施設内訪問看護とは?施設看護との違いや仕事内容について紹介
「施設内訪問看護って聞いたことがあるけど、どんな業務内容なの?」「ご自宅に訪問する訪問看護との違いは?」といった疑問を持っていませんか?
訪問看護師は利用者さまのご自宅に訪問するだけではありません。施設内の居室もいわば利用者さまのご自宅に近いです。そんな施設内の居室を訪問し、ケアを提供する「施設内訪問看護」があります。
ただし、「施設内訪問看護」は正式名称ではありませんし、「施設内訪問看護師」という職業は存在しません。ここではわかりやすく説明するために「施設内訪問看護」を使用します。あくまで、業務内容のひとつですので、ご留意ください。
この記事では、施設内訪問看護の仕事内容や特徴について解説します。また、訪問看護師として働くメリット・デメリットについても紹介いたします。
施設内訪問看護とは?
「施設内訪問看護」について聞きなれない方も多いのではないでしょうか。
施設内訪問看護は、住宅型有料老人ホームや特別養護老人ホーム(特養)などの施設に居住する利用者さまに対して、ケアを提供する訪問看護業務のことをいいます(前述した通り、あくまで訪問看護師の業務内容の一つです)。
ここでは、施設内訪問看護と一般的な訪問看護の違いや、訪問先などについて詳しく解説します。
訪問看護と施設内訪問看護の違い
一般的な訪問看護は、ご自宅で生活する療養者が主な対象ですが、施設内訪問看護は施設に居住する方が中心です。
施設内訪問看護は、多くの場合施設内に設けられたステーションを拠点にしており、訪問時間になると施設の居室を訪問します。訪問看護ステーションによっては、施設内の訪問だけでなく、他の施設や利用者さまのご自宅へも訪問することがあります。それ以外に、訪問看護と施設内訪問看護の大きな違いはなく、提供する看護は同じです。
さらに、訪問看護師は、施設看護師をサポートする役割も担います。施設の看護師は数十人の入所者を1人で担当するため、個々のケアに充分な時間を割くことが難しい場合があります。そのため、緩和ケアや褥瘡のケアなど、特に重点的にケアが必要な利用者さまに対して、訪問看護師が施設に訪問した際に支援を提供します。
施設訪問看護の訪問先
訪問する場所は以下のとおりです。
- 住宅型有料老人ホーム
- サービス付き高齢者向け住宅
- ケアハウス
- グループホーム
- 特別養護老人ホーム(特養)
- 短期入所生活介護(ショートステイ)
介護老人保健施設や介護医療院は高齢者向けの入所施設ですが、訪問看護は利用できません。そして、すべての施設が同じように施設内訪問看護を利用できるのではなく、特別養護老人ホーム(特養)と短期入所生活介護(ショートステイ)は末期の悪性腫瘍の方のみが対象者です。
このように、施設に訪問看護師として訪問する場合は、「訪問先の施設が、訪問看護を提供してもよいかどうか」をきちんと把握して対応する必要があり、限定的になります。
施設内訪問看護の仕事内容
施設内のスタッフエリアから、各居室を訪問し、利用者さまに必要な看護ケアや支援を提供します。多くの訪問看護ステーションはサービス付き高齢者向け住宅などの施設に併設され、主に併設施設への訪問を行います。
たとえば、1階に居宅介護支援事業所と訪問看護ステーションがあり、2階より上が利用者さまの居室になっている、というイメージです。
利用者さまがその人らしい充実した日々を過ごせるようサポートすることが役割です。
施設内訪問看護の主な仕事内容は、以下のようになります。
- ターミナルケア
- 痰の吸引
- 胃ろうの管理
- 中心静脈栄養の管理
- 血糖コントロール
- 尿道カテーテルの管理
- ストーマ管理
- メンタルヘルスケア
- 在宅酸素療法の管理
- 排泄ケア
- 全身状態の確認
- 衛生面の介助や見守り など
有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅では、自立した生活を送る人が多い施設です。自立度が高い施設への訪問は主に入居者の健康状態の把握や精神状態の把握、バイタルチェックが中心です。
グループホームや特別養護老人ホームでは、状況や指示に基づいて医療的ケアや緩和ケアなどに関するサービスが提供されます。
施設内で働く訪問看護師になるメリット
施設内訪問看護は高齢者の入所施設を訪問する訪問看護ですが、一般的な訪問看護にはないメリットがいくつかあります。
- 移動の負担がない
- 介護業務が少ない
- 周りに相談しやすい
- ご自宅に入る負担がない
- 残業が少ない
それぞれについて解説します。
移動の負担がない
施設内訪問看護は、主に併設した高齢者向け施設内の訪問が中心であり、移動による負担が少ないことがメリットです。
通常の訪問看護では、訪問先によっては車や自転車での移動が必要であり、交通渋滞や移動距離によっては時間がかかることもあります。そのため、時間管理が重要になります。また、自転車の場合は天候の環境が左右されやすく体力もある程度必要です。一方、施設内訪問看護では、訪問する施設が併設されているため、徒歩での移動が可能です。このため、車の運転が苦手な方や体力に自信のない方でも働きやすいでしょう。
介護業務が少ない
施設内訪問看護では、通常、高齢者向け施設内の業務とは分業されています。このため、看護師は主に看護業務に専念できます。一方、施設看護師は介護職員の不足時には、入浴介助や排泄介助などの介護業務も行う必要があります。
訪問看護師は訪問する利用者さまのケアが中心となるため、施設の介護業務を手伝うことはほとんどありません。看護ケアの時間をしっかりとれることは、施設内訪問看護の大きな利点です。
周りに相談しやすい
施設内訪問看護は、すぐに他のスタッフに相談できることがメリットです。ご自宅に訪問する訪問看護では1人で訪問するため、利用者さまの状態やケアなどについて気になることがあっても、すぐ隣に相談できる看護師がいないため、その場で相談しにくいです。
しかし、施設に事業者が併設されている施設内訪問看護では、1人でケアすることが困難であったり、判断が難しいことがあったりすると、すぐに相談できる環境であるため、安心感があります。
ご自宅に入る負担がない
施設内看護師の訪問先は通常、施設内の居室であり、利用者さまのご自宅を訪問することはあまりありません。利用者さまのご自宅への訪問は、清潔度やペットの有無など、気になることもあるでしょう。
しかし、施設内で生活している方は清掃をスタッフが行うため、部屋が汚いということはほとんどありません。「訪問看護の仕事には興味があるが、利用者さまのご自宅を訪問することに抵抗がある」という人にとって、施設内訪問看護はご自宅への訪問よりも働きやすい環境でしょう。
残業が少ない
時間管理をしっかり行えれば、施設内訪問看護は訪問する時間が決まっているため、残業になることが少ないです。
施設に入所している方は、病院で治療をしている患者さまとは異なり、比較的状態が安定している方が多いです。そのため、緊急事態が発生する頻度が低く、看護師は予定通りにケアを提供しやすい状況にあります。
施設内訪問看護は、プライベートと仕事のバランスを取りやすい環境であり、働きやすさを求める看護師にとって魅力的な職場といえるでしょう。
施設内訪問看護のデメリット
施設内訪問看護は、一般の訪問看護や施設看護と比べ「移動の負担が少ない」「介護業務が少ない」というメリットがありますが、デメリットもいくつかあります。
施設内訪問看護へ興味を持っている方は、デメリットについても知っておきましょう。
施設内訪問看護で働くデメリットは、以下のとおりです。
- 緊急時のプレッシャーが大きい
- 施設のルールや方針を理解し、対応する必要がある
- 勤務先によってオンコール対応がある
- 夜勤業務もある
- 移動が少ない分、訪問件数が多い
それぞれについて解説します。
緊急時のプレッシャーが大きい
施設内訪問看護師は、比較的状態の安定した高齢者の健康状態を観察し、必要に応じて医療やケアを提供します。しかし、緊急事態が発生した際には、即座に適切な対応をとらなければなりません。
緊急時には、他の看護スタッフと一緒に対応をとりますが、病院に比べ、看護スタッフが少ないです。また、施設には常勤の医師もいないため、判断に困ることがあります。緊急時には迅速かつ冷静な判断が求められるため、プレッシャーが大きくなります。
施設のルールや方針を理解し、対応する必要がある
施設内訪問看護のデメリットのひとつは、アセスメント力が求められることです。
施設内訪問看護師は、高齢者の健康状態を評価し、適切な看護を提供します。高齢者の健康状態は変化しやすく、いくつかの病歴や健康問題を抱えているため、アセスメントが容易ではありません。
アセスメント力が不十分だと、適切な治療やケアが提供できない可能性があり、利用者さまの安全や健康に影響を及ぼすことがあります。そのため、施設内訪問看護師は常にアセスメントスキルを磨き、利用者さまのニーズに適切に対応できるよう努める必要があるでしょう。
勤務先によってオンコール対応がある
施設によっては、24時間体制で医療やケアが必要な場合があります。施設の看護師だけでは対応できない場合は、施設内訪問看護師は勤務時間外や休日にも利用者さまや施設からの連絡に対応しなければいけません。
利用者さまの状態によっては、緊急連絡の回数が多くなるため、オンコールにプレッシャーを感じてしまうのでしょう。
夜勤業務もある
夜勤業務もある訪問看護ステーションがあります。夜勤では、介護スタッフと協力して利用者さまをサポートします。
施設内訪問看護をしたいけれど、夜勤業務はしたくないという方は日勤のみの訪問看護ステーションを選ぶことをおすすめします。
移動が少ない分、訪問件数が多い
施設内訪問看護では、高度な医療に関する知識を習得できないことがデメリットのひとつです。
施設内訪問看護師は、高齢者の施設内でのケアを提供するために訪問し、日常的な医療や看護を行います。そのため、施設内訪問看護師は、規模の大きい病院で働くことに比べ、高度な医療処置に関する専門的な知識を習得する機会が限られます。医療の進歩に追いつくことが難しくなるかもしれません。
高度な医療的知識のスキルや知識の向上をめざしたい方は、課題が生じる可能性があります。
まとめ
施設内訪問看護は、施設内に併設された訪問看護ステーションから利用者さまの居室を中心に訪問看護を行うことです。
緊急時のプレッシャーが大きく、アセスメント力も求められる施設内訪問看護ですが、車での移動が不要であり、他のスタッフと相談もしやすいというメリットがあります。さらに、残業が少ないという点も魅力の一つです。また、利用者さまのご自宅への訪問に抵抗がある方にとっては、施設内訪問看護が適していると言えるでしょう。
これから需要が高まる訪問看護に興味を持っている方も多いでしょう。はじめて訪問看護師を目指す方には「施設内訪問看護」という仕事も検討してみることをおすすめします。
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