「お母さんが最後に夕日を」看護師のケアにもなる“きれいなお別れ”とは
認知症で肺炎だった高齢のお母さんをケアする娘さんが自分で考え、決心した自宅でのお看取り。心の準備を進めたり顔を見てきちんと伝えたりする“きれいなお別れ”は、家族だけでなく看護師にとっても大事だと感じた、その理由とは。
インタビューご協力者
石川 麗子
所長緩和ケア認定看護師・介護支援専門員
街のイスキア訪問看護ステーション
「お母さんが最後に夕日を」看護師のケアにもなる“きれいなお別れ”とは
在宅でのお看取りはひとつひとつの景色が異なり、看護師の心に刻まれる深さが病院でのお看取りとは全く違うと語る石川さん。
そんな石川さんがとりわけ印象に残っているというのが、当時90代で肺炎を患っていた女性利用者さんです。
彼女は肺炎のほか、認知症も進行していました。
「何かあればすぐに病院に搬送する」という条件のもと退院し、家に帰宅したタイミングで石川さんのケアがスタートしたそう。
石川さんが60代の娘さんに自宅でのケアを細かく教えていたところ、娘さんが「お母さんは家で看取りたい」と自宅でのお看取りを決意されました。
娘さんはケアに関する石川さんからの提案を自分で調べたり考えたりした上で判断し、また亡くなった後のお母さんの私物の準備も少しずつ進めるなどして、お看取りに向けた心の準備をしていきました。
時には、認知症のお母さんのためにアロマを焚いた香りのケアも。その香りによって、娘さんも気持ちが落ち着いていったと言います。
たった1ヶ月という短い期間でしたが、石川さんは母子とともに濃い時間を過ごしました。
しばらくしてお母さんは亡くなりました。
亡くなった時のその部屋からはとてもきれいな夕日が見え、「お母さんが最後に見せてくれたんだね」と言った娘さんのとても穏やかな表情を石川さんは忘れられないそうです。
その後も娘さんとは交流があり、今では散歩途中で事業所に立ち寄ってくれるんだとか。お母さんの好きだった物やお母さんが亡くなった後の娘さんのお話などをして、利用者さんやそのご家族の人生と長く関わっていくこの仕事の醍醐味を感じています。
石川さんはこの母子のお看取りを「すごくきれいなお別れができた」と振り返ります。
きちんとお別れを伝える大切さを、その娘さんは教えてくれました。そしてそれは利用者さんや家族だけでなく、看護師にとっても同じ。
業務時間によっては、これまでずっと関わってきた利用者さんのお看取りに立ち会えないこともあります。そんな時、担当看護師はお別れできなかったことに悔しさや悲しさを感じてしまうこともあります。
この娘さんのように、利用者さん本人が亡くなった後もそのご家族と関わってお話などをすることは、顔を見てお看取りができなかった看護師自身のケアにもつながります。
人の死を徐々に受け止めていく在宅でのお看取りは、利用者さんやご家族はもちろん、看護師にとってもひとつひとつのケースがかけがえのないものになる。
娘さんが一生懸命に準備をしてきれいなお別れができたこのお看取りから、在宅に携わる看護師としての指針を見出した石川さんでした。
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