検疫官の看護師とは?4つの仕事内容と必要なスキル、採用倍率を解説

「検疫官として働くにはどうしたらいい?」「検疫所で働く看護師はどんなことをしているの?」
空港や港で活躍する検疫官の看護師は、感染症から国の安全を守る役割を担っています。
しかし、実際に従事している看護師は少なく、興味があっても上記のような疑問を抱きがちです。
この記事では、検疫官の看護師の仕事内容や必要なスキル、採用の倍率、年収を解説します。感染症対策の最前線で働きたいと考えている看護師は、ぜひ参考にしてください。
検疫官とは空港や港の検疫所で働く看護師のこと
検疫官とは、空港や港の検疫所で働く看護師を指します。
- 検疫官の看護師の役割
- 検疫官の看護師の仕事内容4つ
- 検疫官の雇用形態
それぞれを見ていきましょう。
検疫官の看護師の役割
検疫官の看護師は、日本への感染症の侵入を水際で防ぐ「最初の防波堤」としての役割を担っています。
看護の知識や経験を活かし、入国者の健康状態を確認しながら、必要に応じて検査や隔離などの対応をおこないます。
検疫所では、感染症を防ぐために以下のような職種との連携が必要です。
- 検疫医療専門職(医師)
- 一般職(事務官)
- 食品衛生監視員
また、検疫所では行政や医療機関、検査機関、航空・海運会社など、さまざまな機関との連携も欠かせません。
感染症の発見から隔離、治療、搬送、情報共有に至るまで多岐にわたる対応が求められるため、一機関だけでは完結できないためです。
こうしたなかで看護師は、地域社会における人々の健康を守る中心的な存在として活躍します。
感染症が流行している時期には緊張感の高まる場面もありますが、その分、人々の健康を守るというやりがいを感じられる仕事といえるでしょう。
検疫官の看護師の仕事内容4つ
検疫官の看護師のおもな仕事内容は、以下の4つです。
おもな業務 | 詳しい内容 |
1.検疫業務 | ・日本に訪れる(帰国する)渡航者の健康状態の確認 ・検疫感染症の検査 ・検疫感染症の疑いがある方の隔離・停留 |
2.衛生業務 | ・感染症を広げるおそれにある動物の調査 ・海外から来航する船や航空機の衛生検査 ・船舶衛生管理証明書の交付 |
3.健康相談業務 | 渡航予定に応じた予防接種や感染対策などの相談 |
4.予防接種(黄熱)業務 | ・海外渡航を予定している方への黄熱の予防接種の実施 ・国際証明書(イエローカード)の発行 |
これらの通常業務にくわえて、感染症が広がった際には緊急対応もおこないます。
たとえば、新型コロナウイルス流行時には、空港での検温やPCR検査、感染者の搬送などを担いました。
検疫官の看護師は、予測が難しい事態にも冷静に対応する力が求められる、責任のある仕事のひとつです。
検疫官の雇用形態
検疫官の雇用形態は「常勤職員」と「特定任期付職員」の2種類に大別され、その違いは以下のとおりです。
項目 | 常勤職員 | 特定任期付職員 |
任期 | なし | 1年 |
異動・転勤 | 全国規模であり | ほとんどなし |
募集人員 | 10名程度 | 10名程度 |
どちらの形態であっても、看護師としての専門性や、公衆衛生・感染症への高い意識が求められる点に変わりありません。
「検疫の仕事にどれくらいの期間・深さでかかわりたいか」によって、自分に合った働き方を選びましょう。
看護師が検疫官になるには厚生労働省の採用試験への合格が必須
看護師の方が検疫官になるには、採用試験や面接選考の通過が必須です。
- 検疫官の採用試験の応募資格
- 検疫官の採用試験の合格倍率
- 検疫官の募集がかかる時期
ここでは、看護師の方が検疫官を目指すうえで知っておきたい試験の概要を押さえて、しっかりと準備を進めましょう。
検疫官の採用試験の応募資格
看護師の方が検疫官の募集に応募するためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 日本国籍である
- 看護師免許がある
- 応募時点で看護師として3年以上の医療機関での臨床経験がある(准看護師としての経験は含まない)
- 普通自動車免許を取得している
感染症対応を的確におこなうためには、「即戦力」としてのスキルや姿勢が重視される傾向です。
検疫官の採用試験の合格倍率
検疫官の看護師は、採用枠が限られているため倍率が高くなる場合があり、一部では数十倍になるともいわれています。
感染症や検疫業務に関する知識にくわえ、語学力といったプラスアルファのスキルを身につけておくと採用確率が上がるかもしれません。
検疫官の募集がかかる時期
常勤職員の検疫官の場合は募集時期が決まっておらず、検疫所の採用枠が空いていれば随時受けつけています。
一方、特定任期付職員の場合は年3回のタイミングで採用日が決まっており、採用日の3ヶ月前までに応募書類を提出できれば、応募完了です。
スケジュール帳やスマートフォンのリマインド機能などを活用して、応募タイミングを逃さないようにしましょう。
検疫官で働く看護師の年収
検疫官として働く看護師の年収は、国家公務員としての給与体系にもとづいて支給され、400万円〜600万円ほどといわれています。
検疫官の募集要項によると「俸給額(月額)」といういわゆる基本給は、最低で26万500円です。そのほかに支給されるおもな手当は、次のとおりです。
- 扶養手当
- 住居手当
- 通勤手当
- 地域手当
- 期末手当・勤勉手当(賞与)
これらの手当を含めることで、実際の年収は400万円〜600万円前後に達するケースが多いと考えられます。
勤務先の地域やこれまでの経験年数によって給料に差が出るため、自身のキャリアに応じた収入を見込めるのが特徴です。
検疫官の看護師に求められるスキルと知識
検疫官の看護師には、以下のようなスキルや知識を求められる傾向があります。
- 語学力
- 感染症・感染予防の専門知識
- 時事問題への関心
詳しく見ていきましょう。
語学力
検疫官の看護師の多くは国際空港や港で勤務するため、外国人への対応が日常的に必要となります。
英語で問診や説明がスムーズにできる語学力があると、現場でのコミュニケーションがスムーズになるでしょう。
ただし、完ぺきに話せるほどの英語力が求められるわけではありません。
実際に、英語はスムーズに話せなくても、様々な手段を活用してコミュニケーションを図りながら働いている方もいるようです。
基本的な医療英語や日常会話レベルの表現を習得しておき、現場で働きながらよく使う用語や専門用語を覚えていくことも方法のひとつです。
感染症・感染予防の専門知識
検疫業務の根幹は、感染症対策です。
感染経路や症状、対応マニュアルなどの基本知識はもちろん、今後発生するかもしれない新たな感染症や国際的な対策にも柔軟に対応できる力が求められます。
現場では迅速な判断が必要になる場面も多いため、日ごろから感染防止にまつわる知識をアップデートしておくことが大切です。
時事問題への関心
感染症の流行や公衆衛生に関する世界のニュースに関心を持つことは、検疫官の看護師として欠かせないことのひとつです。
というのも、検疫業務では海外での感染症発生にいち早く対応する必要があり、各国の最新情報を把握しているかどうかが、初動の正確さや判断力につながるためです。
新たな感染症が発生した際、初動対応の遅れが国内での感染拡大につながるリスクがあるため、日ごろから正確な情報を迅速にキャッチできる姿勢が求められます。
検疫官として働く前から始められる習慣として、最新の報道をこまめにチェックしましょう。
検疫官として働く看護師はきつい?デメリットを解説
検疫官の看護師がきついといわれる背景には、次のデメリットが考えられます。
- 転勤の可能性がある
- 勤務時間が不規則になる
- 自身が感染症にかかるリスクがある
実際に働くうえでの注意点を把握しておきましょう。
転勤の可能性がある
検疫官の看護師は、全国各地の空港や港湾に配属される可能性があり、数年ごとに転勤があることも珍しくありません。
常勤職員として採用された場合は、厚生労働省からも「全国規模での転勤がある」ことが明らかにされています。たとえば、成田空港や関西空港などの検疫所が勤務地になります。
勤務地が変わるたびに、引っ越しや家族の転校・転職といった生活面の調整が必要になるため、人によっては負担に感じることもあるでしょう。
勤務時間が不規則になる
検疫所によっては24時間体制で稼働しているため、早朝や深夜におよぶシフト勤務があることも少なくありません。
たとえば、国際線がある空港の場合、フライトスケジュールに合わせて勤務時間が組まれるため、スケジュールが不規則になりがちです。
生活リズムが崩れやすく、体力的な負担を感じる働き方になることがあり「きつい」ととらえる看護師もいます。
自身が感染症にかかるリスクがある
検疫官の看護師は感染症の最前線に立つため、感染リスクにさらされる可能性もあります。
防護服やマスクなどの感染対策は徹底されていますが、常に注意深く行動しなければならない仕事です。
検疫官で働く看護師のメリット
検疫官として働く看護師には、転勤や不規則な勤務などの負担もある一方、得られるやりがいやキャリア的な魅力もある職種です。
- スキルアップ・キャリアの拡大につながる
- 安定した勤務環境と充実した福利厚生が整っている
ここでは、検疫官の看護師ならではのメリットについて具体的に解説します。
やりがいを感じやすい
感染症の防止活動という国の安全を守る仕事にかかわることで、社会に貢献していると感じながら働けることがメリットです。
自分の働きが多くの人々の生活を守ることにつながるため、日々の業務にやりがいを得られます。
スキルアップ・キャリアの拡大につながる
国際的な感染症対策に携わることで看護職としての視野が広がり、将来的なキャリアパスの選択肢も増えます。
たとえば、厚生労働省や大使館などに出向き、政策に携わったり国際的な視点を養ったりできます。
また、感染管理認定看護師といった専門資格を目指すうえでも検疫業務の経験が役立つため、専門性を高めたい看護師にとっては魅力的な仕事です。
安定した勤務環境と充実した福利厚生が整っている
国家公務員としての安定した雇用が得られ、健康保険・年金・育休など福利厚生も充実した環境で働けます。
平日に休みがとれたり、夜勤明けの仮眠後に昼ごろから活動できたりと、シフト勤務ならではの自由な時間が確保できる点もメリットです。
検疫官の看護師に向いている人の特徴
検疫官として働く看護師には、専門的な知識だけでなく、以下のような素質も欠かせません。
- コミュニケーションが得意
- 感染症・感染予防への高い関心
- 臨機応変に迅速な対応が可能
ひとつずつ解説します。
コミュニケーションが得意
検疫官の看護師は、入国者の体調や渡航歴などを正確に聞きとるために、相手に安心感を与えるようなコミュニケーション力が不可欠です。
「感染症にかかったのではないか」という不安や緊張を感じている旅行者や体調不良を訴える方に対しても、冷静で丁寧な対応が求められます。
また、通訳を介さずに日本語以外で意思疎通をとる場面もあるため、言葉の壁を乗り越える工夫も重要といえるでしょう。
感染症・感染予防への高い関心
検疫官の仕事は感染症の水際対策を担うことであり、以下の知識が不可欠です。
- マスクや防護服の正しい使用
- 標準予防策への理解
- 最新の感染症情報
これらを自らアップデートし続ける姿勢があったり、感染管理の分野を深めたいという意欲があったりする看護師に向いています。
臨機応変に迅速な対応が可能
空港や港では、急な発熱者への対応や、体調不良の入国者が同時に発生するなど、想定外の事態が起こることも珍しくありません。
こうした状況では、限られた時間と人員のなかで優先的に対応すべきことや役割分担などの判断が求められます。
たとえば、英語が話せない外国人への対応で通訳がすぐに見つからない場合、自身の語学力やジェスチャー、翻訳ツール、紙への記述などを使って状況を把握する工夫も必要です。
このように、その場の状況に応じて柔軟に行動できる看護師は、現場で高く評価されるでしょう。
検疫官の看護師についてよくある質問
検疫官の看護師に興味をもった方が、疑問を抱きやすいポイントにお答えします。不安や迷いを解消する手がかりとして、ぜひ参考にしてください。
Q1:検疫官の看護師に年齢制限はありますか?
検疫官として採用される看護師に、明確な年齢制限は設けられていません。
ただし、業務には夜勤や不規則なシフトが含まれることもあり、体力や健康状態が重要視される傾向があります。
年齢よりも「職務に支障なく従事できるかどうか」がポイントになるため、募集要項を確認しておくと安心です。
Q2:検疫官の看護師は英語が話せないとなれませんか?
検疫官の看護師になるのに英語力は必須ではありませんが、簡単な会話ができると仕事に役立つでしょう。
空港や港などでは海外からの入国者と接する場面があるため、基礎的な英会話スキルがあれば業務がスムーズに進みます。
面接時の評価にもつながることがあるため、語学力を磨いておくと選考や配属後の実務でも有利になります。
Q3:空港の検疫所では看護師バイトを募集していますか?
空港の検疫所では、いわゆる一般的な「アルバイト」としての短期・単発バイトの求人はほとんどありません。
仮に短い期間で働きたい場合は、特定任期付職員が向いているかもしれません。
任期が1年と短く、転勤もほとんどないため、選択肢のひとつとして検討してみてはいかがでしょうか。
検疫官の看護師という働き方を選択肢に入れてキャリアを築きましょう
検疫官として働く看護師は、感染症対策にかかわりながら自身の専門性を活かせる、やりがいのある仕事です。
公衆衛生の現場で活躍できるため、医療の現場とは違った形で社会に貢献できる点も魅力です。
看護師としての新しいキャリアとして、検疫官をぜひ検討してみてください。
<参考サイト・文献>

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