訪問看護で心を温かくする「一訪問三笑い」~フィルハート訪問看護ステーション 國貞さんにインタビュー~

大阪府八尾市にあるフィルハート訪問看護ステーション。代表理事・看護師の國貞さんに、「一訪問三笑い」という理念に込めた想いや、訪問看護との出会い、ご家族の介護経験、精神科・終末期ケアでの実体験について伺いました。笑いを大切にしながらも、利用者さんやご家族の心に丁寧に寄り添う看護とはどのようなものなのか。これから訪問看護への転職を考える看護師の方にも、在宅看護の本質が伝わる内容です。
【※本記事はNsPace Career が事業所向けに提供している「特集記事掲載サービス」によるものです。取材・撮影・編集はNsPace Career が担当しました。】
訪問看護との出会い
「何も知らずに、訪問看護の世界に入ったんです」
そう少し照れくさそうに笑う國貞さん。看護専門学校を卒業後、急性期病院で約10年間勤務されてきました。
-これまでのご経歴を教えてください。
「専門学校を出て急性期病院で働いていました。そのあと結婚して、4〜5年は専業主婦をしていました」
一度現場を離れたものの、再び看護の仕事に戻りたいという気持ちが芽生えます。しかし、子育てとの両立は簡単ではありませんでした。
「子どもをインターナショナルプリスクールに預けていたので、10時から13時までしか働けなかったんです。病院に面接へ行っても、なかなか決まらなくて」
その中で出会ったのが訪問看護でした。
「ハローワークで初めて“訪問看護”という働き方を知りました。2010年頃にパートで入ったんですが、本当に何も知らずに始めた感じでしたね」
立ち上げ間もないステーションでの勤務。営業も経験しながら、現場で一つずつ学んでいきます。
「管理者をしてくれないか、と言われたこともありました。でも、雇われでやるなら、自分の好きな看護ができないんじゃないかなと思ったんです」
その想いが、ご自身でフィルハート訪問看護ステーションを立ち上げる決断へとつながりました。
家族介護が教えてくれたこと
國貞さんの看護観の根底には、ご家族の出来事があります。
「義父が膵臓がんになって、3か月ほどで亡くなりました。その少し前に下の子を出産していて、出産後まもなく亡くなったんです」
当時の様子を、ゆっくりと振り返ります。
「義母が本当に落ち込んでいて。このままでは心配だなと思って、半同居のような形になりました。役割を持ってもらえたらと思ったんです」
さらにその前には、妊娠中に義理の祖母の介護も経験されていました。
「私以外は医療従事者ではなかったので、介護の負担が大きいように感じました。家族って、介護になると1対1になりがちなんですよね」
その言葉には、実体験からくる重みがあります。
「子育てもそうですけど、どうしても抱え込んでしまう。みんなで支えていかないといけない問題だなって思いました」
医療者としてではなく、家族として介護に向き合った時間。その経験が、今の在宅看護へと自然につながっていったといいます。
「訪問看護に入って、全部がリンクした感じでした。家族も含めて支えるのが在宅なんだなって」
その経験は、現在の看護観にも強く影響しています。
「ターミナルで余命宣告を受けている場合は、3か月とか半年とか、ゴールが見えることもありますよね。だからご家族も“そこまで頑張ろう”って気持ちを調整しながら介護されることが多いと思うんです」
一方で、そうではない介護もあります。
「要介護状態になってから2年、5年、長い方はそれ以上続くこともあります。終わりが見えない介護は、本当にしんどいと思います」
だからこそ大切にしているのが、「ご家族の負担をどう軽くできるか」という視点です。
「コロナ禍で家庭内の問題が表に出ましたよね。訪問看護やヘルパーさんなどの支援が入っていないご家庭で、悲しいニュースになることもありました」
だからこそ、選択肢を増やすことが重要だと考えています。
「選択肢が多いほうが、家族の負担は少し軽くなると思うんです。その調整をどうしていくかは、これから訪問看護師に課される役割のひとつだと感じています」
支えるのは、利用者さんだけではありません。
ご家族が抱え込まずにすむ環境をつくることも、在宅看護の大切な役割なのだと感じました。

「一訪問三笑い」に込めた想い
フィルハート訪問看護ステーションの理念は「一訪問三笑い」。
-この言葉に込めた想いを教えてください。
「高齢の方って、どうしても笑う機会が少なくなると思うんです。夫婦でも、子どもが独立したあとは会話が減っているご家庭も多くて」
そこに訪問看護師が入ることで、空気が少し変わることがあるといいます。
「1回の訪問で3回は笑かしてきてねって言うんですけど、なかなかハードルが高いみたいで(笑)。でも最低1回は笑いを取ってきてって」
大阪らしいユーモアのある表現ですが、その背景には真剣な想いがあります。
「“病は気から”って言いますよね。心が重たいと、全部が暗くなってしまう。だから少しでも心が軽くなったらいいなと思って」
笑いは、単なる雰囲気づくりではありません。利用者さんだけでなく、ご家族の心にも届くものだと考えています。
そして、この理念を支えているのが確かな専門性です。
フィルハート訪問看護ステーションには、看護師だけでなく理学療法士・言語聴覚士が在籍しており、小児・精神科・難病・高齢者まで幅広く対応しています。
-幅広い領域に対応されている理由はありますか?
「これからの日本の流れを考えると、訪問看護ステーションにおけるリハビリは、看護師が担っていく部分が増えていくと思っています」
そう語る國貞さんご自身も、難病疾患の方や高齢者のリハビリに積極的に関わっています。
「専門的なセラピストのリハビリだけではなくて、その人が“お家で長く暮らせるようにする”ためのリハビリは、看護師が担える部分が大きいと思うんです」
精神科も小児科も難病疾患も、分け隔てなく看る。
その幅広さは、「何でも受ける」という意味ではなく、利用者さんの生活全体を支えるという考え方から来ています。
笑いを届けるためにも、まずは支える力が必要。
フィルハートの“強み”は、理念を現実にできる体制にあるのかもしれません。
笑いが生んだ、忘れられない時間
印象に残っている事例を伺うと、少し間を置いて話してくださいました。
精神疾患をもち、CVポート管理が必要だった50代の女性。
「太りたくないという思いから食事がとれなくなってしまって。高カロリー輸液を入れながら毎日訪問していました」
精神的なケアと医療処置、その両方を担う必要がありました。
「“食べたいけど食べられない、この苦しみ分からないよね”って言われて。食べましょうとは言えなかったですね。ただ傾聴して、その人がどう生きたいかを看ていました」
國貞さんが状態の変化を感じ取り、入院の手配を行いました。入院した翌朝、亡くなられたといいます。
「ご本人は、ご主人のことを思って“自宅では看取られたくない”とおっしゃっていました。だから最期は入院という形になりましたが、その方の想いには沿えたのかなと思っています」
そしてもう一つ、40代のがんターミナルの女性のエピソード。
「正直、最初は“何で呼ばれたんやろう”って思ったんです。服薬も痛みのコントロールもできていたので」
訪問の中で、ふと感じたことがありました。
「この人は、お母さんを笑わせたいんじゃないかなって」
そこから、利用者さんとの掛け合いのような会話が始まります。
「すごく笑ってくださって。お母さんが“あの子ががんになってから、あんなに笑ったのを数年ぶりに見ました”って言ってくれたんです」
最期は「もうあかんわ。病院戻るわ」と自ら決断し、救急車に乗るときも笑顔で手を振っていたそうです。
「強い人でしたね。最後までお母さんのことを考えていたんだと思います」
そう語ったあと、國貞さんは少し言葉を詰まらせました。
在宅で向き合う看護のかたちは、一つではないのだと、あらためて感じさせられる時間でした。
燃え尽きない看護師を育てるために
フィルハートでは「フットワーク・チームワーク・ネットワーク」を大切にしています。
「まず大事にしているのはチームワークですね。毎日ミーティングをしているので、お互いの得意不得意も自然と分かってきます。それが分かっているからこそ、無理せず助け合える環境があります」
日々の情報共有が、スタッフ同士の信頼関係を育てています。
そして、それを支えているのが“ネットワーク”です。
「誰が今どこにいて、何をしているかがすぐ分かる体制を整えています。訪問中でも状況は共有されているので、急変やトラブルがあったときに“今なら自分が動ける”という判断ができるんです」
その仕組みがあるからこそ、“フットワーク”が活きます。
「点滴が入らない、とか、急に状態が変わったとか。そんなときに“じゃあ私が行きます”って自然に言える。チームで支えているからこそ、すぐに駆けつけられるんです」
フットワークの軽さは、個人の頑張りではなく、チームとネットワークの積み重ねから生まれています。
さらに、スタッフが安心して働き続けられる環境づくりにも力を入れています。
「看護師さんって、利用者さんの個人情報や人権は守るんですけど、自分のことは後回しにしがちなんですよね」
距離が近くなりすぎることで、知らず知らずのうちに傷ついてしまうこともあります。
「どっぷり浸からなくてもいい。支えるけど抱え込みすぎない。その距離感を、同行しながら伝えています」
誰か一人が抱え込まない体制をつくること。それもまた、フットワーク・チームワーク・ネットワークの一部です。
採用について伺うと、こう話してくださいました。
「柔軟性のある方に来てほしいですね。子供から高齢者まで、様々な疾患を幅広く看ています。ここで経験すれば、どこでも対応できる力はつくと思います」
最後に目指す姿を尋ねました。
「素直で元気なステーションでありたいです。ストレスのたまる仕事だからこそ、風通しよく、みんなでフォローし合える環境をつくりたい」
“笑い”は利用者さんのためだけではありません。
スタッフ同士が支え合い、安心して働ける空気づくりにもつながっています。
一訪問三笑い。
その理念を支えているのは、軽やかなチームワークと、確かなネットワーク体制なのかもしれません。

インタビュアーより
取材を通して印象的だったのは、國貞さんの言葉の根底に常に「家族」という視点があることでした。利用者さんだけでなく、その方の暮らしやそばにいる人の気持ちまで自然に想像している。そのまなざしが、「一訪問三笑い」という理念につながっているのだと感じました。急性期での経験やご家族の介護体験といった積み重ねがあるからこそ、その笑いは安心感に裏打ちされたものなのだと思います。
在宅看護は医療技術だけではありません。生活を支え、ときに一緒に笑う。そんな看護の可能性を感じさせていただいた取材でした。
事業所概要
事業所名:フィルハート訪問看護ステーション
住所:大阪府八尾市垣内1-56 グランハイツヤマダ310
NsPace Careerナビ 編集部 「NsPace Career ナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「NsPace Career」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。
