結婚記念式が繋げた父子の関係
膵臓癌末期の奥さんへ、最後のお見送りとして行った結婚記念式。家族を思う母が遺したのは父と息子を繋げる最高のプレゼントだった
インタビューご協力者
阿部 弘子
管理者、緩和ケア認定看護師
りんこう訪問看護ステーション
結婚記念式が繋げた父子の関係
阿部さんが訪問していたのは、家で最期を過ごすと決めていた、膵臓癌末期の60代女性でした。
お看取りの日も覚悟し始めていた頃、阿部さんはご主人から「これまでの人生、散々迷惑をかけたから彼女に何かしてあげたい」と相談を受けました。
ちょうどその頃、ご夫婦の結婚記念日が近づいていました。
阿部さんは“結婚記念式”を提案したところ、ご主人は大賛成。
しかし、本当の日付には間に合わない可能性もあったので、少し早めに敢行することに。
近くに住む息子さん夫婦やお孫さんも招待し、お部屋を皆で飾り付け。普段はヨレヨレの洋服を着ているご主人も、この日ばかりは正装し、プレゼントのバラの入浴剤を準備して式に挑みました。
ご本人含め、ご家族は「これが最後のお見送りになるだろう」という覚悟も抱きながらの結婚記念式。
決して悲しい雰囲気ではなく、奥さんへの長年の感謝を伝え、家族みんなが楽しむ素敵なイベントになりました。
奥さんが息を引き取ったのは、結婚記念式が終わった数日後。このタイミングに、「本当に式をやってよかった」とご家族の誰もが感じたそうです。
実は、それまで少し疎遠になっていたご主人と息子さん。
話す機会も少なくなっていましたが、この結婚記念式がきっかけで距離がグッと縮まったと言います。今では一緒に釣りに行くほどの仲良しに。
家族から奥様へのプレゼントとして行ったイベントが、結果として奥さんからの家族への最後のプレゼントになりました。
式を提案した阿部さんは看護師として、こんなに素敵な経験をさせてもらえて本当に嬉しかったと振り返ります。
生前、自分のことよりも自分がいなくなった後のご主人を心配していた奥さん。阿部さんは奥さんと2人きりになると「お父さんは何もできない人だから心配なの。よろしくね」と言われていたそう。
しかし奥さんが亡くなった今、あの時の結婚記念式のおかげで立ち直り、阿部さんのもとにしばしば顔を見せに来てくれるなど元気に過ごしているご主人。奥さんも安心しているのではないでしょうか。
今では「何かあったら、お父さんが嫌だと言っても私たちが訪問するからね。お母さんに頼まれたんだから!」と言うほど親密な関係になっていると言います。
ご主人と息子さんだけでなく、ご主人と阿部さんもまた奥さんが繋げてくれた縁なのでしょう。
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