在宅医療における「答えのない看護」を紡ぐ~訪問看護ステーション夢ちとせ 西田さんにインタビュー~

公開日:2025/06/23 更新日:2025/06/23
記事サムネイル画像

精神科訪問看護は、マニュアル化が難しく、対人関係に深く向き合う細やかなケアが求められる領域です。病棟勤務を経て、訪問看護という在宅での看護の大切さを感じた西田様。今回は、西田様が訪問看護に携わるようになったきっかけや、精神科ならではの難しさとやりがい、そしてスタッフ教育への想いをうかがいました。

訪問看護の道へ進むきっかけ。病棟から見た、もうひとつの現場

私が訪問看護の道に進んだのは、病院の精神科病棟で働いていたときの経験が原点にあります。病棟から退院されて自宅に戻られた患者さんが、薬をきちんと飲めていなかったり、生活環境が良くないと感じたりすることがあったんです。病院での勤務が嫌だったわけではなく、在宅の現場には、看護師としてもっとアプローチできることがたくさんあるのではないかと強く感じました。その想いが、訪問看護ステーションを立ち上げようと思ったきっかけです。

実は、当ステーションは、元々「精神科に特化している」というわけではないんです。でも、開設当初から、精神疾患をお持ちの利用者さんへの介入が多くあり今では、利用者さんのほとんどが精神科訪問看護ですね。

「病棟とはちがう『1対1』の関係性に訪問看護の魅力がある」とお話しされる西田さん

精神科訪問看護の「答えのない日々」

訪問看護の精神科の分野は、本当に奥が深いと感じています。精神科の看護に携わってもう30年以上経ちますが、本当に答えがないですし、マニュアルもありません。毎回手探りで関わりながら、利用者さんの反応から考察して、またアプローチする……この繰り返しなんです。だから「失敗」というよりも、すべてが勉強という感覚です。

この仕事のやりがいや魅力は、「1対1」の関係性にあると思います。利用者さんと直接向き合うので、自分の信用がダイレクトに出てくるんです。反対に、信用されないということも、ストレートに伝わってきます。だからこそ、しっかりとした看護が提供できれば信頼されるし、自分の価値を肌で感じることができます。「自分が訪問することで、少しでも安心してもらえている」という感覚は、訪問看護ならではの大きな魅力ですね。

ただ、精神科訪問看護の利用者さんは、病気や障害に加えて、これまでの人生で人から疎外されたり、対人関係で嫌な経験をされている方が少なくありません。そのため、私たちに対しても、初めから不信感を抱いている方が多いです。

そのため、信頼関係を築くのは、簡単なことではありません。「コミュニケーションがとれるようになったから信頼関係ができた」と考えるスタッフもいますが、それは違います。単に話せるようになっただけであって、本当の信頼関係とは別なんです。

利用者さんには私たちの顔や会話に慣れてもらうことから始め、訪問を続けるうちに、相手の特性や「ツボ」を知っていくことが、本当の信頼につながります。この「ツボ」を見つけることが重要で、私はいつもスタッフに「利用者さんのことをまず知る姿勢が大事だ」と伝えています。訪問する看護師によって、利用者さんが見せる表情がちがうこともあるので、その方の本質が見えてくるまで、深く関わることが求められます。苦労してようやく信頼関係が築けたときは、本当に大きな喜びを感じられますね。

また、この仕事はモチベーションを維持するために難しい面があるのも事実です。訪問看護であれば、処置等行った時に利用者さんからの感謝の言葉や、検査データや病状が改善した結果など、看護を提供したあとの結果が目に見える形で分かることが多いですよね。でも精神科訪問看護は、心の問題を抱える方々のサポートなので「ありがとう」と言われることは少ないですし、目に見える結果が少ないんです。だからじっくり腰を据えて、すぐに結果を期待しない姿勢がとても大切になります。

スタッフ教育の難しさ。看護師自身の価値観や病棟とのギャップ

当ステーションのスタッフ教育は、常に工夫と改善が求められるテーマだと感じています。精神科領域の経験を持っている方の場合、在宅での精神科訪問看護という新しい環境への適応に、少し時間がかかることもあります。

精神科病棟での経験がある看護師のなかには、若い頃に「先生」と呼ばれたり、病棟ではある程度の裁量で動ける環境が整ってしまっているケースもあり、自己評価が自然と高くなる傾向があるのかもしれません。

また、精神科では他科に比べて、今まで教育システムがきっちり確立されていない部分もあるため、形式的な指導を受ける機会が少なかったという背景もあるように思います。また正解がない事やデータとして出て来ない事から、経験を積んできた方ほど「自分はできている」と思い込んでしまいやすい一面があるのではないでしょうか。

しかし、在宅看護の現場は病院とは大きく違います。病院であれば、相性が合わない患者さんがいてもチームで対応できますが、訪問看護では基本的に「1対1」の関係になります。利用者さんからクレームが入ったり、ときには「担当を変えてほしい」といった要望をいただくこともあります。そうした場面では「私はちゃんとやっているのに」と感じてしまいがちですが、利用者さんの声にどう向き合うかが学びのきっかけになることも多いんです。

採用面接では、多くの方が「コミュニケーションには自信がある」と言ってくれますが、実際の場面では戸惑うこともあるかと思います。精神科訪問看護では、相手に合わせたコミュニケーションの工夫や、信頼関係を築くためのきっかけづくりが重要です。ときには、言葉数が少ない利用者さんとの時間をどう過ごすかに悩むこともあるでしょう。ですが、そうした場面を経験することで、看護師としての新たなスキルや視点が身につくと私は考えています。

病棟での経験を持つ方が「自信があったのに、精神科訪問看護では通用しない」と感じることもあると思います。でも実は、そうした気づきを持てる人こそ、大きく成長する傾向があると感じています。すでに看護の基本は身についているので、在宅ならではのコツさえ覚えれば、しっかり力を発揮できるようになるんです。一方で「うまくいかないのは相手のせい」と考えてしまうと、成長の機会を逃してしまうこともあります。

利用者さんとの関わりに不安を感じたときには、管理者である私にいつでも相談してきてもらいたいです。最初はひとりで判断できなくて当然ですし、そこから少しずつ自立していけばいい。大切なのは、そうしたやりとりを通じて、スタッフもお互いに信頼関係を築き、安心して働ける環境を整えていくことだと考えています。

「訪問看護ステーション夢ちとせ」の事務所

スタッフに大切にしてほしいのは「柔軟性」と「連携」

精神科訪問看護に興味のある方や、転職を考えている方にお伝えしたいのは「経験の有無」よりも「学ぼうとする姿勢」が大切だということです。精神科病棟の経験がなくても、素直な気持ちで一つひとつ吸収していこうとする人の方が、向上心を保ちながら長く働けていける印象があります。

そして、もうひとつ大切なのは「柔軟さ」です。年齢や経験を重ねると、どうしても自分の考え方ややり方で頭が固まってしまいがちですが、新しい職場では、新しい環境や利用者さんが待っています。これまでの経験を活かしつつも「ここでは新しいやり方に合わせてみよう」と前向きに受け止める柔軟性を大事にしてもらいたいです。また、何より重要なのが「ルールを守ること」と「周囲としっかり連携を取ること」。これはどんな場面でも大切にしてほしいですね。

私は、訪問中の看護師の様子を直接確認することができません。そのため、スタッフを信用するために、ルールを守ってくれているか、必要なときに連絡や相談をしてくれているかというところを重視しています。ここがしっかりしていれば、安心してお任せできますし、信頼にもつながりますね。

ただ、自分では問題ないと思っていても、周囲は心配していることがあります。そういうときに、ひとこと「大丈夫でした」と連絡をくれる方は、相手の立場を想像できる人だなと感じます。自分本位ではなく、相手を思いやる視点をもてること、それが信頼関係を築くうえで、とても重要な要素ですよね。

当ステーションのスタッフは、一人ひとりが「ステーションの顔」なんです。誰かひとりでも配慮に欠けた行動をとってしまうと、利用者さんや関係機関の方は、当ステーション全体をそう見てしまいます。だからこそ、一人ひとりがステーションの顔であり、全員が大切な存在なんです。その思いがあるからこそ、教育に対しても妥協せず、厳しくなってしまう面もあると思います。それは、頑張っているスタッフが可哀想な思いをしないようにという願いでもあるんです。

精神科訪問看護で地域を支えるステーションに

今後は、事業所のスキルをさらに磨いていくことに注力していきたいですね。また、ほかの地方にも当ステーションを拡大していきたいという目標もあります。

私の精神科訪問看護へのこだわりは強いと自覚しています。だからこそ、厳しい面もあるかもしれませんが、そうやってやってきたからこそ、10年以上続けられているのかなとも思います。正解は分からないですが、利用者さんを守るうえで適切な看護というのは何よりも大事です。答えがないなかでも、恐れずにその道を進んでいく。それを伝えていくのが、私の役目なのかもしれません。精神科訪問看護は、本当に「奥が深い」看護です。学びたいという方には、ぜひうちのステーションをおすすめしたいです。

インタビュアーより

精神科訪問看護に対する熱い想いがとても素敵な管理者の西田様。答えのない看護のなかで日々模索しながら、スタッフの教育にも注力されています。精神科の訪問看護を学びたいという想いをお持ちの方にとっては、しっかりと知識や技術を身につけられる環境です。興味をお持ちの方は、ぜひお問合せください!

事業所概要

訪問看護ステーション夢ちとせ(大阪府和泉市)

住所:大阪府和泉市内田町3丁目4番68号

運営方針・理念:

病気や障害を持った人が自宅で安心してその人らしく生活できるよう支援することを目指しています。スタッフ一同、利用者・家族・支援者にとっても「楽しく送れる生活」の実現に努めています。

事業所紹介ページ:https://ns-pace-career.com/facilities/15598

SNSシェア

  • LINEアイコン
  • facebookアイコン
  • Xアイコン
記事投稿者プロフィール画像 NsPace Careerナビ 編集部

「NsPace Career ナビ」は、訪問看護ステーションへの転職に特化した求人サイト「NsPace Career」が運営するメディアです。訪問看護業界へのキャリアを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。

関連する記事

NsPaceCareerとは-PCイメージ画像左 NsPaceCareerとは-SPイメージ画像左

NsPaceCareerとは

訪問看護・在宅看護に特化した
求人情報検索・応募のほか、
現役の訪問看護師や在宅経験者への無料相談や、
事業所への事前見学申し込みが可能です。

NsPaceCareerとは-PCイメージ画像右 NsPaceCareerとは-SPイメージ画像左