訪問看護師に必要なスキルや素質とは?関係者コミュニケーションについても解説
「訪問看護師になりたいけど、どんなスキルや素質が必要?」と疑問に思っている人はいらっしゃいませんか。
団塊世代が後期高齢者となる2025年に向け、国は地域包括ケアシステム構築の実現を目指しています。地域包括ケアシステムの中で、訪問看護師は不可欠な存在であり、需要が高まっています。
が、訪問看護師に興味を持っているものの、必要なスキルや素質が分からず、訪問看護師になることをためらっている人もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、訪問看護師を目指したいと考えている人に向け、訪問看護師に必要なスキルや素質について詳しく紹介します。
訪問看護師に必要な主なスキル
訪問看護師に必要なスキルはさまざまですが看護技術の基本を身につけておけば、通常は問題ありません。
ただし、看護師の網羅する領域は広く、訪問看護は小児から高齢者まで幅広い患者さまを看ることが求められます。
ここでは、訪問看護師に必要とされる主なスキルについて紹介します。
浣腸・摘便
浣腸や摘便などの排泄介助は、訪問看護で頻繁に行われるケアの一つです。利用者さまは何らかの理由で排泄機能が低下している方が主な対象です。ご自身で十分に排便を行うことが難しい場合に訪問看護師がサポートします。
訪問看護師による排便ケアの目的は、便秘の予防はもちろんのこと、利用者さまができるだけ安楽に排便できるように、食事や水分摂取の状況を把握し、適切なアドバイスを行うことも重要な役割です。
また、排便コントロールが必要な利用者さまのほとんどが、薬物療法も併用して便秘への治療がされているため、ご本人や家族と協力して服薬管理も行います。
ストーマ(消化管ストーマや尿路ストーマ)のケア
利用者さまとご家族に対して、ストーマケアの方法や清潔操作の重要性を教育することは訪問看護師の役割です。利用者さまがストーマケアを行えるよう支援し、安心して生活を送れるようにサポートします。
ストーマケアでは、ストーマの周囲の皮膚を清潔に保つことや、ストーマ装具の交換、ストーマの形状や色の変化の観察などが必要です。外出時など、訪問看護師がいない時間でも利用者さまやご家族がストーマを取り扱うことができるように指導します。また、オストメイトは精神的なストレスを抱えることが多いため、訪問看護師は利用者さまの心理的支援も行います。
膀胱留置カテーテルの交換や導尿
ご自宅で暮らしていらっしゃる利用者さまも、膀胱留置カテーテルや導尿を行う方は少なくありません。特に、膀胱留置カテーテルは定期的な交換が必要となるため、訪問看護師の介入が不可欠です。基本的には、医師が処方し指示を行い、訪問看護師がご自宅に用意されている物品を用いて、新たに挿入するか交換をします。
また、訪問看護師は利用者さまとご家族に膀胱留置カテーテルの尿破棄方法や注意点を指導することも求められます。膀胱留置カテーテルの挿入中は尿路感染症を起こしやすいため、陰部を清潔に保つ方法について指導します。
清潔ケア(清拭や入浴介助)
訪問看護師は、利用者さまの身体の清潔を保つために、清拭や入浴介助を行います。清拭の場合は、バケツや洗面器をお借りしたり、簡易的に濡らしたタオルを電子レンジで温めてホットタオルにして対応したりします。入浴介助の方法は、病院や施設と異なり、住環境に左右されることが多いです。もちろん利用者さまの自立度によっても、さまざまです。利用者さまの安全や快適さを確認しながら、入浴介助を行います。
入浴介助ではとくに、環境を整えることが重要となります。滑り止めマットや手すり、バスボードなどの福祉用具の準備や、脱衣所にヒーターを準備するなどの工夫や提案を多職種(ケアマネージャーや福祉用具専門相談員)と連携しながら行います。
フットケア
糖尿病や循環器系の問題を抱える利用者さまでは、足の血流が悪くなり、様々な病変を呈することがあります。
足の皮膚や爪の状態、乾燥、炎症、潰瘍の兆候を確認し、早期予防と治療につなげるためにもフットケアはとても大切です。足の血行状態や感覚の変化なども観察し、異常があれば医師に報告します。特に末梢でもある足は、感染や合併症のリスクが高いため、迅速かつ適切な対応が必要です。
訪問看護師が訪問し、足浴や爪切りを行うことは多くあり、肥厚爪や陥入爪などもよく目にします。
さらに、訪問看護師は、利用者さまやご家族に対して、フットケアの重要性やセルフケアの方法を指導します。適切な靴の選び方や足の保湿、爪の切り方などです。日常のフットケアについてアドバイスすることで、利用者さまの足の健康を維持し、合併症を予防できます。
褥瘡や創傷の処置
病院と異なり、個人のご自宅であることから環境要因が大きく、残念ながら褥瘡が発生してしまう利用者さまさまもいらっしゃいます。
訪問看護師は、褥瘡の状態を確認し、医師へ相談しながら指示に従ってケアを行います。
また、環境を整えたり、ポジショニングを行ったりして、褥瘡の発生を防ぐ対応をします。
褥瘡ケアは時にご家族へ大きな負担となります。そのため、多職種と関わったり、社会資源を活かしたりご家族をサポートすることも訪問看護師の重要な役割です。
注射や点滴
訪問看護でも、終末期や脱水による体調悪化など輸液が必要な場合は、医師の指示に従って注射や点滴を行います。たとえば、病院と同じようにインスリン注射を行っている利用者さまがいらっしゃいます。利用者さまがインスリン注射の手技を覚えられるように、訪問看護師は注射の手技を指導し、見守ります。注射針や血液が付着した廃棄物などを安全に処理するための管理についても指導を行います。点滴をする場合は、CVポートや末梢静脈点滴、皮下点滴などさまざまですが基本的な手技は病棟と変わりありません。ケアの提供先が利用者さまのご自宅であることから、点滴台を使用せず、ハンガーを使ってカーテンレールに輸液をぶら下げるという工夫は、訪問看護ならではかもしれません。
利用者さま利用者さま
人工呼吸器を装着する方のケア
病院と同様に訪問看護でも、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)と気管切開下陽圧換気療法(TPPV)を行うために人工呼吸器を使用して暮らしている利用者さまがいらっしゃいます。
主に、以下の疾患の場合に人工呼吸器を使用します。
非侵襲的陽圧換気療法(NPPV):睡眠時無呼吸症候群、睡眠時無呼吸症候群、心不全など
気管切開下陽圧換気療法(TPPV):筋萎縮性側索硬化症や重症筋無力症などで気管切開がある方
人工呼吸器の使用時には、医師が設定値を処方し、機器の業者が設定します。訪問看護師は、人工呼吸器の設定の確認はもちろんのこと、利用者さまやご家族に使用方法やアラームの対処法を伝えることが役割です。また、喀痰吸引も必要となるため、利用者さまやご家族の負担や理解度を確認しながらケアを行っていきます。
具体的には、酸素飽和度、呼吸音、呼吸困難の有無、マスクや気管チューブによる皮膚トラブルの有無など利用者さまの状態を観察します。
喀痰吸引と排痰ケア
呼吸器疾患や終末期のために自己排痰が困難な場合や、人工呼吸器を使用している場合には、訪問看護師が吸引によって痰を取り除くケアをします。喀痰吸引は、呼吸管理のためにとても重要なケアです。
また、喀痰吸引では呼吸状態を観察するだけではなく、吸引による苦痛や不安を和らげるように精神的サポートも大切です。さらに、家族や介護士が安心して喀痰吸引できるように知識とスキルを提供することも訪問看護師の役割です。
ほかには、喀痰吸引を効果的に行うための体位ドレナージや叩打法、振動法、スクイージングのスキルを訪問看護師は身につけておくとよいでしょう。
胃ろうのケア
経口で十分な栄養摂取ができない方の中には、経管栄養を行っている方もいらっしゃいます。ご自宅で経管栄養を受けている方の多くは胃ろうを造設しているため、訪問看護師は胃ろうのケアを行います。
訪問看護師は、胃ろうの挿入部位の皮膚の観察や、清潔保持のためのケア、経管栄養の実施だけではなく、利用者さまの体調や排泄に与える影響も観察します。また、利用者さまの生活に合った経管栄養の管理ができるように、ご家族への指導を行うことも訪問看護師の役割です。そして、水分量や栄養剤の量、形態の調整を医師と相談しながら行います。
胃ろうの管理は利用者さまやご家族にとって不安や負担が大きいものです。そのため、訪問看護師は利用者さまとご家族の思いを受け止めながら、胃ろうのトラブルがないように管理していくことが必要です。
服薬管理
処方された薬を利用者さまが正確に服用できるように、訪問看護師は服薬管理を行います。
服薬管理では、利用者さまの状態や生活環境を評価し、それぞれに合った管理方法を選択します。例えば、服薬カレンダーや服薬ケースを用いたり、薬袋に日付を書いたりするなどです。訪問看護師が良いと考えた方法を一方的に押し付けるのではなく、利用者さまやご家族と相談して、利用者さまに合った管理方法を選ぶことが重要です。
精神症状のある方のケア
訪問看護師が精神症状の観察スキルを持つことは、非常に重要です。とくに精神的な健康問題を抱える利用者さまに対応する際には、行動、言動や表情などの些細な変化に気がつくことが求められます。利用者さまの精神状態の変化を早期に発見し、介入します。
また、精神症状を観察する際には、利用者さまとの信頼関係を築くことも重要です。信頼があれば、利用者さまは自分の症状や困っていることを訪問看護師に話しやすくなり、訪問看護師も適切な対応ができるでしょう。
家族看護
訪問看護を利用されています利用者さまは、独居の方やご家族と暮らしていらっしゃるなど、様々な家族の形があります。
ご家族と同居されていらっしゃる場合は、利用者さまの日々のケアを担っている場合が多くあり、身体的にも精神的にも負担が大きくなります。
また、ご家族が離れて暮らしている場合は、利用者さまの生活実態が把握しづらく、もどかしさを感じてしまうご家族もいらっしゃいます。
訪問看護師は、家族の役割や状態を把握し、家族のセルフケア機能を高める介入をします。
利用者さまの介護やケアに関して、必ずしもご家族が完璧に行うことができるというケースは多くありません。そもそもご家族は、介護やケアのプロではありません。訪問看護師は、ご家族の状況を見ながら、可能な範囲で介護やケアを指導します。場合によっては、ご家族が介護やケアに疲弊していることもあり、訪問看護師がケアを巻き取ることもあります。また、ご家族が離れて暮らしている場合は、物理的なケアが難しいことがあります。ご自宅に、ヘルパーや訪問看護師などが訪問時の状況を簡単に書き残せる「共有ノート」を置いておき、交換日記のようにご家族に状況を伝える方法をとることもあります。
いずれにせよ訪問看護師は、利用者さまだけではなく、利用者さまに関わるご家族への配慮やケアが大切です。
エンドオブライフケア
エンドオブライフケアとは、がんの終末期ケアだけではなく、疾患や年齢に関係なくすべての人に対する、最期までその人らしく生きることができるように支援をすることを指します。
近い表現で「ターミナルケア」という言葉もありますが、主に予後不良の患者さまやご家族を全人的にサポートする意味合いがあり、エンドオブライフケアとは少し異なります。
訪問看護の対象は、疾患や年齢問わず赤ちゃんから、100歳以上の方へ訪問します。すべての人が、状態によってはエンドオブライフケアが必要であり、訪問看護師には正しい知識やケアが求められます。
参考:一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会 (endoflifecare.or.jp)
フットケア
糖尿病や循環器系の問題を抱える利用者さまでは、足の血流が悪くなり、様々な病変を呈することがあります。
足の皮膚や爪の状態、乾燥、炎症、潰瘍の兆候を確認し、早期予防と治療につなげるためにもフットケアはとても大切です。足の血行状態や感覚の変化なども観察し、異常があれば医師に報告します。特に末梢でもある足は、感染や合併症のリスクが高いため、迅速かつ適切な対応が必要です。
訪問看護師が訪問し、足浴や爪切りを行うことは多くあり、肥厚爪や陥入爪などもよく目にします。
さらに、訪問看護師は、利用者さまやご家族に対して、フットケアの重要性やセルフケアの方法を指導します。適切な靴の選び方や足の保湿、爪の切り方などです。日常のフットケアについてアドバイスすることで、利用者さまの足の健康を維持し、合併症を予防できます。
訪問看護師が必要なコミュニケーション
訪問看護師はコミュニケーションをとることが多い職種のひとつです。利用者さまやご家族が安心してご自宅で療養を続けていけるように、丁寧なコミュニケーションをとることが大切です。
ここでは、訪問看護師に必要なコミュニケーションについて、解説していきます。
- 利用者さまとのコミュニケーション
- ご家族とのコミュニケーション
- 多職種とのコミュニケーション
利用者さまとのコミュニケーション
訪問看護師がコミュニケーションを行う目的は、楽しいおしゃべりをすることではなく、利用者さまの気持ちを理解し、不安や悩みを共有し、信頼関係を構築するとです。そのため、単に“話が上手”ということよりも、利用者さまへ真剣に向き合い、利用者さまの言葉や感情をしっかり受け取り、適切に応じることが求められます。
ご家族とのコミュニケーション
訪問看護師が利用者さまやご家族とのコミュニケーションを必要とする理由は、利用者さまへのケアに大きく関わっているからです。
ご家族からの情報や意見は、利用者さまの症状や生活状況の変化を把握するためにも欠かせません。ご家族との信頼関係があれば、ケアに必要な情報をスムーズに交換でき、訪問看護師はより良好なケアを提供できます。そのため、積極的にご家族ともコミュニケーションをとる必要があります。
多職種とのコミュニケーション
利用者さまの困りごとや必要なケアに対して最適な介入ができるように、訪問看護師は多職種と密にコミュニケーションをとります。
訪問看護師は利用者さまの健康と生活の全体像を把握するために、医師や理学療法士、作業療法士、栄養士、ソーシャルワーカーなど、様々な専門家と連携します。
多職種との連携は、利用者さまの病状や治療方針、リハビリの進捗、栄養状態、社会的支援の状況など、幅広い情報を集めるために不可欠です。
訪問看護は、看護師だけでなくさまざまな職種が関わる仕事です。多職種の連携を強化することで、訪問看護を利用する方々は地域で安心して生活を送ることができます。
訪問看護師に必要な素質
「自分は訪問看護師に向いているのかな」と疑問に思われるかたもいらっしゃるでしょう。ここでは、訪問看護師に必要な素質について説明します。
訪問看護師には以下のような素質が必要です。
- 協調性
- 緊急時の対応力
- 持久力・体力
協調性
協調性は、訪問看護師に必要な素質のひとつです。訪問看護ステーションでは、看護師それぞれが異なる病院で働いた経験を持ち、キャリアの長さもさまざまなため、ときには意見が一致しないこともあります。
協調性があることで、訪問看護師はチーム全体の意見を尊重しつつ、利用者さまのために最善のケアを提供できます。また、協調性が高いと、チーム内でのコミュニケーションが円滑になり、結果的にチームのパフォーマンスも上がり、ケアの質が向上していくでしょう。
万が一、意見の相違や利害の衝突が生じた場合でも、協調性を持つことで建設的な解決策を検討することができます。
緊急時の対応力
訪問看護師は緊急時の対応力を必要とします。利用者さまの状態が突然悪化したり、予期しないトラブルが発生したりする可能性があるからです。
緊急時の対応力とは、予測できない事態に対して迅速かつ適切な判断を下し、必要な措置を取る力です。心肺蘇生や応急処置のスキル、救急搬送の連絡手順などを知っておくとよいでしょう。
訪問看護師は、利用者さまのご自宅や施設でケアを提供する際、病院とは異なる環境で対応することから、周囲に医療関係者がいる状況ではなく、マンパワーが限られてしまいます。訪問看護は、基本的に1人で訪問するため、緊急時はリーダーシップを取り、必要なサービスへつなぐ役割もあります。難しいケースや、厳しい状況下でも、利用者さまの命や健康を守るために、冷静で迅速な対応が求められます。
持久力・体力
訪問看護師は、持久力と体力も必要とします。訪問看護の仕事は、身体的にも精神的にも非常に負担が大きいからです。
訪問看護師は、日々複数の利用者さまのご自宅を訪問し、ケアや処置、リハビリの支援などを行います。移動距離が長いことや、利用者さまの移動介助をする必要があるなど、体力を必要とする動作が多いのです。
また、訪問看護師の仕事は、利用者やご家族とのコミュニケーション、看護計画の立案、医師や多職種との連携などさまざまです。そのため、長時間のケアやストレスの多い環境でも、安定して仕事を全うする持久力が求められます。
まとめ
この記事では、訪問看護師に必要なスキルや素質について紹介しました。
訪問看護師に必要なスキルや要素は沢山ありますが、すべてを身につけておく必要はありません。訪問看護は基本的に1人で訪問し、で利用者さまのケアを提供する仕事ですが、訪問看護ステーション全体のチームで行うものです。ほかの看護スタッフや多職種と連携することで、足りないスキルは補いながら、利用者さまのニーズに合ったケアを提供します。
訪問看護の道に進むことへ不安や心配はあるでしょう。ですが、利用者さまやご家族の身近な存在となり、とてもやりがいのある仕事です。訪問看護師に必要なスキルや素質は経験を積む中で身につけられるため、恐れずにぜひ訪問看護に挑戦してみてください。きっと、たくさんのやりがいや成長を感じられることでしょう。
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