看護師の退職金は少ない?退職金の相場や支給されるタイミングを徹底解説
「そもそも看護師って退職金は支給されるの?」「看護師の退職金っていくらぐらい?少ないの?」などと、退職金について悩みや疑問のある方は多いかもしれません。
一般的に、退職する時に一括で大金を受け取れるイメージのある退職金。退職金は年金と同様に、老後の生活を支えるために欠かせません。
しかし、退職金の有無は職場ごとに異なります。退職金制度により、もらえる退職金の支給額や算出方法が変わります。
そこでこの記事では、看護師の退職金の相場や支給されるタイミング、算出方法を詳しく解説します。経験年数別の相場も解説するため、定年退職時の金額を知りたい方や退職金を増やす方法を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
看護師は退職金をもらえる?
結論、看護師の方の2割程度は退職金がもらえない恐れがあります。
なぜなら、退職金制度は必ず設けなければならないと法律で定められていないためです。企業の雇用主に支払う義務はなく、制度自体がないところもあります。看護業界に限らず、ほかの業種においても導入するかはそれぞれの企業の判断によります。
厚生労働省が公開した「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」によると、令和5年の医療・福祉業界で「退職金制度がある企業」は75.5%です。企業全体では74.9%が導入しています。
従業員規模の拡大にともない、退職金制度を導入する割合が増え、1,000人以上の規模では92.3%です。一方で、宿泊業や飲食サービス業では42.2%と低くなります。
ほかの業界と比較すると、医療・福祉業界の退職金の実態は大差ないといえますが、看護師の方の約24.5%は退職金がもらえない恐れがあるのです。
定年退職する際に、「え?私のところは退職金がないの?」とならないために、勤務先の就業規則をチェックしましょう。
看護師の退職金制度の3つの種類ともらえるタイミングは?
次に、下記3つの退職金制度を解説します。
- 退職一時金制度
- 企業年金制度(企業型DC)
- 前払い制度
退職金が支給されるタイミングや仕組みなどは異なります。それぞれの具体的な規則を解説します。
1.退職一時金制度:退職時に一括で支給
退職一時金とは「企業年金制度から脱退したときに支給される一時金のこと」をいいます。
よくある会話のなかで登場する退職金は、退職一時金をイメージする方も多いでしょう。
勤続年数が不足して、年金の受給資格が得られない場合に、退職時に年金の代わりに一時金として受給します。つまり、定年退職まで働かなくても退職一時金を受け取れるのです。
多くの企業で導入しています。先述した資料によると、退職金制度を設けている医療・福祉業界の企業のうち86.9%が導入しており主流な制度といえます。
勤続年数が長いと退職金が増える傾向です。くわえて、職場での功績や貢献度、退職時点の役職なども退職金が増減する要因です。
2.企業年金制度(企業型DC):規定年齢から生涯または一定年齢に達するまで支給
企業年金制度(企業型DC)は「従業員の退職後の生活を支援するために企業が拠出して給付する年金制度」です。年金受給時の受取額は投資の成果に依存するという特徴があります。
先述した資料によると、企業年金制度のみを導入している企業は1.7%です。
従業員と企業が年金資金を出し、株式や投資信託、債券などの金融商品に投資するため、将来の年金額が変動するリスクがあることは知っておきましょう。
受け取り方は、一般的な年金と同じように分割の受け取りや、一時金として受け取るなど選択できます。
3.前払い制度:現役の期間に給料に上乗せで支給
前払い制度は「働いている間に将来の年金を前払いで受け取れる制度」です。あらかじめ決められた金額を給料やボーナスに上乗せして支払われます。
この制度ができた背景には、働き方の多様化や労働への意識の変化があります。終身雇用での働き方ではなくなったこともひとつの要因としてあげられます。
働いている間に必要な資金を得られるため、生活の質が向上し維持しやすいメリットがあります。
しかし、一見すると毎月の給料が増えたように感じますが、その給料からあなたが老後資金を貯めなければなりません。定年退職したあとの20年間の長期的な資金計画が必要となるため、利用には注意しましょう。
看護師の退職金は少ない?|経験年数別の退職金の相場
ここでは、経験年数別の退職金の相場を解説します。基本的には、退職金は長く勤めると高くなります。
それぞれの経験年数での具体例をみていきましょう。
3年で退職した看護師の退職金:30万円程度
勤続年数が短く職場への貢献度も高くないため、金額があがりません。「退職金はこんなに少ないと思わなかった」などガッカリする方もいるでしょう。
そのため、過度な期待はせず、退職後の生活費の一部として考えてください。
丸3年以上働くと、はじめて退職金を受け取れるケースがあります。新卒や2年目で転職を検討している方は、受け取れないケースもあるため、一度確認しましょう。
5年で退職した看護師の退職金:50~100万円程度
リーダーや委員会活動などの役割を担います。「一人前」といわれる時期であり、ほとんどの業務は自立しておこなえます。中心的な存在となる年代でもあります。
プリセプターとして後輩の育成にかかわっているかもしれません。貢献度も高くなるため、3年目と比較して多くの退職金が入ります。
10年で退職した看護師の退職金:250~300万円程度
医療機関や施設によっては看護主任に昇格する方もいます。一般の看護師より責任が大きい業務を担当するため、3年目や5年目と比較して一気に退職金が増えます。
また、出産や育児などを迎える時期です。なかには、正規職員からパートやアルバイトに働き方を変えたり、転職したりする方もいるでしょう。
選択肢が増える時期でもあるため、まとまった退職金で人生設計を検討できるでしょう。
20年で退職した看護師の退職金:450~600万円程度
ベテランの領域となり、看護主任や看護師長などの役割を担っている方も増えるでしょう。重要な役割を担うため退職金が増えます。
しかし、20年の間で出産や子育て、親の介護などのために勤務を中断したケースでは、退職金が増えにくい傾向があります。中断した期間は、退職金を算定する期間に含まない職場が多いです。
子どもの大学進学の資金や、自身の老後資金の準備が必要です。定年前に退職すると、自己都合での退職扱いとなり退職金が減るため注意してください。
また、訪問看護ステーションや別の施設などへの転職を狙える最後の時期かもしれません。自身の思いを尊重しつつ、家族の状況や老後の生活を考えたうえで十分に検討しましょう。
30年で退職した看護師の退職金:800~900万円程度
なかには、1,000万円を超えるケースもあります。1,000万円を受け取れると、老後の生活が「少しは安心できる」と感じる方も多いでしょう。
看護部長や看護師長など、重要な役職を担い貢献度が高くなるため、退職金も増える傾向です。定年退職まで働き続けると、より高い退職金を受け取れます。
一方で、役職や勤続年数などが反映されない医療機関では、退職金が減る恐れがあるため注意してください。
退職金にかかわることは就業規則に記載しています。就業規則の内容が難しいと感じる方は、経理課に相談しましょう。
【職場別】看護師の退職金の相場
ここでは、下記3つにおける退職金の相場を解説します。
- 国立病院
- 公立病院
- 民間病院・クリニック・訪問看護ステーション
それぞれを具体的にみていきましょう。
国立病院
退職金の相場は約1,800万円です。
国立病院に勤務する看護師の方は、2015年3月までは準公務員とされていました。
2015年4月に「国立病院機構法人」として法人化されて以降は、給料は公務員と同等の扱いを受けられなくなりました。
しかし、長年続けてきた退職金制度を変更することは難しく、退職金のみは以前の水準を維持しています。
公立病院
退職金の相場は下記のとおりです。
- 都道府県立:約1,400万円
- 政令指定都市立:約1,900万円
- 上記以外の市町村立:約1,800万円
地方公務員の退職金は、基本的には地方公務員の退職金の規則に沿ったものが適用されますが、地方自治体により異なります。
民間病院・クリニック・訪問看護ステーション
0~2,000万円程度とかなり幅があります。
なぜなら、退職金制度がない場合もあるためです。とくに、規模が小さいクリニックや訪問看護ステーションでは整備されていないところもあります。
しかし、訪問看護ステーションは、今後需要がますます高まることが推測されています。そのため、退職金制度のみならず、待遇がさらに良くなる可能性があります。
【公務員】看護師の退職金の相場
公務員の場合は、国家公務員と地方公務員の場合で、それぞれ規定される法律と詳しい算出方法などは、表のとおりです。
名称 | 法律 | 算出方法 | 勤務先 |
地方公務員 | 地方公務員法 | 退職手当額=基本額+調整額 | ・県立病院・市立病院 ・自治体の保健所 ・自治体の保健センター ・公立の看護学校 ・公立の幼稚園・保育園 ・地域包括支援センター ・障がい者施設 |
国家公務員 | 国家公務員法 | 退職手当額=基本額(退職日の俸給月給×退職理由別・勤続年数別支給率)+調整額 | ・厚生労働省 ・医療刑務所 ・国立ハンセン病療養所 ・自衛隊病院 ・宮内庁病院 |
地方公務員と国家公務員では、退職金の算出方法が異なります。公務員となると、相場が高くなる傾向です。
しかし、採用される枠は少ないです。また、ほかの医療機関や施設と働き方が異なるため、入職後に戸惑う方も少なくありません。
より詳しい情報を知りたい方は、地方公務員は総務省ホームページを、国家公務員は人事院ホームページを、それぞれ見てください。
看護師の退職金の算出方法
ここでは、看護師の方の退職金は何をもって算出されているのか解説します。下記4つのパターンがあります。
- 基本給
- 固定金
- 勤続年数
- 功績倍率
看護師の退職金の算出方法は、医療機関や施設によって異なります。それぞれを具体的にみていきましょう。
基本給をもとに算出
多くの医療機関や施設で採用されている退職金の算出方法です。退職時の基本給に勤続年数をかけて算出します。
算出方法:退職金=基本給×勤続年数 |
たとえば、下記で考えてみましょう。基本給は30万円、勤続年数は30年だったケースでは、退職金は900万円です。この算出方法は、月給ではなくあくまで基本給が基準です。
そのため、残業代、夜勤手当や通勤手当などの各種手当は含まれません。
固定金をもとに算出
医療機関や施設ごとに設定した固定金額に勤続年数をかけて算出します。
算出方法:退職金=固定金額×勤続年数 |
たとえば、固定金額は20万円、勤続年数は20年のケースでは、退職金は400万円です。この算出方法には、役職や昇給などは反映されません。
若手やベテラン、スタッフの看護師や看護師長、いずれも考慮されず固定金額は一定です。固定金額に大きく左右されるため、気になる方は一度、就業規則を確認しましょう。
勤続年数をもとに算出
医療機関や施設が勤続年数によって退職金を一律に決める算出方法です。たとえば、下記のケースがあります。
- 勤続年数3年:30万円
- 勤続年数5年:100万円
- 勤続年数10年:200万円
- 勤続年数20年:300万円
このケースにおいても、役職や昇給は反映されず、経験年数のみで金額が決まります。また、丸10年働いたら100万円を受け取れるのか、10年目となった段階で受け取れるのかなど、支給のタイミングは確認しましょう。
功績倍率をもとに算出
基本給に勤続年数と功績倍率をかけた算出方法です。
算出方法:退職金=基本給×勤続年数×功績倍率 |
功績倍率は「職場にどれだけ貢献できたのか」で決まります。1.0を基準とし、貢献度が低ければ下がり、高ければ上がります。
たとえば、長い間役職で勤務しており高い貢献度である評価され功績倍率が1.3となったケースでは、基本給は20万円、勤続年数は20年だと退職金は520万円です。
低い貢献度であると評価され功績倍率が0.7となったケースでは、基本給は20万円、勤続年数は20年だと退職金は280万円です。これらのケースでは140万円もの差が出るのです。
評価により金額が異なるため、モチベーションを反映した方法といえます。しかし、あまりやる気のないスタッフのモチベーションを、さらに下げてしまう恐れがあるため注意が必要です。
看護師が退職金を増やす3つの方法とは
最後に、看護師の方が退職金を増やす3つの方法を解説します。
- 資格を取得する
- 役職に就く
- 国立病院の看護師や公務員に転職する
あなたの努力次第で受け取れる金額を変えられるかもしれません。それぞれに合った方法を選びましょう。
資格を取得する
具体的には、専門看護師や認定看護師の資格を取得しましょう。
職場で関係性が深い資格であれば、専門性が高く重要な役割を担えます。貢献度が高くなるため基本給が高くなり結果、退職金が増額されるかもしれません。
とくに、功績倍率による算出方法であれば、より高い退職金を得られるでしょう。ほかにも下記の資格の取得を検討しましょう。
- ケアマネージャー
- 呼吸療法認定士
- 透析療法指導看護師
- 認知症ケア専門認定士
とくに、規模が小さい病院やクリニック、訪問看護ステーションなどで資格の取得が重要視される傾向です。
たとえば、透析に特化したクリニックでは透析療法指導看護師の資格を、訪問看護ステーションでは認知症ケア専門認定士の資格を優遇しており、退職金に反映されるケースがあるかもしれません。
どの資格が優遇され、退職金にかかわるのかは、職場の重視している専門性から判断しましょう。
役職に就く
一般的に、役職に就くと基本給が高くなる傾向にあるため、退職金の増額につながります。
看護主任や看護師長、看護部長といった役職に就くと貢献度が上がります。
そのため、基本給や功績倍率をもとにした算出方法であれば、退職金が増えるでしょう。
しかし、役職への昇進を望んでもすべての看護師は昇進できません。日ごろから業務に真摯に取り組み、上司や周囲のスタッフから評価されると昇進できる可能性があります。
日ごろの業務への取り組みが、将来の老後資金にかかってくるといえます。
国立病院の看護師や公務員に転職する
退職金を増やしたい方は、退職金の水準が高い国立病院の看護師や公務員に転職しましょう。民間病院やクリニックなど規模が小さければ、退職金自体がない恐れがあります。
勤続年数によって退職金がかわるところが多いため、早めの転職が大切です。
看護師の退職金の実態を理解し、退職金の充実したところに転職しよう
看護師の退職金は、採用している算出方法や職場の規模、勤続年数などに大きく左右されます。
国立病院や公務員は、退職金が高くなる傾向です。規模が小さいところであれば、退職金そのものがない恐れがあります。
退職金を増やしたい方は、資格を取得したり、役職に就くことを目指したりするといいでしょう。
しかし、今の職場で退職金の増額が見込めない方は、水準が高い医療機関や施設への転職も視野にいれてみてください。
参考リスト・文献
令和5年就労条件総合調査 結果の概況|厚生労働省
脱退一時金(退職一時金)|企業年金連合会
企業年金制度|企業年金連合会
職員退職金規定|独立行政法人国立病院機構
地方公務員の退職手当制度について|総務省
第3章 定年後の収入と支出|人事院
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