小児訪問看護とは?小児訪問看護の需要が高まる背景とサービス10個
「小児訪問看護ってなに?」「小児訪問看護でおこなわれているケアについて知りたい!」
小児訪問看護は、利用者さまやご家族が医療的ケアを受けながら在宅で安心・安全に過ごせるように、支援するという大切な役割を担っています。
この記事では、小児訪問看護の需要が高まる背景や実際に提供しているサービス、小児訪問看護に向いている人の特徴について詳しく紹介します。小児訪問看護に関心があるあなたの疑問を解消できるきっかけになれれば幸いです。
小児訪問看護とは?
小児訪問看護とは「小児の利用者さまが、在宅で医療的なケアを受けながら安心して療養できるように、自宅でのケアや日常生活のサポートをする訪問看護」のことです。
次のような状況にある新生児から18歳未満の方が、小児訪問看護の対象です。
- 医療的ケアが必要である
- 慢性疾患や障害がある
- 先天性疾患や神経疾患がある
主治医と連携して、利用者さまやそのご家族が生活の質を向上できるように訪問看護師の方は支えています。
小児訪問看護の需要が高まる背景
小児訪問看護ステーションを利用している方のうち、0~14歳の利用者さまの数は2011年5,700人から2019年18,777人と約3倍に増加しています。この背景には、次のことが挙げられます。
- 低出生体重児の増加と新生児死亡率の減少
- 重症心身障害児や医療的ケア児の増加
- 小児がんの治療の進歩
それぞれ3つの背景から現状を知っておきましょう。
低出生体重児の増加と新生児死亡率の減少
厚生労働「低出生体重児 保健指導マニュアル」の調査によると、出生数における低出生体重児(2,500g未満)の割合は1980年5.2%、2017年では9.4%と増加しました。また、令和4年における新生児の死亡率は0.8%です。
これらのデータをみると、過去には生き延びることが難しかった新生児が、医療の進展により生き続けられるようになったといえます。
ただし、低出生体重児は、脳性麻痺によって運動障害や知的障害などを合併するケースが多いです。さらに、ほかの子どもに比べて、明らかな障害がない場合でも運動や言葉の発達が遅れる場合があります。
退院後も医療的ケアやリハビリテーションなどに対応しなければならないケースが増えたため、小児訪問看護の需要が高まっています。
重症心身障害児や医療的ケア児の増加
公的な機関のデータは公開されていませんが、さまざまな調査により重症心身障害児数は増加していると言われています。
また、在宅でのケアが欠かせない利用者さまが増えており、その数は1万8,272人(2016年時点)です。
具体的には、呼吸器の管理や吸引の実施、経管栄養の注入など24時間を通してのケアや介護が必要です。
そのため、ご家族の負担を減らし、利用者さまに必要な医療的ケアをおこなうために小児訪問看護が選ばれています。
小児がんの治療の進歩
小児がん治療の進歩により、がんと診断された場合でも自宅での療養が可能になりました。
ただし、小児がんの利用者さまが自宅で治療やケアを続けるケースでは、点滴の投与や呼吸器の管理など専門的なケアが必要となり、ご家族だけでの対応は難しいこともあります。
ご家族のなかには、自分の子どもに吸引することや呼吸器に触れることに怖さを感じたり、抵抗があったりする方もいるでしょう。
そのため、訪問看護師が医療的ケアをおこないご家族をサポートすることで、利用者さまが安心して自宅で療養できる環境を整えています。
小児訪問看護の対象となる子どもの特徴
次に、小児訪問看護を利用している方には、以下のような特徴があります。
- 医療依存度が高い
- 成長にともない病態が変化する
- コミュニケーションをとるのが難しい
- 24時間体制でのケアが必要である
- 成長のための支援が必要である
それぞれの特徴をみていきましょう。
医療依存度が高い
小児訪問看護の利用者さまは、医療機器を使っている場合が多いです。下記の表は、あるクリニックの「医療機器を使用している子どもの割合」を調査した結果です。
医療機器 | 割合 |
PCAポンプ | 2.2% |
自己導尿 | 3.2% |
中心静脈ライン管理 | 6.0% |
気管切開 | 47.1% |
人工呼吸器 | 53.5% |
在宅酸素療法 | 75.1% |
経管栄養 | 78.1% |
参考:小児在宅医療の現状と|厚生労働省(複数回答可能)
小児訪問看護では、利用者さまのケアのほかに、これらの医療機器の管理や使用方法をご家族に説明して自宅で安全に生活できるようにサポートします。
成長にともない病態が変化する
病気や障害を持った利用者さまは、成長にともない身体の状況が変化することがあります。
たとえば、利用者さまが成長するにつれて呼吸器や消化器の機能が変化したり、重症心身障害児の方は脊柱管側弯症や嚥下障害などの二次障害を併発したりする可能性があります。
そのため、利用者さまの成長に合わせて医療的ケアや支援の内容を見直すことが大切です。
コミュニケーションをとるのが難しい
小児訪問看護でかかわる利用者さまは年齢や発達の状況により、言葉でのコミュニケーションが難しいこともあります。
たとえば、言葉の発達が遅れていたり、呼吸器をつけていたりする場合は「きつい」「苦しい」などの訴えを、利用者さまがご家族にスムーズに伝えられない恐れがあります。
訪問看護師は、表情やしぐさなどから利用者さまの状態をチェックして、異常の早期発見に努めたり、利用者さまのニーズに応えたりすることが重要です。
24時間体制でのケアが必要である
何らかの疾患や障害がある利用者さまは24時間体制でのケアが欠かせないため、ご家族だけでのケアや介護では負担が大きくなりやすいです。
たとえば、夜中のおむつ交換や、吸引をしなければなりません。ご家族のなかには、子どものことが心配で熟睡できない方もいるでしょう。
訪問看護師は、ケアをしたり悩みを聞いたりすることで、ご家族が安心してケアを続けられる環境を提供することが大事です。
成長のための支援が必要である
小児訪問看護では、利用者さまの成長を支えるためのサポートもおこないます。
たとえば、発達段階に応じたリハビリテーションや飲み込みの訓練、ものごとを理解するための訓練など利用者さまの成長を促すための支援が不可欠です。
成長に合わせたサービスを提供することで、利用者さまの可能性を引き出せるでしょう。
小児訪問看護ステーションのサービス内容10個
小児訪問看護ステーションのサービスは、以下のとおりです。
- 日常生活のケア
- 健康状態の観察
- 医療的なケア
- 主治医(かかりつけ医)との連携
- リハビリテーション
- 育児支援やご家族支援
- 地域生活への移行の支援
- レスパイト
- 多職種との連携
- 在宅での看取り
それぞれのサービス内容を知って、小児訪問看護に求められるスキルや知識を把握しておきましょう。
日常生活のケア
小児訪問看護でおこなう日常生活のケアは、以下のようなものです。
- 口腔ケア
- 清潔ケア
- 食事の介助
- 排泄の介助
とくに、人工呼吸器をつけた利用者さまの入浴介助はスキルが必要です。
また、食事や排泄の介助などは、あらゆる時間帯で必要となるケアであるため、実施の方法やコツをご家族に指導します。
健康状態の観察
体温や脈拍などを測定し、利用者さまの健康状態を観察します。発熱がみられたり活気がなかったりする場合は、主治医に報告して処置をしたり、医療機関に受診しなければなりません。
訪問看護師は、顔色や皮膚の状態、食欲などから利用者さまの全身状態の観察をおこない、小さな変化を見逃さないことが重要です。
医療的なケア
小児訪問看護では、利用者さまに以下のような医療的ケアも実施します。
- 人工呼吸器の管理
- 吸引の実施
- 創傷ケア
- 胃ろうのケア
- 点滴の管理
- 酸素の投与
- 服薬の管理
日常生活のケアと同じように、訪問看護師は人工呼吸器の管理や吸引の方法をご家族に説明したり指導したりしなければなりません。
ただし、医療的なケアはご家族の負担は大きく「私に吸引はできるのかな?」「私がミスをして子どもに万が一のことがあったらどうしよう…」など不安な気持ちを抱きやすいです。
そのため、ご家族のメンタル面のフォローをおこなうことも訪問看護師の役割といえます。
主治医(かかりつけ医)との連携
主治医と情報を共有して、利用者さまの状態に合わせたケアをおこなうことが大切です。
具体的には、ミーティングで主治医に情報を提供したり、緊急時には速やかに主治医に連絡したりするなどの対応が求められます。
これにより、利用者さまの現状に合わせたケアができるため、利用者さまやそのご家族は安心して療養を続けられるでしょう。
リハビリテーション
小児訪問看護では、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などのリハビリテーションのスタッフと連携して利用者さまの成長をサポートします。
具体的なリハビリテーションは、以下のとおりです。
- 基本動作(立つ・歩く・起き上がる)の練習
- 歩行訓練
- 読み書きの練習
- 呼吸訓練
- 非言語コミュニケーション
ときには、車椅子や歩行器などの社会福祉用具の利用をアドバイスして、利用者さまが生活しやすいように助言することも小児訪問看護の役割です。
育児支援やご家族支援
育児のアドバイスや精神的なサポートをご家族におこなうことも大事です。
実際には、利用者さまの発達段階に応じた育児方法の指導や日常生活でのケアの工夫などをアドバイスします。
また、ご家族が不安やストレスを強く感じており心理的なフォローが必要なケースでは、臨床心理士やカウンセラーなどの専門家にケアを依頼することもあります。
地域生活への移行の支援
小児訪問看護では、利用者さまの状況に合わせて、小学校入学の手続きや障害者手帳の取得をサポートすることもあります。
また、地域のイベントや学校行事への参加をはじめ、地域社会とのつながりを強化することで、利用者さまが社会のなかで活躍できる環境を整えられます。
他者との交流を通して利用者さまの社会性が育つことで、自立への第一歩を踏み出せるでしょう。
レスパイト
小児訪問看護ではご家族の負担を軽減でき、心身の健康を保つことができるように、一定の時間、利用者さまを預かることもあります。たとえば、以下の状況はレスパイトサービスを利用できる一例です。
- きょうだい児の行事に参加するとき
- お留守番で付き添いが必要なとき
- ご家族が買い物や美容室に行きたいとき
- ご家族の体調が悪く休息・受診が必要なとき
とくに、24時間体制で利用者さまのケアが必要な家庭にとって、レスパイトは重要です。
ご家族が安心して一息つき、介護の負担を軽減できたり心が休まったりすることで、これからも在宅でのケアを続けられるでしょう。
実際に受けられるレスパイトサービスはそれぞれ異なるため、お住いの自治体や小児訪問看護ステーションに確認してみてください。
多職種との連携
小児訪問看護の利用者さまは、日常的に医療を必要としながら、成長に合わせた就園や就学などの社会活動があります。
具体的には、医療(病院や訪問診療等)・福祉(放課後等デイサービスや相談支援事業所等)・保育(保育所や幼稚園等)・教育(学校や特別支援学校等)・保健(保健センターや保健所等)などの多職種が子どもの生活を支えます。
しかし、小児期にはコーディネーターが不在なことも多く、地域によって社会資源も異なるため、ご家族が主体的に社会資源を探し、調整をする状況もあります。
そのため小児訪問看護師は、多職種との情報交換やカンファレンスを通して、利用者さまとご家族のニーズに沿った生活が実現できるよう、サポートをしていきます。
在宅での看取り
自宅で利用者さまが最期を迎えられるよう、ご家族と協力しながら看取りのケアをおこないます。
利用者さまとご家族が安心して看取りに臨めるように、メンタル面のサポートをしながら支援します。具体的には、ご家族に看取りの知識や心構えを伝え、不安やストレスを軽減できるような情報提供が大切です。
また、医療スタッフとご家族が繰り返し話し合い、より良い最期を迎えられるように調整することも小児訪問看護の役割です。
小児訪問看護の流れ
実際に、小児訪問看護のサービスを提供する流れは、下記の表のとおりです。
手順 | ポイント | |
1 | 主治医や医療ソーシャルワーカーに相談 | 小児訪問看護を希望する場合、主治医や医療ソーシャルワーカーに相談 |
2 | 訪問看護指示書の作成 | ・主治医が発行した訪問看護指示書は、ケアの内容や頻度を明確にするための重要な書類 ・指示書にもとづき訪問看護計画書を立案 |
3 | 面談・契約 | 小児訪問看護ステーションと面談をおこない、ニーズにもとづいて訪問看護の内容を決定 |
4 | 訪問看護の利用開始 | ・内容が決定したら契約を結びサービスを開始 ・訪問看護師が自宅を訪問し必要なケアを提供 |
5 | 報告・連携 | ・実施後、訪問看護師の方が利用者さまの状態やケアについて主治医に報告 ・必要に応じてほかの医療スタッフや関係機関とも連携 |
小児訪問看護を実施するためには、主治医(かかりつけ医)が作成する訪問看護指示書が必要です。計画や評価を繰り返すことで、利用者さまに最適なケアができるようにかかわります。
小児訪問看護に向いている看護師の特徴
ここでは、小児訪問看護に向いている方の特徴を紹介します。
- 小児看護に興味がある
- 子どものニーズに合わせてケアを提供できる
- 子どもの成長・発達の支援ができる
- 子どもとご家族との信頼関係を築くことができる
- チームで連携してケアができる
それぞれの特徴をみていきましょう。
小児看護に興味がある
子どもの成長や発達に関心がある方は小児訪問看護に向いています。
というのも、小児看護への熱意が、適切なケアを提供するための原動力となるためです。小児訪問看護では健康の状態だけではなく、成長過程にも興味を持ち、積極的にかかわる姿勢が不可欠です。
また、子どもへの愛情と関心の深さが、療養生活を支えていくなかでの信頼関係において必要であり、ご家族の不安の軽減にもつながります。
子どものニーズに合わせてケアを提供できる
小児訪問看護では、利用者さま一人ひとりのニーズを理解し、それに応じた柔軟なケアを提供する能力が求められます。
医療的な課題に合わせて支援をおこない、利用者さまがストレスなく過ごせるよう努める姿勢が不可欠です。
そのため、ニーズに寄り添ったアセスメントをおこない、利用者さまとご家族にとって良い環境を提供できる方は小児訪問看護に向いているといえます。
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子どもの成長・発達の支援ができる
小児訪問看護では、利用者さまの成長発達に応じたケアをおこない、健康的に成長できるよう支援しなければなりません。
利用者さまの発達段階を理解し、ハビリテーションや日常生活のサポートができる看護師は、小児訪問看護の仕事に適しているでしょう。
子どもとご家族との信頼関係を築くことができる
小児訪問看護では、プライベートな場所でケアをおこなうため、利用者さまとそのご家族との信頼関係が大事です。
とくに、長期的なケアが必要な場合は一緒に過ごす時間が多くなります。
看護師を頼りにできることで、利用者さまやそのご家族は精神的な負担の軽減につながります。一方で、信頼関係が築けなければ、訪問看護の時間がストレスになるかもしれません。
そのため、利用者さまやご家族と信頼関係を築くことができる看護師は小児訪問看護で活躍できるでしょう。
チームで連携してケアができる
小児訪問看護では医師や理学療法士、作業療法士など多くの専門職がチームでケアをおこないます。
それぞれの職種が連携しながら、専門性を活かすことで、質の高いケアを提供することが可能です。
また、利用者さまの状態をチームで共有して迅速に対応することで、さまざまな健康問題に柔軟に対応できます。
小児訪問看護に関するQ&A
ここでは、小児訪問看護に関する質問に回答します。
Q1:小児訪問看護は医療保険を利用するのですか?
小児訪問看護は、医療保険を利用できます。
医療保険適用のためには主治医の指示書が必要になることが多いため、まずは主治医に相談しましょう。
医療保険の詳しい条件については、主治医や担当のケアマネジャー、お住いの自治体の窓口などで確認することをおすすめします。
Q2:小児の在宅看護のメリットはなんですか?
小児訪問看護を受ける利用者様やご家族にとって、次のようなメリットがあります。
- 自宅で過ごせる
- 個別で専門的な医療的ケアを受けられる
- 施設費用や入院費用などのコストを抑えられる
- 地域で活動できる
利用者さまやご家族にはこのようなメリットがあるため、小児訪問看護のやりがいを感じながら働くことができるでしょう。
Q3:小児訪問看護は週に何回訪問するのですか?
小児訪問看護の訪問頻度は、利用者さまの健康状態や必要なケアによって異なります。
たとえば、利用者さまの病状が安定している場合は週に1回程度の訪問で十分なこともありますが、一方で医療的ケアの実施回数が多い場合は、複数回にわたって訪問することもあります。
具体的な訪問頻度は、主治医や訪問看護師とご家族が相談のうえで決定するのが一般的です。
訪問看護師は、ご家族の状況や希望もふまえて、無理のない形でサポートすることが大切です。また、訪問頻度を調整することで、利用者さまとご家族にとって最適なケアを提供できるでしょう。
まとめ
小児訪問看護は、医療的ケアを必要とする利用者さまが家庭で安心して過ごせるように支援するサービスです。
医療機器を使用する場合や慢性疾患を持つ利用者さまが対象であり、サービスの提供をおこなうことで生活の質が向上することを目指しています。
医療の進歩により小児訪問看護の需要が高まっていることから、その役割はますます重要になっています。
医療的ケアだけでなく、ご家族への心理的サポートや日常生活のケアの指導をおこない、ご家族の負担軽減に貢献することが小児訪問看護の重要な役割です。
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参考サイト・文献
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