高齢者看護で大切なこととは?3つのポイントとケアの心構え
高齢化が進む日本では、看護師の方が高齢者に向き合う機会が増えています。
しかし「高齢者の多様なニーズにどのように対応すればいいのかわからない」と悩む声も多く聞かれます。
この記事では、高齢者看護で本当に大切な3つのことについて解説します。後半では、現場で実践できる看護計画の内容も具体的に紹介しています。時間が限られた多忙な看護師の方でも、高齢者看護を学べる内容です。
高齢者との関わりに悩んでいたり、高齢者看護に自信をつけたかったりする看護師の方は、ぜひ最後までご覧ください。
高齢者看護で本当に大切なこと3つのこと
高齢者看護で重要なポイントは、次の3つです。
- 高齢者の強みを引き出し、QOLを維持する
- 高齢者の心に寄り添い、価値観や人生背景を考慮する
- 多職種連携と家族支援の重要性を理解する
それぞれ解説します。
高齢者の強みを引き出し、QOLを維持する
高齢者看護において大切なことは、高齢者の強みを引き出し、QOL(生活の質)の維持をサポートすることです。
高齢者が、自分らしく充実した生活を送るためには、アセスメントをもとに強みや残存機能を活用できるようなアプローチをすることが大切です。
高齢者が困っている様子を見ると、看護師としてつい手を差し伸べたくなるでしょう。
しかし、高齢者のできる部分を尊重し、前向きに取り組む機会を提供し続けることが、自立を促すポイントとなります。
また、高齢者が自信を取り戻すには、成功体験の積み重ねが重要です。たとえば、短い距離を歩く、入浴動作のなかで洗髪は高齢者がおこなうなど取り組みやすい課題から始めてみましょう。
さらに、看護師が「おひとりでできましたね」「明日も続けてみましょうね」などと、頑張りを労う言葉をかけることが、高齢者のモチベーションをさらに向上させます。
高齢者の心に寄り添い、価値観や人生背景を考慮する
高齢者の多くは、老いや疾患への不安など、さまざまな不安を抱えながらも、これまでに積み重ねてきた経験や価値観があります。質の高い看護ケアの提供のためには、やり場のない不安や孤独感を和らげ、高齢者のこれまでの歩みを理解し、尊重することが重要です。
共感と傾聴の姿勢を忘れず、人生歴や趣味の質問を取り入れてみましょう。「どんなお仕事をされていましたか?」「昔はどのようなことをして過ごされていたのですか?」などの質問は、高齢者の価値観や生き方を理解するうえで大切です。
また、高齢者の気持ちに寄り添い、「大変でしたね」などのように受け入れる言葉をかけ、気持ちを表出できる場を作ることで、信頼関係を築くきっかけになっていくでしょう。
こうして高齢者の心に寄り添いながら、価値観や人生背景の情報が得られたら、看護計画や日々のかかわりに反映させて高齢者一人ひとりに合ったケアにすることが大切です。
多職種連携と家族支援の重要性を理解する
高齢者のケアにはさまざまアプローチが必要であり、医療や看護、介護など専門職の連携が欠かせません。また、ご家族の負担を軽減し適切な情報を提供することも、高齢者看護において重要なポイントのひとつです。
多職種カンファレンスの場があれば積極的に参加し、対象の高齢者とご家族を中心とした連携を意識して、看護の視点における情報共有をしましょう。ご家族の支援では、わかりやすい指導や安心できる場を設けることも、高齢者看護におけるポイントです。
高齢者看護における看護師の役割
高齢者看護における看護師のおもな役割は、下記の3つです。
- より良い生活を支援する役割
- 高齢者の自立を支援する役割
- 多職種連携における橋渡し役
ひとつずつ解説します。
より良い生活を支援する役割
より良い生活を送れるようサポートすることは、看護師の基本的な役割です。
たとえば、入院中でも好きなテレビ番組やラジオを流してストレスが緩和できる時間や、足浴でリラックスできるようにケアしたり、ケアのスケジュールを柔軟に調整しご家族との面会時間を長く確保したりします。
高齢者が自分らしく充実した時間を過ごせるための援助が求められます。
高齢者の自立を支援する役割
高齢者が持つ力を引き出して自立を支援することも、看護師の重要な役割のひとつです。
心身の能力を正しくアセスメントし、高齢者の得意なことや残存機能を存分に活かせるようアプローチし、できることを活かしたケアを提供しましょう。
たとえば、排泄の場面では、すべてを介助するのではなく、高齢者では困難な動作のみを補助します。「トイレまでの歩行では介助が必要だが、排泄の動作は自分でできる」「手すりを持てば衣服の着脱ができる」というように、高齢者の自立を促すことが、看護師の方に求められる役割です。
多職種連携における橋渡し役
多職種連携の場において、日々の観察をもとに高齢者の状態やニーズを正しく伝え、ケアの方向性を共有することが重要です。
また、ご家族との連携や調整も看護師の大切な役割です。さらに、在宅での生活に向けて、地域の介護サービスを利用するときにもケアマネジャーや訪問看護のスタッフと連携することで、継続看護を可能にしていきます。
高齢者の看護ケアのポイントとよくみられる症状
高齢者看護では、特有の身体的・精神的変化を踏まえたきめ細かなケアが求められます。ここでは、高齢者によくみられる症状ごとのケアについて、看護計画の一例を紹介します。
転倒・転落
高齢者は、筋力、感覚機能、認知機能の低下などによって、転倒や転落のリスクが高まります。環境整備の徹底と細かい観察が重要です。ケアの一例をご紹介します。
看護問題 | 転倒・転落のリスクがある |
看護目標 | 転倒・転落が生じない |
OP(観察) | 歩行安定性、ADL、生活環境、認知機能の状態、使用中の薬物 |
TP(ケア) | 自立度に応じた移動介助を実施、自助具の活用、転落予防マットの使用 |
EP(教育) | 移動時はナースコールを押すよう指導、環境整備の重要性を指導 |
摂食嚥下障害
摂食嚥下障害は、加齢による口腔機能・咀嚼機能の低下や脳卒中による麻痺などが原因で生じます。誤嚥性肺炎や低栄養のリスクがあるため、注意が必要です。
看護問題 | 摂食嚥下障害による、誤嚥性肺炎や低栄養のリスクがある |
看護目標 | 誤嚥性肺炎を起こさない、低栄養状態にならない |
OP | 食事中のむせの頻度、体重の変化、嚥下機能、発熱、呼吸状態 |
TP | とろみ剤の活用、食事形態の工夫、食事中の見守り、嚥下訓練 |
EP | ゆっくりと食べることや嚥下訓練の必要性について指導 |
排泄機能障害
高齢者の排泄障害は、骨盤底筋の衰えや尿意・便意の感知能力の低下、薬剤の副作用、移動能力の低下などによって生じます。デリケートな問題であり、高齢者の気持ちに寄り添ったケアが求められます。
看護問題 | 排泄セルフケア不足 |
看護目標 | 適切に排泄をおこなえ、尿失禁、便失禁がみられない |
OP | 排尿・排便パターン、水分・食事摂取量、ADL、麻痺の有無 |
TP | 定期的にトイレへ誘導する、自立度に応じた排泄場所の決定 |
EP | 尿意がなくてもトイレへ行くことの重要性について指導 |
認知機能障害
認知症は、神経細胞の破壊や脳の萎縮などによって生じるとされ、記憶力の低下や見当識障害に悩んでいる高齢者は少なくありません。ケアでは、安全の確保がポイントです。
看護問題 | 認知症による見当識障害がある |
看護目標 | 入院生活に適応できる |
OP | 認知機能、日中の活動量、生活リズム、言動、CTなどの画像データ |
TP | カレンダーや時計の活用、活動の促進、傾聴、共感 |
EP | 不安や混乱時の対応、安全確保の重要性について指導 |
麻痺・拘縮
四肢の運動機能低下や関節の柔軟性の低下、脳卒中などによる麻痺や関節拘縮は、QOLの低下に直結する問題です。残存機能を活かすアプローチが求められます。
看護問題 | 麻痺や拘縮に関連したセルフケア不足 |
看護目標 | 自立した生活を送れる |
OP | 関節拘縮、関節可動域、麻痺の種類と程度、身体機能の変化に対する認識 |
TP | 自助具の使用、定期的な体位変換、ADLに応じた介助、機能訓練 |
EP | 機能訓練や自助具の活用の重要性について指導 |
睡眠障害
睡眠障害も、多くの高齢者が直面する問題のひとつです。原因は多岐にわたりますが、環境の変化や加齢に伴う睡眠周期の乱れ、薬物の影響などが関係していることが少なくありません。生活リズムの調整と、就寝環境の改善が必要です。
看護問題 | 不眠・中途覚醒・早朝覚醒がある |
看護目標 | 不眠・中途覚醒・早朝覚醒がみられず「熟睡できた」と感じる |
OP | 睡眠パターン、日中の活動量、生活リズム、就寝前の過ごし方 |
TP | 日中の活動促進、医師の指示に基づいた睡眠剤の投与 |
EP | 就寝前にカフェイン摂取や水分摂取、スマホ操作を控えるよう指導 |
視覚・聴覚障害
視覚や聴覚は加齢によって低下しやすく、白内障や緑内障などの疾患の存在によってもその症状は増強していきます。QOLに直結する問題であり、ケアの際は十分な配慮が求められます。
看護問題 | 感覚機能低下によるコミュニケーション障害 |
看護目標 | 安心して入院生活を送れる |
OP | 視力、聴力、眼鏡や補聴器の使用状況と適切性 |
TP | 補助具の指導、環境整備、タッチングや筆談、近くからの語りかけ |
EP | 補助具の正しい使い方を指導 |
高齢者看護に対するよくある質問
最後に、高齢者看護に対してよくある質問とその回答を2つご紹介します。
Q1:認知症の高齢者が暴言を吐き、興奮する場合はどのように対応すればよいですか?
認知症で生じる認知機能障害の影響で、暴言や興奮などの行動・心理の症状を引き起こします。また、不安やストレスが関与しているケースが多いです。
まずは冷静に原因を観察し、看護師と高齢者、両者の安全性の確保を優先します。
「つらいですよね」「怖いですね」などの共感の言葉を使い、高齢者の気持ちに寄り添うのがケアのポイントです。静かな環境の提供も、気持ちを落ち着かせるために効果的です。
看護師の言葉を受け入れられない状態であっても、そばにいるだけで安心感を与えられるでしょう。
Q2:高齢者の観察ポイントはなんですか?
高齢者の観察ポイントは、全身状態を幅広く観察することです。高齢者は症状の自覚や伝達が難しく、症状が悪化しているときも発見が遅れがちです。
バイタルサイン、ADL、言動や表情、皮膚状態などを、日々のケアのなかで観察する習慣をつけ、異常の早期発見に努めましょう。
些細な変化に、重大な問題が隠れている可能性があります。こまめな観察やケアはコミュニケーションの機会にもつながり、信頼関係の構築にもつながります。
高齢者看護で大切なことを踏まえてケアしよう
高齢者看護では、身体的な健康だけでなく、精神面・社会的健康も含めた視点と、柔軟な対応が求められます。
今回ご紹介したことを日々のケアに取り入れられれば、高齢者のQOLを向上させる一助となります。
小さな気づきや工夫が、高齢者にとっての安心感や満足感につながることを意識し、多職種やご家族と連携しながら、一人ひとりに寄り添ったケアを提供しましょう。
(参考サイト・文献)
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