目の前の人を幸せにする~相手を尊重する姿勢を大切に~プレナースステーション 長谷川さんにインタビュー

元は看護師以外の職種を目指していた長谷川さん。今では訪問看護ステーションの管理者として利用者さまだけでなくスタッフを大切にする仕組みづくりに奮闘されています。長谷川さんが看護師になった経緯や訪問看護ステーションに対する想い、今後の展望について伺いました。
患者さんの「生活」を支えること 在宅へ興味をもったきっかけ
私は元々、医師免許を持った弁護士になってお金持ちになりたかったのですが叶わなくて…。定職につかず過ごしていた24歳頃、友人たちが結婚して家を建てたり、大学院に行くか就職するかを考える時期に、1人取り残された状況になりました。
それがきっかけで自分の今後が不安になり「とりあえず家から近い大学の看護部に入り、楽しもう」と思ったんです。それが看護師への入り口でしたが、大学で看護学を学ぶなかでナイチンゲール著書の本を読み、すごく感動して。「看護を学ぶために自分は生まれていたんだ」と思ったほどでした。
大学卒業後の28歳で看護師免許を取得後は、大学病院に就職しました。消化器内科病棟で2年、神経内科病棟で2年ほど経験を積んだあと、救命病棟や泌尿器科外来に異動になりました。
大学病院勤務の頃から、在宅に関わりたいという思いはずっとありました。そのきっかけには、大学在学中に受けた「株式会社ケアーズ」代表の秋山正子先生の講演があります。大学病院に勤めていたころ、秋山先生が運営されている「暮らしの保健室」でボランティアをさせてもらっていました。そのときに出会った介護事業所の方が訪問看護ステーションの立ち上げを考えていたようで「管理者をしないか」と誘われたんです。
看護師として5年経った頃のことでした。当時は訪問看護についての知識はほとんどなかったのですが、先方から「会社ですべてバックアップするから」と言ってもらえたので引き受けることにしました。当時私は32歳で、訪問看護師になると同時に管理者になったんです。
現在は看護師として13年目に入り、看護人生の半分以上を訪問看護に携わっています。しかし、大学病院の神経内科病棟で勤務していたときから、今思うと病棟でも在宅のような看護を考えながらやっていたなと思います。
病院では病気を治すことが主になるので、生活は傍に追いやられがちです。そのなかでも患者さんの日常、たとえば「寝る前に顔に乳液を塗る」とか「夜になったらカーテンを閉める」とか…そのような患者さんの「あたりまえの生活を支える」ことが、病気が治っていくことに繋がっており、それこそが看護だと病院で教わった経験が今でも記憶に残っていますし、自分自身でも好きなんですよね。
管理者として、経営者として。大切にしているのは目の前の人の幸せ
私には「みんなの考えを支えたい」という想いがあります。自分自身の考えや価値観は一旦置いておいて、相手の想いや考えを引き出して、相手自身に気づいてもらえるようにしたいです。
この想いは病院で働いていたときから変わりません。ただ、病院にいるときは組織のなかの一員でしたし、新人から入職して5年目だったので、まだまだ「できること」に気づけず、「できないこと」ばかりに気を取られて。たんですよね。その状況から在宅現場にきて「看護師としてできること」がたくさんあることに気づけるようになりました。
経営者という立場は、スタッフを支えやすい位置にいられると考えています。利用者さんとそのご家族はもちろん、スタッフも含め、私の目の前にいる人全員が大切ですし、私の目の前にいる人全員のQOLを向上していきたいです。
目の前の人を幸せにしていれば、その人たちがまた周りの人を幸せにしてくれると考えています。この考えは、大学で出会った教授や教員に恵まれたこともありますね。学問のには「実践する人」「研究する人」「教える人」という3つの場所があり、それぞれ対象はちがいますが役割があると考えています。看護もそれにあたります。
私は看護学を「実践する人」になったので、目の前の人を看護の力で幸せにしていきたいと思っています。私にとって看護を、労働者としての時間制限のない経営者の立場という環境がとてもありがたいです。

目の前の人を幸せにするために。相手を尊重する姿勢での関わり
私は物心ついた頃から、喜怒哀楽の「怒」が抜けているとよく言われていて、あまり怒りが湧いてきたことがありません。それはなぜかと考えてみると、相手の人権を尊重することを大切にしたいからだと思っていて。看護の対象から出た言葉を、そのまま捉えます。「それ、本音じゃないでしょう?」「認知症だから、嘘つきだから事実と違う。」と他の人が言いそうなことであっても、私はそのように考えないです。
相手が言うことなら、それを一緒に実現していきたいと考えますし、もし、口をついて出てしまった言葉だとすれば、一緒にふり返って今後のことを考えたらいいと思っています。
相手を尊重しながら関わっていくうえで大切にしているのは、やはりコミュニケーションですね。看護師には、仕事をするうえで看護展開という考え方がありますが、それを応用して、スタッフとの関わりもひとつの看護と考えています。
たとえば、スタッフが〇〇をしたいと言ったとき「私は●●だと思うから、▲▲はサポートできるけど、結果的に■■になったらどう思う?」というように、私の考えやフォローできること、今後起こりえることを伝えます。それで「よくわからない」と返ってきたらそれまでだし、絶対にやりたいということならサポートするのでやってほしいと思います。
スタッフの考えや想いを尊重してやりたいことを取り入れていくことで、仕事へのやりがいや達成感がついてくればうれしいですね。
24時間365日の対応を提供するために
以前管理者を務めていたステーションでは、オンコール対応もしていましたが、会社の方針でオンコール対応は中止だと言われたんですよ。オンコールは、体調を崩したときや状態が急変したとき、すぐに相談できるので、自宅で過ごす利用者さんにとって欠かせないものです。現在はオンコール代行というシステムもあるくらいです。
オンコール対応が理由で看護師が集まらずに訪問看護ステーションが閉鎖してしまうのは残念なことです。当ステーションにはオンコールしたい・できるスタッフが多いので、今後はほかの訪問看護ステーションと連携して、オンコールだけ当ステーションのスタッフで代行できるシステムができたらいいなと思っています。
そうすれば利用者さんが困ることも減らせますし、オンコール対応に困っている訪問看護ステーションを助けていけるような取り組みができたらいいですね。
今後のビジョン 目の前の人の困りごとを解決したい
今は目の前のことをこなすので精一杯ですが、将来的に新宿区の訪問看護ステーションがひとつになればいいなと思っています。精神看護や小児看護に特化した訪問看護ステーションも含めて、新宿区には今70カ所の事業所があるんです。
高齢者の方も多く、医療保険適応の方や要介護状態の方が地域にたくさんいます。また、訪問看護師もたくさんいるので、その人たちの力をもっとうまく使いたいと思うんですよね。なので、今後の目標として看護師のスタッフを増やしてステーションを大きくしていくことを掲げています。
当ステーションは土日もシフト制で1日に6時間半ほどで回っています。もちろんスタッフのなかには土日出勤が難しい方もいますが、スタッフが増えれば、シフトが柔軟になり、それだけ困っている利用者の受け皿が充実しますよね。
看護師は生活の質の維持向上する専門職として、病院も在宅だけに限らず、あらゆる看護場面の知識や経験があった方がいいと思っています。最終的に在宅で働きたいという人は、一度は病院や企業、保健所などの仕事を知っておいた方が、必ず活きると思います。私自身も、現在、訪問診療のドライバーをしているんです。
訪問診療の医師から相談を受けて手伝うことにしたんですが、私の経験にもなるし、普段から関わらせてもらっている先生なので。自分のできる範囲でお手伝いをしています。
「自分がこうしたい」という考えでやっているというよりか、目の前の方々の困りごとにどう対応していくかを考えています。そのぶん、当ステーションのことはみんなに任せ気味になっていますが…頼もしいスタッフばかりで心強いです。

一緒に働くスタッフには意思表示や自ら行動することを大切にしてほしい
当ステーションの現状では、看護師は私を含めて9名、年齢層は30代後半のスタッフが多いです。給与体系にはインセンティブ制を導入しており、他のステーションよりも1.5倍ほどの件数を訪問していると思います。そのぶん忙しく、スタッフは事業所に戻ってこれないこともありますが、休憩時間を確保したうえであれば事業所に戻る時間がなくても、お給料につながるならその方がいいという考えのスタッフが多いですね。
現在の求人は、看護経験のある方を募集しています。それは、大学病院のように看護を教える時間と余力がなく、看護展開の考え方のフォローをゼロから支援するのが難しいのが現状だからです。
ある程度の経験がある場合は基本的な看護技術が身についているので、そのうえで看護展開の考え方を吸収してもらえますが、新卒の方だと考え方と技術を同時に学んでもらわないといけません。そのためには時間と労力が必要ですし、その方にも申し訳ないと考えています。
求職者の方とは、実際にスタッフと訪問に同行してもらって、その方の性格や姿勢をみさせてもらったりお話させてもらったりしてお互いを知るようにしています。そのなかでも、自分のやりたいことを言語化して表現できる人はフォローしやすいです。
たとえば「お金を稼ぎたい、そのために看護師をやっています」という方も、それはそれで意思表示してくれたら私にできることは伝えるし、そのぶんやってもらう看護の基準は伝えます。相手がどういうスタンスであっても、必要なことはきちんと伝えることを心がけています。
ステーション全体でひとりの利用者さんをサポート
当ステーションは、正社員とパートを合わせて20人弱の事業所です。その日の訪問ルートを固定し、それに合わせて出勤者のシフトを組みます。出勤したときにどのルートを回るのかはステーションが決めるので、利用者さんの受け持ちは担当制ではありません。
担当を決めて、ひとりのスタッフで利用者さんをみていくことは、利用者さんにもスタッフにもどちらにも負担だと思っていて、事業所全員でひとりの利用者さんをみていける体制を整えています。
ただ、利用者さんの中には「毎回来る人がちがうと困る」と言う方もいます。たとえば、それぞれのスタッフが持っている情報に差があったり「あの人に言えばわかるのに」ということがあったり…。
そういうケースでは、やはり利用者さんともスタッフともコミュニケーションをしっかりとること、情報を記録で残したり読み込んだりすることが大切ですね。できるだけトラブルがないように、契約のときに担当制ではないことは伝えています。もし利用者さんからクレームがあれば、きちんとお話を聞いたうえで、私たちに非がある部分はもちろん謝罪しますが、できる対応にも限界はあることはお伝えしますね。
担当制でも、そうでなくても、常にメリット・デメリットはあると思うんです。スタッフが困らないようにステーションとしての軸はぶらさないように意識しています。
インタビュアーより
利用者さまだけでなく、スタッフも含めご自身の「目の前の人を幸せにしたい」という熱い思いをお持ちの長谷川様。スタッフの皆様とのフラットな関係性を心がけておられます。訪問件数が豊富なため、訪問看護の経験を積みたい方にぴったりのステーション様です!
事業所概要
プレナースステーション(東京都新宿区)
住所:東京都新宿区西早稲田1丁目14-14
運営方針・理念:
私たちのスローガンは「皆の笑顔(ありがとう)をつくる、専門職(ひとり)の言動(ありがとう)」です。この言葉を胸に、各部門が一丸となり、共に目標を達成するために努力してまいります。

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