活背景や家族構成を把握しながらケアをおこないます。
日本看護協会の「看護の将来ビジョン」では、看護は「対象となる人々を、どのような健康状態であっても、人生を生きる個人として総合的にみる」ことを重視しています。プライマリーナーシングはこの考え方にもとづく仕組みです。
プライマリーナースの位置付け
プライマリーナースは、受け持ち患者さまのケアの中心的な看護師です。看護計画の立案・実施・評価に責任を持ち、患者さま・ご家族とのコミュニケーションの窓口としての役割も担います。
また、医師や他職種との連携において、患者情報の伝達や調整を担当することも、プライマリーナースの役割です。
プライマリーナースの役割と仕事
プライマリーナースは、患者さまに関連する幅広い業務を担当します。
- 看護計画を立案し実施する
- 患者さまとご家族の心理的サポートを担う
- 他職種や看護チームとの橋渡しをする
- ケアの評価と改善により質の高い看護を追求する
ここでは、上記の主要な4つの役割について見ていきましょう。
看護計画を立案し実施する
プライマリーナースは、入院時に患者さまの状況に合わせた看護計画を立てます。
脳梗塞で入院した患者さまの場合「右手に麻痺があるため左手で食事を摂取する」「ご家族は毎日面会に来る」といった情報を把握し、それらを反映したケアプランを作成するのです。作成した看護計画は病棟で共有し、プライマリーナースが休みの日も、ほかの看護師が同じ方針でケアを実施できる体制にします。
また、入院当初から自宅復帰を見据えた準備も重要です。具体的には、入院時のアセスメントで「自宅玄関までに階段がある」「普段は1人暮らし」といった生活環境を把握し、退院に向けてどのような課題があるかを見極めます。
患者さまとご家族の心理的サポートを担う
入院生活で生じる不安や悩みに対し、相談できる窓口としてプライマリーナースは患者さまをサポートします。同じ看護師が一貫して対応することで、患者さまが心を開きやすい関係性を作れるのです。
ご家族に対しては、退院後の自宅ケアの方法を指導したり、介護や看病に対する不安軽減のための精神的な支援をおこなったりします。
他職種や看護チームとの橋渡しをする
医師やセラピスト、栄養士といった多職種と密に連携をとることも、プライマリーナースの仕事です。
転院や退院の際には、次の医療機関に向けて看護サマリーを作成したり、退院支援カンファレンスに参加したりすることもあります。
ケアの評価と改善により質の高い看護を追求する
プライマリーナースには、ケアの質を継続的に向上させる責任があります。
患者さまの状態変化に応じて看護計画を見直し、新たな看護問題の追加や既存の計画の修正などにより常により良いケアを目指します。患者さまやご家族、ほかのスタッフからの意見を集め、ケアの効果を客観的に評価することも大切です。
プライマリーナーシングの5つのメリット
プライマリーナーシングには、患者さまと看護師、両者にとって多くの利点があります。
- 患者さまとの信頼関係が築きやすい
- 継続的な観察により異常の早期発見につながる
- 看護師の主体性・判断力が育つ
- ケアの一貫性が保たれる
- 個別性の高いケアができる
ここでは、上記5つのメリットについて解説します。
患者さまとの信頼関係が築きやすい
同じ看護師が継続してかかわることで、患者さまに安心感を与えられます。
たとえば、患者さまは「毎日同じ看護師さんが来てくれるから、昨日話した会話の続きができて嬉しい」と感じられるでしょう。入院中の不安な環境のなかで「いつもの看護師さん」がいることは、患者さまにとって心の支えとなります。
また、プライマリーナースは、患者さまの性格や好み、価値観を深く理解できるようになります。「朝は必ずコーヒーを飲んでから散歩する」「テレビを見ながら食事をする」といった個別の習慣を把握すれば、その方らしさを大切にしたケアにつながります。
継続的な観察により異常の早期発見につながる
プライマリーナースは患者さまの普段の様子をよく理解しているため、わずかな変化にも敏感に気づけます。
実際に「いつもは朝食を完食する患者さまが今日は半分しか食べていない」「普段より口数が少ない」といった普段との違いに気づき、早期に医師に報告することで、急変を未然に防げるケースもあるのです。
同じ看護師がかかわることで、身体面だけでなく「落ち込み」や「不安」といった心の変化も察知しやすくなります。異常を早期に発見し、医師への報告や適切な対策をとることで、患者さまの安全につながります。
看護師の主体性・判断力が育つ
プライマリーナーシングは、看護師の成長を促進します。
患者さまを受け持つことで責任感が身につき、日々のケアから「どのようなケアが良いのか」を考える機会が増えます。その結果、判断力やアセスメント能力が向上するのです。「自分の看護が役に立った」という実感は看護師としての自信を育み、仕事へのやりがいやモチベーション向上につながるでしょう。
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ケアの一貫性が保たれる
担当する看護師が変わらないことで、ケア内容のブレや情報の伝達ミスを防げます。
患者さまは、毎回同じ方針でケアを受けられるため「今日の看護師さんは違うやり方をする」といった混乱や戸惑いを感じにくくなります。看護師間での申し送りで生じる情報漏れや誤解も起こりにくくなるため、安全で質の高いケアが可能です。
個別性の高いケアができる
プライマリーナースは、患者さまの価値観や生活パターンを理解しやすくなります。
認知症を患う患者さまの場合、担当の看護師が「若いころは小学校の先生をしていた」「夕方になるとご家族のことを心配する傾向がある」といった背景を理解することで、落ち着いて過ごせる環境作りにつながります。
患者さまの背景や想いをもとに看護計画を立案することで、マニュアルどおりのケアではなく、その方の人生や価値観に寄り添ったケアにつながるのです。
プライマリーナーシングのデメリット・課題
プライマリーナーシングには、デメリットや課題もあります。
- 看護師の負担が大きい
- 新人や経験の浅い看護師には難しい場合がある
- チーム連携や情報共有が不十分になるリスクがある
これらの課題を理解しておくことで、効果的な看護につながります。
看護師の負担が大きい
プライマリーナーシングでは、プライマリーナースが中心となり、担当患者さまの看護について判断し対応します。そのため、精神的な負担が大きくなりがちです。
重篤な病気の患者さまを担当する場合、急変への不安やご家族への説明責任など、気が休まらない状況が続くことがあります。また、徘徊行動のある認知症の患者さまを受け持つと、プライマリーナースは「自分が見守れない時間帯に何かあったらどうしよう」という心理的な負担を抱えることもあるでしょう。
新人や経験の浅い看護師には難しい場合がある
プライマリーナーシングでは、看護師に高度な判断力と幅広いスキルが求められます。とくに新人看護師や、経験の浅い看護師にとって、看護計画の立案から評価までの過程を1人で担うことは簡単ではないでしょう。
入職3ヶ月の新人看護師が糖尿病患者さまを受け持った際「インスリン量の調整について医師にどのタイミングで相談すべきか」「食事療法の指導をどのようにおこなえば良いのか」といった迷いが生じるかもしれません。
そのため、多くの医療機関では、プライマリーナーシングと併用して、支援体制を整備しています。厚生労働省「新人看護職員研修ガイドライン」でも、新人看護職員を支える組織体制として、プリセプターシップやチューターシップ、メンターシップの方法が示されています。
チーム連携や情報共有が不十分になるリスクがある
プライマリーナーシングでは、プライマリーナースが患者さまを深く理解している一方、ほかのスタッフへの情報伝達が後回しになりやすいリスクがあります。
プライマリーナースが夜勤明けでいない場合、代わりに対応する看護師が「この患者さまは夜間にトイレに起きるとき、必ず左側から起き上がる」「薬を飲む前に必ず水を一口飲む習慣がある」といった細かな情報を把握しきれていない場合があります。
その結果、患者さまが「いつもと違う」と感じ不安になったり、転倒するといったインシデントにつながったりする可能性もあるのです。
プライマリーナーシングを実践する際の3つのポイント
プライマリーナーシングを効果的に実践するためには、いくつかのポイントがあります。
- コミュニケーション力を向上させる
- チーム内での情報共有を重視する
- 継続的な学習と振り返りをする
それぞれ見ていきましょう。
コミュニケーション力を向上させる
成功の鍵は、患者さまやご家族との“信頼構築”です。たとえば、初対面で「心配なことがあれば何でも話してくださいね」と声をかけるだけでも、相手の心の扉が開きやすくなります。実際、ある施設では「入院初日のアイスブレイク質問シート」を活用し、会話の糸口をスムーズにする工夫も行われています。
看護ケアや医療処置を提供するだけでなく、相手の気持ちに寄り添うコミュニケーションが重要です。
入院初日に「心配なことはありませんか」と声をかけたり、検査前に「いつでも声をかけてくださいね」と安心感を与えたりすることで、患者さまとの信頼関係が深まります。
また、ご家族とのかかわりでは「いつも以上にリハビリを頑張っていましたよ」と積極的に声をかけることも効果的です。日々の何気ない会話から、患者さまの価値観や生活習慣を理解し、個別性のあるケアにつなげましょう。
チーム内での情報共有を重視する
プライマリーナースが休みの日でも、一貫したケアが提供できるよう、チーム内での情報共有は必須です。
具体的には「車椅子に移る際は、右側のベッド柵を持って立ち上がるとスムーズです」「寝る前には睡眠薬を飲みます」といった情報を共有することで患者さまは安心して療養できます。
また、カンファレンスで、看護計画の進捗状況や新たな課題について話し合い、お互いに患者さまの状況を把握する機会を作りましょう。ほかの看護師からの気づきや提案を取り入れることで、より良いケアにつながります。
継続的な学習と振り返りをする
患者さまの状態変化に応じて看護計画を柔軟に見直し、適切なケアを模索しましょう。
「今日の患者さまの反応はいつもと違った。なぜだろう」「この看護介入は効果があったのだろうか」と疑問を持ち、根拠を調べたり先輩看護師に相談したりすることで、知識とスキルが向上します。
プライマリーナーシングについてのよくある質問
ここからは、プライマリーナーシングについてのよくある質問に回答します。
Q1:プライマリーナーシングを導入している病院の見分け方はありますか?
プライマリーナーシングを導入している医療機関は、多くの場合、公式ホームページや求人情報に看護システムについて記載しています。
実際の現場では、プライマリーナーシングを単独で運用するのではなく、ほかの看護方式と組み合わせて活用している医療機関も多くみられます。
見学や面接の際に「どのような看護システムを採用していますか」と質問をすることで、具体的な運用方法を確認できます。
Q2:新人看護師でもプライマリーナースになれますか?
新人看護師がいきなりすべての業務を単独で担うのは難しいため、多くの施設では段階的な導入を採用しています。たとえば、入職後3か月を目安に「比較的安定した患者1名から始め、先輩とペアで実施する」など、安全と成長の両立を図る体制が整えられています。
Q3:プライマリーナーシングに向いている看護師の特徴はありますか?
プライマリーナーシングに向いている看護師には、おもに次の特徴があります。
- 責任感が強い
- コミュニケーション能力が高い
- 継続的な学習意欲がある
- ストレスに耐えられる
ただし、これらの特徴がすべて完璧に備わっている必要はありません。看護師として経験を積むなかで少しずつ身につけていくものでもあります。
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プライマリーナーシングで一貫したケアを実現できる
プライマリーナーシングは、患者さま1人ひとりと深くかかわり、個別性の高いケアを提供できる仕組みです。プライマリーナースの責任は大きいものの、看護師としての成長と患者さまの満足度向上の両方を実現できます。
プライマリーナーシングが大切にする「その人らしさに寄り添う看護」は、訪問看護の現場でも存分に発揮されます。実際、利用者さま一人ひとりの生活背景を把握しながら支える訪問看護では、まさに“看護の原点”とも言えるかかわりが求められます。もし、より深く患者さまと向き合いたいと感じているなら、「訪問看護」という選択肢も考えてみませんか?
とくに訪問看護では、利用者さまのご自宅で、その方らしい暮らしを支える看護を提供できます。利用者さまとより深くかかわりたいと考えている方は、訪問看護専門の求人サイト「NsPace Career」をぜひご覧ください。
<参考サイト・文献>

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