看護師不足の現状とは?5つの原因と解決策や職場を選ぶときのコツ

看護師不足は、いま日本の医療現場全体で深刻化している課題のひとつです。人員が十分に確保できない状況は、医療の質や患者さんの安全に影響を及ぼす可能性があります。
「このまま働き続けて大丈夫だろうか」と不安を抱えている看護師も少なくありません。
本記事では、看護師不足がなぜ起こるのか、現場にどのような影響があるのかをわかりやすく解説します。さらに、課題を乗り越えるための解決策や、転職・キャリアを考える際のポイントも紹介しますので、今後の働き方を考えるヒントにしていただけるでしょう。
看護師不足の現状と影響
看護業界では、人手不足が深刻な課題です。医療ニーズが高まり看護師の需要が拡大している一方、病院や施設で働く看護師の確保が難しい状況です。
- 看護師不足の現状
- 2025年に深刻化する看護師不足
- 看護師不足が患者ケアに与える影響
ここでは、厚生労働省のデータをもとに、看護師不足がなぜ起きているのか、それが現場にどう影響しているのかについて見ていきます。
看護師不足の現状
さまざまな病院や施設で「看護師が足りない」という声が聞かれ、看護師不足に悩んでいるところは多くあります。
実際に、厚生労働省「一般職業紹介状況(令和7年7月分)について」の調査によると、2025年7月の看護職(保健師、助産師、看護師)の有効求人倍率は1.95倍です。全産業平均の1.09倍と比較して高い水準にあり、看護師の人手不足は、ほかの職業と比べても重大な問題であることがわかります。
現場では、看護師一人ひとりにかかる負担が増しているのが現状です。
2025年に深刻化する看護師不足
看護師の人手不足は深刻な現状ですが、2025年にはさらに状況が悪化するといわれています。というのも、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になることで、医療と介護の需要が急増するためです。
厚生労働省「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況」によると、2025年には東京都や埼玉県、大阪府、京都府などの都市部で看護職員が不足すると報告されています。さらに、在宅医療のニーズが高まるなかで、訪問看護の分野で、とくに看護師が足りない現状です。
これは、看護師の業務負担を増やすだけでなく、患者さまが適切な医療を受けにくくなる可能性も指摘されています。
看護師不足が患者ケアに与える影響
看護師が不足すると、一人あたりの業務量が増えてしまい、患者さまに十分なケアをおこなうことが難しくなります。その結果、患者さまの満足度が下がったり、医療ミスのリスクが高まったりする可能性があります。
たとえば、バイタルサイン測定や清潔ケアにしっかりと時間をかけられず、患者さまの変化を見逃してしまうかもしれません。また、対応が遅れることで、診察や処置の待ち時間が長くなり、患者さまの不満につながることもあります。
看護師不足は、患者さまへの安全な医療の提供に影響する恐れがあるのです。
看護師不足のおもな原因
看護師不足は、さまざまな要因が複雑に絡み合って起こっています。ここでは、おもな5つの原因を解説します。
- 高齢化社会と看護ニーズの増加
- 業務負担の増大
- 「辞めたい」と感じている看護師の多さ
- 不規則な勤務形態
これらの原因は、看護師の業務負担を増やすだけでなく、精神的なストレスが溜まることで、看護師不足の悪循環につながる可能性があります。まずは、それぞれの原因を理解し、適切な対策を考えていくことが大切です。
高齢化社会と看護ニーズの増加
看護師不足の原因は、高齢化社会の進展です。高齢者が増えることで、医療や介護が必要な人が増え、看護師の需要が拡大します。
とくに、在宅医療や訪問看護のニーズが高まっている一方、これらの分野で働く看護師の数が追いついていません。この需要と供給のバランスが崩れていることが、多くの現場で人手不足を引き起こしているのです。
業務負担の増大
看護師不足の原因に業務の負担が増えていることが挙げられます。日本看護協会「2024年度看護職員の賃金に関する実態調査」によると、賃金額に対する項目別の満足度で、不満(やや不満・不満)と回答している割合が高いのは、業務量(56.2%)と業務内容(51.8%)です。
これは、看護師の業務が給料に見合っていないと感じていることを示しています。実際に、糖尿病や心不全など複数の病気を持つ患者さまや、看取りが増えており、看護師の仕事はより複雑で負担が大きくなっています。
仕事量が増える一方で、給料が上がらず人手が足りない状況が続くと、心身ともに疲れてしまい、離職者が出る悪循環につながるかもしれません。
「辞めたい」と感じている看護師の多さ
「辞めたい」と感じている看護師の多さは、看護師不足の原因の1つです。看護師の採用と定着の両輪で改善が必要です。
日本医療労働組合連合会「2022年看護職員の労働実態調査」によると「仕事を辞めたい」看護師の割合は79.2%にも上り、多くの看護師が現状に負担を感じていることが明らかになりました。
看護師が退職する実態は、下記の記事でも解説しているため、ぜひ参考にしてください。
関連記事:看護師の退職の実態とは?離職率と5つの退職理由を解説
職場環境の問題
職場環境の問題は、看護師不足を引き起こす重要な原因です。
たとえば、先輩が質問に答えてくれず孤立していると感じたり、患者さまに過度な要求をされたりすることで、追い詰められてしまうケースもあります。
看護師の仕事はチームでおこなうことが多いため、人間関係がうまくいかないことに働きにくさを感じやすく、離職につながってしまうのです。
不規則な勤務形態
不規則な勤務形態も、看護師不足の大きな原因です。交代制の勤務により、生活リズムが乱れ、体調を崩しやすくなります。
プライベートな時間を確保することが難しいため、ワークライフバランスを重視する看護師が離職を選ぶこともあります。とくに、育児や介護中の看護師にとっては、不規則な勤務が大きな負担となるため、働きやすい柔軟な勤務体制の構築が必要です。
看護師不足が現場や働き手に与える影響
看護師不足は、看護師だけでなく、現場や多職種のスタッフにも大きく影響します。具体的な影響は次のとおりです。
- 業務過多や残業の増加
- 看護師の精神的な負担の増大
- 医療ミスの発生リスクの上昇
- キャリアアップや教育機会の制限
- 病棟閉鎖や閉院のリスク
これらの問題は、最終的に医療の質を低下させ、医療機関の存続にもかかわる重大な事態になる可能性があります。
業務過多や残業の増加
看護師不足の状況では、少ない人数で多くの患者さまに対応しなければならないため、看護師一人ひとりの業務が増え、残業も増加しがちです。
たとえば、日勤の業務が終わらず残業時間が長くなったり、ナースコール対応に追われ休憩を十分に取れなかったりするかもしれません。
このような状況は、患者さまのケアができないことへの精神的なストレスも引き起こしてしまいます。
看護師の精神的な負担の増大
看護師不足は、看護師の精神的な負担を増大させ、ストレスから体調を崩したり、メンタルヘルスの不調をきたしたりする可能性があります。
十分なケアを提供できないことや、忙しさから患者さまとのコミュニケーションをしっかり取れないことに罪悪感を抱き、看護師を辞めてしまう方もいます。
厚生労働省「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況」によると、20代看護師が辞める理由の4番目「自分の健康(主に精神的理由)」が挙がっており、多くの若手が悩んでいるのが現状です。一人ひとりの業務量が増えることで、常に緊張と疲労が抜けず、精神的に追い詰められてしまうことがあるのです。
医療ミスの発生リスクの上昇
看護師不足は、医療ミスの発生リスクを高めます。なぜなら、疲労やストレスにより、看護師の判断力や集中力が低下してしまうからです。
たとえば、薬の投与量を間違えたり、患者さまの異変に気づくのが遅れたりするかもしれません。こうしたミスは、患者さまの命にかかわる重大な事故につながる恐れがあります。
キャリアアップや教育機会の制限
看護師不足の状況が続くと、教育に十分な時間を割くことができないため、看護師のキャリアアップや教育機会を制限してしまいます。
実例として、教育担当の先輩が自分の業務で手一杯になり、新人指導に十分な時間が取れない場合があります。この場合、新人看護師は悩みを解決できず、成長の機会を失ってしまうでしょう。
また、研修やセミナーに参加する時間が取れなくなるなど、新しい知識やスキルを学ぶ機会が減り、将来のキャリアプランをイメージしにくくなるかもしれません。
病棟閉鎖や閉院のリスク
看護師不足により法律で定められた看護師の配置基準を守れなくなると、最悪の場合、病棟閉鎖や閉院につながる可能性があります。
看護師の数が基準に満たないと、安全性を確保するために病床数を減らさなければなりません。また、ケアの質の低下から病院の評判が悪化し、経営が難しくなることもあります。
看護師不足への解決策
看護師不足を解消するためには、次のような取り組みが必要です。
- 給与や手当の増額
- 業務効率化やタスクシェアの導入
- 待遇改善や働き方改革の推進
- キャリアアップのサポート
- 国レベルでの政策と支援
これらの解決策に取り組むことで、看護師が働きやすい環境となり、質の高い医療を提供し続けられるようになるでしょう。
給与や手当の増額
看護師不足を解消するためには、給与や手当の増額が有効な解決策のひとつです。看護師の仕事は、命にかかわる責任の重い業務でありながら、待遇に不満を感じて離職する人が多いためです。
辞めたい理由 | 割合 | |
1 | 人手不足で仕事がきつい | 58.1% |
2 | 賃金が安い | 42.6% |
3 | 思うように休暇が取れない | 32.6% |
4 | 夜勤がつらい | 23.6% |
5 | 思うような看護ができず仕事の達成感がない | 23.1% |
表では、賃金が安く辞めたいと考えている看護師が4割を超えています。基本給の引き上げや夜勤手当、危険手当などを増やすことで、看護師の労働意欲を高められます。
病院やクリニックの経営状況から増額できないケースもあるかもしれませんが、看護師の頑張りに見合った報酬を得られるようになると、離職を考え直すきっかけになるでしょう。
業務効率化やタスクシェアの導入
業務効率化やタスクシェアの導入は、看護師の負担を軽減する有効な解決策です。
日本看護協会「2024年病院看護実態調査報告書」調査によると、看護師からタスクシフト・シェアを実施しているおもな医療関係の職種は次のとおりです。
- 薬剤師:59.5%
- 理学療法士:44.6%
- 臨床検査技師:41.5%
ほかにも、事務的な業務や物品の整理といった業務を看護補助者や事務員と分担するタスクシェアを進められます。また、ナースコールシステムのデジタル化といったICTを活用して、看護師が本来の看護業務に専念できるようにしている職場もあるようです。
関連記事:看護師が無駄だと感じる業務とは?業務改善の進め方と3つの事例を紹介
待遇改善や働き方改革の推進
待遇改善や働き方改革の推進は、看護師の定着率を高めるために不可欠です。看護師の仕事は、不規則な勤務や長時間労働などがあり、ワークライフバランスが確保できず離職につながっています。
日本看護協会「2024年病院看護実態調査報告書」調査によると、短時間勤務制度を導入した病院では、ワークライフバランスが確保しやすくなったほかに、家庭の事情で辞める人が減ったり、求人への応募が増えたりしました。
このように、一人ひとりのライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を取り入れることが、看護師不足の解消につながるのです。
キャリアアップのサポート
キャリアアップのサポートは、看護師の離職を防ぎ、定着率を高めるためには重要です。将来のキャリアプランをイメージできると、仕事へのやりがいを見出して、意欲的に働けます。
たとえば、専門看護師や認定看護師の資格取得の支援、院内研修や勉強会の実施、他部署への異動制度などを設けることが有効です。
看護師がスキルアップできる機会の提供は、看護師の離職を防ぐことにつながります。
国レベルでの政策と支援
看護師不足の解消には、国レベルでの政策と支援が欠かせません。高齢化が進み、看護師の需要が今後も増え続けるため、病院や施設だけの取り組みでは解決が難しいからです。
たとえば、医療と介護の連携を強化し、在宅医療を推進することで、病院の業務負担を分散できます。また、看護師の給与や待遇改善に対する補助金制度を設けるなど、国が主体となって看護師を支援することが大切です。
看護師不足についてのよくある質問
ここでは、看護師不足についてのよくある質問を紹介し、それぞれ回答します。
Q1:転職するときに看護師不足の職場を見極める方法はありますか?
看護師不足の職場を見極めるには、まずは求人情報をチェックすることが重要です。求人情報に「人間関係が良い」「雰囲気の良さ」など抽象的な表現が多い場合や、常に多くの看護師を募集している場合は注意が必要です。
また、病院見学会やインターンシップに参加することもおすすめします。実際に働いている看護師の様子を確認したり、面接で残業時間や離職率などを具体的に質問したりすることで、求人情報だけではわからない現状が見えてきます。
Q2:看護師不足がとくに深刻な施設や診療科はありますか?
看護師不足は多くの施設や診療科で問題となっています。厚生労働省「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況」によると、領域別の看護職員の求人倍率は次のとおりです。
- 訪問看護ステーション:3.22倍
- 病院(20~199床):1.80倍
- 病院(200~499床):1.40倍
- 介護老人福祉施設:1.13倍
また、急変対応や高度な処置が多く、業務負担が大きい救命救急センターや手術室、ICU(集中治療室)などの急性期の診療科では、看護不足はより深刻であるといわれています。
Q3:今後も看護師不足は続きますか?
今後も看護師不足は続く可能性が高いです。
内閣府の調査によると、2025年以降、高齢者の人口は増加して、2070年には高齢化率は38.7%になるとされています。政府も対策を講じていますが、需要に供給が追いついていない現状が続いています。
看護師不足の現状を理解してキャリアアップを選ぼう!
看護師不足は、日本の医療全体が直面する大きな課題です。
しかし、この現状を深く理解し、自分に合った働き方やキャリアを選ぶことで、充実した看護師人生を送れます。
もし、あなたが利用者さま一人ひとりとじっくり向き合いたい、ワークライフバランスを重視して働きたいと考えているなら、訪問看護師という選択肢を検討するのも一手です。
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<参考サイト・文献>

「NsPace Career ナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「NsPace Career」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。