特別養護老人ホームの看護師の役割4つ!1日の流れやきつい理由も解説

「病院の仕事は少し疲れてきた。でも看護師としてのやりがいは大事にしたい」「特別養護老人ホーム(特養)の看護師ってどんな役割があるの?」
そんな看護師の方に注目されているのが特別養護老人ホーム(特養)での働き方です。
特別養護老人ホームの看護師は、病院とは異なる役割とやりがいがある一方で「きつい」といわれる側面もあります。
しかし、病院勤務が主流である看護師にとって、特別養護老人ホームの業務内容や働き方を知る機会は限られているのが現状です。
この記事では、特養看護師の役割、1日の流れ、やりがい、向き不向きまでリアルな情報を徹底解説。転職の新たな選択肢として参考にしてみてください。
特別養護老人ホームの看護師の役割4つ
特別養護老人ホームの看護師は、おもに次の役割があります。
- 利用者さまの健康管理
- 緊急時の対応と危機管理
- 介護職員への指導と多職種連携の促進
- ご家族との連携と精神的サポート
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.利用者さまの健康管理
特別養護老人ホームの看護師の役割は、おもに次の業務をおこない利用者さまの健康管理と必要な医療的ケアを提供することです。
- バイタルサイン測定
- 健康相談
- インスリン注射の管理
- 褥瘡の処置
- 内服管理
これらは、利用者さまがその人らしい生活を送るうえで不可欠です。
2.緊急時の対応と危機管理
特別養護老人ホームでは医師が常駐していないため、次の緊急時の対応および危機管理を看護師が担います。
看護師の役割 | ポイント |
緊急時の対応 | ・急変時の初期対応 ・救急搬送の必要性の判断 ・救急隊への引き継ぎ |
感染症の拡大防止・予防 | ・インフルエンザやノロウイルスなどの感染症予防 ・感染症発生時の拡大予防 |
事故予防 | ・転倒や誤嚥などの事故予防 ・事故発生時の応急処置 ・再発防止策の検討 |
こうした看護師の役割は、利用者さまの命を守り、安全な生活環境を維持するために欠かせません。
3.介護職員への指導と多職種連携の促進
特別養護老人ホームでは、介護職員が看護師よりも多く働いています。
日本医療労働連合会「2024年 介護施設夜勤実態調査結果概要」による、看護職員と介護職員の割合は次のとおりです。
- 看護職員:10.4%
- 介護職員:83.8%
- その他のスタッフ:5.8%
介護職員が喀痰吸引や経管栄養などのケアをおこなえるよう現場で指導したり、利用者さまの状態を介護職員と情報共有して、異常の早期発見につなげたりすることも看護師の役割です。
4.ご家族との連携と精神的サポート
利用者さまにとって特別養護老人ホームは「生活の場」であり、ご家族とのつながりも大切です。
利用者さまの健康状態や体調変化を、ご家族にわかりやすく説明し、不安や疑問の相談に対応します。
看取りケアをおこなう施設では、最期のときを迎える利用者さまだけでなく、精神的に不安定になりやすいご家族へのサポートも重要な役割となります。
特別養護老人ホームと介護老人保健施設はどちらが働きやすいのか
特別養護老人ホームと介護老人保健施設、どちらが働きやすいのかについては、その場の仕事内容や看護師の価値観、これまでの臨床経験によって変わります。ここでは、それぞれの施設の役割や配置基準について解説します。
特別養護老人ホームと介護老人保健施設の役割の違い
特別養護老人ホームは、社会福祉法人や地方公共団体が運営する公的な介護施設です。
原則として要介護3以上の高齢者が入居の対象となり、終身にわたって生活の場として利用できます。そのため「終の棲家」としての役割があるのが特徴です。
介護老人保健施設(老健)とは、次のような違いがあります。
施設の種類 | 目的・役割 | 利用者さまの特徴 | 看護師の役割 |
特別養護老人ホーム | ・生活の場 ・看取りまで対応 | ・要介護3以上 ・おもに長期入居者 | ・健康管理 ・多職種連携 ・看取り |
介護老人保健施設 | ・在宅復帰を目指すリハビリテーション ・利用期間が限定的 | ・要介護1以上 ・おもに短期入所 | ・リハビリテーションとの連携 ・在宅復帰支援 ・医療ケア |
介護老人保健施設は、在宅復帰を目指してリハビリテーションを中心におこなう施設で、同時に医療行為も多いのが特徴です。
入院ベッドの回転率が高く、急性期病院からの入所者も多いため、医療的なスキルを維持しやすいメリットがあります。
特別養護老人ホームと介護老人保健施設の配置基準の違い
特別養護老人ホームにおける看護師の配置基準は、「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」で次のように義務付けられています。
利用者さまの人数 | 看護師の配置人数(常勤換算) |
29人以下 | 1人以上 |
30人~49人 | 2人以上 |
50人~129人 | 3人以上 |
130人以上 | 3人以上 |
参考:特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準|e-Gov 法令検索
利用者さまの人数が130人以上の場合、50人またはその端数を増すごとに1人を加えた数以上の看護師を配置しなければなりません。
一方、介護老人保健施設の看護師配置は「介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」で次のように定められています。
項目 | 配置基準 |
利用者さまに対する職員の割合 | 利用者3人に対し、看護職員または介護職員1人以上 |
看護職員の割合 | 配置人員のうち7分の2は看護職員 |
参考:介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準|e-GOV法令検索
このように、特別養護老人ホームは介護老人保健施設に比べて配置されている看護師の人数が少ない傾向です。
特別養護老人ホームの看護師の業務内容と1日の流れ
特別養護老人ホームの看護師の業務は、医療行為に限らず多岐にわたります。日勤のスケジュールの一例です。
時間 | 業務内容 |
8:30 | ・出勤 ・申し送り |
9:00 | ・健康チェック ・バイタルサイン測定 |
10:00 | ・医療的ケア ・服薬準備 |
12:00 | ・食事介助 ・昼休憩 |
13:00 | ・記録業務 ・カンファレンスへの参加 |
15:00 | ・健康相談 ・介護職員への指導 |
16:00 | ・夕食準備 ・翌日の準備 ・申し送り準備 |
17:00 | ・申し送り ・退勤 |
緊急時には上記に加えて、急変対応や病院受診への同行など、イレギュラーな業務が発生します。
マニュアルの有無・内容の充実度もスムーズな業務遂行には重要な要素となります。特別養護老人ホームへの転職を考える際はチェックすると良いでしょう。
特別養護老人ホームで働く看護師のきついこと
特別養護老人ホームの看護師は病院にはないやりがいがありますが「きつい」と感じる側面もあります。
- 医療行為が少ない分、スキル維持に不安を感じる場面も
- 少人数体制によるプレッシャー
- オンコール待機の緊張感が続くことも
- 介護職との連携における課題
転職後のミスマッチを避けるためにも、事前に理解しておきましょう。
医療行為が少ない分、スキル維持に不安を感じる場面も
特別養護老人ホームでは病院と比較して医療行為の頻度が少なく、種類も限られます。
そのため「医療スキルが落ちてしまうのではないか」「最新の医療知識から遠ざかってしまう」といった不安を感じる看護師も少なくありません。
少人数体制によるプレッシャー
特別養護老人ホームの看護師の配置基準は病院よりもゆるやかで、多くの場合、日勤帯の看護師は1人〜2人という少人数体制で運営されています。
そのため、一人ひとりの責任が大きく、急変時の判断は看護師にゆだねられる場面があります。
医療の専門職として、常に冷静で的確な判断が求められるため、プレッシャーを感じ「きつい」と感じる看護師もいるでしょう。
オンコール待機の緊張感が続くことも
オンコール体制がある特別養護老人ホームの場合、夜間や休日でも出勤する可能性があります。
緊急時の対応だけでなく、いつ呼び出されるかわからないという緊張感から、完全に気が休まらないと感じる看護師もいるでしょう。
介護職との連携における課題
特別養護老人ホームでは、看護師と介護職員が密に連携して利用者さまのケアをおこないます。
しかし、医療的な視点と介護的な視点の違いから、役割の線引きがあいまいになったり、意見の食い違いが生じたりすることもあり、精神的な負担となる恐れがあります。
特別養護老人ホームで働く看護師のやりがい
特別養護老人ホームの看護師には、病院では味わえない独自のやりがいがあります。
- 「看取りケア」で最期まで寄り添える
- 生活に密着したケアで利用者さまの暮らしを支えられる
- 多職種連携で利用者さまの生活の質を高められる
その魅力を詳しく見ていきましょう。
「看取りケア」で最期まで寄り添える
特別養護老人ホームは「終の棲家」としての役割が大きく、利用者さまの看取りケアに携わる機会が多くあります。
病院では医療処置が優先されるため、患者さまと最期までじっくりと寄り添う時間が限られがちです。
しかし、特別養護老人ホームでは、利用者さまが心穏やかに、その人らしく最期を迎えられるよう、きめ細やかにサポートできます。
ご家族も安心できることは、看護師としての喜びにつながるでしょう。
生活に密着したケアで利用者さまの暮らしを支えられる
利用者さまとの関係性が長期にわたるため、小さな変化に気づきやすく、より生活に密着した個別性の高いケアを提供できます。
レクリエーションやイベントに参加する利用者さまの笑顔を、間近で見られることもやりがいにつながります。
多職種連携で利用者さまの生活の質を高められる
特別養護老人ホームでは、次の職種が協力して利用者さまの生活を支えます。
- 介護職員
- リハビリテーションスタッフ
- ケアマネジャー
- 管理栄養士
多職種と力を合わせて利用者さま一人ひとりに合ったケアを提供し、質の高い生活を送れるようサポートできることは、特別養護老人ホームの看護師ならではの魅力です。

特別養護老人ホームの看護師の年収
特別養護老人ホームで働く看護師の年収は厚生労働省の「令和5年度介護事業経営概況調査」から、546万5,892円と推測できます。
また、同調査によると、介護老人保健施設の看護師の年収は563万4,876円と予想され、特別養護老人ホームよりやや高めの水準であるため、転職先を探す際には、これらの年収を基準にすると良いでしょう。
特別養護老人ホームの看護師に向いている人・向いていない人
特別養護老人ホームの看護師として働くうえで、どのような特性が活かせるのか、どのような人に向かないのかを解説します。転職を判断するヒントにしてください。
特別養護老人ホームの看護師に向いている人の特徴
特別養護老人ホームの看護師に向いている人には、次の特徴があげられます。
- 生活に寄り添ったケアをしたい
- 「看取りケア」に興味があり最後まで寄り添う看護をしたい
- ワークライフバランスを重視したい
- チームケアや多職種連携に魅力を感じている
- コミュニケーション能力が高い
利用者さまそれぞれの生活に深くかかわり、長期的な視点でサポートしていく看護がしたい方はやりがいを感じやすいでしょう。
特別養護老人ホームの看護師に向いていない人の特徴
特別養護老人ホームの看護師として働くことが、キャリアプランや希望の働き方と合わない場合もあります。
たとえば、次にあてはまる看護師は、慎重に検討することをおすすめします。
- 最新の医療技術や知識を学び続けたい
- 急性期のような変化のある環境で働きたい
- 医療処置のスキルの向上を重視する
病院でのスキルアップや変化の多い刺激的な現場での活躍を求める看護師にとっては、特別養護老人ホームの穏やかな環境は物足りなく感じるでしょう。
特別養護老人ホームの働き方が自分に合わず、ほかの職場を検討したい看護師は、訪問看護ステーションが適しているかもしれません。
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特別養護老人ホームの看護師の役割についてよくある質問
特別養護老人ホームの看護師の役割に関する質問にお答えします。転職を検討する際の参考にしてください。
Q1:ブランクがあっても特別養護老人ホームの看護師として働けますか?
ブランクがあっても特別養護老人ホームの看護師として働くことは可能です。
入職後も、先輩看護師からのOJTや施設内の研修を通じて、業務に慣れていくサポートがあります。
それでも心配な場合は、面接時にブランクがあることを伝え、サポート体制について具体的に話を聞くと良いでしょう。
Q2:夜勤なしの特養はありますか?
特別養護老人ホームの看護師は日勤のみの求人や、夜勤専従の看護師を配置している施設も少なくありません。
とくに、オンコール体制の有無は、夜間の業務負担に直結するため、求人情報で確かめておきたい重要なポイントです。
夜勤なしを希望する場合は、求人サイトを活用して、希望に合う求人を見つけるのが効率的です。
特別養護老人ホームの看護師の役割を知り新たなキャリアの選択肢にしましょう
特別養護老人ホームの看護師の役割は、利用者さまの健康管理から緊急時の対応、多職種連携、看取りケアまで多岐にわたります。
病院とは異なる環境で利用者さまの生活に寄り添い、質の高い暮らしを支えるという、独自のやりがいがあります。
ワークライフバランスを保ちながら、深くかかわる看護に魅力を感じるなら、特別養護老人ホームの看護師は新たなキャリアの選択肢となるでしょう。
<参考サイト・文献>
2024年 介護施設夜勤実態調査結果概要|日本医療労働組合連合会
特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準|e-Gov 法令検索

「NsPace Career ナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「NsPace Career」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。