看護師の退職の実態とは?離職率と5つの退職理由を解説
「看護師って離職率が高いって言われるけど本当?」「看護師が退職する理由を知りたい」などと、悩みや疑問がある方は多いのではないでしょうか。
看護師は離職率が高いというイメージがあるかもしれません。過酷な労働環境や労働条件などが原因となり、実際に毎年約10万人の看護師が現場を離れる状況です。
では、退職の実態は具体的にどのようになっているのでしょうか。
そこでこの記事では、看護師の退職の実態や離職率、5つの退職理由を解説します。退職を検討している方や退職の実態を詳しく知りたい方はぜひ参考にしてください。
看護師の退職の実態|離職率は11.6%
まずは、看護師の退職の実態をみていきましょう。
日本看護協会が公開した「2022年病院看護実態調査」によると、2022年における看護師の離職率は下記の通りです。
- 正規雇用の離職率:11.6%
- 新卒採用の離職率:10.3%
- 既卒採用の離職率:16.8%
正規雇用、新卒、既卒の離職率は、いずれも前年度よりも増加しました。なかでも、新卒看護師の離職率が初めて10%を超えた点は、注目すべきポイントです。
設置主体別の離職率
次に、国公立病院や民間病院など設置主体別の離職率を紹介します。下記の表を参考にしてください。
単位:(%)
設置主体 | 正規雇用の離職率 | 新卒採用の離職率 | 既卒採用の離職率 |
国立 | 10.7 | 9.8 | 12.9 |
公立 | 8.0 | 9.7 | 9.1 |
日本赤十字社 | 9.4 | 8.7 | 9.6 |
済生会 | 12.3 | 10.0 | 12.3 |
厚生農業協同組合連合会 | 10.1 | 8.8 | 11.4 |
その他の公的医療機関 | 11.0 | 5,1 | 8.0 |
社会保険関係団体 | 11.3 | 8.5 | 13.4 |
公益社団法人・ 公益財団法人 | 12.5 | 10.6 | 17.1 |
私立学校法人 | 12.7 | 10.0 | 10.4 |
医療法人 | 14.4 | 11.9 | 19.1 |
社会福祉法人 | 12.9 | 13.4 | 15.7 |
医療生協 | 12.8 | 9.9 | 15.9 |
会社 | 9.3 | 9.4 | 8.8 |
その他の法人 | 12.5 | 9.5 | 14.3 |
個人 | 14.6 | 13.8 | 32.1 |
公的な病院よりも、規模が小さい医療法人や個人経営の病院などの民間病院で離職率が高い傾向です。特に、個人病院における既卒採用の離職率は32.1%でした。
その理由は、規模が小さい病院では教育体制が整っていなかったり、福利厚生が充実していなかったりするためです。たとえば、教育研修のプログラムや時短制度の導入、院内保育所の整備などが追いついていないことがあります。
出産や子育てを理由に退職せざるを得ないことが、規模の小さい病院の離職率が高くなる要因のひとつと考えられます。
ほかにも、都市部には民間病院の数が多く、転職しやすいです。給与や人間関係への不満があれば、退職を選択しやすいのかもしれません。
病床規模ごとの離職率
ここでは、病床規模ごとの看護師の離職率を紹介します。下記の表を参考にしてください。
単位:(%)
病床規模 | 正規雇用の離職率 | 新卒採用の離職率 | 既卒採用の離職率 |
99床以下 | 12.1 | 13.9 | 20.1 |
100~199床 | 12.8 | 12.7 | 18.2 |
200~299床 | 12.2 | 9.2 | 19.0 |
300~399床 | 12.0 | 11.8 | 15.6 |
400~499床 | 10.7 | 9.6 | 10.3 |
500床以上 | 10.8 | 9.3 | 12.8 |
出典元:「2022 年 病院看護実態調査」 結果|日本看護協会
病床数が少ないほど、離職率が高くなります。
病床規模が大きい病院は、給与が高水準であり福利厚生が充実しているところが多いです。教育体制も構築されており、フォローする体制があるといえます。
病床の規模が大きくなると、看護師の数も多くなります。休みを取りやすかったり、出産や育児のために休みやすかったりすることも、離職率にかかわる要因と考えられるでしょう。
地域ごとの離職率
さらに、地域ごとの離職率をみていきましょう。下記の表を参考にしてください。
単位:(%)
都道府県名 | 正規雇用の離職率 | 新卒採用の離職率 | 既卒採用の離職率 |
北海道 | 11.4 | 8.2 | 14.8 |
青森県 | 7.3 | 10.3 | 9.4 |
岩手県 | 7.4 | 10.7 | 13.9 |
宮城県 | 9.6 | 12.3 | 11.6 |
秋田県 | 7.6 | 8.0 | 16.7 |
山形県 | 7.3 | 9.1 | 10.1 |
福島県 | 8.9 | 8.0 | 11.7 |
茨城県 | 10.7 | 8.0 | 19.1 |
栃木県 | 10.7 | 14.3 | 12.0 |
群馬県 | 9.1 | 7.0 | 12.4 |
埼玉県 | 13.3 | 12.6 | 15.0 |
千葉県 | 13.5 | 10.2 | 18.6 |
東京都 | 14.6 | 12.3 | 16.5 |
神奈川県 | 14.6 | 11.2 | 19.2 |
新潟県 | 9.3 | 7.6 | 20.7 |
富山県 | 8.8 | 5.1 | 11.8 |
石川県 | 9.6 | 6.6 | 12.1 |
福井県 | 8.4 | 3.7 | 22.3 |
山梨県 | 7.4 | 8.6 | 10.4 |
長野県 | 8.3 | 5.3 | 10.3 |
岐阜県 | 8.3 | 12.0 | 10.6 |
静岡県 | 11.7 | 4.1 | 12.2 |
愛知県 | 12.8 | 8.3 | 14.5 |
三重県 | 10.8 | 6.6 | 18.9 |
滋賀県 | 10.9 | 5.8 | 9.9 |
京都府 | 12.0 | 9.8 | 15.8 |
大阪府 | 14.3 | 12.3 | 23.5 |
兵庫県 | 12.8 | 12.4 | 17.7 |
奈良県 | 12.3 | 7.9 | 15.1 |
和歌山県 | 10.5 | 11.2 | 23.1 |
鳥取県 | 7.7 | 11.2 | 15.8 |
島根県 | 7.5 | 6.6 | 8.1 |
岡山県 | 9.9 | 9.2 | 14.7 |
広島県 | 10.1 | 10.3 | 17.0 |
山口県 | 10.1 | 11.5 | 15.6 |
徳島県 | 7.5 | 11.1 | 16.4 |
香川県 | 9.4 | 17.1 | 22.1 |
愛媛県 | 10.8 | 12.0 | 12.1 |
高知県 | 9.7 | 9.8 | 17.5 |
福岡県 | 11.3 | 10.4 | 15.4 |
佐賀県 | 8.0 | 9.0 | 8.8 |
長崎県 | 11.0 | 13.3 | 15.8 |
熊本県 | 10.1 | 8.3 | 19.5 |
大分県 | 10.8 | 11.3 | 16.9 |
宮崎県 | 10.5 | 11.0 | 16.9 |
鹿児島県 | 10.0 | 9.1 | 19.2 |
沖縄県 | 11.3 | 7.7 | 11.6 |
出典元:「2022 年 病院看護実態調査」 結果|日本看護協会
全体として、都市部に近い地域ほど離職率が高くなる傾向です。正規雇用において離職率が最も高いのは、東京都と神奈川県でいずれも14.3%でした。
都市部であると転職先が多く転職しやすいことや、都市部で経験を積んだ後に地元にUターンする場合などが考えられます。
看護師が退職する理由のランキング上位
ここでは、看護師の方が退職した理由のラインキング上位を紹介します。
- 出産や育児などのライフステージの変化
- 他施設への興味
- 人間関係への不満
- 労働環境や条件への不満
- 責任の重さや医療事故への不安
看護師の方は、利用者さまの生命にかかわる責任ある業務に携わっています。ハードな職場環境であり身体的、精神的な負担がかかります。辞めたいと考える方も多いでしょう。
出産や育児などのライフステージの変化
出産や育児、結婚を理由に退職した看護師の方は、全体の39.8%を占めます。
男性の看護師が増えているとはいえ、9割が女性の看護師です。近年、男性の育児休暇が話題となりましたが、取得率は低い現状です。そのため、ライフステージの変化をきっかけに、女性が退職をせざるを得ないケースが多くなっています。
ただし、女性の社会進出への理解から、ライフスタイルに合わせた働き方ができる病院や訪問看護ステーションは増えています。今後、職場がさらに整備されると、退職する看護師が減るのではないかと期待できます。
他施設への興味
「心臓血管外科領域に興味がある」「認定看護師になりたい」など、キャリアアップやスキルアップを目指す場合、転職を目的に退職するケースは多いです。
施設によって、スキルアップをサポートする制度は異なります。学会費を負担してくれるところや特別休暇で研修に参加できるところなどさまざまです。
サポート体制でスキルアップの機会は大きく異なります。そのため、転職先を決めるときに、サポート体制で判断する看護師の方もいます。
人間関係への不満
人間関係に悩み、退職する方は少なくありません。
どの職場でも人間関係に悩むことがあるでしょう。ただし、看護師の方の場合は、利用者さまの生命にかかわる業務であり、ひとつのミスが生命の危機に直結します。
そのため、ミスをしたときに上司や先輩から厳しく指導をされることも少なくありません。誰しも、厳しく指導をされた後は働きにくさを感じるでしょう。
さらに、医師や薬剤師、リハビリスタッフなど多くのスタッフと連携をしながら業務をおこなっています。そこで、人間関係が悪くなると働きにくくなります。
人間関係を一度リセットする目的で退職する方もいます。
労働環境や条件への不満
労働環境や条件への不満から退職する方もいます。
というのも、看護師の方は、働く場所で業務内容や待遇がまったく異なるためです。
具体的には「夜勤がない職場で働きたい」「超過勤務が少ない職場で働きたい」などの理由で退職します。病棟勤務の場合、夜勤は避けて通れません。不規則な勤務で生活リズムが乱れ、体調を崩す原因となります。
現職が最善ではないと判断し、退職する方が一定数いるのかもしれません。
責任の重さや医療事故への不安
看護師の方の業務は、大きな医療事故につながりかねません。
実際に、医療従事者のなかで看護師が医療事故にかかわる機会が多いとされています。たとえば、下記のような事例があります。
- 薬の投与量の間違い
- 点滴の投与忘れ
- 胸腔ドレーンの操作ミス
- ベッドからの転落
これらのミスは、重点的な経過観察のみで事なきを得るケースもあります。一方で、薬の投与量を間違え血圧が下がったり、脈拍が遅くなったりして、追加の処置が必要となるケースもあります。
「ちょっとしたミスも許されない」との不安から退職する看護師も少なくありません。
看護師の離職率は高い?|ほかの産業との比較
看護師の方の離職率は、ほかの産業と比較して高くないといえます。
「看護師=離職率が高い」とイメージする方も多いでしょう。
実際は、正規雇用の看護師の離職率は11.6%です。一方で、厚生労働省が公開した「令和4年雇用動向調査結果」によると、全産業の離職率は15.0%です。
看護師業界は常に人手不足といわれています。このイメージが「離職率が高い」と連想させるのかもしれません。
看護師の退職でメンタルヘルス不調による理由は多いの?
先ほど紹介した資料によると、メンタルヘルス不調により傷病休暇を取得した病院の割合は76.1%です。
メンタルヘルスに不調をきたすケースは多いことがわかります。人間関係や責任の重い業務、過酷な労働環境などが原因と考えられます。
一度、メンタルヘルスに不調をきたすと復帰するのが難しくなります。そのため「こころの病気かもしれない」と悩んでいる方は、症状が悪化しないうちに上司に相談したり、医療機関を受診したりしましょう。
退職して、身体とこころを休めることもひとつの手です。
看護師の退職の実態を知り、自分の環境を見直そう
看護師の方は、ライフステージの変化や労働環境などから退職します。
ただし、ほかの産業と比べて、離職率は高いとはいえません。働く場所が変わると、労働環境や条件、業務内容がまったく違います。
そのため、現職が最善ではないと考えている方は、自分の環境を見直し、転職を検討しましょう。
参考サイト・文献
「2022 年 病院看護実態調査」 結果|日本看護協会
看護職員就業状況等実態調査結果|厚生労働省
全般コード化情報の分析について|厚生労働省
令和4年雇用動向調査結果の概況|厚生労働省
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