セルフマネジメントとは?看護師の役割と具体例5つを解説

患者さまが自宅で体調の変化に気づかず症状が悪化したり、生活習慣をうまくコントロールできず再入院を繰り返したりする場面を目にしたことはありませんか。
こうした課題に対し、セルフマネジメント支援は患者さま自身の力を引き出し、患者さまらしい日常生活を送るための有効なアプローチです。
この記事では、看護師がおこなうセルフマネジメント支援の具体例を紹介しながら、患者さまの自立を支えるための視点を解説します。セルフマネジメントを臨床でおこない、患者さまの自己管理する力を支えたい看護師は、ぜひ参考にしてください。
看護におけるセルフマネジメントとは患者さまの主体性を支える視点
患者さまの自己管理を支援する看護では、セルフマネジメントの正しい理解が不可欠です。まずは定義を押さえ、支援の方向性や具体的なかかわり方を知っておきましょう。
看護におけるセルフマネジメントの定義
看護におけるセルフマネジメントとは、患者さまが自らの健康状態や病気の特徴を理解し、普段の生活で体調や行動を自分で管理・工夫し続けることを指します。
看護師は、患者さまがこうした自己管理を実践できるよう、知識の提供やスキルの習得支援、心理的サポートを伴走します。
看護分野におけるセルフマネジメントとセルフケアの違い
看護業界では、セルフマネジメントと似ている「セルフケア」という言葉がよく使われます。この2つはよく似ていますが、次のような違いがあります。
項目 | セルフマネジメント | セルフケア |
定義 | 患者さまが自分の病気や健康状態を理解し、自分の力で生活を整えていくこと | 健康を保ち回復するために自分でおこなう日常のケア行動 |
支援の目標 | 患者さまが自分の病気や体調を自ら管理しながら、その人らしい生活を続けられるようにする | 具体的なケア行動が患者さま自身でできるようになる |
患者さまの行動例 | 病気や治療についての知識の習得、受診タイミングの見極め、状態悪化時の対処 | 服薬、食事、休養、運動など身体をケアする行動 |
参考:知っているようで知らない「セルフマネジメント」~その最新情報~①(全3回)|独立行政法人環境再生保全機構、セルフケア|公益社団法人日本看護科学学会をもとに作成
つまり、セルフマネジメントは「生活や健康をどう調整するか考えること」であり、セルフケアはそのなかの具体的な行動です。どちらも患者さまが健康を維持し、生活の質を高めるうえで大切な取り組みです。
セルフマネジメント支援における看護師の役割
セルフマネジメント支援では、患者さまの日常生活で自分の健康を管理できる力を育てることが看護師の重要な役割です。具体的に、どのようなかかわり方が求められるかを見ていきましょう。
アセスメントを通じて患者さまの自己管理能力を評価する
セルフマネジメント支援をおこなううえで重要なのは「患者さまがどのくらい自己管理できているか」を、次の視点でアセスメントすることです。
- 患者さまの病気の理解度
- 日常生活で自分のやるべきことを続けられる力
- 自分の健康や生活改善に取り組もうとする気持ち
- ご家族や社会的サポート
糖尿病の患者さまであれば、血糖測定の習慣や食事内容、定期受診の受診歴などを確かめます。
これらの情報を把握できると、どこに支援が必要か明らかになり、患者さまに合うセルフマネジメント支援計画を立てやすくなります。また、患者さまの状態は変化しやすいため、アセスメントは一度きりではなく、定期的な見直しと支援内容の調整が大切です。
患者さまの「できること」に目を向けて支援する
セルフマネジメント支援では、できていないことばかりに注目せず「できていること」や「これからできそうなこと」に着目する姿勢が重要です。
服薬はしっかりできている一方で、食事管理が難しい患者さまの場合、まず服薬の継続を評価し、できている部分に自信を持ってもらうことから始めます。
そのうえで「間食を1回減らしてみる」といった小さな目標を設定し、成功体験を重ねながら少しずつ取り組みの幅を広げていきましょう。こうしたかかわりが、患者さまのセルフマネジメント力を高めることにつながります。
看護師によるセルフマネジメントの具体例5つ
患者さまが自分の健康や生活を管理できるよう支援するには、病気の種類や生活状況に応じた具体的な方法が求められます。
- 糖尿病患者さまへの自己管理支援
- COPD患者さまの症状悪化を防ぐセルフマネジメント支援
- 慢性心不全患者の体重・塩分管理
- 認知症高齢者の服薬セルフマネジメント支援
- 統合失調症のある方へのセルフマネジメント支援実践
臨床でのイメージを持ちながら参考にしてみてください。
1.糖尿病患者さまへの自己管理支援
糖尿病では、病状の悪化を防ぐために日々の血糖コントロールが欠かせません。看護師は食事や運動、服薬のほかに、血糖測定の方法や記録の工夫を次のように指導し、患者さまが継続できるよう伴走します。
- 食事記録の意義を伝え、続けやすい方法を一緒に考える
- 血糖測定のタイミングや方法を患者さまに合わせて調整する
- 運動や日常の活動を生活リズムに組み込みやすく工夫する
「糖尿病診療ガイドライン2024」でも、糖尿病自己管理教育(DSME)によると、患者さまの行動変容や自己管理力の向上に役立つと推奨されています。
糖尿病患者さまにとってセルフマネジメントは、日々の生活のなかで自分の健康を守り、病気と向き合う力として不可欠といえるでしょう。
2.COPD患者さまの症状悪化を防ぐセルフマネジメント支援
COPD患者さまには、呼吸状態の観察や痰を出しやすくする方法の指導だけでなく、日常生活の工夫を通じたセルフマネジメント支援が重要です。
実際に、訪問看護師が息切れや痰の変化といった病状が悪化する予兆に気づく方法を伝えつつ、実際の対処方法を共有したことで、早めの対応につながったケースもあります。
また、「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2022」では、セルフマネジメントを含む在宅管理が、再入院率の低下に有効とされています。
こうした支援により、患者さまが症状の変化に気づき適切に対応できるようになり、再入院や重症化を防げるでしょう。
3.慢性心不全患者の体重・塩分管理
慢性心不全患者さまへの支援のポイントは、日常生活のなかで体調変化に気づき、早期に対応できるように導くことです。具体的に、次のような支援があげられます。
- 脱衣所に体重計を置いて入浴前に測れるような工夫を伝え習慣化を図る
- 外食するときにはメニューの塩分量をチェックするよう意識づける
- 息切れ、むくみ、倦怠感など症状の変化があった場合の相談体制を整える
「2025年改訂版心不全診療ガイドライン」でも、こうしたセルフマネジメントが心不全の悪化や、再入院リスクの低下に役立つとされています。
4.認知症高齢者の服薬セルフマネジメント支援
認知症患者さまでは、病状の進行にともないセルフマネジメントが低下し、薬を飲み忘れたり、同じ薬を飲んでしまったりなどの課題が出やすくなります。これを防ぐためには、次のような残存能力に応じた「できる範囲」のセルフマネジメント支援が重要です。
- お薬カレンダーやケースの使用
- 薬の保管場所の工夫
- ご家族や介護者への情報共有
- アラームやメモなどのリマインダー活用
こうした工夫により、認知症患者さまが自分で生活を管理し続けられるでしょう。
5.統合失調症のある方へのセルフマネジメント支援実践
統合失調症の患者さまは、症状の変動や認知機能の低下などから、日常生活の自立や症状管理が難しくなることがあります。そのため、看護師は患者さまの自立した生活に向けて、セルフマネジメント力向上の支援をおこないます。
「統合失調症をもつ人に対するセルフマネジメント促進の看護ケア」という報告では、次のようにアプローチしていました。
- 自分の状況を整理する力を育て、感情や行動を安定させる
- 症状とのつき合いへの自信を高める
- 自分の意思で進むことを促し、自分への肯定的な評価を高める
- 支援者と安心してつながれる状態を維持・強化する
- ご本人の望む生活に向けて目標を立て、計画的に実践して生活を整える
こうした支援により、統合失調症の方も、生活のリズムや人間関係を保ちながら、日常生活の自立や症状を管理する力を高められるでしょう。
セルフマネジメント支援を看護師がおこなうときに注意すべき点
セルフマネジメント支援をおこなうにあたり、看護師が注意しなければならないのは「押しつけない」「患者さまの個別性を意識する」の2つです。詳しく見ていきましょう。
押しつけにならないように配慮する
看護師が正しいと思う方法を押しつけず、患者さまの希望や生活リズムに沿って検討しましょう。
食事療法の場面で「減塩食が望ましい」とされていても、ご家族の対応力やご本人の嗜好により継続が難しいことがあります。その場合は「いきなりすべてを減塩に変える」のではなく、まずは汁物だけ薄味にするといった工夫を提案するのも1つの方法です。
無理に押しつけると、支援が逆効果になることもあるため、相手の気持ちやタイミングに寄り添い「一緒に考える姿勢」が大切です。
患者さまの心理状態・背景に応じた個別的対応を意識する
不安が強い、ご家族の支援が得られない、経済的な制約があるなど、患者さまの環境や心理状態により、病院で指導したことが自宅で同じように実践できないこともあります。
経済的な負担を不安視している患者さまに運動をするように促す際は、経済的な負担がないように、自宅でできる運動プランを考えるのも良いでしょう。
こうした背景を理解し、ケアマネジャーや医師、リハビリテーションのスタッフと協力しながら、続けやすい支援計画を組み立てることが重要です。
セルフマネジメント支援によって得られる効果
セルフマネジメント支援は、患者さまが自分で生活や健康を管理できる力を引き出すだけでなく、行動が続きやすくなる、悪化予防につながるといった効果が期待できます。
患者さまの自己効力感が高まる
セルフマネジメント支援では「自分にもできた」という成功体験を積み重ねられると、自己効力感を高められます。健康管理や日常生活の行動を続けやすくなるといわれています。
そのため、セルフマネジメント支援では、患者さまが自分の生活や症状に向き合う力を育めるのです。
再入院や重症化の予防につながる
セルフマネジメントが習慣化すると、体調や症状の変化に早く気づき、受診や相談の行動につなげやすくなります。
その結果、再入院や症状の悪化を防ぎ、医療費の削減や日常生活の安定につながるでしょう。
セルフマネジメント支援スキルが活かせる場面
セルフマネジメント支援のスキルは、患者さまの自立や生活の質を支える次のような場面で幅広く活用できます。
- 訪問看護
- 慢性疾患外来
- 回復期病棟
- 予防保健
とくに、訪問看護では、利用者さまとかかわる期間が長く、生活環境や日常の課題を把握でき、強みや希望に沿った支援を提供しやすい点が特徴です。
セルフマネジメント支援のスキルを活かしたいなら、訪問看護ステーションへの転職も視野に入れてみると良いでしょう。訪問看護専門の求人サイトNsPaceCareerでは、きっと条件や希望に合った求人が見つかるはずです。ぜひご活用ください。
看護師によるセルフマネジメントについてのよくある質問
セルフマネジメント支援の対象や進め方、看護計画の立て方など、日常ケアで疑問になりやすいポイントをまとめました。セルフマネジメントを正しく理解するのに、活用してください。
Q1:どのような人にセルフマネジメント支援が有効ですか?
糖尿病や心不全、COPDなどの慢性疾患を抱える方、在宅療養中の方、精神疾患で再発予防が必要な方などにセルフマネジメント支援が有効です。
「継続的な生活支援」が必要な方ほど、セルフマネジメントの重要性が高まります。
Q2:患者さまがセルフマネジメントに消極的な場合はどうすれば良いですか?
無理に進めるのではなく、まず「今できていること」を確認しましょう。成功体験を積むことで意欲が芽生える場合があります。
また、医療者と患者さまの目標や考え方が違う場合でも、患者さまの希望や生活に合わせて一緒に話し合いながら、納得のいく方法を決めることが大切です。
Q3:セルフマネジメント支援の看護計画例を教えてください
COPD患者さまのセルフマネジメントを支援する場合、次のように立てると良いでしょう。
- 息切れや咳の悪化サインを自分で気づけるようにする方法を指導する
- 正しい吸入法や薬の管理、生活動作での負荷の調整方法を一緒に確認する
- 日々の体調記録や振り返りの方法を提案し、自分で行動を調整できるよう支援する
こうした計画をもとに、目標とする自己管理行動が習慣化できているか、患者さまが自分の体調変化に気づき適切に行動できているかなどを評価します。
セルフマネジメント支援は信頼関係が必須!患者さまの力を引き出しましょう
セルフマネジメント支援では、患者さまの自己効力感や生活習慣の改善を促せます。
しかし、単に指導するだけでは十分でなく、まずは患者さまとの信頼関係を築くことが前提です。
安心して相談できる環境や、価値観に寄り添った支援の提供によって、患者さま自身が行動を選び、継続する力を引き出せます。患者さまが自分らしい生活を築けるよう導いていきましょう。
<参考サイト・文献>
知っているようで知らない「セルフマネジメント」~その最新情報~①(全3回)|独立行政法人環境再生保全機構
糖尿病診療ガイドライン2024「7章糖尿病の自己管理教育と治療支援」|日本糖尿病学会
訪問看護師の増悪予防支援により身についた慢性閉塞性肺疾患患者のセルフマネジメント能力|森菊子ら
COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2022第6版|日本呼吸器学会
2025年改訂版心不全診療ガイドライン|日本循環器学会 /日本心不全学会

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