「家族旅行に行きたい」癌末期男性の希望を叶えた看護師の思い
癌末期の50代男性が望む家族と過ごす時間 その希望を叶えるために、判断や行動に葛藤しながらも訪問看護師が最善の方法を選択し続けた最期の1か月間とは
インタビューご協力者
赤羽 みのり
管理者看護師
大泉訪問看護ステーション
「家族旅行に行きたい」癌末期男性の希望を叶えた看護師の思い
赤羽さんが訪問していた50歳前後の男性。奥様とワンちゃんと暮らしており、お子さんはいらっしゃらない方でした。
癌末期で入院していましたが、余命いくばくもないということで自宅で過ごすことになり、退院後は赤羽さんの訪問がスタート。
しかし、介入当初は訪問看護自体に拒否反応を示されてしまっていたそう。
その方は50歳前後とお若かったために、訪問看護に対するイメージを持てず、「他人に家を見られたくない」「近所の人に知られたくない」といった想いがあるようでした。
しかし癌末期ということで、お看取りが近いことも覚悟していた赤羽さん。最初の入り方こそ難しかったものの、限られた時間の中で精一杯サポートしていきました。
その方が大事にしたいこととは何か、そしてその方らしい生き方とは何か。
癌末期なのだから、病棟の緩和ケアに行けばいい。
病院の先生にそう言われたとき、赤羽さんは男性の願いを汲み取り、「奥様とワンちゃんと一緒にいたいんだよね?」と聞きました。すると小さく「うん」。男性が赤羽さんに心を開いてくれた瞬間でした。
その後、徐々に容態が悪化していく中、男性が「旅行に行きたい」という希望を持っているとわかりました。
無理強いはしなかったものの「行くなら今しかない」と思い、赤羽さんはチームで箱根旅行に同行。容態を見ながらアドバイスやケアをしつつ、懸命に最後の家族旅行をお手伝いしました。
旅行後、「しんどかったけど行って本当に良かった」と眩しい笑顔を見せてくれたという男性。
余命がもう短いことを本人も奥様も理解し、「本当に旅行に行っても大丈夫なのか?」「なにかあったら」というさまざまな思いが交錯する中で、ご本人の願いを叶えることができたことに感無量だったそう。
また、体をキレイにすることがとてもお好きな方だったので、自宅で過ごす際もずっとオムツではなくトイレを使用していました。ご本人の「お風呂に入りたい」という強い気持ちにも寄り添って、意識が朦朧としている中でも、複数のスタッフで入浴介助をしました。
そして男性が亡くなったのは、お風呂に入った翌日のことでした。
亡くなった後、奥様から「最後の最後まで本人の希望を叶えてくださって、本当にありがとうございました」と感謝されたという赤羽さん。
赤羽さんがその男性と奥様と関わったのは、たった1ヶ月。
その間、「身体の清潔をしなきゃ」「管理の面を考えるとこれをしなきゃ」「これは本人の余命幾ばくもない中で本当に必要なものなのか?」「提案をするなら今しかない」などさまざまな葛藤を抱き、模索しながらも、その時その時に合った看護を可能な限り提供しました。
「自分の看護は合っているのだろうか」「これでよかったのかわからない」という自問自答を繰り返し、チーム内でも皆で頭を悩ませてきた1ヶ月間。
それでもその奥様の言葉を聞き、「自分たちのやってきたことは間違ってなかったんだ」という安堵と自信に包まれたと赤羽さんは振り返ります。
終末期の利用者さんは、長い時間をかけて関わることが難しいケースは多いものです。
一瞬一瞬の関わりが最後になるかもしれない。そんな緊張感を持ちながらも、だからこそその時々で利用者さんやご家族が求めることに全力で最善を尽くす、そんな赤羽さんの想いが表れた関りとなりました。
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