看護師の夜勤人数は法律で決まっている?人数が足りないと感じる4つの理由

「夜勤が忙しすぎてつらい。人を増やせないのかな?」「夜勤はとくに人手が足りていない気がする。法律ってあるの?」
夜勤のナースステーション。時計は深夜2時を回り、ナースコールが立て続けに鳴ります。
「もう1人いれば…」そう思ったことはありませんか?
実は、夜勤の看護師人数には法律上の明確な下限はありません。
では、なぜ多くの現場で「足りない」と感じるのか。本記事では、その背景と現状、そして限界を感じたときの選択肢まで、現場目線で徹底解説します。
看護師の夜勤人数に関係する法律や制度のまとめ
看護師の夜勤人数について法律上人数の明確な下限はないが、安全配慮義務や労働基準法等に違反する場合があります。ここでは、夜勤体制に関係するおもな法律や制度について解説します。
法律や制度 | ポイント |
診療報酬制度 | ・夜勤人数に影響するのが、診療報酬制度の「看護職員夜間配置加算」である ・加算を取っていない病院では制約がないため、少ない人数で夜勤をするところもある |
医療法 | ・病院が安全な医療を提供できるように人員や設備を整えることが定められている ・夜勤人数を規定していないが「適切な人員配置」は病院運営の基本とされている |
労働基準法 | ・1日8時間、週40時間を超えるには、36協定の締結が必要で、未締結のまま時間外勤務をさせることは違法になる ・深夜(22時〜5時)勤務に該当する場合は、深夜割増賃金の支払い義務がある |
労働安全衛生法 | ・職場の安全とスタッフの健康を守るための措置が求められている ・夜勤は過重労働やメンタルヘルス不調の原因にもなりやすいことから、健康診断の受診や産業医の面談指導が必要になる場合もある |
診療報酬制度の加算を取得している病院では、夜勤に配置する看護師の人数が決められています。
ただし、この加算を取得していない施設では、夜勤の看護師数は病院の判断にゆだねられています。そのため、配置状況は病院によって異なり「人数が足りないのでは?法律違反では?」と感じやすいのが現状です。
このように看護師の夜勤人数は、複数の制度や法令が絡み合っています。「違法ではない=安心」ではなく「安全かつ健全に働ける環境か」を見極めることが大切です。
看護師の夜勤人数の法的な基準がない!実際の配置と人数の決まり方
看護師の夜勤体制は、病院によってばらつきがあるものの一定の傾向があります。ここでは、調査データをもとに、夜勤の看護師の配置状況と、適正人数を左右する要素を解説します。
70%以上の病院が夜勤に看護師を3人以上配置している
日本医療労働組合連合会の「2024年度夜勤実態調査」によると、2交代制・3交代制を問わず、夜勤時に看護師を3人以上配置している病院は全体の70%を超えています。
夜勤形態 | 看護師3人以上を配置している割合 |
3交代制の準夜勤 | 76.6% |
3交代制の深夜勤 | 73.6% |
2交代制の夜勤 | 85.2% |
この結果から、多くの病院で「夜勤は3人体制」が基準となっていることがわかります。
しかし、この3人体制が、すべての病棟にとって十分な人数であるとは限りません。実際には、患者さまの重症度や看護師の経験年数、業務の複雑さなどによって、必要な人数は変わります。
適正人数の決まり方
夜勤の適正な看護師の人数は、単純に患者数だけで決められるものではなく、次の要素が影響します。
- 病棟の種類と患者さまの重症度
- 看護師の経験年数とスキルのバランス
- 新人看護師の教育体制
- 医療機器の導入状況
これらの要素を総合的に考慮して、病院・病棟ごとに最適な夜勤人数が決まります。
しかし、人手不足やコストの制約などから、ギリギリの人数で回しているところもあり、看護師が忙しくしているケースも少なくありません。実際の夜勤のスケジュールについては、下記の記事で詳しく解説しているため、確認することをおすすめします。
関連記事:看護師の夜勤時間はどれくらい?夜勤のスケジュールやメリット・デメリット
法律違反?看護師が「夜勤人数が足りない」と感じる4つの理由
夜勤では「とにかく人が足りない」「常に手が回っていない状態だ」と感じる看護師も少なくありません。その背景には、次のようにさまざまな要因があります。
- 業務量が多い
- 急患や急変が多い
- 休憩が十分に取れない
- 夜勤特有の緊張状態で負担が大きい
それぞれを詳しく解説します。
1.業務量が多い
夜勤は、日勤に比べて看護師の人数が減る一方で、次の業務が続きます。
- 消灯後の巡回
- 定時でのバイタルサインのチェック
- 日常生活の介助
- 点滴管理
- 記録業務
とくに重症患者さまや急変リスクの高い患者さまを多く抱える病棟では、1人あたりの負担が大きくなりがちで「人数が足りない」と感じるのは自然なことです。
2.急患や急変が多い
夜間は、看護師だけではなく医師や多職種のスタッフが少ないため、急患の受け入れや急変時には、限られた人数で対応しなければなりません。
この状況が続くと通常業務が後回しになり、精神的に追い詰められる場面が増えます。そのため、突発的な出来事に十分対応できないとき「手が足りない」「もう1人いれば助かるのに」と感じやすい傾向です。
3.休憩が十分に取れない
業務量が多く緊急対応が重なると、休憩できないことも珍しくありません。
日本医療労働組合連合会「2022年看護職員の労働実態調査」によると、夜勤の休憩を「取れていない」と回答した看護師は、次のとおりです。
夜勤形態 | 休憩が取れていない割合 |
3交代制の準夜勤 | 35.5% |
3交代制の深夜勤 | 22.3% |
2交代制の夜勤 | 17.2% |
夜勤では休憩時間の確保が難しいケースもあり、心身の疲労が溜まりやすい環境にあります。結果として、医療ミスのリスクが高まり「この人数では対応できない」と強く感じる要因になります。
4.夜勤特有の緊張状態で負担が大きい
医療現場では急変のリスクがあり、看護師は高い緊張状態に置かれています。夜勤では、次のような理由で身体的・精神的な負担が大きくなります。
- 少人数での責任感の重さ
- 判断を誤れないプレッシャー
- 睡眠不足による生活リズムの乱れ
こうした背景によって、精神的な余裕がなくなり「人手が足りない」という感覚につながります。
関連記事:看護師の夜勤の働き方とは?勤務体制やメリット・デメリットを解説
看護師の夜勤人数が少ない背景と法律の限界
「この人数で本当に大丈夫?」と感じる夜勤体制には、病院経営や看護師の確保状況など、現場の苦労とは別の背景があります。
- 人件費の削減
- 看護師不足の慢性化
- 診療報酬制度の影響
- ベッド稼働率の維持
- 経営層の認識不足
看護師の夜勤人数が最小限にとどまっている、おもな5つの背景を解説します。
人件費の削減
看護師の人件費は、病院の運営費のなかでも大きな割合を占めています。
経営を維持するためには人件費を抑える必要があり、結果として夜勤では最低限の人数しか配置されないことがあります。
看護師不足の慢性化
厚生労働省の「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況」によると、看護職員の有効求人倍率(2.20倍)は全職業(1.19倍)よりも高いため、看護職員が不足している状況であるといえます。
採用活動をしても十分な人数が集まらず、ギリギリの体制で夜勤シフトを組まざるを得ない病院が少なくないでしょう。そのため、現場で働く看護師は「夜勤の人数が足りない」と感じやすくなります。
診療報酬制度の影響
診療報酬制度は、病院の収益につながる重要な要素です。たとえば「夜間看護体制加算」といった加算を得るためには、一定の人員配置が必要です。
しかし、決められた人数以上に配置しても収益に反映されないため、加算要件を満たす最小限の配置で止めるケースが見られます。
ベッド稼働率の維持
病院は、病床を最大限に活用して患者さまを受け入れて収益を確保しています。
しかし、満床に近い状態を維持しようとすると、診療報酬上の基準内でも、看護師1人あたりの負担は重くなりがちです。
限られた人数で多くの患者さまをケアしなければならず、夜勤の看護師に、そのしわ寄せが集中しやすくなります。
経営層の認識不足
現場で働く看護師が感じている業務量の多さや精神的な負担が、経営層に十分に伝わっていない場合もあります。
現場の声が上層部に届きにくかったり、経営と現場の視点にギャップがあったりすると、看護師の夜勤の負担は改善されないでしょう。
看護師が夜勤の法的配置に疑問を感じたときの行動
看護師が夜勤の人数に疑問を抱いたときに、とるべき行動を解説します。
- 勤務先の配置基準・現状を把握する
- 看護師長や主任看護師に相談する
- 労働組合や外部機関へ相談する
声をいきなりあげるのではなく、情報を集めて、適切な手段で改善を目指していきましょう。
勤務先の配置基準・現状を把握する
まずは、勤務する病院や病棟の具体的な配置基準を確認しましょう。
一般的に、就業規則や院内マニュアルに記載されており「今の配置が基準に合っているのか」を見極められます。
夜勤中の業務内容や患者さまの状況などをメモしておくと、客観的なデータとして役立ちます。ほかのメンバーとも負担感を共有し、課題を話し合っておくのも有効です。
看護師長や主任看護師に相談する
夜勤の負担の重さを、まずは直属の上司である看護師長や看護主任に相談しましょう。
具体的な業務負担や精神的なつらさを、集めたデータとともに伝えることで、真剣に受け止めてもらえる可能性が高まります。部署内での夜勤体制の見直しに発展するかもしれません。
労働組合や外部機関へ相談する
上司に相談しても改善が見られない、業務環境が悪いと感じる場合には、院内の労働組合や外部の相談窓口を頼ることも大切です。
たとえば、労働組合はスタッフの声を集めて病院側に働きかける役割があり「人が少なくて夜勤が回らない」といった悩みに対して、代わりに交渉してくれることもあります。
また、外部には次のような相談先もあります。
- 労働基準監督署
- 地域を管轄する看護協会
- 産業医・産業保健師
夜勤がつらいのは「自分のせい」ではなく、配置や仕組みの問題かもしれません。安心して相談できる場所があることを知っておくだけでも、気持ちが少し楽になるでしょう。
法律では守りきれない!看護師の夜勤の負担が改善しないときの対策
夜勤の人員や業務体制に改善が見られない場合、次の選択肢を検討してみてください。
- 働き方を見直す
- 部署異動を願い出る
- 転職を検討する
無理して続けず、今の状況から抜け出す方法を考えてみましょう。
働き方を見直す
夜勤がつらいと感じるときは、夜勤回数を減らしたり、日勤のみの勤務形態にしたりなど働き方を変更してみるのも一案です。
部署や上司によっては柔軟に対応してくれる場合もあります。まずは看護師長に相談してみましょう。
部署異動を願い出る
現在の環境が合わないと感じたら、他部署への異動を願い出るのも効果的です。
病棟によって、夜勤体制や患者さまの重症度、業務量は異なります。あらかじめ異動先の夜勤状況を確認しておくと、実際に働くときにギャップを感じにくいでしょう。
転職を検討する
現在の病院で夜勤の状況の改善が見込めない場合、心身の健康やキャリアを守るために転職も有効な選択肢です。次の点に注目して情報収集しましょう。
- 看護師の配置人数(とくに夜勤)
- 残業時間の実態
- 教育体制
- 福利厚生
看護師専門の転職サイトを利用すると、自分に合った職場を見つけられるでしょう。
夜勤のない職場をお探しの看護師は、訪問看護に特化したNsPaceCareerをぜひ一度のぞいてみてください。訪問看護ステーションは、基本的にオンコール対応のためほとんどの場合で夜勤がなく、夜勤の人員配置に悩む必要もありません。
看護師の夜勤人数の法律についてのよくある質問
看護師の夜勤人数にまつわる法律や、決まりについての疑問に回答します。働き方を見直す参考にしてください。
Q1:「7対1看護」「10対1看護」では看護師の夜勤人数はどうなりますか?
「7対1」「10対1」といった基準は、常勤換算による看護師数と平均患者数の比率で定められる診療報酬上の配置基準です。これは、夜勤の看護師の人数を直接的に決定するものではありません。
ただし、こうした基準を満たす病院では看護師の数が多くなるため、夜勤も比較的ゆとりのある配置になっている可能性があります。
Q2:看護師の36協定とは何ですか?
36協定とは、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて働かせる場合に、労使間で結ぶ必要がある取り決めです。
看護師が法定時間を超えて働く場合、この36協定が未締結のまま残業や休日出勤をさせるのは、労働基準法第32条違反となります。
さらに、深夜(22時〜翌5時)勤務や休日勤務を行った場合には、労働基準法第37条に基づき深夜割増賃金や休日労働の割増賃金を支払う義務があります。これらが未払いであっても同様に違法です。
もし未締結や未払いの疑いがある場合は、勤務先の労働組合や労働基準監督署に相談できます。労働基準監督署は匿名でも相談でき、必要に応じて事業所への是正勧告などの対応が行われます。
Q3:療養病棟と急性期病棟で看護師の夜勤人数は変わりますか?
患者さまの状態や必要なケアの内容、加算の状況などにより、療養病棟と急性期病棟では夜勤の配置人数は変わります。
急性期病棟は、手術後や急変リスクの高い患者さまが入院しているため、看護師の配置人数が多く、手厚い体制が組まれる傾向です。一方、療養病棟は、おもに長期的な療養が必要な患者さまが入院しており、医療処置よりも日常生活援助やリハビリテーションが中心です。
急性期病棟に比べて、療養病棟は夜勤の看護師の配置人数が少ない傾向にあります。
看護師の夜勤人数に関係する法律はない!負担を減らすなら転職も検討しよう
看護師の夜勤人数には法律上の決まりはなく、病院ごとの基準や診療報酬制度にもとづいて決められています。
そのため、業務の負担が大きくなりやすい夜勤の現状と、実際の看護師の人数が合っていないと感じ、不満や不安を抱く看護師も少なくありません。
勤務先での改善が難しい場合は、自分に合った働き方を見つけるために、転職を視野に入れるのも前向きな選択肢です。無理をせず、自分を守る働き方を大切にしましょう。
<参考サイト・文献>
令和4年度診療報酬改定の概要入院Ⅳ(働き方改革の推進、横断的個別事項)|厚生労働省保険局医療課

「NsPace Career ナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「NsPace Career」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。